外伝その2「とある勇者のとっくんの日々」④
「こらぁっ! 腹筋三十回程度で音を上げるなっ! そんなんで戦場に出たら、真っ先に死ぬぞっ! 次っ! ランニング! 校舎周りを三周っ!」
「ぎゃーっ! うちら、戦場なんか行かへんでーっ!」
「なんで、強化魔法なしで、こんな事しなきゃいけないんだよーっ! それに、こんな真冬にこんな恥ずかしいカッコとかあり得ないっ!」
「アルミナ……ハミパンしとるでー。お前もホンマ縞パン好きやのぅ……」
なんかまた、変なやり取り始めた……でもまぁ、たまにやるんだよね……それ。
気付いた時の恥ずかしさと言ったらもうっ!
「な……なん……だと? こ、これ……いつからだった? 正直に言って、ヨミコ」
「いつ気づくかなーと思っとったけど、割と最初からやで……」
「うぎゃーっ! なんでこんな事を黙ってた! 言えっ! なんでだっ!」
「グヒヒ……その羞恥に歪む顔や……それが見たかったんや! うわっ! アルミナ、ずっとハミパンとか、はっずぃのぅ……なぁ、今どんな気持ちや? 言うてみ?」
「ヨミコ……おのれっ! こうしてくれるっ!」
アルミナがヨミコのブルマを思い切り引き上げる。
色々食い込んで、なんか大変なことになってる……。
「ぎょわーっ! ちょっ! やめぃっ! ハイレグみたいになっとるし、後ろがかなりアカンことになっとるーっ! それになんかミリミリ言っとる! これあかーんてっ!」
「この私の受けた屈辱っ! 倍がえしだーっ! うりゃあっ!」
「だから、やめぃっちゅーに! つか、八つ当たりやろ! それ……けど、うちが悪かった! まちぃやっ! って、下げようとすんなっ!」
……酷い姉妹だな。
じっと見てるのも、何なので目線を逸らすと、雨音ちゃんと目が合う。
「うわぁ……なんか凄い……です」
雨音ちゃん、顔真っ赤。
なんと言うか、恥ずかしい争いだよね……。
「あれは、見習っちゃダメなやつだ。私、大丈夫かな?」
「だ、大丈夫です! でも、こう言うのが多いから、廃止されたのかもしれませんね……」
……特訓と言えば、体操着にブルマとか言うのが正装……なんだって聞いたけど。
ちょっと考えものかも。
もちろん、私や雨音ちゃんも同じ格好なんだけど、あんな食い込ませたりとかは嫌だなぁ……。
この学園は理事長の鶴の一声で体操服がこれになったんで、一応校則通りなんだけど。
割とぴっちりしてるから、油断してるとアルミナみたいになる。
その辺は気をつけてるけど、後ろの方とか割と気付かないので、友達とかがハミ出してるのに気付いたら、こっそりと教えてあげるのがマナー。
気付いてて、ずっと放置とか確かに酷い。
ちなみに、理事長ってあのタナカさん……。
あの人、すっごいお金持ちだから、経営難だったこの学園に資金援助をするのと引き換えに、理事長になっちゃったんだって。
異世界人の私達が学校に通うって言っても、公立校とかだと色々面倒なことになるみたいなんだけど。
この学園なら、いくらでも融通効くとか言う話で、すんなり転入させてくれたと言う……。
話を聞く限りでは、とてもまともな人には思えないんだけど、少しくらい感謝したっていいかなって思う。
ただ、制服をやたらフリフリとしたミニスカートにしたり、ブルマ復活だの。
割りと好き放題……悪い人じゃないんだけどね。
ミニスカートは、油断してるとちょっとした風でめくれたりと、なかなか困った代物だけど……確かに可愛い。
自然と静かに歩くクセが付くので、乙女の嗜みの修行……とでも思うことにした。
このブルマ……太ももとかむき出してちょっと恥ずかしいけど、学園の他の娘達も同じような格好だからね。
意外と動きやすいんで、ちょっと気に入ってたんだけど。
寒いし、ちょっと考えた方がよさそうだった。
……そんな事を考えながら、ヨミコたちの様子を見ると、さきほどの醜い争いはやめたらしいのだけど。
何ともだらしないフォームでダラダラと走っているところだった……。
こいつら、ちょっと目を離すとこれだっ! ここはひとつ気合入れてやらないと……だねぇ。
「お前達っ! そもそも、ランニングフォームからしてなってない! そんな重心後ろにかけてドタドタ走ったら、遅いし疲れるしで全然駄目だっ! それで走ってるつもりかっ! 尻なんぞ振って、男でも誘っているのかーっ!」
へっぴり腰でドタドタ走ってたヨミコに駆け寄ると、その尻を容赦なくハリセンでひっぱたく!
「うぎゃああっ! おんどれ、人の尻を何やと思っとんのや! ったく、どいつもこいつもーっ!」
「ふっふーん! そりゃ、撫でるためよっ! さっきの良かった。もうプリップリッ! セクシーッ!」
「アルミナっ! おんどれのケツも晒したるっ! 待てこらっ!」
前傾姿勢になると、アルミナを追って速度を上げるヨミコ。
アルミナも必死な形相で、前かがみになって走る。
……どっちも、やりゃ出来るじゃない。
こう言う適度な緊張感ある関係もいいんじゃないかな?
「素振りです! とにかく、最初は腕が上がらなくなるまで素振りです! それ! 1! 2!」
雨音ちゃんの掛け声に合わせて、ピッピッと笛の音が響く。
素振り100回くらいどってことないんだけど、二人共20回程度で早くもヨレヨレ。
「ダラダラ振ってるんじゃないぞっ! もっと腰を落として、目の前に親の仇がいると思って、振り抜くんだ! こうだっ! こうっ! もっと気合い入れるんだ! 声だせーっ!」
見本とばかりに、振りかぶって、縦一文字からの横薙ぎ、更に切り返しの三連斬り!
たかが素振りと言えど、地面に少し足がめり込むほどの勢い……うん、これくらい気合い入れないと!
「だから、お前の素振りは、見えねぇっちゅーねん! そんな勢いで殴られたら、死ぬわっ! とぅりゃあああ……はぁ、なんで、こんな事になったんやろなぁ……」
「文句言わない……。私もゲンコツ一発で泣かされたようなヘタレ娘からは卒業する! そして、清四郎様のお隣で共に戦い……アルミナ、君は最高だ! 愛してる……って言われたーい! せぇえええいっ!」
「おのれ、もう目的変わっとるやろ……うりゃー! たぁーっ!」
「そこーっ! くっちゃべってるとか余裕がまだあるみたいじゃないか! 素振り100回終わったら、直ちに校舎周り10周! 本気ダッシュでいけーっ!」
「「ぎゃーっすっ!」」
かくして、特訓の日々は続くのだった。
「今日は雨やでー、特訓は止めにして、皆でラーメン食べてこうや! うち奢るでっ!」
……さすがに、雨の中の特訓は風邪引くだけ。
ヨミコの提案は魅力的だった。
「おっ! 良いねぇ……」
こんな日もあっていいかなー。
「ニンニクスクナメヤサイアブラカラメ」
まるで呪文のような言葉を唱えると、出てきたのは山盛り野菜ラーメン!
とっても美味しかったですっ!
また別の日。
「どや! おしゃれやろっ! それにおニューの竹刀のデビューやっ! アルミナ、一発殴らせてーな!」
「やーですの! でも、おニュー装備は私もですっ! アルミナの攻撃力と防御力が上がったーっ!」
二人共、フリフリな感じの可愛いピンクのジャージ。
いよいよ、真冬の寒さ到来……と言うわけで、今日は皆でジャージのお披露目。
ブルマは……もういいです……ハミパン恥ずい。
昨日は、今年一番の冷え込みとかで、とても辛かったんで、全員一致で特訓サボって、ジャージ買いに行きました。
私は、黒一色に赤いライン入りのにした。
よく伸びるし、サラサラでいい感じ。
その割に、着てるだけでポカポカと暖かい防寒性能抜群な感じ!
ちょっと奮発しちゃいました。
ついでに、私も竹刀、買いました!
軽いけど、重量バランスもしっかりしてていい感じの代物。
竹刀なら別に持ち歩いてても、怒られたりしないから、普段使いにもピッタリ!
でも、竹刀の扱いは雨音ちゃんの方が一枚上手。
本日の勝負。
私の切り返しを見きった雨音ちゃんの勝ち!
「ま、負けたぁ……」
今回は燕返しを避けられたところへ綺麗に胴薙ぎをもらって、完敗! 真剣だったら真っ二つだった。
「燕返しも来ると解ってれば、対処出来ますからね。同じ技に頼るのではなく、抜き打ちからの派生技を他にも身につけると良いかもしれないですね」
「そうだねっ! こうなったら、新技身につけるぞっ!」
これぞ、まさに切磋琢磨っ! 雨音ちゃん、やっぱ最高だねっ!
「死ねっ! ヨミコ! 必殺昇竜剣っ!」
「なんやねん! その酷いパクリ技はっ! なら、うちはこれや! 着地狙い波動剣っ!」
「ちょっ! 魔法禁止っ! せんせーっ! ヨミコが反則をーっ! うぎゃーっ!」
……アルミナが竹刀を振り回しながら垂直ジャンプする謎の技を放って、ヨミコは踏み込んでから、竹刀から衝撃波を放った……らしい。
アルミナも大げさにもんどり打って転がってるけど、問題なさそう。
むしろ、倒れ込む時はこうっ! とか、やってる……。
やられる時の美学がなんとか……よく解らないよ?
この二人、いつもこんな調子で、どつきあったりしてるけど、基本とっても仲良し。
行き帰りやお昼ご飯は大抵一緒だし、トイレも一緒につるんで行く。
仲よし姉妹っ! うちも見習いたいね。
それにしても、二人の剣さばきも特訓の甲斐あってか、結構見れるくらいにはなってきたし、体力もついてきた。
今だって、アルミナもしっかり受け身を取ってた。
最初に比べると、泣き言や文句も言わなくなったし……皆、成長してる!
私は……と言うと、このところ、走り込みに付き合ったり、素振りだのやってたから、体重もちょっと減ったと思ったら、むしろ増えてたーっ!
こう言う成長は……要らない気がするよ?
寄り道して、買い食いする機会が増えたから?
「じゃあ、今日は駅まで走り込みやって、アイスでも食べていこうっ!」
そう言ってから、昨日体重計の前でダイエットの誓いをした事を思い出す。
うん、アイス一個くらいなら、どってこと無いさ! ……たぶん。
「ええな! うち、44アイスクリームがええなっ! 期間限定のが今日までなんや」
「私は、ワッフルがいいなぁ……改札横のマネケンにしない? 朝、新作が出たって看板で見かけたじゃない」
「そいや、騒いどったなぁ……うちは、アイスの方ばっか見とったよ」
「マネケンの新作っ! ううっ、どっちも捨てがたいね……雨音ちゃんは?」
「それぞれ、ふたつづつ買って、皆で食べるってのはどうでしょう! 確か隣合わせでしたよね?」
「それやっ! 決まりやーっ! ドベの奴の奢りってことで! うち、負けへんでーっ!」
そう言って、一人で突っ走るヨミコ!
「「「あ、抜け駆け禁止ーっ!」」」
三人でハモりながら、ヨミコを追いかける!
町の人が何事かって振り向くけど、気にしない。
なんかもう、これがいつもの光景みたいになりつつある、今日この頃なのでしたっ!
びっくりするほど、内容が無い。(笑)
でも、日常回に、ストーリーとか求められてないでしょ。
ロリっ子がただキャッキャウフフする話……で、いいんじゃないでしょうか。