第二十一話「とある魔王の娘と元魔王、しゅくめいのたいけつ」④
静かで荘厳な雰囲気の曲。
「……ホルストの組曲「惑星」より「火星」か……」
アサツキがボソリと呟く。
この男、こちらの世界の文化や芸術に興味を持ったらしく、この手の事に詳しいんですのよね。
ヨーロッパ系の方の接待で、クラシックやらオペラの鑑賞会に招待されることもあって、自然に詳しくなったのだとか。
クラシックのBGMに合わせて、正面の席の床に穴が開くと、そこから椅子がせり上がってきて、こちらに背を向けた人物が姿を現す……。
な、なんなんですの……これ? この無駄に凝った仕掛け……一体、どれだけお金かけてますの!
「こ、こういう方なのだ……パルルよ。まずはその口を閉じろ……みっともないぞ」
……お、思わず開いた口が塞がらなくなってましたの。
隣で引きつった顔のままのアサツキに言われて、慌てて口を閉じる。
「フハハハハッ! 我が子らよ! よくぞ、我が招集に応じて、遠路はるばるやってきたものだ! ご苦労! まずはそう言わせてもらおうじゃないか! ハハハーハハッ!」
……けれど、わたくしもその声には聞き覚えがありましたの。
「……ま、まさか……JJ様?! そんな……馬鹿なっ!」
いえ……違いますわ。
JJ様はもっと背も高いし、カッコイイナイスミドルのはず。
くるりと椅子を回転させて、振り返ったのは……背も低いなんとも貧相な眼鏡の中年男。
な、なんですの……コレは?
「やぁっ! パルルちゃん! 初めましてと言いたいとこだが、実は君とは初対面……と言う訳じゃない。そう……T&T社CEO、JJことジャン・ジャック・アルバトロスとは、世を忍ぶ仮の名! まさにこの俺、タナカ・アルバトロス・ターニオの事! もしかして、気付いてたりしてたかな? まぁ、パルルちゃんは俺に似て優秀な子だからね! 日本政府を手玉に取って、資源外交で食料がっぽりせしめちゃうなんて、ほんと凄い! ん、どうだね? 初めてお父様に会った感想は?」
……わたくし、思わずフリーズ。
言葉も出ないし、どう対応していいか解らなくなって……もう、頭が真っ白。
「あ、あれ……パルルちゃん、どうしちゃったのかな? 目のハイライト消えちゃったし、動かなくなっちゃったし……あれ、あれー? どったの?」
隣のレミィがわたくしの脇腹を小突く。
はぅわっ! フリーズってる場合じゃありませんの……。
この場での失態は、わたくしの政治生命に関わる……そんな局面ですの!
「ああ、いつぞやのお兄と一緒や……やっぱ皆、こうなるんやね……」
ヨミコがぼそっと呟く。
他の者達もどこか諦めたような様子。
どうやら、すでに全員この洗礼を受けたと言うことですの。
「え、えっとですね……も、申し訳ありません。か、感動に打ち震えておりました」
「……さすがぱるるんっ! 頑張るんやでっ! ふぁいおぉや!」
ヨミコ……調子狂うから、アンタはもう黙っててぇえええ!
「そっかそっか、俺氏に会えて感動しちゃうなんて、チョー可愛い! それにしても、相変わらずパルルちゃんはコンパクティーで可愛いね! そんなちびっちゃいのに、おっぱいとかタユンタユンで、巨乳ロリとか、反則っ! そうだっ! お父様が愛の篭った抱擁をしてあげよう! 君の育ち具合を全身全霊でチェックッ! さぁ、おいでっ! パルルちゃん、カモーンッ!」
気取った感じながら、むしろ、とってもキモい動きで立ち上がると、片膝を付き、両手を叩いて、大きく腕を広げる自称お父様……。
「デュフ……デュフフー」
ダメ押しとばかしの変顔……鼻の下を伸ばした、だらしない顔でキモい笑顔……。
わたくし……もう限界です。
ううっ、こうなったらどうにでもなると良いんですの!
唐突に円卓の上によじ登ると、そのままスカートの裾をつまみながら、机の上をダッシュ!
「とぅえぇええええいっ!」
奇声を挙げながら、わたくしが行ったのは、そのまま自称お父様へ向かってのドロップキークッ!
アサツキ達男性陣は、一斉にすっと顔を背けて、ヨミコたち女性陣は何故か、全員一斉にガッツポーズ!
ガシャパリーンとか言う音と共に、吹っ飛んだ自称お父様が後頭部で窓ガラスを粉砕。
そのまま、ピューピューと血を吹きながら、ぐったりとする。
「しぇ、成敗致ちましたのよ! このお父様の名を騙る不届き者めーっ!」
……わたくし、やってしまいました。
でも、不思議と後悔はしませんでしたの。
それから……。
わたくし、自称お父様の前で正座中。
一応、反省の意を示してますの。
もう、反逆者扱いされたっていい……そのくらいの覚悟で放ったドロップキックだったのですが。
レミィ、ミリィ以外の十二貴子の女性陣は、全員包容の洗礼を受けていたらしく、全員一致でわたくしの弁護に回ってくれてますの。
アサツキ達男性陣は、何も見てなかったから知ーらないと妙な所で一致団結。
この時ほど、兄弟の絆と言うものを感じた瞬間はありませんでしたの!
「うひょーっ! 参った参った! ぱるるんのスキンシップは強烈だね! と言うか、ぱるるん! 割りとおしゃれな下着履いてるんだね! フリフリで白レース、それでいて黒のガーターベルトとか、ちょっとお父様、困っちゃったよ! てへぺろっ!」
……ちょっと! これどうにかしてくださいましっ!
見られたのは、仕方ないにせよ……なんで、わざわざ見たものを描写するのかと。
いっそ、爆撃魔法で粉砕、いや、重力魔法で固めて、ポイ……いえいえ、そんな物騒な考えはしちゃ駄目……でも、やりたい。
無性に、殺ってしまいたい……これが殺意を覚える……と言う感情なのですね。
けど、コレが……これがわたくし達のお父様。
口調とか声……幼い時に僅かな時間を共に過ごした記憶の物とも一致するところがあって……。
認めたくない……認めたくないのですがーっ!
「タニオ、その手の狂った発言は控えろやって、うち何回も言ったやろ? ホンマ、頭に虫湧いとるんやろ! ぱるるんだって、困っとるやろ……初対面で、セクハラ発言食らって、今にも泣きそうな感じやで?」
くらぁっ! わたくし……泣いてなんていませんのっ!
「むっ! そ、それはいかんよっ! パルルちゃん! 泣かないでっ! 顔を上げるんだっ! 泣きたいならお父様の胸にいつでも飛び込んでおいでっ!」
「それがいかんっちゅーに! こんボケェっ!」
ヨミコが懐から取り出したハリセンで自称お父様の後頭部を思い切りひっぱたき、スパーンという小気味よい音が響いた。
「痛いねっ! ヨミコちゃん、そんなハリセンなんて、どっから出したのっ!」
「やかましい! おんどれをしばき倒す為に用意しとったんや! 皆、一人一発ずつ、こんクソボケオヤジをはたいたれっ!」
「そだね……これは落とし前を付けさせないとだね! 滅びろ! この邪悪の化身っ!」
ハリセンを受け取ったアルミナが大きく振りかぶっての、一撃っ!
「おぅふっ! こ、これ……思ったより痛いっ! ねぇ、ちょっとタンマ! 星が……星が見えるよっ! おっとー、足が滑っちまったぁ……」
自称お父様……フラつきながら、白々しい台詞と共に、遠巻きに様子を見てたタマ子の方へ倒れ込むと、今度はタマ子をギュッと……だらしない顔でその胸の谷間に顔を埋めてる様子に、さすがに鳥肌が……。
「……むっはーっ! ロリ娘達もいいけど、タマちゃんのこのナイスバディーもタマらん! タマ子ちゃんだけに、タマりません……なんつって!」
「ぎゃああああっ! いやーっ! ヨミコっ! これ取ってこれっ! キモい! キモいーっ!」
タマ子が涙目になって、自称お父様を振り払おうと暴れる……エルボーがズビシッと決まってるんだけど、全く怯んだ様子がなく、いよいよ本気で泣き出すタマ子。
あの竜族最強なんて言われて蛮勇で鳴らしたタマ子が泣きながら、助けを求めるとか超レアなんですが……。
そして、男性陣達は、皆ベランダに出て、缶コーヒー片手に、談笑しながら、揃って遠い目で夜空を眺めてますの……。
なんなんですの……あなた方のその何もかも諦観したような態度はっ!
「おんどれ、なんで、いちいちそんな狙ったようにキモい言動するんやっ! うちらは、実の娘やろっ! それにセクハラとか人道に悖る……外道、畜生に他ならんでっ! もう、いっそ滅べっ! 綺麗さっぱり滅べ、滅びてしまいぃやっ!」
ヨミコ、際限なくエキサイト中……この娘って、こんな吠える娘だったかしら?
「ヨミコ……こうなったら、この日のために練習したアレっ! やろうっ!」
「せやな……対クソオヤジ制裁用に開発したうちら二人のコンビネーション合体技! 皆、止めたらあかんで! 行くでっ! 必殺っ!」
ヨミコとアルミナが息の合ったタイミングで、ハリセンを床に引きずりながら、交差するように駆け寄ると、ハリセンでぶん殴る! その勢いは凄まじく自称お父様が天井近くまで吹き飛ぶ!
「「X斬りッ!! 天へと還り、光と化す一撃ッ!!」」
さらに、光の柱が立ち上ると、その身体を包み込むっ!
「アビャアアアアアッ! アーッ!」
浄化の光……穢れを払い、魔を滅すると言う伏魔の光。
……こうして、悪は滅びたのでした。
めでたし、めでたし。
じゃ、ありませんのよーっ!
これは酷い。
このノリこそが、とあるおっさん。(笑)
タニオぎゃくたい用にコンビ技を開発したヨミコとアルミナも大概ですが、この一件ですっかり仲良しになりました。
この辺の下りは、外伝で書こうと思ってた。
なお、イメージはクロノのX斬りからのシャイニング。(笑)
最近、ポプテでネタになってたね。シャイニング。
まぁ、タニオだから、この程度じゃ死にません。