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第二十一話「とある魔王の娘と元魔王、しゅくめいのたいけつ」③

 T&Tテクノロジー社の応接室。

 そこには円卓が用意され、すでにわたくし達以外の全員の姿がありますの。

 

「誰かと思ったら、ぱるるんやんけっ! おひさしゅうっ!」


 わたくしの顔を見るなり、そんな軽い調子で話しかけてきたのは、ヨミコ。

 わたくし、ちょっと苦手なんですのよね。

 

 政治や商売にも関心ないみたいで、日本での生活をエンジョイしてると思いきや……。

 いつの間にか、タケルベ様の所在を掴んで、ちょっかい出していたと言う。

 

 一連の騒ぎについては、日本政府からもやんわりと、このような騒ぎは金輪際、控えて欲しいと注意されてしまいましたの。

 どうも、危うく自衛隊による国内防衛出動等と言う前代未聞の騒ぎになりかけていたとか……。


 わたくしのせいじゃありませんけど……コントロール出来ていたようで、出来てなかった……わたくしの不徳と言えます。

 

「あら、ヨミコじゃありませんか……貴女、勇者タケルベ様に負けて、虜囚の身になっていたのでは?」


 内心は、文句たらたらなんですが、その辺はおくびにも出さずに、にこやかにイヤミを言ってやりますの。


 「負けて」の部分には、一際力を入れさせて頂きましたの!


「せやな……うちのハートは猛部はんに囚われたままなんや……。これ終わったら、またタケルベはんの家に、遊びに行く予定なんや! せっかくやから、ぱるるんも一緒に行かん? 紹介くらいしたるでっ!」

 

 身体をくねらせながら、嬉しそうにそんなことを言うヨミコ。

 

 ……何言ってるのかしら、コイツ?

 

 ちらっとヨミコの隣で無言で腕を組んでいるアサツキを見ると、苦々しい表情で片目を開けて、こちらを見て大きくため息を吐く。

 

「アサツキもお久しぶりです。アメリカの取引所の件、まだ直にお礼を言ってませんでしたね。それにミリィから話を聞きました。日本側との陳情対応についても、色々手伝って頂き助かりましたわ。よろしかったら、このあと、すこし時間をもらえません? たまにはご一緒にお食事でもどうかしら?」


「なに、礼には及ばんよ……こちらも色々やりすぎてしまったからな。日本側にも多大な迷惑をかけてしまった。この程度であれば、いくらでも手を貸そう。ただ、T&Tアメリカ支社の仕事も溜まっていてな。この後は直帰で成田へ向かう予定だ。折角の誘い……すまんな」


「あら、飛行機はお嫌いなのでは?」


「今でも好かんさ……騒々しい上に狭苦しい中、半日も押し込まれてみろ……うんざいりするぞ。自前で飛んだほうがよほど早いし快適だ。だが、先日、急遽ロスから弾道飛行をした結果、大陸間弾道弾と間違われて、大騒ぎになってしまってな。日米両国に大きな借りを作ってしまった……今後は、事前通告なしでの飛行は撃墜も辞さないと脅されてしまったよ」


 ……何やってるんだか。

 何ともアサツキらしくもない話ですわ……日米政府には、公式に謝罪をせねばなりませんね。

 ついでに、いくつかの案件で譲歩案を出して……借りはさっさと返すに限ります。

 

 けれど、こう言う身内の不始末で頭を下げる。

 それは決して、損な行いではありませんの。

 

 身内の失態ですら、最大限利用させて頂きます……わたくし、損して得取れを地で行ってますのよ?

 

「アサツキ……わたくし達が無害だと示すことは、我々の安全保障上、極めて重要なことだと再三言いましたよね? 他の皆様も同様です……此度の騒ぎ、どれほどの迷惑を先方にかけたかお解りですか?」


 そう言って、わたくしが一同を見渡すと、誰もが気まずそうな様子で、顔を伏せたり、不服そうに横を向いたりと、反応してみせますの。

 

 まぁ……ここで、反論するほど皆、お馬鹿さんじゃないみたいですのね。

 

 なにせ、全員きっちり敗者の身……勇者タケルベの温情で生きながらえた身で、偉そうな事など誰も言えるはずがありません。

 

 必然的に、この場での力関係は、もはやわたくしが最強!

 戦わない……それは、負けもしないと言うことなのですわ! 平和主義、万歳っ! なのですわーっ!

 

「スマンな……面目無いとはこの事だ」


 一同を代表するように、立ち上がって頭を下げるアサツキ。


「いえいえ、せっかくこちらに来たので、この後、わたくしも政府関係者に挨拶回りなどをしなくてはなりません。そのついでに、謝罪もしておきますわ。それにすでに、転移門周辺に首都機能を移転させる準備もしておりますので、わたくしがこちら側に来る機会も今以上になりますからね。皆様方には、様々な形でご協力を仰ぐこともあるでしょうから、その時はよろしくお願い致しますわ」


「そうか……まぁ、致し方ないな。そうなると、本格的に俺はアメリカ担当を任せられると言うことかな?」


「相変わらず、察しがよろしくて助かりますわ。アメリカと言う国は、こちらの世界にとっては最大の重要ファクターとも言える国です。特別扱いして決して損はしません。むしろ、極めて、重要な役割だと思いますよ。先方にも魔王国の全権代表だと表明いただいて差し支えありませんのよ?」


「ふむ、それは……魔王国の全権大使を任せるということかな? なかなかの大任だな」


「そう思って、よろしいのではなくて? アサツキならば、こちらでの実績も十分ですからね。英語、フランス語、中国語と各国言語もマスターしてますし、ハッタリも効きますから、適任かと思いましたが、やっていただけます?」


「……流石に断れんよ。まったく、好き好んでやっていた事ではあるが、いつのまにか貴様の手伝いをさせられるとはな……。相変わらず食えんやつだ」


「あらあら、それは褒め言葉なのかしら?」


「そう思っておけ。どのみち、貴様にだけ苦労をかけるつもりは毛頭ない。貴様が日本政府から買い付けた食料のおかげで、我が氏族も助けられたからな……この借りは必ず返す。あと叔母上が何やら、貴様にやたら感謝をしていたようなのだが何があった? 叔母上からは内輪もめなんてやってるよりも貴様の手助けをしろ……等と言われたのだが」


「……言葉通りに受け取ってくださいまし。日頃の感謝と言うことで、贈り物を送らせていただいただけですわ。喜ばれたようで何よりです。……わたくしは、魔王国の執政として当然のことをしたまでですから」


「せやな……他のモンも、今回の件の後始末やら、ぱるるんには感謝しとるんや。タマ子もやろ?」


「あ、あたしか? まぁ……そうだな。正直、あたしがカッとなって、騒ぎを大きくしちまったようなもんだからな……悪いとは思ってる」


 そう言って、頭を下げるタマリン。

 ……プライドが高く、誰の言うことも聞かないようなこの娘がこんな殊勝な態度を取るなんて……。


 タケルベ様に負けて以来、大人しくなったと言う話ではあるのですが、どんな負け方をしたんでしょうね……?


「反省してる様子ではあるので、本件については、これ以上責めるつもりはありませんよ。それと、竜族代表から、二人には一度里帰りするように言付かっておりますので、御一考をお願いしますね」


「ああ、そりゃどうせ食い物の話だろうなぁ……どうも、うちの連中すっかり日本の食い物の味を覚えちまって、土産買ってこいって、うるせぇんだよなぁ。しゃあねぇ、一度戻るか。そうだ! 例のデカイ車、一台借りてってもいいか? 冷凍肉の山持って、自分の足で帰るなんてカッタリぃんだ」


 ……そう言えば、地竜姫タマリン……タケルベ様に名前をもらったとかで、タマ子とか名乗ってるらしいんですのね。


 本人も気に入ってるのか、普通に返事してますの……。

 それに、クレナイもやる気なさそうに、ぼーっとしてるような有様。

 

 ……なんか、目を開けたまま寝てるんじゃないかしら?

 

 オーギュストと目が合うと、それまで仏頂面だったのに、ニカッと笑って手を振ってくる。

 いいとこなしだったらしいスレイヤは憮然とした顔。

 

 アルミナは居眠りの真っ最中。

 ボルドゲルドは、コミュ障だからほっときますの。

 

 この男も武闘派の一人なんですけど、アークボルトと違って、アルミナがコントロールしてるようなもんだから、至って無害なヤツですの。


 鉄巨人……何故か、女性は皆、やたら小さいんだけど、女性優位だからどいつもこいつも尻に敷かれてるんですの。

 

 この二人もそれなりの実力者のはずなんですけど、タケルベとの戦いではこっちの魔術師にボッコボコに負けたようなのですよね。

 

 こちらの精鋭とも言えるこの二人を圧倒するとは、日本側の戦力も侮れないみたいですわ。

 

 何れにせよ、わたくし達の到着で、魔王十二貴子の全員が集結したことになります。


 円卓の席順は窓際の上座に当たる席だけ椅子も置かれずに空白のまま……恐らくそこがお父様を名乗る人物の席。

 

 それに、入口側の三人分がポッカリと開いていますの。

 

 どうやら、そこがわたくし達の指定席らしいようです。

 

 席次としては、一番下の下座という事になるのですけど、お父様と正面から向かい合う事になるし、実力的にはわたくしが最弱なのだから、この扱いは甘んじて受けるべきですわね。

 

 そこら辺は、不満などおくびにも出さずに、黙って着席致しますの。

 

「不服そうだな……無理もない。こちらの慣習だと、そこは本来身分や立場が低いものが座る下座だからな。だが、席順については魔王様からのご指示だ。我らの思惑などは、一切考慮されていない。実際、俺やタマ子と言った上位陣がむしろ下座なのだからな」


「うちも一番の下っ端なんやけど、お兄の隣やからな。あんま、気にせんほうがええで?」


 そう言って、無邪気に笑うヨミコ。

 いつもながら、お気楽ですこと。

 

 けれども、わたくしが着席したのを見計らったように、唐突に荘厳な音楽がかかり始める。

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