第二十話「とある魔王の娘の憂鬱なる日々」④
食料品を買い込んで、一段落したら今度は他のものも……となるのもまた自然な流れ。
衣服やら防寒具、建築資材、農機具なども日本製は品質もよく、それらも輸入品目に加えた結果、取引先がとんでもない数に……。
こう言うのって、一社とやり取りするとすぐ他のライバル社なども食いついてきて、うちのも買ってくださいってなるみたいなんですね。
その上、一度取引するとこんなのもあるんだけど、どう? と営業攻勢が始まって……。
もうあっと言う間にわたくし達だけでは、対応しきれない状態となってしまい、今では魔王国との取引代行専門の会社を設立して、日本人社長を雇っておまかせ状態です。
ついでに、アサツキのコネを使ってアメリカにも取引窓口を作ったのですが、そっちも大盛況みたいです。
この辺は、日本政府からの要請があったからなんですけどね。
日本と言う国は、常にアメリカさんのご機嫌を伺わないといけないみたいなんですけど、魔王国産の資源が日本に流れ込むと言う話を聞いて、こっちも一枚噛ませろとうるさかったからなんだそうです。
アメリカさんは、車とか売りたかったらしいんですけどね……。
日本製ほど自動化進んでないし、電気自動車と言っても、電気が普及してない魔王国では全くの役立たず。
実は、武器の売り込みもあったんですけど……。
日本政府が難色を示したのと、何と言ってもわたくしは平和主義者。
銃火器類は確かに強力で、ゴブリンですらオーガを仕留められるような代物。
けれど、そんなものを迂闊に魔王国に持ち込むと、各種族のパワーバランスが崩壊して、内戦に発展とかロクな事になりません。
なので、そう言った物は謹んでお断りし、ジャガイモとか小麦、牛肉など、食料品を中心に買い付けてますの。
とにかく、量が尋常じゃないので、アメリカの皆様もホクホク。
どうやっても日本を経由することになるので、本来色々関税がかかったりするようなのですが、その辺はアメリカさんが日本政府と話し合ってくれたようで、驚きの関税フリーパス。
牛肉なんかは、日本産の方が良いのは解ってるですけどね。
魔王国で一番牛肉寄越せと騒いでるのは、図体もでかくて大食いの竜族共。
とにかく、量をとなると、アメリカ産が一番……もう加工なんかせずに牛一頭まるごとでも良いくらいなんですが、そっちの方が検疫やら輸送の手間がかかるそうなので、最低限の加工だけでして、流してもらってますの。
骨付きだろうが、あいつらお構いなしですからね。
ただ、海を超えるとなるとやはり輸送コストがバカになりません。
余計な流通業者とかは締め出したかったので、アメリカさんから三隻ほど大型輸送船を購入。
この辺は、日本側に相談したんですが、そう言う事ならアメリカさんから買ってあげてとアドバイスされましたの。
なんでも、軍用輸送艦の世代更新をするつもりが、アメリカの景気が悪くなって、キャンセル……買い手がつかなくて困っていたみたいなので、手を挙げさせていただきましたの。
実物を一応見ましたけど、300mもあるような化物みたいなお船……。
各種軍用装備品やら武装、装甲なんかも取っ払ったので、図体だけのドンガラ船みたいなんですけど、おかげで割りと格安で譲っていただけましたの。
もっとも、運行や細々とした実務は、船舶運用専門の会社を紹介してもらって、そっちに丸投げしました。
日本と言う国は、海洋国家なので、その辺もプロが揃ってますので、任せて安心、まぁ素敵。
これで、我が魔王国も世界中に買い付けが出来るようになりましたの! まさに大望ですわーっ!
銀行さんが日本経済に激震が走るって言ってたのは、こういう事だったんですね。
ちなみに、例の支店長さんはもうすっかり、魔王国の経済アドバイザーとして重用させていただいておりますの。
出来れば、魔王国に招聘して、正式な家臣にしたいくらいなんですけど、そうも行かないのが残念なところ。
本人も、タダの銀行マンが世界経済にすら影響を与えるような立場になれるなんて、大出世……なんて言ってたので、本望だったみたいです。
もっとも、問題点も無いわけではなく。
転移門が不安定で、行き来できるのが事実上わたくし達だけと言う状況が問題になっていたのですが。
その辺りは、日本政府が出てきたことで一挙に解決いたしましたの。
政府関係の向こう側の魔術師達の協力が得られた事や、T&T社による先進科学技術の補助を得られたことで、不安定で狭かった転移門も大型化し、常時安定稼働できるようになり、ベルトコンベアで双方を繋げたり、無人大型車両を行き来させるという方法で、物資のやり取りの効率も格段にアップ!
他の転移門が使えれば良いのですが、さすがに人族の協力が不可欠……どうも、日本側の調査によると、北海道や岡川周辺、北九州にもあるみたいなんですけど……。
何処に繋がってるか、全く解らない上に、戻ってこれる保証が全く無いので、その辺は現状保留中。
接続ルートが一つだけと言うのは、やはり問題ありとは思うのですが……転移門については、わたくし達にも解らないことだらけなので、現状これで我慢するしかありませんの。
こちら側も転移門と資源産出地域との輸送効率の問題がありましたが、日本製の輸送車両を大量に提供してもらったことで、格段に早い大量輸送が可能となったのです。
向こうの世界の自動車両はよく出来ていて、道中の各所に太陽電池式の電波ビーコンを並べておくだけで、勝手に目的地まで行ってくれますの。
魔王軍の兵士に車両の運転方法を教えるとかハードル高すぎると思ってたんですが、その辺はあっさり解決。
運転と言っても、椅子に座って寝てても務まるような有様で……向こう側の技術の凄まじさを思い知りましたのです。
T&T社の技術が元になっているそうなんですが、素晴らしいです。
一応、道中の魔獣や略奪者やら、車両トラブルと言った問題の対処要員として武装した魔王軍の兵士やら、魔王国側の技術者を同行させているのですが。
とにかく、移動速度が早いので、飛行魔獣以外の魔獣ならあっさり振り切ってしまうような有様なので、もはや魔王軍の兵士達からも、輸送車両随伴任務は、休暇同然の扱いを受けているそうです。
輸送車両についても、向こう側でもここまでのものは、実現できていないらしく、実証実験も兼ねているそうで、無償提供、定期メンテナンスもタダでやってくれるなんて、太っ腹ぶり。
おまけに、道路建設のノウハウまで提供いただき、アスファルトを敷き詰めた本格的な道路建設も始まっております。
これが実現できれば、輸送効率も更に上がるはずです。
更に転移門間の通信ケーブルによる相互接続が成功したことで、危険を犯して人が行き来せずとも、双方の意志のやり取りも出来るようになり、二つの世界を繋げる試みは順調に進んでますの。
お互い直接、人を派遣できないと言う難点があるものの、技術情報や精密加工の施された資材を提供してもらうことが出来たので、原油パイプラインの敷設なども計画中なのです。
日本の総理大臣からも「これからも、我が国と持ちつ持たれつの関係でよろしく」なんて書状を送られたほどですからね。
公式には、日本国内に異世界と繋がっている転移門があって、貿易まで行っているなんて事は極秘にしているそうで、首脳会談などは出来ないとのことでしたが、どっちみちお互い攻め込んだりも出来ないんだから、ここは持ちつ持たれつと言う関係でいきたいところですね。
人の行き来ができないと言うのは、一見デメリットのようですけど、逆に考えれば安全保障について、双方、絶対不可侵が確約されているようなものなのです。
実際、向こう側の外国の工作員が荷物に紛れて侵入するという騒ぎもありましたけどね。
その工作員の方は、勝手に野垂れ死んでいるのが発見され、ご遺体は丁寧に送り返させていただきました。
何処の国の方は存じ上げませんが……不幸な話ですわ。
そんな不幸な出来事もありましたけれど……。
基本的に、わたくし達魔王国と日本は、極めて良好な関係と言えます。
なにせ、現状お互いメリットしか無いですからね。
人族側は相変わらず低レベルな文明レベルのままで、魔族相手に徹底抗戦とか息巻いてますけど、わたくしが正式に魔王となった暁には、人族側とも協定を結んで、出来れば共存共栄と行きたいと考えてますの。
なにせ、わたくし達魔族は、食べるものを求めて相争ったり、人族の領域に攻め込む必要すらなくなったのですから。
魔王国の領土は山岳地帯ばかりながらも、鉱物資源については無尽蔵と言って良いほどですからね。
資源地帯さえ確保できているなら、他の領域なんて捨てたっていいくらい。
これまで奪った、人族の領域についても、正直なところ、もう要らないので、返還要求についても、いくらでも応じるつもりです。
労働力についても、わたくしの眷属、ゴブリン族は膨大な数がいて、皆、働き者かつ忠実で、食料さえ確保できれば勝手にねずみ算式に増えるので……。
日本からの食べ物を優先的に配給したことで、やる気も満々、ゴブリン人口も右肩上がりで上昇中、日夜わたくしの名を称える声が絶えませんの。