第四話「とあるおっさんと暴力系JKヒロイン」①
「猛部さん、今日は随分買い込むんですね……それに、衣類コーナーで何を探してたんです?」
弁当やらカップ麺、お菓子やらスイーツ、シャンプーやらボディーソープやらバスタオルなどなど。
カゴいっぱいしこたま買い込んだ俺を見つめながら、イレブンマートのバイト店員女子高生がそんな風に聞いてくる。
折り悪く、コンビニの店員が顔見知りだったと言うオチ……。
最近のコンビニでは、お泊り用だかなんだか知らないが、下着なんかも売ってるので、買っていこうかと思ったのだけど。
そう言う理由で却下とした……うん、明日、ショッピングセンターに行こう。
そして、男らしく女子のパンツとちっちゃいフリフリの子供服を買うんだ。
何に使うんだ? とか聞かれたら、堂々と娘のためだと答えればいい! 何を恥ずべく事がある。
ちなみに、彼女の名は、狩野川祥子。
……このイレブンマートの女子高生バイト店員であり、俺の知人でもある。
三つ編みロングにメガネかけてて、地味っぽく見えるけど……。
ワイシャツの胸元をいつもはだけて、その年の割に立派なバストを強調して、やたら短いスカートを好んで履くような、実にけしからんJK。
平日夜の6時から9時前後までと、休日にしかシフトに入って居ないのだけど。
その時間帯は、俺の利用時間と被ってるので、ほぼ毎日のように顔を合わせる。
ちょっとした縁があって、10年前……彼女が幼稚園児くらいだった頃からの顔見知りではあるので、付き合い自体は割と長い。
もっとも、何かというと、荷物持ちと称して、買い物やらお出かけに付き合わされたり……。
家庭教師みたいなことをやらされたり、料理の実験台にされたりと、何とも言えない関係が続いていた。
小さい頃は、休みの日に遊び相手になってやったりもしたもんだ。
もちろん、恋愛感情なんてのは、全くない。
まぁ、年の差二倍以上にもなる女の子相手に本気になるとか、普通にあり得ん話なのだよ。
それに……この年になると、性欲とか減退してくるので、女子高生相手にどうこうという気になんて、とてもならない。
会社の事務の女の子達とも、たまに飲みに行ったり、一緒に昼飯を食べに行ったりするけど……完全に友達感覚。
おっさんって奴は、若い子達と違って、女子に対してガッツかなくなっていくものなのだよ。
そもそも、祥子の場合、彼女が幼稚園児の頃から見知ってるのだからな……感覚としては、もう姪っ子とかに近い。
「んー、ちょっと訳ありでなぁ……しばらく、知り合いの子供を預かることになってな。着替えとかもロクに持ってきてないから、なんか無いかと思ってたんだが……さすがに子供用の服なんて、置いてないよな」
まぁ、服と言っても、置いてあったのはTシャツとか下着くらいのもん。
ショーツなんかも売ってたんだけど、どうみても大人用でサイズが合いそうもない。
そもそもそんなものを女子高生の前に持っていくとか、なかなかの変態である。
おそらく、グーパンくらいは軽いね! ちなみに、祥子……何かと言うと口より先に手が出る暴力系でもある。
小学校の頃とか空手とかやってたもんで、実際結構強い。
俺も戻ったばかりの頃は、割りと熱心に武術の鍛錬なんかもやってたから、変な影響を受けたらしい。
結果、爆誕したいわゆる暴力系ヒロイン、中学くらいの頃はヤンチャしまくってたけど、最近は割と大人しくなった。
「へぇ……珍しくたばこ買わないと思ったら、そういう事だったんですね! もしかして、女の子?」
おまけにこの、勘の鋭さ……。
女の勘ってホント、馬鹿にできない。
ああ、でも……祥子に協力してもらうという手もあるのか……。
考えてみれば、気軽に相談できる女性としては、妹やおふくろ以外だと祥子くらいのもん。
妹やおふくろは……多分、アルマリアを一目見るだけで身内と看破しそうだから、正直面倒な事にしかなりそうもない。
アルマリアをうちに置くとしたら、やっぱり色々必要になるだろうけど。
何が必要なのかとか、もう全然判らん……服だって、良し悪しや流行り廃りとかもさっぱりだ。
本人は、もっと解らないだろうから、現役女子のアドバイザーは切実に欲しいところだ。
でも、妙なことに巻き込んでも悪いしなぁ……。
ひとまず、今日のところは先送りでいいか……そんな結論に落ち着く。
「まぁ、そんなとこだ……悪いが急ぐから、これで……なっ!」
とりあえず、これ以上話していると確実にボロを出す……。
そう判断し、二袋分になった大荷物を抱えてさっさと帰ろうとしたのだけど……。
「あ、待って待って! 実はもう上がりでさっ! 帰り道一人じゃ心細いから、いつもみたいに送ってってよ! ちょとまっててね!」
こっちの返事も待たずに奥に引っ込んでく祥子。
まだ上がりの時間まで30分近くあるのだけど、オーナーにも上がりまーすとか言って、もはや帰る気満々のご様子だった。
……これですっぽかしたら、次に会ったときに何言われるか分からない……この流れは送っていく事が確定だった。
もう少し遅けりゃ、無愛想な店長だけだから、何の問題もなかったのだけど……。
何と言うか……間が悪かった。
(仕方がない……アルマリア、ごめん。もうちょっと留守番しててくれ)
心のなかで、俺の帰りを待っているであろうアルマリアに謝罪しつつ、俺は大人しく待つのであった。
田舎の夜は寂しい……冬ともなれば尚更だ。
車もまばらに行き交うだけで、通行人なんて居やしない。
聞こえるのは、遠く日本海まで続いている国道を行き交う車の音と、川のせせらぎの音ばかり。
今の時刻は、夜の9時過ぎ……早い人だともう寝てる時間……田舎の夜は早いのだ。
東京なんかだと、まだまだ駅前なんかは帰宅ラッシュでごった返してるような時間帯なのだけど。
この岡川県、高梨市はギリギリアウトな感じのど田舎地方都市。
市の名前を冠する一級河川がど真ん中をぶち抜いていて、四方八方山に囲まれた1km四方程度の狭っ苦しい盆地の中にそれなりの人口密集地がある……そんな感じ。
でもまぁ……市役所はあるし、駅には特急も停まるし、多いときは15分間隔くらいで電車も来る。
自動改札だってちゃんとあるから、ICカードやスマホ決済だって使える。
図書館の入っている駅ビルには、スタバだってあるのだ。
割と最近、天空の城……とか何とか言って有名になった城跡が観光名所となっているのと、大学がある関係で割と若いやつが目立つ……その辺が特徴といえば特徴だ。
他の地域だとコンビニすら無く、田んぼと川と無人駅しかないような所も珍しくないのだから、高梨はまだ賑わってる方……これでも岡川県北西部では一番栄えている街なのだ。
ちなみに、岡川県は県内の7割が山林……人口密集地は瀬戸内海沿岸……岡川市周辺や倉吉に集中している。
ちょっと奥地に入ると、もう山しか無いと言ってもいいくらい。
……山に入れば、イノシシや鹿も当たり前のようにいるし、北部の山奥に行くとツキノワグマとかも出る。
高梨川の支流では、時々ヌートリアと言う巨大ネズミが悠々と泳いでたりもする……黄色い出っ歯が不気味な上に、シルエットはまんま巨大ネズミ……はっきり言って、キモい。
知り合いの猟師のおっちゃんの話だと、食っても不味いらしい……うん、ネズミ系ってそうなんだよな。
俺も食ったことあるから知ってる。
要するにドが付くほどの田舎……。
夜の8時を過ぎると……電車も一時間に一本とかそんな調子になり、商店もコンビニや飲み屋以外は軒並み閉まってしまうので、必然的に街は無人のようになってしまう。
……まぁ、栄えてると言っても、あくまで「比較的」なので、所詮はこんなもんだ。
駅前のコンビニも24時間営業を止めるかもしれないとか言ってるような有様なので……お察しください。
そして……いつも通りと言った調子で、自転車の荷台に、祥子を乗せて夜の街を行く。
横すわりの制服女子高生を乗せて、自転車を漕ぐとかなんとなく、青春ドラマの光景のようだけど。
ドライバーはアラサーどころか、アラフォーも見えてきたような立派なオッサンである。
地方都市在住のオッサンの必需アイテム……車もない、1DKのボロアパート暮らし、主食はコンビニ弁当となかなかの残念さ。
いや、やめよう……なんだか、もの悲しくなってくるから。
本当は、自転車二人乗りって道交法上アウトなのだけど……。
山の方へ行けば、軽トラの荷台に鈴なりに人乗せてたり、トラクターに二人乗り……なんてのだって、良く見かける。
どっちもアウトなんだけど、農家のジジババ連中はそんなのお構いなしだ。
警察もこんな時間に自転車二人乗りをいちいち見咎めるほど暇じゃない。
田舎ってのは、何かにつけておおらかなのだよ。
「ねぇねぇ……猛部さん、今日……何かあった?」
唐突に祥子が口を開いた。