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第二十話「とある魔王の娘の憂鬱なる日々」①

この話、元々外伝という位置づけでしたが。

第二部の導入部のような感じになったので、もうここから第二部スタートとします。


まずは、魔王国の執政パルル様から見た魔王国側の状況や、魔王国と日本側の関係を描いた説明回です。


タニオの独白回でも言ってたように、魔王国のある向こう側の世界は、密かに危機的状況がせまりつつあります……。

 魔王城の執務室。


 わたくしは、玉座にこそ座ることは叶わないものの、名実ともにこの部屋の主と言えます。

 

 魔王十二貴子の頂点……魔王国の政治経済を事実上、支配するこのわたくしこそが魔王国の主。

 直接的な武力こそ、十二貴子最弱と言われるヨミコ以下とか言われてますけど、王たるものに武力は必ずしも必要無いのです。

 

 この魔王国の政治、経済、統治……それらは、もはやわたくし抜きでは動かせない状態となってしまっていますの。

 

 かつては、食べるものにすら困り、豊穣なる人族の土地や豊富な食料資源目当てに戦争を仕掛けたりもしていましたが、今や誰も食べる事に困らなくなり、長年続いていた人族との争いすら、休戦にまで持っていくことが出来ておりますの。

 

 なぜなら、先代魔王亡き後、我らが魔王国は人類なぞ、もはや脅威ですら無い……圧倒的な国力を手に入れたのですから。


 そして、その源泉こそがこのわたくし。

 日々大量の書類と格闘し続ける小さな魔王の異名を取る十二貴子筆頭パルルマーシュなのですわっ!

 

 いえ、今はもう第二席だったアークボルトの馬鹿が消えてくれたので、十一貴子と改めなければなりませんね。

 席順も繰り上げですわ……わたくし以外は。

 

 おまけに、脳筋お馬鹿揃い魔王親衛軍の奴らも、その有力者諸共一緒に綺麗さっぱり消えてくれたので、わたくしの最大の障害だった国内の主戦派は骨抜きになって、もはやわたくしの天下!


「オーッホッホッ! 最っ高の気分ですわっ! もはや、わたくしこそ次代の魔王と誰もが認めざるを得ませんの! 繰り上げ次席となったアサツキは向こうの世界で会社経営に夢中で帰ってくる気配もないですし! 他の奴らも政治力という点ではわたくしに敵いませんの! 人族共もわたくしの思い通りに和平案を受け入れてくれましたし、後は向こう側との交易で得た経済の力でじっくりと平和裏に併合するのみ……オーホホホホッ! まさにっ! まさにーっ! わたくちの時代到来ですわーっ!」


 思わず立ち上がって、ピョコピョコと飛び上がりながら高笑い。

 抑えよう、抑えようと思ってはいたのですが、もう止まりませんの!


 最後、噛みましたけど……どうせ、わたくし一人なんで関係ありませんわっ!


「……パルルお姉様、騒々しいです……少し控えめになさってくださいな」


 いつの間にか入ってきたレミィの声で我に返る。

 一人だと思って、思わず、高笑いをしてしまっていたのですが……気配消しの達人、第十席のレミィが入ってくるのに気付かないとは……不覚。

 

 考え事をしているうちに、テンションが上って、我を忘れるとか……まったく、はしたないですわっ!


「な、何かちら、レミィ……執務室に入る時は、ノックを忘れずにお願いいたしますね」

 

 ちなみに、レミィはわたくしより背も高い褐色の肌のダークエルフ。

 年下のはずなんですけど、身体の成長も早い種族なので、人間で言うと20代くらいに見えますの。

 魔王軍の将校の制服をパリッと着こなし、サーベルを腰に下げたイケメン。


 もっとも、髪を短くしている上に男物の服を好んで着るので、一見ハンサムな男の人に見えるだけで、れっきとした女性なのですわ。


 一応、わたくしとは、異母姉妹と言う関係なんですの……当然、わたくしがお姉さんです。


 この娘……こう見えて、実は十二歳。

 ダークエルフは早熟で長寿と言う種族なので、十歳くらいで、人間で言うと二十歳位の姿になって、延々百年くらい同じ姿のままなのです。


 元々、魔王の座には興味がないとかで、かなり早い段階でもう一人の妹のミリィ共々、わたくしと同志の間柄となり、色々と裏工作や向こう側との交渉などを担当してきた……わたくしの右腕のようなものなのですわ。

 

 ダークエルフ自体がエルフから派生した種族であり、わたくし達同様闇の女神と呼ばれる神に作られたと言われてますが。

 あまり好戦的でない種族で、薄暗い谷底とか洞窟に好んで引きこもると言う根暗な種族なのです。

 なので、レミィ達も争いを好まない性質でしたの。


 元々、ライバルの一人だと思っていましたけど、話してみれば、わたくしの目指さんとする平和的手段による世界統一を願っていると言う事が解り……つまり、目指すところは同じ場所。

 

 わたくしは……と言うと、ゴブリニアスと呼ばれるゴブリンの最上位種族の姫。

 

 お猿さん並の知能と、群れるだけしか能がない低能無能の種族と言われたゴブリン達を統率する生まれついての女王たる種族。

 

 見た目も人間と変わらず、強大な魔力を持ち、魔王軍の数的主力たるゴブリン軍団を問答無用で統率する……それがわたくしなのです。

 

 ……難点は、背丈が1.2ダーシュ程度で止まってしまうことなんですけどね。

 

 人間の子供とよく間違えられるのだけど……。

 わたくしは、15歳……立派に成人しております。

 

 身体だって、背が小さいだけで、豊満な胸とふくよかな腰つきで、とっても女性らしい体型なのですわ。

 

 わたくしは、魔王様の血を引いているので、少しはマシだろうと思っていたのですが……。

 五年くらい前から、背がパタッと伸びなくなってしまいましたの……ゴブリニアスの血が誇らしいとともに恨めしいですわ。


「……パル様……廊下にまで高笑いが響いてる時点で、色々手遅れだと思います。……他種族の者達もこの階層には詰めておりますので、もう少しご自重ください」


「お黙りっ! そんな事より、報告って何なのかしら? わたくし、忙ちいのですから……手短に」


「はい、実を言うと、向こう側の世界にて我らが父上……タナカ・アルバトロス・ターニオの名に於いて、十二貴子全員に召集命令がかかりましたので、大至急御出立を願います」


 ……一瞬、レミィが何を言ってるのか理解できない。

 お父様? 魔王アルバトロス・ターニオ? なんで、その名前が今さら、出てくるのかしら?

 

「レミィ……お父様は12年前のあの日、勇者タケルベに討たれとっくにお亡くなりになられました。死者の名を騙るなどあってはならない事ですの。その者、極刑を以って当たるべきですわ。向こうの世界のものであっても関係ありませんわ。かくなる上は、わたくしの名において、捕縛の上、磔刑に処して火炙りに致しましょう」


「いえ、姿形こそ違うものの……正真正銘、お父様……と言うことです。向こう側の世界でも、あの勇者タケルベはもちろん、アサツキやヨミコ、オーギュストにタマリンと言った有力者も、その事実を認めざるを得なかったそうです」


 どういうことなのです?

 どいつもこいつも十二貴子の中でも上位に位置する有力者揃い。

 何を根拠にそんな事を?

 

 それに何よりも、なんでそこで、勇者タケルベ様の名前が出てくるのです?


「じょ、冗談じゃないですわっ! お父様が在命だったなんて、それではわたくしの計画が根底から崩れてしまいますわっ!」


「まぁ、そうなりますね……我々としては、少々困った事態になってしまってます。アサツキ達だけが騒いでいるのなら、我らへの政治的な対抗措置として、偽物を用意したと言った対応が通用しますが……。問題は勇者タケルベが認めてしまったという事です。奴の言葉は未だに人類側にとっては、極めて重い言葉ですし、奴の娘達は我々同様、向こうとこちらを自在に行き来出来ますからね……この話が、レディスレディアに伝わるのも時間の問題です。そうなると我々だけの問題ではなくなってしまいます」


「で、でもでもっ! わ、わたくちが認めない限り、魔王国が公に認めたことにはならないのでは? そもそも、このタイミングで、そんな魔王を騙るものが現れるなんて、もはや害悪にしかなりませんの! ここはいっそ、秘密裏に暗殺するべき……そうっ! これは必要悪ですわっ!」


「……いえ、それは問題ありますね。他の貴子達が公に認めた以上、パル様の独断で処刑命令なんて出そうものなら、奴らは逆賊討伐の大義名分で、一斉にこの魔王城に攻め込んでくるでしょうね。暗殺も難しいです……向こう側でも相応の重要人物のようですし、日本側の協力者も特定個人の暗殺依頼なんて、断られるに決まってます。……そうですね。いっそ、例のヤクザにでも頼んでみますか? 確かコネはまだ生きてますよね」


「あんなヤクザもんなんて、全然当てになりませんわ。わたくし一人にすら対抗できなかったのに、魔王様の暗殺なんで出来っこありませんわ! それなら、レミィ……貴女がやるのはどうかしら? 暗殺くらいならお手の物でしょう?」


「殺れと言われれば、殺りますが……我々はその魔王様の所在も顔も解らない。これでは、どうにもなりません。何と言っても、すでにアサツキの名で、召集令が発令されてしまいましたから。そんな暗殺の下準備なんてやってる時間はとてもありません。いずれにせよ手をこまねいていると、我々が反逆者扱いされかねない……そんな情勢だとご理解ください」


 反逆者扱いなんてされたら、十二貴子のほぼ全員を敵に回してしまいますわ。

 ……そうなれば、必然的に我がゴブリン族以外は全部敵。

 

 ゴブリン族は数で勝負だから、一人一人はか弱く、脆弱なのです。

 正面切って、他の魔族達と戦ってもとても勝てない。

 

 わたくしが事実上、魔王国を動かしておきながら、魔王を名乗れなかったのは、武力で劣るからに他なりません。


 筆頭扱いされているのも、内政と言う誰もが面倒がる仕事を率先して引き受けていたのと、極力敵を作らない方針でいたからに他なりません。

 わたくしは、か弱い存在であるが故に、棚ぼた的に筆頭の座を手に入れた……そんな立場なのですから。


 もし、他種族との全面戦争なんて事になったら……逆にわたくしが、磔にされて火炙りにされる未来予想図が容易に想像できてしまいますの。

 

「わ、わたくち……火炙りはイヤぁですのぉ……レミィ、何とかならないのぉ?」


 思わず、涙目になってレミィにすがりつく。


「いえいえ、現時点では仮定のお話なので、そうなると決まった訳ではありません……。ですが、決断は急ぐべきです。どのみち、魔王十二貴子筆頭にして、事実上の魔王国の支配者たる貴女が来なければ、話しにならないので、大至急ご出立の準備をお願いします。それと、これは向こう側でのタケルベ達とアサツキら十二貴子の戦いと一連の騒動の記録資料です。我々はこの騒動からは完全に蚊帳の外でしたからね。道中目を通しておくことをお勧めいたします」


 ……どうしましょう。

 わたくしの理解が追いつきません……何がどうなって、そんな事に?

 

 確かに、魔界で延々内輪もめとか、バカバカしすぎて「魔王様の仇、勇者タケルベを討ち取った者こそ、次期魔王」……そんな流れを作って、各種族のリーダー格の十二貴子を向こう側に追いやったのは、わたくしなのですが。

 

 向こう側の世界は、広いし人間も凄まじい数がいる。

 どうせ、見つけられっこないって、タカをくくってましたのに……。

 なんで、タケルベ様が見つかってしまった挙句に、その上、死んだはずのお父様なんてのが出てきちゃいましたの?

 

 わたくしの平和へと続く未来予想図が……真っ白になってしまったじゃありませんか。

 

 思わず、魂が抜けたようにフリーズ状態になってしまったわたくしに向かって、大きくため息を吐くとレミィが執務室を出て行ったのが解りましたの……。

ちなみに、パルル様は「し」が上手く言えなくて、時々「ち」になる娘です。(笑)

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