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外伝その1「とある勇者のはじめてのおつかい」後日談

外伝1の後編。

5,000文字オーバーしてしまっていたので、分割しました。

 迷子になって、変な所に迷い込んで、親切な人に道教えてもらえて、無事に帰ってこれました。


 端的に言ってしまえば、これが事のあらましなのだけど。

 この話にはちょっとした後日談があった。

 

「ここが例のお稲荷様なのか……なんとも、寂れてるなぁ。……社だって、ボロボロじゃないか。こりゃ酷いな……」


 お父様が呆れたように、その社を見て呟く。

 

 後日、お父様にこの話をしたら、お礼参りに行くべきだと言う話になった。


 私の記憶と過去の記録とかで、地図にも載ってなかったその古いお稲荷様をなんとか見つけることが出来たのだけど……。


 ……確かに、結構ボロボロだったけど、あの時見たのはまだ建物は残ってた。

 今、目の前にあるのは、一見朽木の山に枯れ草が積み重なってるようにしか見えない……。


 おまけに、人の頭くらいあるような大きな岩や倒木が転がってたり、枯れ草も鬱蒼と茂ってて……何もかもが風化しかけていて、風景からしてぜんぜん違った。


「まったくだ……神々の座する場所を何だと思ってるんだ……。どうも何年も前に管理するものもいなくなって、打ち捨てられたらしいんだが。志織君の話が事実であれば、これは我々の方で、なんとかするべきだろうな……譲、何か解ったか?」


「ここ……なんかいやがるな! ビンビンに気配がするぜ? 昼間来て正解だ……夜なんか来てたら、ちょっとした魔界同然だったろうよ……」


 こっちの世界の魔術師。

 政岡さんと宇良部さん……お父様から私の話を聞いて、すぐに駆けつけてきてくれたらしい。

 

 この世界では、神様が気軽に人と触れ合える……そんな風に思ったんだけど、実際はそんな事はないらしい。

 昔は、神社で子供が遊び相手になってもらったとか、ひょっこり宴会に紛れ込んでたとか、そんな話もあったらしいのだけど。


 ここ何年かは、すっかり話を聞かなくなってしまった言うことで、むしろ滅多にないような出来事らしかった。

 

 この様子だと、どうも私は、テトさんの作り出した心象空間にでも迷い込んだ……そんな感じだったみたいだった。

 

 記憶にある風景とのあまりの違いに戸惑っていると、森の中で何か動いたような気がした。

 改めて良くみると、森との境目近くの木から、顔を半分だけ覗かせてるテトさんが見えた。

 

「……あ、あそこに居たっ! テトさん、言われたように、お揚げ持ってきましたよー!」


 私がそう言うと、ぱぁっと嬉しそうな顔をしながら、身体を乗り出してきたのだけど、隣りにいた宇良部さんを見て、ビクッとすると再び木の裏に引っ込んでしまった。

 

「……志織……お前はいったい何処に向って話しをしてるんだ……俺には何も見えなかったんだが……」


 お父様が青ざめた顔で、そんな事を言う。

 

「あの……私も、志織が何も居ない方へ話しかけてるようにしか見えませんでした……一体、何を見たんですか? 確かにそこの草むらが不自然に揺れたのは見えたんですけど……」


 アルマリアも……どうも、二人共、テトさんの姿が見えてなかったらしかった。

 あれー、見間違いだった?

 

「一瞬なんだが……なんか黄色いのが、ちらっと見えたな……今のが神様だってのか?」


「譲! それは確かか? 僕にも何も見えなかったぞ!」


 周囲の他の人々もめいめいにざわつき、何人かが影らしきものを見ていたようだった。


 宇良部さんが見たのは、赤い袴と黄色い尻尾……ああ、それ間違いなくテトさんだ。


 リネリアも、気配と匂いがするって言ってたけど、やっぱり見えなかったらしい。

 結局はっきりその姿を見たのは、私と宇良部さんだけ。


 あ、解った……多分、魔眼でも使わないと見えないんだ。

 

 宇良部さんは、先天的に鬼眼とか言う龍眼みたいなのを持ってるとかで、見えないものが見える……そういう人なんだって……お仲間だね。

 

「ちっちゃい方でしたけど……宇良部さんを怖がってるような感じでしたよ。とりあえず、宇良部さんには先に帰ってもらって、お掃除して、お揚げ置いて、一旦帰りませんか? あの方、割りと内気な方みたいなんで、こんな風に大勢で来ちゃったから、恥ずかしがってるのかも」

 

 私の言葉に、がっくりと、本気で落ち込んでる様子の宇良部さん。

 この人、身体も大きいし、顔も怖いんだけど、子供好きで割りと繊細なんだよね。


 最初会った時、頭を撫でられそうになって、思わず避けたら、めちゃくちゃ悲しそうな顔をされてしまった。


 涙目で座り込んで、地面に何か落書きを始めた宇良部さんの肩にお父様がポンと手をおいて、頷き合う。


 この二人……親子くらい年の差あるんだけど、すっかり仲良しになって、たまに家に来て、二人で野球中継ってのを見て、シマシマのハッピ着て、盛り上がってるんだよね……。


 私もお掃除を始める……大きな岩を持ちあげたりするような力仕事は、お父様達にお任せ。

 こう言うときは、やっぱり男の人って頼もしい……宇良部さんとか、私達の世界に来たらきっとモテモテだ。


 政岡さんが連れてきた覆面姿の人達が廃墟みたいになった社の寸法を測ったり、丁寧に残った板の状態を調べたりと言った作業を始める。

 

 なんでも、本格的に神社を再建して、参道も整備して人も置く話になってるらしい。


 本物の神使が住まう神社なんてのは、年々少なくなって来ていて、ものすごく貴重で再建する価値があるって話になってるんだって。


 そう言うのも、宇良部さん達のお仕事のひとつなんだとか。


 ……テトさん、良かったねっ!


 お掃除も一段落したので、朽木の山になってる社に向かって、教えてもらったこっちの世界のやり方で、祈りを捧げる。


 二礼二拍一礼。

 二回お辞儀をして、二回手を打って、最後にもう一回お辞儀。

 

 ……これでいいのかな?

 

 そんな風に思っていると、不意に頬に花びらが当たる。

 

「……おいおい、マジかよ。こんな真冬にサクラが咲くだと? しかも、これ、さっきまで枯れ木だったぞ!」


 宇良部さんに言われて、見上げるとさっきテトさんがいた木に、ピンクの花がいっぱいに咲いていた。

 一陣の風に吹かれて、一斉に花びらが舞い散って、とても幻想的な風景になる。


「凄い……綺麗です……」


「……こりゃ、凄げぇな……。真冬に桜吹雪とは、まさに奇跡ってヤツじゃねぇか。その神様のお礼ってところじゃな……。こいつは、まさに正真正銘、本物の神様の所業って奴か……恐れ入ったぜ!」


「そうだな……しかし、譲。お前は先に戻ってろと言っただろ。お前が居るから、向こうも出るに出れないから、こう言う方法で存在を示しているんじゃないのか? 神の御手を煩わすとは何事だ?」


「なんだよっ! 清四郎っ! 俺が悪いのかよっ!」


「まぁまぁ……話を聞く限り、恥ずかしがり屋の神様らしいからな。これが精一杯の感謝の気持ちってとこなんだろうさ。これはこれで、粋な計らいってやつだな。とりあえず、今日のところは出直すってことで、皆、一旦引き上げよう。今回は志織のお礼参りってとこだからな……それでいいだろ?」


 お父様がそう言うと、他の人達も納得したらしく、いそいそと帰り支度を始める。

 

 それから、お父様達と一緒に赤い門……鳥居をくぐって、ふと視線を感じて振り返ると、鳥居の上に座り込んで手を振るテトさんの姿が見えた。

 

 私が小さく手を振り返すと、向こうもニッコリと笑顔を返してくれた。


 ささやかな、冬の小さな奇跡。

 

 これはそんなお話。

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