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エピローグ「とある冬の朝」②

「祥子お母様……おはようございます! 寒いですね!」


「いやぁ……自分で言っといてなんだけど、この年でお母様って呼ばれると、なんとも言えないわー。他の皆は?」


「お父様たちはまだ一緒に寝てます……。私は、見張りで廊下で寝てたんで、一足先に起きて、朝ごはんの支度をしてました……祥子お母様は?」


「実はさぁ……アタシもせっかくだから、ちょっと凝った朝ごはん作ろうかなって思ってたんだけど、先越されちゃったわ……」


 祥子お母様に苦笑されてしまう……良く見たら、その手には買い物袋があって、色々な食材が入っている……。


 そういや、いつもは祥子お母様が作ってくれてたんだっけ。

 うーん、悪いことしちゃったかも……。


「ごめんなさい、祥子お母様……私ったら、気が利かなくて……」


「いやぁ……気にしなくていいよ。食材はお昼にでも回せば済む話だし。……って言うか、別に猛部さんと一緒に寝てたって良かったんじゃないの? 一人だけ寒い廊下で見張りって……志織ちゃんも、何やってんだか……女の子なんだから、普通にお布団で寝なさいっての……」


 こっちの世界は平和なんだって、解ってるし、魔王の子供達とも休戦中。

 そのあたりはタナカさんが俺氏の名誉にかけて……とか言ってたし、アサツキも今後は手出ししないと約束してくれた。

 

 タナカさんはともかく、アサツキは名誉と信義を重んじる男だから、信用に足る。


 だから、今のところ、脅威はないと言えるのだけど。


 万が一、油断しているところを夜襲とかされたら、反撃もままならないまま、全滅ってこともあり得る。

 寝てる時ってのが、一番無防備なのだから、警戒するに越したことは無いと思う。


 私が見張りに立っていれば、最悪時間稼ぎくらいは出来る。


 本音を言うと……私ももっとお父様に甘えたいなって思ってるんだけどね……。

 面と向かって、ベタベタ甘えるのは……なんか違うって思っちゃうし、なんか恥ずかしい。

 その辺、自重せずベタベタなリネリアが羨ましくも思う。


 でも、お父様も私のことはちゃんと解っていて、昨日だってココアって甘ーい飲み物と暖かい毛布を持って来てくれて、ずいぶん長いこと隣に居てくれた。


 特に何も話さずに、二人、寄り添うように窓越しに星空を見てただけだったけど……。

 

 アルマリア達には内緒。

 あれは、二人だけの秘密の時間。

 

「私、長女ですから……皆を守るのが私の役目なんです!」


「真面目な子だよね……志織ちゃんは……でも、そこが良いんだけどね! とりあえず、総社会の方で結界作ったり、警備員代わりに宇良部さん達を派遣してくれるらしいから、もうちょっと気楽にしてていいと思うよ」


「やっと、お父様の重要性をこっちの世界の人達も解ってきたんですね……。と言うか、今まで市井の民に混ざって、あんな粗末な所に住ませて、普通に労働させてたって……勇者をなんだと思ってるんですか! あのまま私達の国にいたら、英雄どころか王様になっていたような方なんですよ!」


「まぁまぁ……猛部さんもこっちじゃ、普通のおじさんだからね……。そうなると、本当なら、志織ちゃん達って……お姫様になってたかもって感じだった訳?」


「そうですね……そうなっていたかもしれません。私達三人、一応もう一人留守番で残ったのがいるから、四人ですけどね。私達はお父様のあとを継ぐものとして、王国四勇者と呼ばれてました。公式には従騎士……騎士のお供ってとこでしたけど、15歳で成人して騎士叙勲を受けたら、それぞれ一軍を率いる立場となる……そう約束されていました」


「な、なんか、すっごいのね……志織ちゃん達って!」


「いえ、祥子お母様も、お父様のこっちの世界での奥方と言うことなら、立場的にはお母様達と同列となりますので、無条件で王国近衛騎士の称号を与えられる事になります。実際は、向こうに行くのも命懸けになりますから、仮定のお話ですけどね」


「それ……マジのマジ? あ、あのさ……別にアタシ、入籍したりとかしてる訳じゃないからっ!」


「入籍ってなんです?」


「……うーん、公式に奥様として認めてもらうこと……かな? ごめん、正直に言うけど……限りなく、奥様とか自称なんだけどっ!」


「私達の国では、言ったもの勝ちって感じなんですけどね。毎日一緒にいれば奥様扱いされるってのが一般的ですから、毎日のように通ってお世話してたんなら、奥様扱いになると思いますよ。人数だって、決まってませんからね。何か問題あるのでしょうか?」


「……アバウトなのね。なんとも……けど、猛部さんの奥さんって、そんな凄い扱いなの?」


「むしろ、当然です。勇者の妻と言うのはそれほどまでに、重く扱われます……。私達のお母様達は皆、国の重鎮扱いです。立場的には王族に準ずる……それが勇者の一族です」

 

「……そうなると異世界行ったら、私もVIP扱いって事なんだ……いいなぁ、それ! ねぇ、志織ちゃん……アタシ、異世界に行って大丈夫だったりしないかな? なんだっけ、アタシ……神様の加護ってのを受けてるんだよね?」


「……らしいですね。お父様も問題なかったって話なんで、もしかしたら大丈夫かもしれませんけど……大丈夫じゃないかも……。向こうと連絡を取って、問題あったらすぐにこっちに戻れるように準備した上でないと、あまりに危なすぎます」


「そっか、そうだよね……それに、真理ちゃんの話だと、すごく遅れてるんだよね……。それに熱帯地方みたいな環境なんだっけ? 虫とか暑いのは嫌だなぁ……」


「向こうは、魔術が発達してますからね……暑さ寒さを凌ぐ魔術だってありますから、私も使ってますよ。この服に刻んだ聖刻魔術……コレは衣服を暖かくする聖刻ですけど、他にもただの布切れを剣でも切れない丈夫なものに変えたり、身体に直接書き込めば、岩だって持ち上げたり、疲れ知らずで走り回ることだって出来るようになります。もちろん、虫よけの聖刻ってのもありますよ」


「へぇ……なんか、アタシにもできそうだし、すごく便利そうだね! それ……今度、教えてっ!」


「いいですよ! 祥子お母様なら、きっとすぐに覚えられますよ」


 そんな風に、祥子お母様と雑談をしていると、寝ぼけ眼でアルマリアがやってきた。

 

「……シャーロット、お腹減ったし、喉乾いた……何かない?」


 フォレストデビルを可愛くさせたようなデザインの上下一体化した服を着たアルマリア。

 ニャンコ着ぐるみパジャマって言ってたけど、お父様が選んでくれたらしい……いいなぁ。


 リネリアと一緒に寝るなら、裸の方が気持ちいいとか言ってたんだけど、お父様と一緒に寝るなら服は着ろと言って妥協させた。

 

 いくらお父様だからって、裸で一緒に寝るとか駄目、絶対っ!

 私がいる限り、そんな破廉恥なことは許さない。

 

 このニャンコ着ぐるみパジャマ……。

 アルマリアが着ないなら、私が着ると言って着たら、強引に脱がされたんだよね……。

 なんだかんだで、割と気に入ってるらしかった。


 ……私が着たら、腰回りとかあちこちキチキチで、前もちゃんと閉まらなかったんだけどね。

 ちょっとだけ着てみたかったんだけどなぁ……。


 でも、アルマリア……お父様の目の前で、無理やり脱がされた事は忘れないよ? アレ、とっても恥ずかしかったんだから。


 とりあえず、無言でオニギリの入ったお皿をだしてやって、お茶を淹れてやる。

 

 渋くて苦い日本茶……最初は、なんだこれって思ってたけど、慣れるとこれがまた、美味しいって事に気付いた。

 今では、すっかり暇さえれば、飲んでいる……お茶って木の葉っぱを乾燥させた物らしいんだけど、向こうでも作れたりしないかな?

 

 なお、アルマリアは、このお茶に砂糖を入れて飲むのがお気に入り。

 お父様の話だと、海の向こう側じゃそういう習慣があるらしいのだけど、お茶はやっぱり甘くないのが良いような気がする。


 祥子お母様の話だと、私……油断すると余計な所にお肉が付く体質っぽいので、甘いのとかは控えめにしないと。

 

 この世界のお菓子とか、すっごく美味しいし、食べ物も美味しいから、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね……。

 アルマリアとか、びっくりするほど食べるようになっていて、私も驚いたほど。

 

 けど、そう言う時にこそ、自制心って奴が試されるのだよっ!

 と言うか、こっちの世界……女子的には、誘惑が多すぎて、危険です。


 戻ったら絶対に、お母様達に太ったって言われそう……。

 

「アルマリア……いや、真理はよく眠れた?」


 お父様のつけてくれた名前はまだまだ慣れない。

 だから、つい呼ぶ時とか、ごちゃごちゃになっちゃうんだよね……。


「あ、シャーロットじゃなくて、志織って呼ぶんだっけ……うん、リネリア……璃乃もいたからぐっすり寝れた。ごめん……志織にだけ、見張り任せちゃって……今夜は私がやる。朝ごはんだって、言ってくれれば、私も手伝ったのに……」


 ……ここだけの話。

 アルマリアご飯は、大変危険ですっ!

 

 戦闘以外の生活全般について、真理……アルマリアは激しく不器用なのだ。

 

 掃除をすれば、家を壊しかけるし、服の破れなんかの縫い物やらせたら、むしろ、トドメを刺すようなもの。

 料理は……素材をそのまんま丸焼きするなら、出来ると思うよ?

 

 材料切ったり、煮たり、茹でたりとかは駄目、危険。

 

 まな板を両断したりは序の口で、なんで、お鍋が爆発物になるのか、私のほうが聞きたい。

 味付けとかも、エキセントリックな味付けをさせたら、天才的と言えた。

 

 同じようにテッサリアお母様から色々教わったはずなのに……。

 家庭的なことはまるで、駄目。

 

 アルマリアに料理やらせるくらいなら、リネリアの方がまだマシ。

 リネリアだって、お風呂掃除くらいは覚えてくれたし、ごった煮くらいなら作れる。


 ……それが料理とはとても呼べない代物だとしても、食べられるだけマシと言うもの。


「いいよ! いいよ! 私、好きでやってるんだから……今日は、祥子お母様も手伝ってくれたから、アルマリアは先に食べてていいよ」


「シャーロットは、やっぱりお姉ちゃん……なんですね。私もお姉ちゃんみたいになりたい……あの時だって、さっそうと現れて、お父様を助けてくれたし……私一人じゃ何も出来無かった」


 何言ってんだこいつとばかりに、頭を撫でてギュッと抱きしめてやる。

 一人でよく頑張ったよ……この娘は。


 でも、いい機会なんだから、戦い以外の事だって、教えてやらないとね!

 

「……おう、おはよう……なんだ、祥子も来てたのか……なんだこれ、お前が作ってくれたのか? 和食の朝飯なんて、珍しいな」


 そう言いながら、お父様が寝癖でボサボサになった頭を掻きながら、顔を見せる。

 

「あ、猛部さん……おはよっ! 今日もアタシが作るつもりだったんだけど、志織ちゃんに先越されちゃったよ! この娘、すごいねぇ……ちょっと一回教えただけで、和食もすっごい美味しそうなの作っちゃうし……家事も何でもこなせるし、良いお嫁さんになれる子だね!」


「そっか、志織が作ったのか……コイツは美味そうだな。……おーい! 璃乃……お前も早く来い! いや、待てっ! 服はちゃんと着てから来なさいっ! お父さんの言うことを聞きなさいっ!」


 ……リネリア、裸で来ようとしてたらしくお父様に怒られてるし……。


 実は、今回……純粋にこっちの流儀に合わせた朝ごはん作ってみたのだ。

 一回、祥子お母様のお手伝いをして、あとはこっちで買ったお料理の本を参考に。

 

 でも、褒められた……それだけでも、嬉しいんだけど。

 ちょっとしたご褒美くらい欲しいなぁ……。

 

「お父様ーっ!」

 

 そう言いながら、飛び上がって抱きついてみる。

 

「っと……なんだよ……志織、いきなり抱きつくとかお前らしくないなぁ……どうした?」


 どうしよう……何やってんだ、私!

 思わず、衝動に駆られて抱き付いたものの……そのまま、ひょいっと抱きかかえられる!


 すっごい……私の事、軽々と……それにすごく近いっ!

 あ、でも……近くてもいいのか。


 ……ここはもう、正直に思ってることを言っちゃえっ!


「えっと……その……もっと……褒めて……ください」


 私を片手で抱き抱えたまま、お父様はニッコリと笑って、頭を撫でてくれる。

 

 無言で、アルマリアがお父様に抱きつく。

 

「あーっ! 二人共ずるーいっ! リネリアも仲間入れてーっ!」


 リネリアがお父様の背後からタックルのような勢いで抱きついてくると、皆揃ってバタバタと倒れ込む。

 

 もうっ! なんてコトをしてくれてるんだ!

 でも……誰からともなく笑い出す。

 

 私達、三人皆……お父様の事……。

 大好きになっちゃったみたいです!



 ……親子で迎えることの出来た平和な朝の一時。


 世界の壁を超えて、私達はようやっとここに辿り着いた。


 願わくば、ずっとずっとこんな時間が続きますように……。

 私はささやかながら祈った。

 

 この願い……届きますように。



これにて、第一部完とします。

未回収の伏線とか色々ありますけど、第二部やるかどうかは、今のところ未定。


なんか綺麗にまとまっちゃったし、モチベ的にもちょっと辛くなってきたんで、

恐らく、このまま今のペースで続けてもエター化待ったなし。


なんでまぁ、当面一旦完結、休載と言うかたちを取らせていただきます。


しばらくは新作もおやすみして、

旧作の改稿とか、再開も考えてますんでそっちもよろしく。


もっとも、不意にアイデア湧いて、別作品とか書き出す事もあるし、

唐突に、大規模改稿とかやらかすかもしれません。


今後の動向は割烹でも読んでくだされば幸い。


でも、きまぐれで外伝とかは書くと思いますんで、完結にはしません。

基本、緩めの話し中心、解っとりますよ!(笑)


それでは……ご感想、第二部続行のご要望など、ございましたらお気軽にどうぞ。

お待ちしております。

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