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第十九話「とあるおっさん、最後の戦い」②

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「とある勇者だったおっさんの後日談」においては、

 部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

                  Copyright © 2018 MITT All Rights Reserved. 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「お父様、私は覚悟は出来てます……いつでも、お命じください。アルマリアは命を捨ててでも、お父様のために戦う所存です!」


 アルマリアが幾つもの術を発動させつつ俺とアサツキの間に割って入る。

 どうやら、祥子の反魔術結界はすでにその効力を失ったようだった。


「事情は良く解かんねぇけど……俺は、兄貴の助太刀させてもらうぜ。おい、アサツキとやら……ここは俺達のシマなんでな……勝手に仇討ちだの始められたら迷惑なんだよ……。それでもやろうってんなら、まずはこの俺が相手してやるよ!」


 宇良部がコートを脱ぎ捨てながら前に出る。

 その両腕は、やたらゴツゴツしていて明らかに異形のものだった。


 鬼の末裔……並外れた戦士だという事はひと目で分かる。


「……貴様、魔族か? いや、違うな……だが、そんな者もこの世界にいたのだな。この世界の伝承……鬼とか言う奴に似ているが……何者なのだ?」


「へへっ……おっしゃる通り、俺は鬼の末裔だって話だ……まぁ、先祖返りみたいなもんらしいがな! まぁ、ちょっと図体デカいせいで、電車に乗るのに苦労するとかそれくらいだな」


「なるほど……だが、俺には貴様と争う理由がない……。そもそも、貴様ごときが、この俺に敵うとでも思っているのか?」


「はっ! てめぇらみてぇのに、好き勝手させねぇ為に俺たちみてぇなのがいるんだ……だろ? 清四郎ッ! まさかテメェ、怖気づいたわけじゃねぇだろうな? さっきは、兄貴に良いとこ持ってかれちまったが、さすがにこれは見逃せねぇぜ」


「そうだな……我らは、この国を貴様らのような異界の者達より守る責務を代々担ってきた防人だ。当然ながら、この猛部殿を保護する義務がある! 猛部殿、先ほどは何の役にも立てず恥ずかしい限りだ。……よって、この場は我ら義によって助太刀させて頂く! 出でよっ! 四聖獣! 急々如律令ッ!」


 政岡も宇良部と並び立つと、札のようなものをばら撒く。

 

 それはたちまち、赤い火の鳥、青い龍、白い虎、緑の巨大な亀へと成り替わる。

 

「ほぅ……召喚術か? それにそっちの大男も大した闘気だ! ……この世界の者達、どいつもこいつも腑抜けた奴ばかりと思っていたが面白い……興が乗った! 良かろう……この俺も魔王12貴子の第三席を担う者、我が誇りと信念にかけて、我が父の仇討たせてもらう! 邪魔立てする者は全て……斬り伏せるッ!」

 

 ……争いは……避けられないのだろうか?

 ヨミコも苦悩に満ちた様子で、俺とアサツキを交互に見つめている。

 

「おおーっ、すっげぇですっ! こっちの世界の魔術師まで出張って来てるなんてっ! そいつら、超レア物じゃないっ! アーサツキ……何やってのよ! 獲物を前に舌なめずりとか……三流のやる事だっ! なんてねっ! ねぇ、ボルド兄貴もそう思うでしょ?」


 ズシンという大きな音と共に、3mはあるような巨人が姿を見せる。

 まるでロボットのようなのっぺりとした兜で顔を覆い、全身鎧のような装甲に覆われた異形の巨人。

 

 そして、その肩には、和服を着たおかっぱ頭の小さな女の子が乗っている。

 

「アルミナ……それにボルドゲルドか。貴様らも来たのか……」


「あんたにだけ、抜け駆けさせる訳無いじゃない……ああ、良かった。タケルベちゃん、まだ死んでなくて! お初ーっ! 私、アルミナ……魔王12貴子の第九席、こっちは第八席のボルドゲルドの兄貴! ちょっとシャイだから挨拶は控えるってさ!」


 ずいぶん軽い様子だったが……コイツの魔力も尋常じゃない。

 ……明らかにヨミコより、格上。

 

 大男の方も……恐らく鉄巨人族……。

 

 巨大な体躯と鋼の装甲殻による鉄壁の防御。

 圧倒的なパワーを誇り、素手で竜族とすら戦えるとか言われてるような連中だ。


「ふむ……全て終わったと思っていたが、これは重畳。久しいなアサツキ、それにヨミコ。アルミナとボルド、双竜姫……我ら12貴子がここまでひとつところに集まるとは……目的は皆、同じ……か?」


 更にもう一人、大剣を担いだ若者が姿を見せる。

 こちらは、ミイラ男のように顔を包帯でぐるぐる巻きにして、コートを羽織っている。


「何? スレイヤ……アンタまで来たの? オーギュストの兄貴は一緒じゃないの?」


「かのような臆病者の事など知らぬわ……余程切り捨てようと思ったが、思いとどまった。貴様が魔王を討ち取った勇者タケルベか? 我は魔王12貴子、第七席……白刃のスレイヤ! 短い付き合いだろうが、お見知りおき願おうか!」


 おいおいおい……アサツキだけじゃなく、他に三人も……。

 

 ヨミコやタマ子達を入れると、全部で7人!

 

 魔王12貴子の半数がこの場に集まってきた……そういう事だった。

 タマ子達が戦線離脱してるとは言え、アサツキを入れると敵は4人。

 

 こちらの戦力は……アルマリアと俺。

 宇良部と政岡が助太刀してくれるから、人数は互角だが……。


 祥子の反魔術結界が消失した以上、もはや俺の気功術なんぞ通用しないだろう。

 タマ子を倒せたのだって、言ってみれば相性の問題だ。

 

 明らかに戦う意志がなさそうなヨミコと、意識が半分飛んでる祥子は戦力外……。

 やるしか……無いのか?

 

「ふん……殲滅魔人の異名を取る勇者の一人アルマリアか! 貴様は骨共の相手でもしておれ……いでよ! 不死骨兵スケルトンソルジャー!」

 

 スレイヤと呼ばれた奴が、軽く腕を振るうと辺りの地面から骸骨兵がぞろぞろと湧き出してくる。

 こいつ……死人使いか? だとすれば、黄泉の使徒(ネクロマンサー)か!

 

「はっ! そこのデケェの! テメェは、この俺が相手してやるぜっ!」

 

 ボルドゲルドと呼ばれた巨人が前に出るなり宇良部も駆け出し、お互い両手を組んだ力比べの体勢になる。

 宇良部も2m近い図体なのだが……3m級の巨人と比べたら大人と子供……のようなのだが、互角に張り合っている!


 政岡の四聖獣が援護に向かおうとするのだけど、アルミナと言う少女が光条や風の刃と言った攻撃魔法を放ち、その動きを牽制する。

 

 すでに4人は戦闘に入っていた……あっちは、もう宇良部たちに任せるしか無い。

 

 続いて、アルマリアが例の聖櫃を召喚し、群がる骸骨兵を一瞬でチリに変えながら、スレイヤと切り結び始める。

 

「どこを見ているタケルベ! 貴様の相手はこの俺だッ!」


 アサツキが手にした剣で、斬りかかってくるのを紙一重で避ける!

 

「くっ……お前達は、なぜ……戦おうとする!」


 きわどい所で避けたのだが、正確な突きで首筋の頸動脈を狙ってきた……首元にチクリとした痛み。

 薄皮一枚切られた程度ながら、やはり良い腕をしている……。

 獲物は日本刀……? 結構な業物なんじゃないか……これ。


「黙れ! もはや問答など無用ッ! 戦う意志がないのならば、潔く死ねッ! 決して相容れることはない! それが我らの関係というもの!」

 

 恐ろしく、正確な嵐のような剣戟!

 ……だが、俺も素手で払い、避け、その白刃を真剣白刃取りで受け止める!

 

「へへっ……さすが、第三席だけに、いい腕をしてるな……なぜ、お前は魔術を使おうとしない?」


「武器も持たぬような相手に、魔術など使うまでもなかろう。……貴様こそ、なぜ素手で戦う? 本気を出せ! 剣や魔術も総動員して、全力であがらう……それでこそ、勇者のはずであろう!」


「ワリィな! 俺はもう勇者でもなんでもねぇんだ……こっちの世界じゃ魔術も使えない。他人を傷つけたり、ましてや、殺しちまったらただの犯罪者だ……俺が住んでいるのはそう言う世界だからな!」


「……フザケたことを! 俺には、貴様を討つ理由がある! 大義であるっ!貴様と戦い……打ち勝つ! その上でなければ、俺は魔族の王……魔王を名乗のる資格がないのだっ!」


「確かに俺は、お前らの親父……魔王を討った張本人だ! だが、仇討ちなぞ魔王のやつが望んでいるとでも思っているのか? 奴は……死の間際に、止めてくれてありがとう……そう言って死んでいったんだ! あの戦いの結末は……俺にとっちゃ譲られたようなもんなんだ。……奴のしようとしていた事! 奴が目指していたのはどんな世界だった! 貴様が知らぬとは言わせんぞ!」


 そう……魔王のヤツ、あの最後の戦いの瞬間。

 胸に大穴を開けられて、瀕死の俺の放った苦し紛れの一撃を避けようと思えば、避けれたのに、避けなかったのだ。

 

 その時、俺は奴の口元が「ありがとう……」そう呟くのを見てしまった。

 俺は悟っていたのだ……あの勝利は、譲られたものなのだと。


「馬鹿な! 父上がそのような事を言うはずがないっ! 魔王様は……父上は人族の殲滅と、虐げられた魔族の復権を……その為に……! 父上は……世界をあるべき姿に戻すと言っていたのだ! その暁には……魔族も人族も全て平等な新たなる世界が……」


「そうだっ! 奴が目指していたのは、それだ! だが奴はやり方を間違えたんだ……そして、俺もまた同じ過ちをしていた! 貴様も……魔王の後継者ならば、何故その思いに気付かないっ! 奴が間違えた道をそのまま、進もうとするなっ! 少しは立ち止まって、考えろっ! この若造がッ!」


 俺の言葉に動揺したのか……アサツキの剣から一瞬力が抜ける。

 その隙を逃さず、こちらは一瞬脱力し、アサツキが前のめりになったところへ、膝蹴りを鳩尾にくれてやる!

 

 だが……肘を使って、その一撃を受け止めるアサツキ!

 

 けれど、それはこちらの思うツボ! そのまま、後ろへ倒れ込みながら、巴投げを決める!

 さすがに、背中から無様に叩きつけられることも無く綺麗に受け身を取って、起き上がるアサツキ。


 だが、これで間合いは取れた。

 つま先立ちになって、身構える……この間合なら、さっきまでと違って俺の間合いだ!

 

「くっ……貴様は、魔王様が間違っていたと……そう言いたいのか? 魔王様を侮辱するなっ!」


「ちげーよ……俺もまた間違っていたんだ。お互い理解しようとせず……ただ敵を滅ぼせば、全て解決する! ……そう思い込んでいた……それがそもそも間違いだった! 俺と奴はあの時、殺し合うのではなく、話し合うべきだったんだ……」


 魔王が俺を殺したと思いこんだ時のその絶望感に満ちた表情と、俺が最後の一撃を放った時の表情。

 あれが……全てを物語っていた。

 

 奴は……俺に、勝利を譲ることで、あの世界の未来を託したのだ。

 けれど、俺はそのバトンを取りこぼしてしまった……。

 

 俺がその事に気付いたのは、こちらの世界に戻ってからずいぶん経ってからだった。


 その時から、俺は……あの世界へ戻りたい……そんな思いを抱くようになった。

 であればこそ……。


 奴の遺子達が道を誤りつつあるのであれば、俺はそれを正す責務がある!


 その道に立ちふさがる壁に……俺はなって見せねばならぬのだっ!

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