表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/105

第十八話「とあるおっさんのドラゴンバスター!」②

「……いっそ、タマ子でいいんじゃないのか? 可愛らしくて……実際、そんな名前の女の子だっているぞ?」


 とりあえず、こっちに振られてしまったので、一応真面目に応える。

 球磨子とか、ギャルゲーかなんかのヒロインでそんなの居たような気がする……一応、ありだろう。


「そ、そうか……? うん、いいかもしれないな! アルバトロス・タマコ! どうだっ!」

 

 本人も気に入ったらしく、ドヤ顔を決める。


 ……なんかもう、すっかり空気が弛緩してしまったのだけど、突然何か思いついたように、タマ子もキッと俺を睨みつける。


「……じゃないだろっ! お前がタケルベだとッ! あの勇者タケルベなのかッ! 貴様がッ!」


 ……正気に返ったらしい。

 残念だ……せっかく、和んできたところだったのに……。


 タマコも、シリアスな空気を取り戻し、両手を構えると、その手の間に強力な魔力の塊を形成する。


 真っ黒で雷光のようなものに覆われたそれは、見るからに強力そうな代物だった。

 

「おいおい……物騒だな……それ? 重力弾か?」


「そうだ……我らが地竜族固有の重力魔法の中でも最強の威力を誇る……重力爆雷グラビディーボマー……如何に貴様でも、コレを食らえばひとたまりもあるまい!」


 その大きさが見る間にサッカーボールほどの大きさになると、周囲の景色までも歪み始める……ちょっと待て、こんなデカい代物……あっちでも見たこともないぞ?

 

 これ……確かピンポン玉大で城壁を消し飛ばすとか、そんな代物だったような……?


「おい、コラァッ! タマ子ッ! なぁに頭に血ぃ上らせとんのやっ! そんな物騒な技……こっちで使ったらいかんやろ……。祥子はん、あれ……なんとかしたってや。あれ一発で、そこの山一個くらい軽く無くなるようなシロモンやで……さすがに、あんなモン撃たせたら、アカンやろ……」


 ヨミコも普通にタマ子と呼んでるし……なんかすっかり、定着したらしい。

 

「え? あ、あたし? ど、どうすれば……」


 突然、指名されて困惑した様子の祥子。

 確かに、本人も良く解っていない能力に頼られてもなぁ……そりゃ、困るだろ。


「んなもん、適当に指差して、消えろーっとでも念じればええんやないの? 少なくともうちの防壁消すくらいなんやから、それくらいできそうなもんやで?」


「あら、誰かと思えば……末席ドベのヨミコちゃんじゃないの……お久しぶりね。なぁに? あんた、継承権争いは諦めて、勇者タケルベに降ったの?」


「ふふん、うちは長いものには全力で巻かれる主義なんや……降ったとか言うな。うちはタケルベはんの酒池肉林ハーレムの一員になるんやっ!」


 ……そんなものこっちで、作った覚えありませんから。

 すごく……人聞き悪いです。


 なんかもう、俺……帰って良いんじゃないかな……。

 むしろ、そんな気がしてきた今日このごろです。


「ちょっと、ヨミコちゃん! いきなり、アタシにあれをどうにかしろって言われたって、どうしょうもないってっ!」


 祥子も自分の力を使いこなす以前の問題なんだから、いきなり何とかしろと言っても、そりゃ無理だろう。

 ヨミコも無茶ぶり大概である。

 

「ああ、そうだっ! ヨミコ! アンタ、あのアークボルトの馬鹿が居なくなったのって知ってる?」


 サッカーボール大の重力弾を掌の上で弄びながら、今日の天気でも語るようにタマ子がそんな事を言い出した。

 何の話だ? アークボルト……アルマリアから、そんな名前を聞いたようなきがする。


「……マジかいな……それ? あのアークボルトが?」


「そそっ! あのバカ……こっちに来るために、勇者の血族の長を利用しようとして、諸共に行方不明になったらしいわっ! あの程度の雑魚の道連れにされるとか……脳筋な戦馬鹿にはふさわしい最期ってとこね! アハハハハッ! 馬鹿が策を弄した結果、自滅とかっ! 笑える話よね! ホント、おかしいったらありゃしないっ!」


 心底、面白おかしそうに語るタマ子の様子に、アルマリアの顔が見る間に険しくなる。

 勇者の血族の長……テッサリアの事か? アークボルト……そうだ……テッサリアがアルマリアを逃がす時間稼ぎとして、戦いを挑んだと言うヤツの事だ!


 けれど、それを笑い者にするなんて……俺とて、心中穏やかじゃいられない……。

 笑い事じゃねぇよ……そんな軽く済まされて、いいはずがねぇよっ! この野郎っ!


「そ、そうなると、うちら魔族同士のパワーバランスも一挙に変わるやんけ……そう言う事なら、こんな事しとる場合じゃないと思うんやけど……?」


 察したらしいヨミコが、こっちに目配せをしながら、前に出る。

 ……ここは抑えてくれと言いたいらしい。

 俺もついカッとなりそうになったが、確かに今はかろうじて、交渉の余地が出来ている状況。

 

 出来れば、こんな所でこんな奴と戦うなんてのは避けたい……日本と言う国は、戦場にするにはあまりに国土が狭すぎるし、人が多すぎるんだ。


 こんな地方のド田舎だって、山の中にはそれなりの規模の集落があるし、高速道路だって、目と鼻の先にある。


 ヨミコもそれは解っているらしく、中立的な立場を利用して、その事態を何とか避けようとしているようだった。


 こんな重力魔法の使い手に、全力で暴れられたら、周囲への被害だって洒落にならない……。


 アルマリアとヨミコの戦いですら、鏡面空間の町並みが更地になったくらいなのだ……下手すりゃ地図の書き換えが必要になるとか、そんな有様になる!


 タマ子達との戦いを避けるのは、難しいかもしれないが……今は、出来る限り時間を稼ぐべきだった。


 隣のアルマリアの肩に手を置いて、ポンポンと叩いて片目をつぶる。

 今にもボウガンの引き金を引きそうな様子だったのだけど、抑えてくれたようで、すっと力を抜いてくれる……うん、偉い、偉いっ!


「あら、それはどうかしら? そうなるとあんたとアサツキが居なくなれば、もうほとんどアタシらの天下って訳よねっ! 筆頭のパルルマーシュは臆病者の日和見主義者だし、ここでタケルベも殺れるなら、これもう最高の展開って奴よねっ! クレナイ……やるよっ! まずは、この重力爆雷……さっきのお礼よっ! 手抜きしちゃ悪いから最大レベルのをお返しするわ!」


「はいはーいっ! 車のローンだってまだ残ってたのにさ……アルマリア! あんたはアタイの爺さんの仇だからね! ぜってーぶっころーす! けてーいっ!」


 そんなバカっぽい台詞とともに、上空のドラゴンの周囲にも巨大な火の玉がいくつも灯る。

 俺達の思いと裏腹に、奴らはこの場で決着を付けるつもりのようだった……。


 それにしても、さすがドラゴン……魔術の規模も半端ない。

 ……アレ一個で軽くクレーターが出来るぞ?


 龍族ってやる事なす事、いちいち大雑把で無茶苦茶なんだが、こっちに来ても一緒なのか……少しくらい自重しやがれっての!

 

 それに、タマ子の重力爆雷も……更に巨大化してるしっ! それは、もはや1mくらいの巨大な代物になっていた。

 

 本人の名前は気が抜けそうになるんだけど、あれ……威力、絶対ヤバイ……。

 周囲の空間の歪みは、目に見えるようになっており、地面にビキビキと地割れが発生していた。

 

 ……さすがにこれは……ッ!

 

「へへっ……なんだそりゃ、冗談だろ……? なんつー魔力だ……おい、ありゃなんだ! 相当やべぇ術式だってのは、俺にだって解るぜ!」


「……ば、馬鹿な……あの空間の歪み、あれはまさか……局地的超重力場……マイクロブラックホールを召喚したのか? ……信じられん真似をする……」

 

 もはや、宇良部と政岡の二人も、この人知を超えた桁違いの魔術の前に為す術が無いようだった。


 さらに、上空のクレナイの咆哮があたりに響き渡る……それは音というものではなくもはや、空気の壁が叩きつけられるようなもの!

 

 聞く者の精神を容易くへし折る……竜の咆哮(ドラゴンズハウル)

 

 祥子も……その目の前で展開されつつある圧倒的な破壊の力と、ドラゴンの咆哮に腰を抜かしたのか、力なくへたり込む。

 

 そりゃそうだ……ドラゴンに睨まれたら、普通はそれだけで恐慌を起こす……。

 祥子の反応はむしろ普通の反応だ。

 

 アルマリアも地上と空、同時に対応することは難しいらしく、一瞬の逡巡のあと空へと飛び立つ。

 そもそも……アルマリア、機動力で戦うタイプのような気がするから、多分それで正解。

 

「アルマリア……上は頼む」


 一言そう告げる……アルマリアも頷くと、自分より何倍も大きな炎龍へと向き合っていく。

 

 けど……問題はこっちだ。


 ……タマ子が放とうとしている重力爆雷。


 重力系の攻撃魔術の威力は、俺の知りうる限り最強レベルだ。

 

 解き放たれたら最後、辺りのものを吸い寄せながら、ありとあらゆる物を消滅させる。

 速度自体は目を瞑ってても回避余裕な程度にはトロ臭いのだけど、万が一直撃したら、最後。


 避けたとして、自然崩壊するまで、重力場に吸い込まれないように踏ん張って、ひたすら耐えしのぐか……可能な限り遠くへ逃げるしか無い。

 

 この規模だと、どれほどの重力場がどの程度の時間発生するかも読めない……恐らく防御は不可能。

 そう思って差し支えないだろう。

 

 さすがに、俺も動けないでいると……ヨミコが俺に向かってチョイチョイと手招きをする。

 

「こりゃ参ったなぁ……なんや、祥子はん……ヘタレっとるみたいやな。祥子はんが本気出せば、たぶん一発で解決するんやけど……。なぁ、こう言うときは、なんかショックでも与えたればええと思わへん? ここはひとつ、タケルベはんが…………ってやったりな!」


「な、なんだそれ……」


「前に漫画で見たヤツやで! 祥子はん、意外とウブっぽいから、きっと効くでー! あとでうちも一緒に謝ったるから、思い切ってやってみ!」


 ヨミコから提示された策。

 それは……何とも斜め上の策だった。

 

 たしかに、祥子も……怯えきっていて、こんな状態では、たとえ神の加護持ちであってもどうにもならないだろう。

 魔術というのは、極端に言ってしまえば、思い込みと気合で物理法則……世界を書き換えると言う代物なのだ。

 

 出来る訳がない……そう思っている限り、永遠にままならないのだけど。

 やれば出来る……そう強く思い込むことで、不可能が可能になる……そういうものなのだ。

 

 とっさの感情の爆発、激情……それも魔術を扱う際には必要とされるのだ。

 確かにあの時の祥子は、まさに激情にかられていた……ヨミコの防壁を否定し、無かった事にする……その程度には。


 であれば、祥子の感情を暴発させる……それも悪くない手だった。

 

「……しゃあねぇか。祥子……すまん……っ!」


 そう言って、俺は祥子の背後に回り込むと、そのでっかい胸をガッと両手で鷲掴みにする。

 

「えっ! えっ! ……っきゃああああああっ!」


 真っ赤になって、絶叫する祥子。

 その時、空気が……揺らめいたような気がした。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ