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第十八話「とあるおっさんのドラゴンバスター!」①

 翼をはためかせ、空に浮かぶ巨体。

 赤い鱗に赤い目……口元からチョロチョロと炎が漏れている。

 

 コイツは、灼熱の炎と強大な攻撃魔法を自在に操る炎龍種……それもかなりの大物だ。

 

 パンパンと言う間の抜けた音が響く。

 見ると、引きつった顔で二人組の警官たちが拳銃を構えて、発砲していた。

 

「よせっ! そんなものが効くような相手じゃないっ!」

 

 煩わしそうにドラゴンが警官たちの方へ首をもたげると、息を大きく吸い込む……。

 あれは……炎の息(ドラゴンブレス)の前兆ッ……これは、不味いッ!

 

「そこの警官ッ! どこでもいいっ! 早く物陰に……いいから、今すぐ逃げろっ! お前ら死ぬぞっ!」


 俺の声が聞こえたのか、警官達も慌てて辺りを見渡すのだけど……そんな都合よく物陰などある訳がない……くそっ! 間に合わないッ!

 

「ここは、僕に任せろっ! 急々如律令ッ! 玄武よッ! 彼の者達を守護せよッ!」


 隣りにいた政岡の声とともに、一枚の呪符が飛んで行くと巨大な緑色の亀のようなものに成り替わり、警官たちの頭上に留まる。

 

 その一瞬あとに、真っ赤な炎が警官達のいた辺りを焼き払うっ!

 

 炎龍の吐く超高温の炎は、鉄をも溶かし、人間程度なら一瞬で消し炭にする……。

 けれど、頭上の亀が防御結界を張っていたようで、警官たちは無傷のようだった。

 

 流石に腰を抜かしたようで、二人共綺麗に円周状に焼け残った枯れ草の上で座り込んでいる……。

 その外側は一瞬で炭化して、地面までも焦げている有様……。


 ……それにしても、この炎龍……一切、躊躇わなかったな。

 怒りのあまり、完全に理性を失っているのかもしれないが……元々ドラゴン族は、人間などゴミのように思っている種族……。


 魔王の眷属、魔王12貴子と言えど、その辺りは同じなのもしれない……。

 しかし、ドラゴンのブレスを止めるとは、政岡の魔術も大したもんだった。

 

「今のは……召喚術の類……もしかして、式神って奴か?」


「ああ、僕は四聖獣と呼ばれる聖獣のレプリカを式神として使う……式神使いだ。健部氏の声が無かったら、呆けて見ているだけだったかもしれない……礼を言わせてもらう」

 

 なるほど、四聖獣……確か、白虎、青龍、朱雀、今のは玄武って奴か。

 

 ドラゴンのブレスをも止めるとなると、相当な防御力だ……。

 このレベルなら、向こうの世界の魔術師相手でも十分に渡り合えるだろう。

 ……こいつらの実力、やはり侮れないな。

 

「おい、お前らっ! さっさとこの場から離れろ! 死にたくなけりゃ、さっさと逃げるんじゃっ! 応援なんぞ、呼ばんでいい! そんな事より、この付近の一般人を大至急、避難させるんじゃ! 急げっ!」


 宇良部の呼びかけに、警官たちも這うように逃げ出していく。

 

 ……そりゃそうだ。

 こんなもんが出てきてしまったら、もう警察の手になんて負えない……もはや、軍隊の出番だ。

 戦車か対戦車ヘリあたりでも持ってこないと、こんなの歯が立たないだろう。

 

「おいおい……コイツはさすがに洒落にならねぇぜ……」


「ああ、僕の式神で最大の防御力を誇る玄武ですらギリギリだった……譲、これは今まで出くわした中でも最強レベルの大妖魔だ……やれるか?」


「なかなか厳しそうだが……やるしかねぇだろ……おい、増援の手配はどうなってる?」


「すでに本社ほんやしろにも緊急非常事態コード・レッドの発生を連絡済みだ。……脅威度判定はS級と判定、本社のS級討魔師達が出て来るだろうし、自衛隊への協力要請もすでに出ている……。当面、僕らは民間人を保護しつつ、可能な限り時間を稼ぐ! 奴を市街地に近づかせるのだけは、阻止せねばならないっ! 譲……我が名……政岡清四郎の名に於いて、お前に科せられた全ての制限を解除する……出し惜しみ無しで本気で行けっ! くれぐれも鬼の力に飲まれるなよっ!」


「うへ……初っ端から、限定解除のお許しを頂けるとはな……。だが、それが正解だろうな……いくぜ! 相棒! ビビってんじゃねぇぞっ!」


 ……それでも、宇良部達は冷静な様子だった。

 どうも宇良部は、何らかの封印術式でその能力を制限されているようなのだが……その制限を取り払っているようだ。


 俺にも解るくらいの勢いで、段階的にその魔力とプレッシャーが増大していくのと共に、身体もデカくなっていき、角やら棘やらが生えてきて、明らかな異形へと変貌を遂げていく。


 普通は一目散に逃げ出しても、誰も責められないところなんだが、その素振りも見せず……それどころか戦うつもりのようだった。

 

「宇良部、それに政岡君……こいつは、ドラゴン……竜族とも言う。向こうの世界でも最強クラスの魔獣だ。向こうでも出食わしたら、最後……生き延びるために全力での逃亡を選ぶべき……そんな風に言われてるような相手だ。……君達でも勝つのは、恐らく難しい……可能なら、この場から逃げることをお勧めする」


 俺としては、最大限の警告。

 この二人の実力の程は知れないが……正直、相手が悪い……そう言わざるを得なかった。


「へへっ……ドラゴンね。どこのRPGだそりゃ……まったく、今まで色々と魑魅魍魎の類を相手にしてきたが、さすがにこりゃ冗談キツいわ……けど、そのお勧めには従えねぇな。俺達は、ああ言うのとやりあう為に連綿と技を磨き続けてきたんだ。ここは、ご奉公の時が来たって言うべきところだな」


「猛部殿、譲の言うとおりです。我々は貴方のような方々を守るために存在を許された、この国の防人さきもりです。我らの後ろには戦うすべを持たぬ銃後の民がいるのみ……故に、いついかなる時も不退転と心得ております。……何をしているのです? 早く娘さんと祥子を連れて、この場から逃げてください! 我々が時を稼ぎます」


 覚悟を決めた様子の正岡君に、親指を立てて不敵に笑う宇良部。


 ……正直、若造だと侮っていたかもしれない……彼らは紛うかたなき戦士だった。

 誇りある戦士に向かって逃げろなどと……全くもって、無礼極まりない話だった。


「すまなかった……。けど、俺も逃げるのは性に合わねぇ……だから、不退転ってのはお互い様だぜ」


「……さすが、お父様です。私も……お父様の剣として、存分に戦うまで……共に参りましょう!」


 アルマリアも俺の隣に並び立つと、ボウガンを構える。


「上出来だぜ……アルマリアちゃん、それに猛部の兄貴もな! けど、なんであれの正体が解ったんだ? 俺には、ただの派手なねーちゃんにしか見えなかったぜ」


「何度か……向こうでやりあってますから。地龍姫タマリンと炎龍姫クレナイ……だったと思います。いくら人のふりをしても、私の目は欺けません……」


 ……大真面目な場面だったのだけど、思わず吹いた。


「……お父様、どうかされましたか?」


 アルマリアも眉間に皺を寄せて、怪訝そうに聞かれるのだけど……うーん、なんと言うか。


 たぶん、魔王のネーミングだと思うんだけど……キラキラネームを付けられた子供の名前を見た時の気分だ。

 クレナイも普通に厨二だけど、タマリンは酷い……。


 政岡君と宇良部も、その名はしっかり聞いていたらしく、何とも複雑な顔をしている。

 

「せやな……うちら魔王12貴子の四席と六席……魔王軍の重鎮竜族の姫君達や。いくらアルマリアでも、あの二人をいっぺんに相手するとなると、ちぃと相手が悪いかもしれんで? ……それにしても、挨拶もせんで問答無用で対竜用の魔術ブチかますとか……なんぼなんでも、あんまりやで……そりゃ」


 ヨミコが呆れたように、そう言って一歩下がる。 

 ……うん、俺もそう思う……むこう、普通にブチ切れて、あったりまえです。


「竜族の攻略法として、先手を取って防御態勢を取られる前に仕留めるのは基本です。……奴ら相手に話し合いなんて通じた試しがありませんし、私はすでに何匹も龍を落としてます……竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号は伊達じゃありません! この場は私にお任せを!」


 全く悪びれる様子もなく、どうやらやる気満々と言った様子。


 ……見敵てきをみたら必殺かならずころせ


 何という、ウォーモンガー!

 なんでこうも好戦的なのかねぇ……うちの娘は……他の二人も似たようなもんなのかねぇ。

 だとしたら、嫌過ぎる……要教育的指導……だな。


 ただ、問答無用で先制攻撃っても、相手割りと元気そうだし……。

 せめて一言、声かけるとか、少しは話し合う余地くらいあったんじゃないかな……もう、どうしょうもないと思うけど。

 

「いきなり、やってくれんじゃん……アルマリア! あんたがこっちに来てるって話は聞いてたけど、いきなりブチかますとか、ご挨拶にも程があると思わない? けど、ここで会ったが百年目……大炎龍バルムングの爺様の仇……取らせてもらってもいいかしら?」


 そう言いながら、上空のドラゴンの背から、スーツにタイトスカートのOLみたいなのが降りてくる。

 

 肩の辺りで切り揃えたウェーブかかった紫がかった髪のワンレングス。

 髪の毛で右目を隠してる辺り、80年代のイケイケOLを彷彿させる。

 ……でも、ところどころ……髪の毛がチリチリになってて……。

 

 一見、無傷のようだけど、無傷な訳がない……当然ながら、相当頭に血が上っている様子。

 

 そりゃ怒るだろう……普通なら、今の一撃……軽く昇天モノ。


 にも関わらず、話をするために、地上に降りてくるくらいの余裕はあるらしい。

 アルマリア……少しは見習って……。

 

「おい……ちょっとまってくれ! アルマリアも! その……いきなりぶっ放したのは悪かった……。ひとまず、そっちも無傷だったみたいだし、少しは話合い位できないものか? えっと、上のがクレナイって奴だとして、そっちはタマ子ちゃんでいいかな?」


「タ、タマ子ちゃん?! それ、アタシのことか! って言うか、おっさん……誰っ!?」


「俺か? 俺は勇者タケルベっていやお前も解るだろ! だいたい、タマリンなんて、おもしろネーム真顔で言える訳ねーだろ! 普通に吹くぞ! 出落ちかっ! 出落ち担当なのかっ!」


「んなっ! で、出落ちって……た、確かにこっちの世界で、この名を名乗って何度も笑われたんだけど……そんなに、おもしろおかしいのかっ!」


「まぁ、そのナリで、我が名はタマリン……なんて、名乗られたら……さすがに……な?」


 ビジネスシーンで取引相手の名刺にそんな名前が書いてあったら、さぁっ! 拷問タイムが始まるよーっ! って感じだよなぁ……。


「そ、そうか……そう言う事なら、納得がいったわ……魔王様に頂いたと言う誇りある名だったが、こちらで名乗る場合は、別の名も考えるべきだな……な、何がいいと思う?」


 何やら、真剣に考え込む様子を見せながら、俺に振ってくるタマ子。

 こいつ……意外と、アホの子?

和製ファンタジーの元祖ってなんだと思います?

ドラクエ? 違います。


1984年のACドルアーガの塔とそれに続くドラゴンバスターあたりが元祖です。

ダンバイン説もありますが……アレ、基本ロボット物ですから。

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