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第十七話「とある勇者の一時の安らぎ」②

「ふにゃぁ……ポカポカ過ぎて、蕩けるにゃ……シャーロットちゃん、リネリアずっとこうしていたいにゃあ」


「そうだねぇ……これは、お父様が異世界に来ても、こだわってた訳だ。姫様もこんなのを独り占めしてたんだ……」


 リネリアと並んで、湯船に浸かりながら、ぼんやりとする。

 なんと言うか……頭がぼーっとして、何も考えられなくなっている。

 

 リネリアなんか、もう獣人の姿ですらなくほとんど人間と変わりない姿にまでなってる始末。

 

 人間との違いは……頭の上に三角形の大きな耳が生えてるって事と、お尻からにょっきり生えて、ゆ~らゆらと揺れている黒い尻尾くらい。


 気が緩むと本来のこの姿になるらしいけど、身体能力的には一番弱いからあまり好かないんだって……。

 

 でも、こっちだとこの姿の方が溶け込めるような気がする。

 

 でもこの姿だと……さすがに、服着せないとなぁ……。

 いくらなんでも、こっちの世界では裸で歩くなんて、非常識だと思う。

 

 でも、服着るの、嫌がるんだけどね……この娘。

 

 ラファンお母様からして、服着たら、動きが悪くなるからとか言って、向こうじゃ寒さ避けやファッションで、マントやコート着るくらいだったし……。

 

 これ……何とかしないと駄目なんじゃ……そう思い始める。

 

 ああ、でも正直、面倒くさいな……。

 私は、今とっても幸せなのだから……ああ、お父様の国……日本だっけかな?

 

 聞いてたように、ご飯は美味しいし、水も綺麗……そして、このお風呂。

 

 この国では、こんな風にお湯が勝手に地面から湧いてくるような所もあって、人気の観光地になってるんだって。


 いいな……お風呂入りたい放題じゃないの、それ……。


 ……日本……聞きしに勝る素晴らしい国だった。

 お母様達が死ぬまでに、一度行ってみたいと言っていた訳がよく解る。 


 ……ちなみに、何がどうなってこうなったかと言うと。

 

 まず、幽香殿に私達の事を説明した……それ自体は、私としては、かなり思い切ったつもりだったのだけど。


 ……拍子抜けするほど、すんなり受け入れられてしまった。

 

 詳しくは聞けなかったのだけど、幽香殿がこんな人里離れている場所に住んでいるのも、こちらの世界側の超界の門を監視する役目を担っていると言う話だった。


 ……イナガさんが言っていた、こちらの世界の境界の門の管理者、それが幽香殿……そう言う事だった。


 だから、私達以外の異世界人にも会ったこともあるようだったし、向こう側の魔獣や魔族の類とも遭遇し、戦った経験すらあるらしい。


 私達については……どうみても子供で人語を解す上に、この世界の霊脈と問題なく接続している極めて、稀有な異世界人……そんな風に言っていた。

 

 人間に限らず、あらゆる生物の根源とも言えるマナ。

 その流れを幽香殿は見ることが出来るのだそう……。

 

 もちろん、この世界では魔術は一般的ではないのだが……この国の裏側で人知れず、境界を守護する者達がいて、その者達は当たり前のように魔術を使いこなすらしい。

 

 ……こんな高度な文明を持ちながら、私達の世界同様、高度かつ独自の魔術技術も持つ……つくづく、恐ろしい国だった。


 けれど、幽香殿もこの世界の治安組織……警察に突き出したりするつもりもなく、処遇についても悪いようにしないとの事で、私も信用すると決めた以上、異論は無かった。

 

 で……そのまま話の流れで、今日のところは、難しい事は考えず、お風呂に入ってゆっくり寝ろと言うことで……。


 この世界の……お父様がこよなく愛していた本場のお風呂というものを堪能出来ることになったのだった。


 感想は……素晴らしい以外の言葉が出て来ない……。

 

 ……そんな風に、お風呂を堪能しながら、思索に耽っていると。

 唐突にリネリアが私の胸をひょいと持ち上げる。


「……ねぇねぇ、シャーロットちゃん……お胸、また大きくなったんじゃなぁい? なんか浮いてるんだけど……どうなってるの? コレ」


 うわ……いつのまにか、手で持ち上げられるくらいに、なってたなんて……てか、止めて。


「実は……最近、走ると揺れて、擦れて痛いんだよね……お母様みたいに布巻かないと駄目かな……」


 腕を組んで、リナリアの手からお胸をガードしつつ、ぼやく……。


 おっきい方が女らしくていいんだから、むしろ堂々としていろと、お母様には言われてたけど、最近ちょっと邪魔……そうも思い始めてる。

 

「ううっ、リネリアなんて、育つ気配すらないにゃ……アルマリアもペッタンコなのになんで、シャーロットちゃんだけ、そんななんだにゃ? これは一体どういうことなんだにゃ!」


「し、しらないよっ! って言うか、さっきから隙を見て、触ろうとするの……止めて。何が楽しいのよ……」


「だって、羨ましいんだもん! せめて、思う存分、触らせろーっ!」


「だから、触るなっての! あ、コラっ、そこは……止めなさい……ダーメーッ!」


 リネリアとの裸のじゃれ合い……。

 まぁ、普通に姉妹として育ったのだけど、水浴び嫌いなリネリアとは、こう言うの久しぶりかも。


 ……リネリアは、年中裸だからどうでもいいんだけど。

 リネリアから見たら、私の裸なんて久しぶりに見るのだろう。


 まぁ……あちこち育って来てるんだよね。

 困ったことに……。


 ちなみに、私もリネリアも身体はちゃんと洗ってから、湯船に浸かってる。

 その辺のマナーは、お父様は皆に教えてくれていたので、私達もちゃんと教えてもらってた……。


 これも、お母様達と、創意工夫を重ねてお風呂を再現した姫様のおかげだ。

 

 リネリアも最初は泡が茶色くなるくらい積年の汚れが溜まってたのだけど、繰り返しお湯をドバドバかけて洗ったら奇麗になった。


 少しお湯が減ってしまったけど、言われたように赤い蛇口をひねったら、尽きることも無いんじゃないかって勢いでお湯が出てきた。

 

 さっきまで、飲み水にも苦労してたのに……良いのだろうか? こんな贅沢をして……。

 

 それにこっちの石鹸……やたら泡立つし、汚れも凄い落ちる。

 向こうに持っていったら、姫様あたりがすごく喜びそうだった……。

 

「ずいぶん賑やかだねぇ……着替えとタオルは、ここに置いとくよ。……着てたやつはアタシが洗濯してやるから……まぁ、ゆっくりしていくんだね」


 半透明で光を通す謎の素材の扉の向こうから、幽香殿に声をかけられる。


「「ありがとうございまーすっ!」にゃっ!」


 うん、綺麗にハモって……ない。

 リネリア……「にゃ」はそろそろやめろ。

 

 かくして、私達は思わぬ贅沢を堪能して、安息の夜を得ることが出来た……そう思ったのだけど。

 

 案の定……リネリアが服を着たくないとゴネだした。

 

 人間の姿をすることには、納得してくれたんだけど、服を着ないのは獣人の常識だとかで、頑として言うことを聞いてくれなかった。

 

 でも、そんな丸裸の姿じゃ寒いだろうし、耳と尻尾以外は私と全く変わりないんだから、どう考えても駄目だと思う。

 私達の世界でも、いくらなんでも何も着ないで外歩くってのはあり得ないし、何より……見てる方が恥ずかしくなる!


 純粋に同性として……! ココは譲っちゃ駄目だーっ!

 

 でも、困ったのは私も一緒。

 こっちにもズロースくらいあるのかと思ってたら、丈も短め太ももむき出しという……やたら小さい下着だった……。

 

 いつものズロースは、おへそも隠して、膝くらいまであるのに……むしろ、コレ……ちょっと落ち着かない。


 けど、贅沢言ってられないから、我慢して履いてみた……お尻になんだか、リネリアみたいな生き物の顔の絵が描いてある……なんだろコレ?

 

 おまけに、貸してもらった服は、上下繋がった黒地に白の水玉模様のチェニックみたいな服……腰のあたりに紐があって、ちょいっと結って使うらしい。

 

 ……私の知ってるチェニックより、丈が長くて裾がふわっとしてるし、腰回りの布がまるで花びらのように、折り重なるようになってて、ちょっと可愛らしい。


 一通り用意された服を着てみると、なんだか、えらく女の子、女の子してる私が鏡に写っていた。

 

「……な、なにこれ? これじゃ、私……普通の女の子みたいじゃないの!」


 意外と細い手足に、細面……襟の大きな裾の広がったチェニック。

 腕も足も丸出しで、ちょっと寒々しい……と言うか、実際寒い。

 

 でも、幽香殿が一緒に置いていってくれた……赤い袖付きの前が開いたのを羽織るとちょっと暖かい……半纏はんてんって言ってたかな?


 それに、服に聖刻を刻めば、一晩くらいはポカポカと温かいから、別に問題はなさそうだった。

 

 でも……なんだろう? すごく弱そうだぞ……私。

 向こうでも鏡くらいあったけど、この鏡……ものすごく写りが良いし、歪みもない。

 

 なんか、私が私自身に持っていたイメージと違う……私は、もっとこう……男勝りで頼もしい感じがすると思ってたんだけど。

 

 こうやって見ると、細くてちっちゃくって……すごく頼りない。

 ……結構、鍛えてたつもりだったのに……。


 よ、鎧を身にまとったら駄目かな? 召喚鎧だから、その気になればすぐに身に着けられるけど……。

 

 それに……あっちの世界じゃ、筋肉とか体の大きさより、魔力とそれを扱う技術が戦闘力を決めるのだ!


 それに関しては、私達はトップクラスの戦士を自負してる……大丈夫! 私は……強いっ!

 

「うにゃーっ! シャーロットちゃん、ちょー可愛いにゃん!」


 リネリアが後ろから抱きついてくる。

 その勢いで、胸がポワンポワンと揺れてるし……わ、私って、こんなのだったんだ!


 やっぱり、これ……何とかしないとっ!

 

「う、うるさいっ! リネリア……あんたもいいから服着なさいっ! さっきも言ったように、こっちにいる間は、なるべく人間の姿にならないと駄目っ!」


「ええっ! ヤダにゃっ! 別にリネリアは服なんて、着なくても別に恥ずかしくないし……確かにちょっと寒いけど……」


「だから、そういうのは駄目なんだって! 良いから、服を着なさーい!」


 かくして、リネリアに服を着せる試み、ラウンド2が開始された。

 

 もっともそれは……騒ぎすぎて、幽香殿に怒られてしまったのだけど。


 ちなみに、幽香殿の采配は……。

 

『女の子はお尻を冷やしたら駄目! 裸で外をうろつくなんて論外!』

 

 そのようなお達しであった……ほらみろ、私の方が正しい。

 めちゃくちゃ怒られて、涙目になりながら、リネリアも服を着てくれた。

 

 素晴らしいです! 幽香殿!

 お姉ちゃんとしては、妹がひとつ常識を学んでくれて、感慨深い限り。

 

 もっとも、下着については、ズロースみたいなのは無いのかと聞いたら、何十年も前にはあったけど、今はもう探すほうが難しいとのこと。

 

 なんてことだ……同じのがあったと言うのも驚きだけど、なぜ、廃れた?

 

 納得できない!

 

 ……けど、こっちには、こっちの流儀や文化があるのだ。

 異世界人である私達の流儀や常識は、このさいかなぐり捨てて、こちらが合わせるしか無いのだ……。

 

 でも……やっぱり、この可愛らしい格好……足回りが頼りなくて、とっても落ち着かない。

 座る時とか気をつけないと太ももとか下着丸見えとなるようなので、その辺は鉄壁ガードの方針で!


 私はリネリアと違って、むやみに他人に肌を晒さないように、躾けられている……今更、変えらんない。

 

 でも……ズロースの時は、座る時とか平気で足とか組んでたし、暑いときとか、薄手のシャツ一枚で、下履きはズロースだけとか、そんな事もあったけど……。

 

 それはそれで、別に恥ずかしくもなかったんだけど……この下着で、それは……無ー理っ!

 なんで、この世界の女の子達はこんなちっちゃくて、薄っぺらいので平気なんだろう?

 

 皆、アルマリアみたいに、お尻だしてても平気とか……そんななのかなぁ……。

 絶対、ズロースのほうが便利なんだけど……なんで、こっちでは廃れちゃったんだろう……。


 やっぱり、納得できない……でも、する。

 

 無理やり服を着せられたリネリアも……足を開いて、ガクガクと変な歩き方するようになってしまった……。

 動きもものすごくぎこちないし、あからさまにドン臭くなってしまった……なんで、目の前にある壁にぶつかっちゃうの?

 

 ……戦闘力とか、多分話にならないくらいダダ下がってると思われる。

 

 でも、何事も慣れだよっ! 慣れっ!

 早く慣れてもらわないと……。

 

 まったく、常識を変えるところから始めなきゃいけないなんて……お互い困った話。

 

 と……そんな事を思った。

シャーロットたん、ロリ巨乳……尊い。


あと一回だけ続きますんで、もう少しお付き合いください。

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