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第十七話「とある勇者の一時の安らぎ」①

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「とある勇者だったおっさんの後日談」においては、

 部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

                  Copyright © 2018 MITT All Rights Reserved. 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 私達は、あれから……。

 とある現地住民の保護を受けることが出来、一応落ち着くことが出来た。

 

 その現地住民……瀬戸霧幽香せとぎりゆうか殿は、ここ作州市と呼ばれる地の山の中の一軒家に住む老婆だった。

 御年75歳と言うから、私たちの世界ではもはや長老と呼ばれるくらいの大年寄だ。

 

 私達は、山頂にあった彼女が丹精込めて作った畑に迷い込み、そこの作物を無断で食べた挙句に見つかるという大失態を犯した。

 

 丸一日追われ続け、夜も更け、まともに食べる余裕もなかった私達にとっては、その見たこともない食べ物の誘惑に逆らい難く、庭木にたわわに実っていたオランジアと私達が呼んでいた果物に始まり……。

 

 奇麗に並んで植わっていた真っ白い太い根の水っぽい植物や、物置小屋のそばで山積みになっていた紫色の芋を貪っていたら、当たり前のように見つかった。

 

 丸一日、追い掛け回されたせいで、携行食くらいしか口に出来ず、お腹が空いていたのもあるのだけど、この畑の野菜や果物はびっくりするほど美味しくて、思わず夢中になってしまった。

 

 一応、私の名誉のために言っておくけど、最初に手を出したのはリネリアだ。

 私は……一応止めたのだけど、お腹を空かせて、ものすごく美味しそうに食べるリネリアを見ているうちに、さすがに我慢できなくなった……。

 

 でも、そんなのただの言い訳……強く止めなかった時点で共犯なのは間違いない。

 

 おかげで、幽香殿の接近にもまったく気付かず、怒鳴られて初めて気づくという体たらくだった。

 

 見つかった以上、逃げも隠れもせず……正確には、リネリアは私を置いて一人で逃げようとしたのだけど、それは全力で阻止した。


 ……リネリア、この事は忘れないからね。

 

 とにかく、二人揃って謝罪したら、許してくれたばかりか、簡単な食事を提供され、一晩泊まって行けと言われてしまった。

 

 それだけではなく、夜になってもしぶとく私達を追っていたらしい兵士達……どうも警察というらしい。

 彼らが幽香殿の家にやってきた時も、怒鳴りつけて、追い払ってくれたのだから、もはや感謝の言葉もなかった。

 

 私は、思った……貴女は女神なのかと?

 或いは何かの罠かと……そうも疑ったのだけど、私は前者だと信じた。

 

「……幽香殿、誠にかたじけない……この大恩、我らが命に変えても、お返しさせていただきます」


「お返しいたすにゃー! でも、命ばかりは勘弁をっ! にゃーっ!」


 お父様がお母様達に教えてくれたという、最大の謝辞を意味するという土下座をリネリアと並んでしつつ、感謝の意を伝える。

 

 どうでも良いけど、リネリア……この期に及んで見苦しい。

 

 死ねと言われたら、潔く死ぬ……それくらいの覚悟の上で、この土下座はせねばならないのだ。

 でも、死ねとか言われたら嫌だなぁ……死んだら、お父様もアルマリアも助けに行けない。


 リネリアを見習って、命だけは勘弁して欲しいと伝えるべきだろうか?

 

「なぁに言ってんだろね。この子達は……あんた達、訳ありなんだろ? 警察に追われるとか、よっぽどの事だろうけど、あんた達がそんな悪さをするようなヤツらには、あたしにはとても見えない。解ったら、さっさと頭を上げるんだね」


「ですが、私達は貴女が苦労して作った畑を荒らしてしまいました……これは明確な悪です!」


「……やれやれ、あたしの作った野菜や庭木のみかんの味、どうだった? 美味かったかい?」


「とっても、美味しかったですにゃっ! もっと食べたいですにゃっ! オランジアなんて、普通は酸っぱいだけなのに、すごく甘くて美味しかったし、あの白っぽい奴の葉っぱもシャキシャキして美味しかったんだにゃっ!」


 リネリアのバカ……盗っ人猛々しいって言葉を知らないのかっ!

 思わず、無言でその後頭部をぶん殴る。

 

「シャーロットちゃん、痛いにゃ……グーは駄目にゃん」


「うるさい、黙りなさいっ! 連れが重ね重ね、ご無礼を……この償い……必ずや」


 私としては、心底申し訳なかったのだけど。

 むしろ、大笑いされてしまう。


「すまんなぁ……お前さん達は姉妹か何かかい? そっちのネコ娘とお前さん、他人とは思えないくらいよく似てるんだが、ネコ娘はどう見ても人外……事情はよく解らんが、姉妹なら、仲良くせんといかんで?」


「あたしとシャーロットちゃんはお母様が違うだけで姉妹なんだにゃ! でも、シャーロットちゃんのお母様もあたしのお母様なんだにゃっ! つまり、あたし達にはお母様がいっぱいいるんだにゃ! 皆、大好きなのにゃーっ!」


 リネリアははっきり言って、アホの子だ。

 

 別ににゃーとか付けなくても、普通に話そうと思えば出来るんだけど、語尾ににゃーを付けないと獣人の末裔であることを忘れそうだとか何とか。

 

 ……意味が解らないよ。

 そんなの忘れていいと思うし、時々何を言ってるのか、解らない事が多々ある……思わず、私は頭を抱える。


「ご婦人……えっと、その……なんと言ってよいか……」


「……なんだか、ややこしいんだねぇ……。まぁ、美味しかったってのは、作物作ったもんにとっては最高の褒め言葉だ……どうせ道楽で作ってるもんだからな……これぞ本望ってやつだな。でも、大根も芋も生で食っても美味くなかっただろ? 夕飯もちょっと作りすぎたところだったから、冷めないうちに食っとくれ! 握り飯とたくあん程度じゃ、もの足りないだろ?」


 幽香殿の言葉に思わず、涙が出そうになる。

 けれど、騎士たるもの……涙は、親兄弟、戦友の死以外では流してはならない。

 

 ぐっと堪えると、私は感謝の祈りを捧げる。

 

「……貴女に祈りを……心からの感謝を」


「感謝の祈りにゃー! にゃーにゃーにゃーっ!」


 リネリアも私を見習ったようで、同じように跪くと幽香殿に祈りを捧げる。

 だから、お祈りなんだから、にゃーにゃー言うなと。

 

「そんな宗教じみた真似はよしとくれよ。あたしは無宗教派なんだ……強いて言えば、この山自体が神様みたいなもんだがね。それとご婦人だの貴女様とかよしとくれ……。そうさな……あたしの事は幽香おば様とでも呼んどくれ」


「は、はいっ! 幽香様っ! おおせのままにっ!」

 

 大真面目にそう応えると、苦笑される。

 私、何か変なこと言ったかな?

 

 それから……。

 びっくりするほど美味しい食事をいただきながら、幽香殿の話を聞く。

 

 こんな山の中なのに、なんとお魚が出てきた……アジの開きとか言うらしい。

 この尻尾のトゲトゲからすると、青くてでっかいアラミドラのちっちゃいヤツ?

 

 山の上から見た時は、海なんて見えなかったのだけど……どうやって、運んで来たのだろう?

 しかも、醤油とか言う液状の調味料をかけて食べるとものすごく美味しい!

 

 それに、コメも粘り気があって、ほんのり甘い……なにこれ、なにこれ! 美味しすぎるっ!

 

 リネリアも、あっという間に平らげてしまって、私のを物欲しそうに見てる。

 

「シャーロットちゃん……それ残すの? リネリアもっと食べれるよ?」


 口の端からよだれを垂らして、獲物を狙う目で私の分のアジの開きを見つめるリネリア。


「ダメッ! こんな美味しいもの……ゆっくり食べなきゃ、勿体無い! 絶対あげないんだからっ!」


 そう言って、腕と身体を使って死守の構えを見せる。

 いくら姉妹と言えど、譲れない一線ってのはあるんだっ!


「おやおや、喧嘩するんじゃないよ……あたしのをあげるから、たんとお食べ」


「うにゃーっ! ありがとにゃんっ!」


 ……リネリア、少しは自重しろ。

 

 幽香殿もそんな私達を見ながら、ぽつぽつと自分のことを話してくれる。

 

 ……10年ほど前に旦那様に先立たれ、人里離れた山奥のこの家で一人暮らしをしている事。

 お子様やお孫様も、いるにはいるようなのだけど、寄り付かなくなって久しい事とかを聞かされる。


 私達が推測していたとおり、この土地はこれでも相当、辺鄙な土地で……帝都と言うこの国の首都に皆、集まってしまっていて、この辺りのような首都から遠く離れた土地は、年々年寄りばかりになっているらしかった。


 幽香殿も若い頃は、この国のあちこちを巡って、様々な厄介事を処理するような仕事をしていたらしい。

 

 私達の素性については、特に聞かれなかった。

 訳ありなら、無理に聞かない……そんな風に言われてしまった。

 

 けれど話の途中、テレビとやらに思い切り私達の姿が写っていたのを私も見てしまった。

 

 ……良く解らないが、このテレビと言う箱はこの国に何百万台もあって、その前にいるすべての人が同じ絵を見ていると、そう幽香殿は説明してくれた。

 

 どんな仕組みかは、さっぱり理解出来ないけれど……遠話水晶みたいなものかな……?

 

 幽香殿もテレビに映った私達の姿と、目の前にいる私達を見比べていた様子から、なんとなく気付いたらしかった。

 

 それでも、幽香殿は何も聞かなかった。

 

 ちなみに、文字も多少違う感じがするけど、概ね同じのようだった。

 テレビの画面に時々、文字が描かれていのだけど、不思議と結構読めた……細かい意味は良く解らないけど。

 数字なんかも同じような気がする……。

 

 異世界同士でろくに交流なんて無かったのに……なんで、こんなにたくさん共通点があるんだろう?

 

 それにしても……こんな風に大勢の人に、私達の姿が晒されて、私達の事を知ってしまったのはどうなのだろう?

 

 私も今は脱いでいるものの、全身鎧姿だったし、リネリアも獣化していたとは言え……。

 テレビを見ている限りだと、この世界においては、私達は明らかに異形の怪物以外、何物でもない……そう思って良さそうだった。


 こうなると、明日になれば、追手の追跡も本格化しそうだし、何より魔王の子供達にも私達の事を知られてしまった可能性がある。


 向こうの世界でも奴らとは、何度か交戦している……。

 

 一番厄介だったアークボルトは、こちらの世界に興味を持っておらず、一度も来たことがないと言う話だったが。

 アサツキ、ヨミコ……タマなんとかにクレナイの龍族の双姫と謳われる異母姉妹。

 オーギュストにスレイヤ……この辺りは、こちらの世界に行りびたっていると聞いている。 

 

 魔王12貴子の筆頭にして、第一席のパルルマーシュ姫は、絶大な魔力と統率力を持ちながら、温厚な人柄で知られ、事実上魔王軍の穏健派の筆頭といえるのだけど……いまいち何を考えているのかが解らない。

 

 いずれにせよ、どいつもこいつも厄介な奴ばかり……当然、奴らからも、私達は明確な敵として戦いを挑まれる可能性は十分想定できた。

 

 けれども、逆にお父様やアルマリアに私達の存在が伝わった可能性もある。

 それは考えようによっては、僥倖かもしれない……。

 

 当て所もなくあちこち探すよりも、向こうから来てくれるのであれば、合流できる可能性が高くなる。

 

 それになりより、私達だけで行動するのも限界があった。

 この世界の協力者……力になってくれる人が今の私たちには必要だった。

 

 帰りのことなんかも考えると、それは必要不可欠とも言えた。

 

 だからこそ、私は幽香殿に、自分達の素性を明かすことにした……。

 この老婆は信頼に足る……そう思えたから。

 

「幽香殿……今、このテレビとやらに写っていたのは私達です……。私達のせいで大変なことになってしまったんです……」


 私は……この世界にやってきた経緯と、警察というこの世界の治安組織に追われていた理由もすべて話す事にした。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


例によって、少し時系列が巻き戻ってます。

このパート、蛇足とも思ったんですが。

シャーロットやリネリアのキャラ掘り下げと言う意味もあります。

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