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第十六話「とあるおっさんと謎の秘密結社」③

「それより……お前らは祥子の能力について、心当たりはないか? コイツは今のヨミコの術をあっさり防いだ上に、ヨミコの作った超強力な防御結界をあっさり無力化したんだ……。今のお前らの反応からすると、お前らでもヨミコの相手にならない……違うか?」


「そうさなぁ……。全く相手にならんかと言えば、そうでもねぇが……相応の準備をしねぇと、ちょっと厳しいってとこだな。祥子ちゃんの能力か……俺はよう知らんが。……なんじゃったっけ、神様の加護持ちだって話は聞いとるな」


「ああ、そうだ……。古き神の加護を受けし者……最強クラスの能力者だ。なにせ魑魅魍魎ちみもうりょうの巣窟になってるようなところでも、とりあえず連れてくるだけで、一掃されて万事解決するような有様だったからな。祥子くんは、狩野川家の秘密兵器と言われてるんだ」


「なにそれ! あたし、聞いてないんですけど!」


「ケンゾー爺さんは、高校卒業して18歳になったら本格的に修行させるとか言っとったけど……。あの爺さん、面倒くさくなるとすぐコイツに頼りやがるんだ……。そのくせ、本人にはちゃんと説明してなかったのかよ……ヒデェ話だな」


 ……なるほど、大いに納得だ。

 

 神の加護……それがどれだけチート地味たものなのかは実際、向こうの世界でそれを受けていた俺が誰よりも良く解っている。

 

 無限のマナを供給し、人ならざる力を発揮させる、無敵とも言える力。

 

 それが神の加護だ。

 

 そんなものを持っているなんて……祥子のデタラメさがよく解った。

 神の加護を持つ者に対抗するには、同じ神の加護持ちでなければ、とても対応できない。

 ……かつて、向こうの世界で魔王がそうであったように。


 奴もまた、向こうの世界の別の魔族の神の加護を受けていたのだ。

 

 だが……そうなると、なぜ祥子の力で、俺の呪詛は解けなかったのだろう。

 当然の疑問が湧いてくる。


「なぁ、ヨミコ……お前の呪詛は、どんな仕組みだったんだ……なんで、神の加護持ちがしょっちゅう近くに居て、解除されなかったんだ?」


「呪詛は……対象者の魂と同化するものですからね。呪詛を強引に破壊すると魂そのものにダメージが刻まれます。だからこそ、対象者の身代わりとなる依代を使って呪詛を移し替えてから破壊する……その方法が一番安全なんです。そうお母様がおっしゃってました」


「せやな……実際、10年前のタケルベはんにも、呪詛は効果的だったって聞いとるし、神様の加護っちゅうてもそこまで万能じゃあらへんのよ……そもそも、うちがかけたのもハンパないもんなんやで! 魔王様が残した秘伝中の秘伝なんや! なんせ、会社や国みたいな概念にすら効果があるからな……調子こいとる企業をぶっ潰したりしたりしたもんやで!」


 ……ヨミコ、そんなおっそろしいもんを人にかけておいて、どの面下げてあれだけの勢いで媚び売れるんだ?

 お前の感覚が信じらねぇよ……。


 テッサリアもさり気なくこなしてたけど、そう言えば、そんな事を言っていた。

 実際、俺も向こう側では、神の加護持ちだったけど、呪詛はきっちりかかってたからな。

 

「まぁ、それはともかくとして……例の二人は猛部の兄貴の娘っ子って事なんだな? どうも、とんだわんぱく娘共のようじゃがね……。昨日の山狩りも最新鋭の捜索用ドローンを10機以上投入したらしいんじゃが、結局まんまと撒かれたらしいぜ。警察関係者も面目丸つぶれだったみてぇだ……まったく、やりおるなぁ……」


 宇良部がそう言って、いい笑顔で笑う。

 そういや、警察が遭難者や犯罪者、猛獣の捜索用にドローンを導入したって話を聞いたなぁ……。

 

 完全自律制御飛行を実現し、赤外線カメラによる熱源探知で、生き物相手なら何処に潜伏してても狩り出せるって、豪語してたんだが……。

 

 それをあっさり、振り切ったのか……あの二人、結構やり手なんだな……。


「まぁ、そう言う事だ……だから、出来れば荒っぽいことはせずに、俺に保護させて欲しいんだが……その辺、何とかならんのかな?」


「そう言う事なら、俺らに任せとけっての! 幸い現場で山狩りしてる連中も手荒なことはなしで、見つけて、囲い込んだら俺達に報告、そっから先は俺達の出番……そう言う段取りじゃからな。見つかったら、一緒に来るとええ! 清四郎もそれで構わんな?」


「そうだな……僕らが異世界人の保護を急ぐのも彼らの命に関わる事だからな。これまでの事例だと、動けなくなるほどに衰弱するとまず、助けられないんだ……。だが、その心配が無い上に保護者と言う事なら、ここは猛部氏に任せるのが道理というものか……」


「警察はそれで納得するのか? アイツらのせいで大事故になってるし、メンツってもんがあるんじゃないのか?」


「警察については、向こうからこちらに依頼して来ているからな。昨日の山狩りの失敗で、自分達の手に負える相手じゃないと悟ったらしい」


「それに、事故の件も救難活動で何人もの命を救って行ったことで、むしろ、擁護する声が大きいみたいなんじゃ……。多分、何もかも有耶無耶にする方針になるんじゃねぇかな。まぁ、俺等も穏便に済ますつもりじゃから、安心したってくれっ!」


「ありがたい……恩に着る」


 そう言って、俺は二人に頭を下げる。


 そんな調子で、話がまとまり、しばし雑談を続ける。


 向こうも異世界の存在は知ってはいたが、行ったら最後戻って来れないと言う認識については同様らしかった。


 俺も異世界の話を差し支えない範囲で話したら、割りと前のめりで聞き入ってくれた。

 

 実際は、異世界から行って戻って来れたものもいるらしいのだけど、一日程度しか滞在していないと言うケースがほとんどで、俺のように一年にも渡って、異界で過ごした事例は無いという話だった。


 けれど、向こうからも興味深い話も聞けた。

 

「……実際問題、我々も全ての異界の門に、常時人を張り付かせるまでは出来ていないのが実情なんだ。最近もとある企業が越界の門のある土地を、山ごと買い上げてしまってな……。何かこそこそとやっているようなのだが、何をやってるのか、皆目見当が付かん」


「長原県の南アルプス山中だったよな……T&Tテクノロジーだったかな? 真っ当な手続きを踏んで、私有地化してるもんだから、どうにもならねぇのよ……。それに場所がなぁ……あっちは関東総会のシマだから、俺達には手が出せんのじゃ」


「関東総会?」


「まぁ、俺らの組織も各地に分かれてるんじゃ。俺ら、総社会は島津県の出雲大社を総本山としてるんだがね。関東総会は関東各地にあった魔術師系の組織の寄り合い所帯ってところじゃな。詳しいことは俺らも知らねぇ」


 中心となる組織が無い地域ブロック同士の横の繋がり……そんな組織構造なのだろう。


 それでは、情報共有も満足に出来ないだろうに……と思うのだけど、表立って活動する組織でもないのだから、閉鎖的になるのも無理もない。


 しかし、表沙汰になってないだけで、企業も絡んできているのか……。

 確かにもう一つの世界とか……利権の温床に見えるだろう。

 そんなもの、営利団体たる企業がほっとく訳がない。


 ただ……こっちの人間も向こうに行ったら、ほぼ確実に死ぬから、上手くは行っていないことは容易く予想できる。


 恐らく人知れず、向こうへ向かって命を落として帰って来ない……そんな悲劇も起きているかもしれなかった。


 俺の娘達やアルマリアもそう言うややこしい所に出てきてたら、どうなってたことやら。


「すまない……本部から、連絡だ……少し席を外させてもらう」


 政岡に連絡が入ったようだ。

 スマホ片手にテントから出て行く……何かと生真面目な青年だこと。


「ははっ……猛部の兄貴、清四郎の相手も疲れるだろ? どうにもアイツはカタブツでな……尋問みたいになっちまって、すまんかったな」


「いや、こちらも君らの事を色々知れた……色々と大変なんだな。超常の世界と隣り合わせか……どうりでその年で歴戦の戦士の風格を備えてる訳だ」


「まぁな……だが、誰かがやらんといかん事じゃからな。しかし。歴戦の戦士の風格なんて言われると……ちょっと照れるな。まぁ、それなりの修羅場はくぐっとるからな、それくらい当然じゃあるんだがな」


 ドヤ顔で笑う宇良部……おーおー、自信満々ってとこか。


「ははっ……大いに結構。若者ってのはそうでなくちゃなっ!」


 そんな話をしていると、政岡が戻ってくる。

 心なしか上機嫌そうに見える……さっきまで鉄面皮と言った様子だったのだが、傍目にも嬉しそうなのが解る。


「猛部氏、朗報だ……実は、この近辺にかつて、腕利きで鳴らした退魔師が住んでいるんだが、その方が娘さん達を保護してくれたらしい……。向こうの言い分としては、山狩りを中止して警察も引き上げさせろって話だったんだが。猛部氏の事を話したら、そう言う事なら、引き取りに来て欲しいとの事でな」


「もしかして、瀬戸霧せとぎりの婆様か? あの頑固婆さん……まだ生きてたのか……。まぁ、そう言う事なら、大丈夫そうじゃな。なら、早速出迎えに行ってやろうぜ! それくらい付き合わせてくれ」


 ……なんと、上手い具合に総社会の関係者の所に転がり込んだらしかった。

 昨夜はかなり冷え込んだから、心配してたのだけど……そう言う事なら、問題もなさそうだった。

 

「良かったな……アルマリア。じゃあ、早速出迎えに行くとしようか! って……どうした?」

 

 アルマリアを見ると、話を聞いて喜んでいるのかと思ったら……。

 何故か緊張した面持ちで新しくやってきた赤いクーペを見つめていた。

 

 なんとも刺々しい近未来チックなデザインのクーペに乗っているのは、サングラスを掛けた女が二人。

 紫がかったワンレングスと赤茶けたショートボブのなんとも派手な雰囲気の奴ら。

 

 こんな山奥に来るにしては、妙な取り合わせだった。

 

 警官が話をしている様子だったが……ちょっと揉めている様子だった。

 

 それどころか、少しバックさせてエンジンを空ぶかし……警官も慌てて下がるのが見えた。


 まさか、強行突破するつもりなのか?!

 

 そう思うのとほとんど同時に、アルマリアがボウガンを構える。

 

竜破の(ドラグ・スレイブ)嚆矢(・バスター)ッ!」


 唐突も唐突だった……止める間もない凶行ッ!

 

 誰もが呆然とする中、警官の制止を振り切って、勢い良く発進した赤いクーペの側面めがけて、アルマリアの放った赤い光弾が突き刺さる!

 

 爆発……次の瞬間クーペが斜め上に向かってすっ飛んでいく。

 

 クーペは30mくらいの高さにまで、すっ飛んでいった挙句、盛大に大爆発するっ!

 

「……な、な、な……」


 思わず言葉が続かない。

 空からバラバラとクーペの残骸やらなにやらが降ってくる。

 

 続いて、テントが半壊するような強烈な爆風がワンテンポ遅れて、吹き荒れる。

 

「お父様……あれは、敵ですっ! これでも仕留めれたかどうか怪しいです……一瞬向こうが早く気付いて、防壁を展開されました……けどっ!」


 ……いたって、冷静な様子のアルマリア。

 

 敵? あんなもんくらって仕留めきれない?

 ……唐突過ぎて、理解が追いつかない。


 バッサバッサと言う重い羽音。

 

 徐々に晴れていく煙とその向こう側に見える10mもあろうかと言う巨大なシルエット。

 

 刺々しく頑強そうな赤い鱗……獰猛そのものと言った鋭い目。

 巨大な爪に、鋭い牙……チロチロと口の隙間から漏れ出る炎。

 

「……ド、ドラゴン……だ……と?」


 それは……向こう側の世界でも最強クラスの魔族……ドラゴンだった。

すっげぇの登場ですが、次回はシャーロット回。

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