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第十六話「とあるおっさんと謎の秘密結社」①

 一方、祥子は祥子で、この辺の観光ガイドやら美味い物のスマホチェックに余念がない。

 なんかもうすっかり、ドライブ観光気分と言った様子。

 

 目的が何なのか……すっかり忘れてるんじゃないかって気がしてくるのだけど。

 考えてみれば、祥子と出かけると言っても、電車で岡川市街とかに行く程度で、ドライブなんか連れて行った事も無かった。

 

 祥子の家も色々ややこしいから、家族旅行なんかもほとんど機会がなかった……そんな風に愚痴っているのを聞いたこともあった。


 こう言う機会ともなれば、はしゃぐのも無理ないだろう……。

 

 娘二人と合流したら、帰り寄り道していくのも悪くない。

 ……まだまだお昼前だし、車だから温泉とか寄るのもイイなぁ。


 湯ノ里温泉とか奥津川温泉……どっちも作州市からはそう遠くないし、俺でも知ってる岡川三大温泉地。

 

 せっかくだから、娘三人と家族風呂とかも良いかも知んない。

 

 ヨミコは祥子にでも任せりゃいいし。

 ……やっぱ、家族が多いってのは良いなぁ……明日は日曜だし、いっそ泊まりも手だな!

 そうだ、そうしようっ!

 

 

 勝央のサービスエリアを出て、作州ICを降りると目的地の作州市に入る。

 

 お隣の兵部県ひょうぶけんにほど近いこの辺は、江戸時代には美作国みまさかのくにと呼ばれてたのだけど、10年ほど前に行われた市町村合併で、かつての呼び名が復活したらしい。

 

 美作市にするか、作州市にするかすったもんだの末、作州市と相成ったらしい。

 

 かの剣豪宮本武蔵の生誕地として、有名なんだが……基本、ほぼ山でぶっちゃけ何もない。

 グロームマップの衛星写真で見るととっても緑。

 

 実際、右を見ても左を見ても山と田んぼしかない……。

 関東や中部あたりから来ると、山の近さに皆、驚くそうだけど……中国地方はどこもこんなもん。

 

 つまり、超が付くくらいのド田舎だ。

 

 ICを出てから、湯の里温泉街を経由し、出雲街道を東へと進む。

 

 そして、問題のうちの娘達が逃げ込んだらしい山の現場付近。

 やっぱり、普通に山なんだが……何やらとっても物々しい事になっていた。

 

 うちの娘達が潜伏中と思われる山へ続く車の通れそうな道は、全ての道が封鎖されたり、警察が検問を張っていて、余所者は通してくれないような状態になっていた。


 どうやら、昨日の県警による山狩りはものの見事に空振りに終わったらしく、二日目に突入。

 人数も大幅増強して、割りと本格的にやっているようだった。


「なぁ、お巡りさん……なんで、この先に行っちゃ駄目なんだ? ここ抜けないと、かなり大回りになるんだけどさ」


「大変、申し訳ないんですが……この山に猛獣が逃げ込んだって話で、今日も大勢で山狩りやってるんですよ。危ないから、引き返してもらえませんかね……ほんと、重ね重ね申し訳ない」


 ここは、細い山道の脇の空き地みたいな所。

 通りがかったら、笑顔の警官が現れて強制停止……誘導されて、はい、こんにちわーと。


 パトカーと黒塗りフルスモークの怪しげなマイクロバスが止められていて、休憩所なのかデカいテントみたいなのも張られて、中にストーブが置かれているのが見える。

 

 そうこうやってるうちにまた一台やってきては、別の警官に止められて、同じように空き地に誘導されて、引き返すように説得されている。


 大方、昨日のニュースとネットを見て野次馬にやってきた連中なのだろう。

 

 ちなみに、ネット上では、シロクロネコライダーなんて、黒なんだか白なんだか良く解らないあだ名で呼ばれてるらしい。


 ……人の娘を捕まえて、変なあだ名で呼ぶな! ……と抗議してやりたい。

 おまけに、暇人どもが続々と突撃宣言してたようだし……。

 

 今来た車も、変なアニメキャラでデコレーションした所謂、痛車仕様。


 一応、そのキャラが何なのか分かる程度には、俺もオタクなんだが……。

 なんと言うか、言い知れない居心地の悪さを感じるのは、俺が年を食ったからなのだろうか……?

 さすがに、魔法少女キラキラのキラ子だかなんだかが、でっかく描かれた車とか無理。


 しかも、パンチラまでガッツリ描いてあるとか……これ、小学校の近くとか通っちゃ駄目な奴だ。


 もっとも、警察もこの手合を何度も相手にしているらしく、すっかり手慣れた様子。

 ゆるーく、けれども断固たる意思で追い返しているようだった。


「舐めんな! この国家権力がっ! 名前覚えたかんな!」


 捨て台詞を残して、痛車が去っていく……他の道でも当たるつもりなのかもしれないが。

 おそらく、他の道も同じだろう、国家権力相手にゴネても仕方がない。

 

 ……ここは一旦引き返して、仕切り直すのが、賢明だった。


「猛獣ねぇ……まぁ、そう言う事なら、アンタがたに余計な仕事増やすのもなんだから、大人しく引き返すよ。お巡りさんもご苦労様!」


「いえいえ、これも市民の皆様の安全を守るためです! ご理解とご協力に感謝します」


 ビシっと敬礼を決めるお巡りさん。

 まぁ、これも仕事なんだから、文句言ってもしょうがない……人の仕事の邪魔はするもんじゃない。

 

 何かと言うと、警察を嫌う輩もいるけど、彼らも仕事なんだから、たまにはご苦労様とでも言って、労うべきだと思うよ。

 

 ……そんな訳で、車をUターンさせようとしていると、後ろで祥子が騒ぎ出す。


「ねぇねぇ! 猛部さん、ちょっといい? なんかさ……知り合いがいるんだけど……」


 そう言って、祥子が指差すのは、テントの中で暇そうに突っ立っている場違いな黒コートを着たメガネをかけたインテリっぽいのと、やたら背の高い箒を逆さにしたようなツンツン髪の兄さんと言うコンビだった。

 

 おまけに、どう見ても警察仕様に見えない750CCの大型バイクもテントの後ろに止めてある。

 

 ……カワシマのゼファードじゃん。

 暴走族垂涎……10年以上前に廃盤になったモデルだった……750ccモデルとか、かなりのレア物だったような。

 

「なんだ、あいつら……警察……じゃなさそうだな。どう言う知り合いなんだ?」


「じいちゃんの仕事関係って言えば……解る?」


 ケンゾー爺さん関係……となると、例のオカルト関係?

 

 祥子もあんまり、その手の話題を俺に出すこともなくて、俺もそんなに詳しくはなかったが。

 表に出てこない相互互助会的なのがあるらしいということは知っていた。

 

「声かけてみるね! おーい! 宇良部うらべさん、それに政岡まさおかさん! こんなとこで何やってんのさ!」


 後部座席の窓から顔を出した祥子が、黒コートの二人組に向かって止める間もなく声をかけた。

 

 驚いたように二人が立ち上がると、こちらに向かって駆け寄ってくる。

 

 警官たちも二人に敬礼をすると、そそくさと場所を開ける。

 良く解らんが、この場ではこの二人、かなり優位な立場らしい。

 

「狩野川さん? どうして、こんなところに、あ……いや、失礼したっ!」


 メガネの方が、俺に気付いて慌てて、頭を下げる。

 随分礼儀正しい青年のようだ。

 

 一方もうひとりのデカいツンツン頭は、値踏みするように俺のことをジロジロと見ている。

 スゲェガタイだな……こいつ、190くらいはあるぞ……?

 

 首とかもめっちゃ太いし、こんなのとやりあったら、絶対負ける!

 

 けれど、祥子に目線を移すと、唐突にニカッと笑うと軽く手を挙げる。

 笑うと意外と人懐っこい……何とも、憎めなさそうな奴だった。

 

「よぅっ! 祥子ちゃんじゃねぇか! 久しぶりじゃのう……どうしたんじゃ、お役目かい? こっちのおっさんは誰じゃ? それになんや、ちびっこいのもおるなー! 清四郎っ! 怖がらせちゃいかんから、おめーは引っ込んでろよ!」


 コテコテの岡川弁。

 セリフだけ聞くと、どこぞのヤクザの若い衆みたいだけど、別に珍しくもない。

 

 図体でかいし、厳つい面構えで髪の毛も金金に染めてて、耳ピアスと……正直、あまり関わりたくない外見ながら、割りと気の良いやつらしい。

 

 最近の若いもんにしては、ホネもありそうだし、どちらも好青年って感じだ。

 少なくとも悪い印象は抱かなかった。

 

 警官もどうやら、俺達をこの二人の関係者とでも思ったらしく、もはやおまかせと言わんばかりに、あとから来た車の方の応援に行ったらしかった。


「ああ、俺は……祥子の古くからの知り合いでな。猛部と言う……言ってみれば、保護者みたいなもんだ。君らは、祥子の友人か何かか? 結構若そうだが……高校生って感じにゃ見えないな」


「おっさんから見たら、俺らは皆、若造だってのにゃ変わりねぇが……どっちも二十歳だ。祥子とは……仕事仲間の先輩、後輩……と言えばええのかのう……」


「仕事仲間……ね。良く解らんけど、お前らがただ者じゃないのは解るな」


 と言うか、こいつ……本当に人間なのか?

 魔族やらオーガとかと対峙した時みたいな独特のプレッシャーを感じる……。

 

 後ろのメガネも隙がない……どちらも現代日本人にしては、えらく修羅場をくぐってる……そんな印象だった。

 

「つぅか、おっさんこそ、タダもんじゃねぇだろ……。相当、鍛えてねぇか?」


「まぁ、ちょっと色々あってな……嫌でも鍛えられる羽目になった。最近は不摂生がたたって、見る影もないんだがな。なにせ、風呂上がりに野球中継見ながら飲むビールが美味くてなぁ」


 そう言って、笑う。

 実際、俺の密かな楽しみ……ついでに言うと、俺は大の阪神ティーゲルスファン!

 

 と言うか……岡川県民で、お隣の広嶋ガープスを応援するような奴はあんまりいない。

 むしろ、関西人は関西の代表たる阪神を応援するのがスジだと俺は思う。


「へへっ! 解る解るっ! あの一杯のために生きてるって感じがするよなー! 俺は阪神ファンなんじゃが、おっさんは何処ファンなんじゃ?」


 このツンツン頭……なんと、お仲間だった! 同志がこんなところにいるなんて!

 思わず胸が熱くなる。


「おおっ! 奇遇っ! 俺も阪神ファンだ! 広嶋ガープスやら読裏ギガンツファンなんぞ敵だ! 敵ッ!」


 思わず手を差し出すと、ガッツリ握り返される!

 まさに、年代を超えた友情が爆誕した瞬間だった!


宇良部と政岡は、拙作別作品の登場人物です。

そちらからの転用キャラです……まぁ、ゲストとかスターシステムですね。


もっとも、そっちは絶賛エター中……。


ちなみに、岡山人の広島嫌いは徹底してて、お隣なのに三菱車が強かったり、野球も阪神ファンがいっぱい居たりと……お互いDisる事に余念がないという……。

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