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第十一話「とある勇者のいい日旅立ち」②

「こちらテッサリア。私とアルマリアは予定通りガウロン神殿に到着したわ……ラーゼ、ラファン、そっちはどうかしら? って、シャーロットが通信担当なの?」


 遠見の水晶球に、青い瞳と豪奢な金髪のテッサリアお母様とアルマリアの様子が写っていた。

 その背後には、古代遺跡ガウロン神殿が見えている。


「はい、テッサリアお母様! ラーゼ母様に代わりましょうか?」

 

「どうせ隣りにいるんでしょう? そのままでいいわ……うんうん、シャーロットも一人前の従騎士として、ずいぶんサマになってきたわね! アルマリアもそう思うでしょ?」


「シャーロットも日々頑張ってますからね……通信手くらい、誰でも出来ると思いますけど……」


 アルマリア……一言、多いよ?


 けど……アルマリアの背後に、魔族共の死骸やゴーレムの残骸が転がっているのも見えた……地面にいくつものすり鉢状の穴が空いており、戦闘があった事を如実に物語っていた。


「私達は先程、騎士団とともに野営地を引き払ったところだ。それにしてもお前達だけで、先行偵察するだけと言う話ではなかったのか? ……現地の状況はどうなんだ? 大体想像つくが、報告を頼む」


 隣のラーゼファンお母様が頭を抱えながら、二人へ問い返す。


 あの二人は、空を飛ぶことで驚異的な移動速度を出せる。

 その為、先行偵察を志願してくれたのだけど……。


「問題ないわ……事前の情報通り魔王軍の一個小隊がいた程度。数もたかが50匹程度……私達二人なら5秒でおしまい……と言っても、主にアルマリアが始末したんだけどね」


 それじゃあ、偵察じゃなくて、殲滅だ……。

 案の定、ただの偵察で済むわけがなかった。


 アルマリアは私達姉妹の中でも、圧倒的な機動力と最強クラスの攻撃力を誇る飛空魔道士で、なんか知らないけど、やたらと好戦的な娘だった。


 その一撃はドラゴンですら撃ち落とし、万の軍勢だろうが一瞬で殲滅する程度には強い。


 一年前のガルムリア帝国の敗戦とそれに伴う撤退戦で、魔族の最高精鋭と謳われた炎龍兵団と、ゴブリン兵団2万をアルマリア一人で殲滅したのは、敵味方共に知られた彼女の武勇伝だった。


 テッサリアお母様は、死人すら生き返らせると言われる王国でも最高位の治癒術師なんだけど、その実の娘は攻撃特化。


 ……同じ、今は滅びし飛翔族の血を引く飛空魔道士なのに、その方向性はまるで真逆。


 治癒術に関しては、幼い頃からテッサリアお母様が付きっきりで、直弟子として修行を続けていたはずのだけど……。

 どう言う訳か、治癒魔法をかけているのに、逆にダメージを与える事がままあったりと、結果が読めない恐ろしい代物になってしまった。


 であればと、ネリッサお母様が開発だけして、ろくすっぽ実戦で使ってなかったその数々の攻撃魔法を伝授したら……。


 面白いように吸収し、テッサリアお母様の使う弓魔術との組み合わせで、本気を出せば地形を変える程の超火力魔道士へと成長し、魔王軍からは「殲滅魔人」と恐れられるような存在になってしまった。

  

 ……もう、どっちが魔王かよく解かんないね。


 リネリアと私は、それぞれの母親の劣化コピー+αみたいな調子なのに、なんでアルマリアだけ、こうなったのやら……。


 なお、ロナンは絵に描いたような器用貧乏だったりする……良く言えばオールラウンド?

 実際は、それなりの腕前の剣術と、どこか非効率かつ中途半端な魔術と……割りとダメダメだった。

 

 これは、ロナンの実母たるネリッサお母様自体が実戦派ではなく、研究室に篭って怪しげな研究を続けたり、作戦立案をするような参謀格だったのもあるだろう。


 ロナンの教育係が武闘派のラーゼファンお母様とラファンお母様がメインとなってしまい……もっぱら、剣士として修行させたのが、間違いのもとだった。


 たぶん、ロナンはネリッサお母様同様、魔術師系の適正持ちなんじゃないかと……私は思う。

 実際、ロナンの使う魔術は、ほぼ独学にも関わらず、王立魔術院の主席を凌ぐほど。


 剣なんか持っても、そもそも向いてないんだから、そりゃ弱い……よね。


 本人もお父様のような立派な勇者になるって……そんな調子だったんだけど……。

 適正ってのは、ある意味残酷だった。


 早く気付けなかったお姉ちゃんを……許せ。


 ちなみに、私は治癒術と強化系魔法に関しては、テッサリアお母様から直々に色々教わった上に、高い適性があったようだった。


 実はこれでも私、テッサリアお母様にも、引けを取らないくらいの治癒と強化魔術のスペシャリストなのだ。


 と言うか、アルマリアもリネリアも治癒術は下手くそなので、もっぱら私がその役を担っていたせいで、実戦経験を人一倍積めたのが大きいと思う。


 人間、やっぱ努力と根性だよねー!


 テッサリアお母様もお父様がしょっちゅう重傷を追って死にかけたり、魔族に呪われまくったせいで、何度も何度も治したり、呪詛を祓ったりしているうちに並ぶものがいなくなったって言ってたし。


 そういう点では、テッサリアお母様と私は似た者同士だった。

 実際、治癒術については師弟関係でもあるし、お料理なんかもテッサリアお母様から色々教わったから、なんでも作れる……結構、家庭的なんだよね! 私。


 それに私、お姉さんだからね……妹達が小さい頃は良く怪我を治してやったり、背中に背負って家まで連れて帰ったりしたもんだ。 


 体力だって皆よりあるし、背丈だって三人の中では一番大きい……実は最近、ちょっと胸も大きくなってきた……。


 ラーゼ母様はものすごーく立派なモノをお持ちなので、私もきっとそうなる。

 剣術だって……お母様にもたまに勝てるくらいなんだから、そこそこ強い方だと思うんだけど……。

 

 アルマリアはともかく、リネリアには全戦全敗……正直、あの子に勝てる気がまるでしない。

 ああ言うのを多分、天才って言うんだろう。


 実際、戦うとアルマリアはまだ剣筋やその姿を目で追えるんだけど、リネリアはもう見えない。


 いつも何がなんだか、解らないうちに一本取られて負ける……。

 

 ……リネリア、色々おかしい……。

 ラファンお母様ですら、もう教えること無し! とか言ってるし……。


「アルマリア……相変わらず、凄まじいな! 私では、もうリネリアに勝てなくなってきたし、今朝もシャーロットに一本取られてしまったよ! 我らの時代も終わり……そろそろ、引退時かもしれんな……はっはっは!」


 そう言って、心底嬉しそうにお母様が笑う。


「なぁに言ってんだか! あたしらだって、負けてない! だーよねっ! リネリアちゃんっ!」


「だにゃーっ! ママとリネリアがいれば、魔王軍なんて、1000人いても、楽勝だにゃーっ!」


 リネリアとラファンお母様。

 この二人は親子と言うより、限りなく姉妹みたいな調子。


 顔もよく似ているし、目の色も同じ緑色。

 髪型もどっちも伸ばした髪を二つ分にして無造作に縛ってるだけ。

 そして、猫耳と猫しっぽ……胸と腰の周りのモフモフと、それに靴下と手袋みたいな感じで毛が生えてる。


 銀髪の白い毛皮の方がラファンお母様。

 黒くて小さいほうがリネリアだから、区別自体は簡単なのだけど。

 

 リネリアもその気になれば、もっと人間に近い姿になれるはずなんだけど、この獣と人が入り交じった姿が好みなのだとか。


 きっとラファンお母様に合わせてるんだろうな……リネリアは、ラファンお母様大好きだから。


 かつて、三人の中で一番小さかったリネリアも、アルマリアより背丈が伸びて、獣化するとラファンお母様より一回り小さい程度の大きさになるようになった。


 お互い成長したなって、つくづく思う。


 ……獣化した二人に囲まれて寝るのは、右も左もフカフカ、ポカポカでこの上なく気持ちいい。

 さすがに暑い時期は勘弁して欲しいのだけど。


 私もラファンお母様にはリネリアと同じように、実の娘同然のように育てられたから、お母様のお腹枕は良くしてもらった。


 アルマリアとは、度々ラファンお母様の取り合いになる……リネリアのお腹も悪くないんだけど、なんか香ばしい匂いがするんだよねーあの子。


 女の子なんだから、ちゃんと身体を奇麗にしないと駄目だっていつも注意してるんだけどね……。


 とにかく……勇者の血族なんて言われてる私達だけど、お父様が居なくてもちゃんと家族してると思う。

 私は……そんな皆が大好きだった。

 

 改めて正面に向き直ると、お母様の背中が見える。


 聖騎士団長ラーゼファンお母様。 

 聖騎士の真っ白な鎧にその身を包み、先陣を切るその姿は騎士を志す者たち全てのあこがれだ。

 

 私はいつもお母様の娘であることを誇りに思っている。


 もちろん、大英雄であるお父様のことも。

 

結構、加筆。

リネリアの容姿描写を追記してます。



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