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第十一話「とある勇者のいい日旅立ち」①

時系列、ちょっとだけ過去。

話自体は、本編の前日譚にあたります。

 私の名前はシャーロット。


 レデュスレディア王国聖騎士ラーゼファンの娘であり、お父様は伝説の大英雄……タケルベ。

 

 私は、勇者の血を引く王国四勇者と呼ばれている。

 

 けど、それは正式なものではなく、言わば俗称。

 お母様の従騎士見習い……と言うのが正式な身分だ。

 

 私は世間一般では子供扱い……勇者や騎士の称号を名乗るなんておこがましいのだから、致し方ない。


 けれど、いずれは、お母様のような誇り高き聖騎士として、清く正しく美しく誰からも賞賛される。

 そんな風になりたいと常々、思っている。

 

 世間では、ひとまとめに勇者三姉妹なんて、言われたりもしてるんだけど。


 私はちょっとだけ誕生日が早いから、皆のお姉さんを自称してる。


 要は、リーダー格! 他の妹二人はなんだかんだでお子様だし、もう一人はとっても世話が焼けるお坊ちゃんだから、やっぱり長女たる私がしっかりしないと駄目よねっ! うんうん。


 ちなみに、好きな色は白ッ! 髪型は肩あたりまで伸ばしたミドルヘアと呼ばれる髪型。

 ちょっとクセッ毛だから、跳ねてたりするんだけど、そこはご愛嬌。


 アルマリアもリネリアもお父様譲りの黒髪なんだけど、私だけ何故かお母様譲りの金色……。

 でも、奇麗で可愛いってよく言われる……眼の色もお母様譲りの赤。


 皆が言うには、お母様の若い頃にそっくりなんだって! なんか嬉しいな……それはそれで。


 以上、自己紹介終わりっ!



「ではっ! タケルベお父様を救援すべく、私とリネリア、アルマリアの三名は越界の門を超え、向こう側へ旅立つ……皆様、それで異論はありませんね?」


 王国最高会議の面々が居並ぶ中、私はそう言って話を締めくくった。

 

 円卓の上座に座るレティシア女王陛下が拍手をすると、4人のお母様、大魔道士達や将軍たち、妹のアルマリアやリネリアも同じように同意の拍手をする。

 

 ただ一人、弟のロナンは仏頂面で腕を組んでいた。

 

「ロナン君、駄目ですよ? 皆で決めたことなんですから、そこは納得しないと……」


 王室最高位魔道士でもあるネリッサお母様がロナンに、小声で声をかけているようだった。

 

「母上っ! やっぱり納得できません! 僕は父上……大英雄タケルベの血を引く勇者なんだ! なんで、僕だけが残らないといけないんだっ!」


 ロナンもすっかり不満を爆発させてしまったようで、テーブルを叩くと立ち上がって抗議の叫びをあげる。

 

 その剣幕に誰もが言葉を失くし、静まり返る。


 ネリッサお母様の眼鏡がずり落ちて、涙目で腰を抜かしているようだった……相変わらず、いまいち頼りない。


 それに、ロナンも……なんと言うか、この期に及んで聞き分けのない子だった。


 私達、姉の誰か一人にでも勝てたら、負けた者の代わりに行く、と言う条件で全員と勝負したのだけど、結局ロナンは誰にも勝てなかった。

 

 王国に残り、お母様達と共に皆を守るのも、勇者として重要な役割だと言う事で、一度は納得したはずなのに……この子と来たら……まったくもうっ!

 

「……ロナンは、王国にとって一番大事な存在です。お父様の護衛の任は、私達が務め上げます。ロナンはお母様達や女王陛下をお守りする……そう言う話に落ち着いたはずではなかったのです?」


 感情を込めずに、淡々と告げるアルマリア。

 この娘はいつもこんな調子、もっと言葉に感情込めないと可愛くない……。


「だにゃ……ロナン、弱っちぃもん。リネリア、ロナンのお守りなんてやってらんないにゃー」


 リネリアはリネリアで……身も蓋もない。

 この子はこの子で、ド直球に過ぎる……ある意味、問題児。


「リネリア……言い過ぎです。でも、ロナン……公正なる勝負の結果である以上、それは受け入れるべきです。今のあなたの実力では、死ににいくようなものだと、お母様達も私達との勝負を見て、判断したんです。ここは納得してもらわないと話が進みません」


 私がそう言うと、ロナンも無言で俯く。

 

 けど、内心同情しないでもない……ロナンが私達より実力的に劣るのは、お母様達も含めて、何かと過保護にしてしまったからに他ならない。


 あの偉大なるタケルベお父様の血を引く勇者の直系。

 ……その潜在的な能力は、めざましく……いずれ私達すらも超える器を持つ。


 その事を私は日々の稽古を通じて、実感しつつあった。

 

 けど……出来れば、ロナンを危ない目には合わせたくないと言うのも、身内としての紛れもない本音だった。


「シャーロット、僕はそんなに弱いのかな……確かに姉様達は強い……けど、僕だって父上のように……」


「ロナンは決して弱くないですよ。でも、もう少しお母様達に稽古を付けてもらって、体だってもっと鍛えなくちゃいけません。背だって、これから伸びるんだから……ですよね? お母様」


 私は、隣の席に足を組んで座るラーゼファンお母様に話を振る。

 ラーゼファンお母様は私の実の母親だ……私と同じ金色の髪をバッサリと短くまとめて、髪の毛でいつも右目を隠している。


 そこにはお父様の盾となって負ったと言う深い傷跡があるのを私は知っている。


 それ自体は……誇るべき名誉の傷跡なのだけど、無駄に迫力があって、怖がられるので隠すようにしているらしい。

 

「そうだな……シャーロットの言うとおりだぞ。せめて、私のように、筋トレ10セットと王都周回10周くらいはこなせるようにならないとな……タケルベ卿もそれくらい軽くこなしていたぞ? まだまだ鍛え方が足りん……ロナンにはもっともっと逞しくなってもらわんといかんからな」


 ちなみに、王都の城壁の周り一周軽く5ヘグダーシュ(5km)くらいある。

 魔術による身体強化無しで、日課のようにそれをこなすお母様は色々おかしい……私は3周くらいでお腹いっぱい。

 

 ズーンと落ち込むロナンはほっておいて、今度は作戦の段取りの詳細を煮詰める作業に入る。


 今回の作戦は、私達のみならずお母様が率いる王国の最高精鋭女王親衛聖騎士団も参加するのだ……騎士団の将校達との調整は欠かせない。


 それに、この作戦は、私達にとっては決戦の序章とも言えた。

 

 私達の宿敵、魔王の子供達。


 ……またの名を魔王十二貴子。


 奴らがお父様の世界に侵攻して、お父様の命を狙っている……そんな情報を手に入れた私達は、こちらも異世界へ直接乗り込み、お父様をお守りする事にしたのだった。

 

 魔王十二貴子……いずれもかつての魔王にすら、見劣りしない魔界の支配者達。

 

 向こう側の世界で、私達勇者の血族と奴ら魔王の血族とで、雌雄を決する事になる……それは確実視されていた。


 ……もちろん、私たちが無事に戻れる保証なんて誰にも出来ない。


 けれど、このまま、手をこまねいていて、お父様を見捨てるなんて論外だった。


 私達の世界は依然、魔族達の脅威に脅かされていたのだけど。

 魔王軍との決戦での人族側の敗北と言う絶望的な状況下で、お父様達が魔王を討ち取った事でかろうじて、私達は滅びを避けれたのだ。


 誰もがその事を忘れていなかったし、何より私達にとっては敬愛すべきお父様なのだ。


 お父様は、もう二度とこっちの世界に戻ってくることはないのだけれども……。


 あの戦いで、散っていった幾人もの人々。

 その中には、私達にとってお母様と呼ぶべき人だっていた。


 お父様達に未来を託して散って行った数多くの名もなき人々……。


 その人達のためにも、お父様は向こう側の世界で、残りの人生を安寧に過ごしてもらうべきだった。


 もちろん、こちらの世界だって問題は山積み……だけど、反対意見は誰からも出なかった。

 ……だって、これは私達にしか出来ないことなのだから。


 向こう側の世界に行った者は、かつて、お父様がそうなったようにマナ不適合を起こして、急速に衰弱し、確実に死に至る。


 そう言われていたのだけど……向こう側の世界の血を引くものは例外的に、向こう側の世界でも適応できる事が判明したのだ。

 

 皮肉なことにそれは、宿敵たる魔王軍からもたらされたようなものだった。


 魔王国執政、魔王十二貴子筆頭パルルマーシュ。

 魔王国の政治経済の頂点に立つゴブリニアスの女王にして、魔王の娘。

 

 そんなヤツなんだけど、秘密裏に人族側に接触を持ってきて、和平案を出してきたのだ。


 最初の段階として、一方的な魔王軍の戦線の縮小。

 驚くべきことに、これは、本当にそうなった。


 ……そして、他の魔王十二貴子の動向、タケルベお父様に迫る危機。

 そして、私達勇者の血を引くものならば、向こう側の世界に適応出来るはずだと、そんな数々の重要情報を奴は我々にもたらしたのだ。


 実際、異世界人だった魔王の血を引く魔王十二貴子は、自在に向こう側とこちら側を行き来して、交易すらもしている……そんな話だった。

 

 もちろん、魔王の子供達が適応出来たからと言って、私達も適応できるという保証はない。


 それに、パルルマーシュはそもそも魔王国の事実上のトップ。

 知恵者として知られる奴がなんの意味もなく、こんな情報をこちらに提供するはずもない。

 

 罠……その可能性も考えられた。

 けれど、私達は、向こう側に適応出来る可能性に賭けることにした。


 お父様をお守りする……それは私達にとっては、命を賭けるに十分過ぎる理由だった。

 それを考えると、ロナンの無念さはよく解ってしまう。


 けど、この王国じゃ、戦場で戦うのは女の役割なんだから……むしろ、当然と思ってほしかった。

 

 例え、私達が異世界で全員果てる事になったとしても、ロナンがこちらに残るなら、勇者の血は確実に後代へと引き継がれる。


 奥さん候補なんて、それこそ100人くらいいるし、女王レティシア陛下もその一人だ。

 当然ながら、ロナンには、ゆくゆくはこの王国を導く指導者となる事が期待されていた。


 戦いなんかの事よりも、女王陛下に付き従って、国を営む事について少しでも多く学んでほしいものだ。


 そのためならば、私達は捨て駒にだって喜んでなる。

 これは、私達三人の姉と四人の母親の切なる願いでもある。

 

 お父様は、男は戦場に立つべきだと言う考えの持ち主だったと言う話なのだけど。

 本来この国では、男達は後方で指揮を取ったり、皆を励ましたり、万全の状態で送り出すよう努めるのが、その役目。


 確かに、基礎体力や力では男のほうが強いのだけど、魔術適性では女達の方が高い上に人数も多い。


 であるからこそ、女こそ戦場に立つべき……それが私達の国での常識。

 その事に誰も文句なんて言ったりしなかった……それがむしろ当たり前。


 結局、ロナンはお母様達全員と女王陛下直々に説得されて、納得したようだった。


 かくして、この日の会議はロナンのわがまま以外は、それと言って問題なく順調にまとまり……。

 やがて私達の出立の日を迎えることになった。

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