幕間「とある元魔王の苦悩」③
ぶっちゃけさぁ……裏の秘密結社とか向こう側の世界の連中の事なんて、俺には手に負えないのよねー。
アウトオブコントロール! つまり、オ・テ・ア・ゲ!
もうなんなの? なんで、いつもいつも俺の努力はこうも簡単に踏みにじられるの?
俺はただ、皆幸せに仲良く暮らせればそれでいいと思ってるのにさー。
とりあえず、アサツキは、ちょっとした仕事を押し付けることで、動きは止めた。
もうあのオチャメさんと来たら、夜見子が捕われたって聞いて、ニューヨーク支社の仕事ほっぽりなげて、自力で空飛んで帰ってこようとしたくらいだったからな。
いくらなんでも、真っ当な人間として暮らしていくのに、マッハで太平洋横断とかやっちゃダメだろ。
アメリカ株式市場大暴落の兆しありって嘘んコ情報流して、現地の重役や他の会社の社長に頭下げて、緊急経済会議を開かせてやったんだ。
アイツ、責任感も強いから今頃、偉い人に囲まれながら一席ぶちあげてるだろう……まぁ、嘘なんだがね。
でも、嘘でも株式相場なんて動いちゃうからね。
実際、アメリカの平均株価がちょっと下がっちゃった!
ごめんね! アメリカのトロンペ大統領! 今度、来日した時、寿司でも奢るよ!
でも、アサツキだけじゃなく、他の我が愛すべきチャイルズ達も続々と岡川に向かっていると言うから始末に負えない。
ああもうっ! 12人もいると全員面倒なんて見きれないのよーっ!
なんか、向こう側で暴れてた暴れ牛みたいなアークボルト君の行方が解らないとかそんな話も出てるし。
もうちょっとこう……向こう側の事を知る総合窓口みたいなのが欲しいよなぁ……。
そして……当然ながらタケルベ達も現場へ向かうはずだった。
これもむしろ、当然の流れ。
「総社会」も何するかわからないし……。
もう、めちゃくちゃ。
岡川なんて、マイナー県に全てが集結しようとしているとかさー!
どうなってんのさっ! 責任者出てこいっ!
それに、やっぱり夜見子たんの安否も心配。
別に殺されたりはしてない……そう思いたいんだけど。
こればっかりは、タケルベ達次第……あの頃のアイツみたいに、蛮族思考のままだったら、最悪だ。
最悪、夜見子たん……ひん剥かれて、美味しくいただかれちゃうかも……。
ああっ! やめてーっ! R18タグ付いたらどうすんだよッ!
夜見子たん……なんで京都弁なのか良く解らんけど、超かわいいんだよね。
俺の子供たちの中でも最年少なんだけど、一番のお気に入りのプリティーJCロリ。
末っ子は可愛いっていうじゃない? だからこそ、夜見子たんを泣かすようなやつは俺が許さない。
許さない! 絶対にだ!
「やはり、ここは俺が行って、事態を収拾するしかあるまい!」
愛用の超豪華カウチベッドから立ち上がって、カッコよくポーズを取りながら、かっこいいセリフをキメる!
ああ、このままずっと俺のターンで、優しく子供たちの行く末を見守る黒幕でいたかったけど。
もう色々と限界のようだった……。
悲しいけど、これ戦争なのよね。
ただし、今の俺本人は……超弱いんだけどさ。
俺に与えられていた最強、最凶、最恐の無敵魔王の力……。
それ自体は向こうの世界の忘れられた女神様から、貸し与えられた力だったんだがね。
そんな力は向こう側での俺の死と共にとっくに、失われているんだ。
こっちの世界にも、魔術っぽいのがあるみたいなんだが、俺知らんし……。
殴ったり蹴ったりとか野蛮な真似しないし、出来ないしな。
でも、そんな野蛮な殴る蹴るとか、腕力とかぶっちゃけどうでもいいのよ。
なにせ、貧弱を絵に描いたようヤツだって、俺の作ったインテリジェントスーツを着込めば、無敵感ハンパない。
これすげぇのよ? 銃弾だって跳ね返すし、ナイフだって刺さらない。
さらに、筋力増幅機能付きで、鉄の棒をアメのように曲げたり、デコピン一発で岩をも砕くぜ!
格闘技プラグインをインストールすることで、素人でも達人級の技と動きをトレースすることで、もはや最強無敵超人と化すッ!
指パッチンひとつで前に立つヤツ、全員真っ二つだぜ……と言うのは嘘だけどな。
「無敵紳士田中谷生! ここにありっ! 超絶変身ッ! ムキムキマッチョのイケメンになぁれッ! ハイィイイイイイッ!」
ルームウェアのいい加減くたびれてきたジャージを脱ぎ捨てて、トランクス一丁になると両手をパンと鳴らす俺!
俺の叫びに呼応して、全自動お着替えマシーンが自走してくるとテキパキと「人工知能内蔵型筋肉増強紳士服」を着せてくれる。
なお、俺、突っ立ってるだけ。
「タニオ様、お出かけですか?」
俺謹製メイドロボ、マルティナちゃんがやって来る。
このコ、パッと見ちっちゃめのロリメイドにしか見えないんだけど、実はロボット。
俺の身の回りの世話担当のメイドロボ。
ハイパーAI搭載で、その受け答えはもちろん、外観も人間とほとんど変わりない。
実は、エッチな要望にも応えられるようにもなってるんだけど、俺、健全紳士だから明るいうちにそんな事しないし。
全自動装着マシーンがインテリジェントスーツを装着する傍らで、歯磨きとか髭剃りをやってくれる。
暖かい濡れタオルで色んな所もキレイキレイにしてくれちゃう。
身支度とか毎日面倒くさいからって、趣味で作らせたんだけど、老人や病人の介護に超使えるって評判で、マルティナちゃんのダウングレード仕様のが一般販売もされてるんだ。
だが、ロリ美少女風フェイスパーツは何故か不評だったんで、普及品は無機質なロボっぽい顔になったらしい。
ちょっと、人類には早かったとか技術の無駄遣いとかネットでは、散々に言われた。
俺は……ちょっと泣いた。
でも、一定数……この美少女タイプのメイドロボを購入する奴もいるらしい。
ふははっ! 偉い人には判らんのです!
お着替えもホントは、蒸着ッ! みたいにしたかったんだけどさ……今の技術じゃまだまだ無理なのよね。
SFの世界はまだまだ遠いなぁ……俺も宇宙で刑事したかったんだけど、残念っ!
でもでもっ! このスーツってば、袖口のとこが変形して両手ドリルになるのよ?
電圧を調整することで、弾性係数を自在に変化させることが出来る超絶特殊合金タニオニウム製繊維と、微小電圧で動く極小ナノモーターがそんな超絶ギミックを実現可能とした。
この先っちょ尖ったオサレ革靴も先っちょドリルになるから、俺のキックはもはや、無敵ドリルキック!
ヤベェ、カッコイイ! 愛してるよ! T&T先進技術開発室の皆ッ!
ちょっと唸れ正義の大回転カマしてくるおっ!
そして、最後にフェイスパーツがガキョンと俺のブサメンフェイスを覆い隠す。
彫りの深いイケメン外人風で髪の毛もフッサフサ。
ふふん……これが俺の表の顔。
『ジャン・ジャック・アルバトロス』
身長185cmの長身に、筋肉質のムキムキボディ。
カッコ良すぎる無敵ダンディ紳士。
さすがに、本当の俺……貧相なちびガリ眼鏡の中年おっさんの姿じゃ、カリスマに欠けるじゃなーいのさ。
ネット回線経由のTV会議とかなら、姿形なんでなんぼでも変えられるけどな。
俺自ら、リアルに動かざるをえない事もやっぱあるのよねー。
国内外の長官やら大臣クラスの大物政治家とかに会うときとか、犯罪組織系のヤッバイ人達と話つけに行くときとかさ。
やっぱ、その手合の連中相手にする時は、威厳ってもんが必要なわけ。
だからこそ、俺ってば外出する時は、この姿に変身するのだよ。
……あと、ちょっとコンビニ行ってくる時とか。
まぁ、最近増えてきた無人コンビニしかないんだけどね……この辺。
それでも、誰に会うか解かんないし、俺だってオシャレくらいしたいのよ。
ちなみに、足元は電動ローラー装備で時速60kmくらいで走れるのだッ!
階段だけは勘弁だけどなっ! バリアフリーをもっと推進しろよなっ!
あとボコボコで腐った舗装も何とかしろよ! 国土交通省ぉおおおおっ!
オメェら、ローラーダッシュ中に地割れや雑草に蹴躓いて、頭からアスファルトにめり込んだ事ねーだろ!
歩きスマホならぬローラーダッシュスマホやってて、手元が狂ってレイド戦ヘマった事なんてないんだろ?
ったくよーっ! おととい来やがれってんだ。
こちとら高額納税者だっ! 舐めんなっ!
かくして……一通りの準備を終えると、俺はマルティナちゃんをお供に、愛車であるトヨムラ「アレックス3500SP」の運転席に乗り込むと、行き先を告げる。
「岡川県作州市へ向かえ……運転はフルオート……道は任せる。近くに来たら、追って指示を出す! 征くが良い!」
『YES! Master Command acceptance, expected arrival time is three and a half hours later』(マスターコマンド受領、到着予定時刻は約三時間半後)
コマンド受領と到着予想時刻の無機質な音声が返ってくる。
やっぱ、この手のコマンドボイスは、英語ボイスが一番だろ。
理由、カッコイイから!
「三時間半もかかるのか……ちょっと長いなぁ。中国縦貫道通るなら、名城のSAでたこ焼きでも食ってくか……ちゅー訳で途中で寄ってね」
そう言って、自動リクライニングで座席をばったりと後ろに倒す。
マルティナちゃんがニッコリと微笑むと、俺の頭をナデナデしてくれる。
ああ、癒されるな。
『Route present after change』(ルートを変更します)
モニターに名城SA経由のルートが提示される……もう面倒くさいから、指をパチンと鳴らすと、画面にも受領サインが表示される。
これでもうほっとくだけでいい。
俺が何もせずとも、車はゆるゆると進んでいくと静かに山道を進んでいく。
やっぱ、超絶便利だねーコイツ。
あとは、昼寝でもしてれば、目的地まで連れて行ってくれる。
これ、最新式人工知能搭載のロボットカーの試作品なんだがね。
自動車メーカー最大手、トヨムラの社長が是非にと言って、俺にプレゼントしてくれたスッペシャルな代物だ。
運転手が寝ていても勝手に目的地まで走ってくれる完全自律制御車。
我が社の技術と日本が世界に誇る車両技術、各種ハイテクが融合して出来た超絶未来マシーン!
警察がゴネてたり、法整備が追いつかなくて、本来はフルオート車の公道走行は禁止されているのだけど。
すでに商用トラックの多くが公然と半自動運行をしているし、公共社会実験車両も結構な台数、公の場を走り回っている。
この「アレックス3500SP」もそのひとつだ。
今のところ、事故率は脅威の0%! 違反件数もゼロ!
……まぁ、今時、自動ブレーキも付いてないポンコツカーで居眠り運転してたアホにオカマ掘られたり、車道の真ん中で寝てた酔っぱらいを轢き殺しかけたりとかはあったらしいし、駐禁レッカーされたって例もあるにはあるんだけど。
うちのAIのせいじゃないだろ……そんなの。
見た目もカッコイイぜ? ボンネットの隙間から、赤いLEDが左右に揺らめくあたりは、昔懐かしの洋画のなんとか2000みたい! でも、残念……スーパージャンプはしないんだな。
ちなみに、車体には俺の今、イチオシのアニメ『アイドル魔法少女キラキラキラリーン』の主人公ルミ子ちゃんのイラストがバッチリ刻まれてる。
目の横でVサインを決める、オサレポーズをバッチリ決めて、スカートの裾からパンチーがチラっと覗く素敵仕様。
痛車じゃないのよ? デコレーションカー! あくまで、似て非なるものだ。
って言うか、スポンサーほぼ俺だし! 一応、タイアップ企画の一環で作られた特別仕様車なのだっ!
まさに俺専用、量産型の三倍は余裕?
「クククッ! ミュージックスタートォオオオ!」
ボイスコマンドを告げると、カーオーディオから大ボリュームで、主題歌「キラキラキラキラ、キラッキラッ!」が奏でられる。
高級オーディオ機器の名門、ボーシュ社製の12.1chスピーカーから、いつものイントロが始まる。
「キ、キ、キラキラ、キッラリンリン! キ、キ、キラキラ、キッラリンリン! ルミ子行きまーすっ!」
運転は、レキサーくんに任せて、俺のアニソン熱唱タイムが始まるッ!
完璧な防音性能を誇るこの車は、音漏れだって最小限なのだーッ!
「ヒャッホー! 今日も盛り上がって参りまっしたぁああああっ!」
んんんーっ! テンション上がってきたっ! 漲ってきたぞーッ!
あーあー、本日は晴天なり。
……最高のドライブ日和になりそうだった。
だが、この時、俺は……この一日がとてつもなく、長い一日になるなんて……。
想像だにしてなかったんだ。
タニオ編、一応終了。
お疲れ様でした。
次回も幕間、真面目少女騎士シャーロット編です。