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幕間「とある元魔王の苦悩」①

この幕間は、この物語の黒幕的存在、元魔王様の独白となります。

大変、ウザい人ですが、CV千葉繁さんでイメージしてます。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「とある勇者だったおっさんの後日談」においては、

 部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

                  Copyright © 2018 MITT All Rights Reserved. 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ……やぁ、諸君! はじめましてだな。


 我が名は、田中谷生たなかたにお

 

 フフフ! フワーハハハッ!

 ……どこにでもいるアラフォーのオッサンであるっ!

 

 でもね……実を言うと俺はだね……。

 

 異世界で魔王とかやってましたーッ!

 

 そう、魔王! 最凶無敵の魔王さまッ! まじで、まじでーえっ!!

 

 それはかれこれ、15年も前になるある日の事だ。

 一口食えば、トリップ出来ちゃう魔法のキノコを探しに、俺は単身南アルプスのとある山へと向かい……思いっきり遭難したんだな。

 

 だがしかーしっ! そんな山奥で光り輝く池みたいな……越界の門を俺は見つけてしまったのだよっ!

 そこをくぐったら……あら不思議、そこは異世界だったと!

 

 そこでなんとかって女神さんの導きで、絶滅の危機にあった魔族って言うちょっと顔色の悪い奴らを助けたんだ。

 当時の魔族ってさ……くっそ寒いペンペン草一本生えないような不毛の土地で、少ない食料やら資源を奪い合いながら、せせこましく暮らしてたような連中だったんだけどな。

 

 俺が、くっそ寒さに堪りかねて、ちょちょいと超絶パワーで休火山を軽く噴火させて、ついでに、温泉まで引き当てちまってな!

 言っとくけど、温泉ってもハンパな量じゃないんだぜ? 半径10kmとかあるような超巨大なヤツ!

 

 そんなもんが凍てついた不毛の大地に出来ちまったもんだから、軽く気候まで変わっちまってさ!

 あっという間に、緑豊かな土地に早変わり! 


 まさにっ! まさにっ! 神の所業ーッ!

 もう、あったりまえのように、皆、俺を崇め奉るようになっちまった訳よ!

 

 そのことがきっかけで、色々紆余曲折の末に、各地の魔族を片っ端から糾合したら、今度は魔王様なんて、おだて持ち上げられて……。

 

 ちょっといい気になって、割と好き放題やってたんだ。

 

 そして、俺は、魔族による魔族のため……古の魔術師達によって歪められた世界をあるべき姿へ戻す為の戦いを始めることとなーるっ!

 

 ……大陸各地に設置された要石と呼ばれる巨大魔法陣。

 それは大陸のマナのバランスを偏らせて、人族の領域にかき集める為の装置だった。

 

 それがあるが故に、魔族たちの領域は土地も痩せ、荒れ果てた荒野と凍てついた大地ばかりの不毛の地と化していたのだ。

 

 許せないよなー? 許せないっ!

 そんなものは、断・じ・てッ! 否ーッ!

 

 そんな不公平……あ、神が許してもッ! この俺がッ! 許さーんッ!

 

 そんな訳で、俺は魔王として、愚かで傲慢なる人間達に戦いを挑むことにしたのだッ!

 そりゃ、もう……お前達、もう遠慮はいらない! ガンガンにやっちまいなーっ! ってね。

 

 神の如き超絶な俺と、解き放たれた凶暴な魔獣、比類なき魔力を持つ魔族、竜族……その本気の前には、もはやちっぽけな人間達など塵芥のごとく、殲滅、粉砕ッ! 滅ぶが良いッ! ……となると思ったんだがね。

 

 結局、俺の魔王としての戦いは、決戦に勝って油断したところを、単身本陣まで乗り込んできた勇者に討ち取られると言う結末を迎えたんだよな……。

 

 つまり、デッドエンド! バッドエンド! クッソエンドッ!

 

 魔王タナカ・アルバトロス・タニーオ一世の野望は、儚く潰えたのだったぁッ! 

 

 もっとも、その結末自体は……俺は魔王としての最期の瞬間に、何もかも受け入れていたから、今更何も思う所はない。

 俺は俺なりに全力を尽くしたし、むしろ、勇者にも敬意を抱いてたくらいだったからな。

 

 あのまま、終わっても何一つ悔いはなかった。

 

 我が人生に一欠片の悔い無しってヤツ?

 

 散り様としても悪くない。

 むしろ、納得行くやつだったし、正直、俺は誰かに止めて欲しい……そうも願ってもいたんだ。


 結局、俺は性急過ぎたんだよ……。

 

 人間は敵、そう決めつけて……その過程で消えていく命のことなんて、何も考えてなかった。

 どちらかを滅ぼし尽くす、殲滅戦争なんて、俺は望んでなかった。

 

 軍勢を打ち負かし、城を落とし、王を殺し、国として粉砕して……そこまでやっても、今度は力なき市民共や農民ですら、死に物狂いで反撃して来る……まさに、最後の一人まで……。

 俺が仕掛けた戦争ってのは、まさにそういう物だった。


 そんな地獄のような狂気の戦いの中、一人、また一人と馴染みの魔族達も消えていった。

 俺が愛した奴らも同様……勇者の仲間と刺し違えたり、勇者に討ち取られたりと……。

 ……気がつけば、俺は孤独になっていた。


 果てしなく、増大していく憎しみと悲しみの連鎖。

 

 気がついたら、それはもう誰にも止められなくなってしまっていた。

 

 俺は……間違えていたのだ。

 そして、その事に気付いた時点で、とっくに引き返せなくなっていたのだ。

 

 だからこそ、あの結果は……当然の報いとして、粛々と受け入れるべきものだと、納得していた。

 

 そう思っていたんだが……。

 向こうの世界のもう一人の女神様の計らいとやらで、異世界で討たれ果てたはずの俺は、元の世界に戻ってきてしまった。

 

 こっちの世界では、俺は30代のニートなんて、笑えない境遇で、親に死なれ、兄弟にも見捨てられて、人生に絶望してたんだがね。

 

 本当の事を言うと、南アルプスの山中で遭難したのだって、いっそ、そんなくだらない人生を終わらせてしまおう。

 ……そう思ったからだ。

 

 けど、向こうで5年にも渡って、魔王なんてやってた経験を活かして、生まれ変わったと思って、人生の再起動を試みたんだ。


 そして……あれから、10年の年月が過ぎた。

 

 俺は、独自開発のOSと超高度な人工知能を売りにして、日本のハイテク産業を牽引する世界屈指のIT企業「T&Tカンパニー」のCEOにまで出世していた。

 

 なにせ、俺は向こうの世界で、魔術を使った人造人間のような兵隊やら、自らの意志で動く石像……ゴーレムやらで大軍団を作っていたくらいだったからな。


 それ自体は、質はともかく数で劣る魔族の不利を補うべく、俺が既存技術を元に独自に進化改良させて作り上げたんだがね。


 人間の雑魚兵士の相手程度は問題なく出来た上に、文字通り湯水の如く湧いてくる数の暴力を実現できたんで、まずまずの成功作だったと言えよう。

 

 さすがに、アレは向こう側の魔術技術があってこそ、完成した代物で、こっちで再現なんて初めから不可能だったのだが。

 その時、培った人工知能理論やシステム制御概念……そう言ったものに関しては、話は別だ。


 向こうの世界では、ゴーレムやら人造人間を自律稼働させる為に、人口魂魄とか精霊、そんなもんを使ってたんだが。

 その開発ノウハウがそのまま、人工知能開発の役に立ったのだよ。

 

 突き詰めてしまえば、魔術による人工生物もコンピューターテクノロジーも大差なかったんだな……これが。

 知ってるかい? クラークの三法則のひとつ「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」って言葉。


 まぁ、詳しくは省くけど、それら俺独自に培ったノウハウをこちらの世界のコンピューター技術と組み合わせた結果。


 俺は、こちらの世界のコンピューター人工知能に革命的とも言えるブレイクスルーを起こすことに成功し、この日本という国のIT産業やロボット工学、人工知能技術を軽く10年位加速させたと言われる程の、超絶過ぎる業績を上げてしまったのだ!

 

 俺の偉業はそれだけに留まらず、やはり独自開発したタキオン・グローバルシステムと名付けられた汎用人工知能型統合OS。

 

 それは、それまでのPC標準OSウィンディーズで、有名なマイクロボルト社や、スマートフォンで世界を席巻したグローム社とそのライバル、パイナップル社と言ったライバル企業をかるーく蹴散らして、ワールドワイドグローバルスタンダードOSとして、もはや世界規模で普及するまでに至ったのだっ!

 

 20世紀末期から21世紀に入って、爆発的に発達したコンピューターテクノロジー。


 そして、それらコンピューターデバイスを制御するOS。

 それを統べるものは世界を統べる……言ってみれば、簡単な理屈ではあるんだが……。

 

 それ故に、ちょっと俺、本気出してみた……その結果がこれだ。

 世の中では、10年未来を先取りした超絶OS……そんな評価をいただいてしまってな……フフッ。

 

 ちょっと、俺やっちまったかな? さすが俺! やべぇぜ、俺! まったく、参るなぁ……天才過ぎてッ!

 

 もっとも今では、半ば隠居して琵琶湖の畔に建てた小さなログハウスで、一人ひっそりと暮らしながら、時よりネット経由で会議に出たり、現場のアドバイスをしたりと……気楽な隠居生活を堪能しているのだがね。


 まさに、成功者の中の成功者! 富も名誉も自由自在。

 向かう所、敵なしって感じの俺、最強無敵! ヒャッハーッ!

 

 ……っと、少しばかりテンション上げ過ぎちまったな。

 少しは押さえないと……頭おかしいって思われちゃうな……失敬、失敬。

 

 とは言えども……実は、最近になって、ちょっとおかしな事になってきたのよねー。

 

 異世界からの来訪者。


 本来ならば、それはあり得ないはずなんだが……俺の血を引く者達は、その不可能を可能としたのだ。

 要するに、俺の子供達が……こっちの世界に続々とやってきちゃったのだ!

 

 ……なにせ向こうじゃ、俺、魔王様だったからな。

 俺が望む望まない関係なしに、魔族側の各種族が俺に嫁を付けてくれてな。

 

 断るのも不和の元だし、全員初っ端好感度MAXのチョロイン状態だった上に、ご丁寧に皆、俺に合わせて人化の秘術で人間の姿になってくれてな。


 据え膳食わぬはなんとやらってヤツ? なんでまぁ……俺の血を引く子供たちってのが何人も出来ちまったんだな。

 

 当然ながら、そいつら全然こっちの常識とか知らない。

 そんなんで、一体何しに来たのかというと……。

 

 実は我が宿敵、勇者タケルベもこっちに戻ってきていて、俺の子供達と来たら、タケルベを倒したやつが優勝! 次期魔王に決定!


 そんな事を言い出して、身内争いをこっちの世界で始めたのだ!

 

 そりゃもう、俺としてはたまったもんじゃない。

 当然ながら、俺が出ていけば丸く収まると言うことは解っていたんだが。

 

 俺がこっちの世界で生きていると知れてしまうと、向こう側に呼び出されたり、いっそこっち側に侵略しようぜとか、絶対面倒くさいことになる……と言うか、確実にそうなる事が予想された。

 

 そんなもん……全力で阻止したいし、魔王に復帰なんて冗談じゃない。

 俺はもう疲れたのだよ……侵略とか戦争とか、殺し合い……そんなのは、ゲームだけで十分。

 

 現実世界ですら、海外行きゃ、グダグダ、ガタガタと年中無休でどっかでやりあってるんだから、異世界のグダグダをこっちに持ち込むとか、もうっ! 君たち、全員バカかアホかとっ!

 

 正直、ぶっちゃけめんどくさいッ!

 

 だからこそ、人を使って、連中を陰ながらサポートして、その行動をコントロールしつつ、こちらの世界に迎合するように取り計らったんだわさ。

 

 その辺の試みは実に上手く行った。

 

 筆頭のパルルちゃんって娘が結構な出来物で、上手く立ち回ってくれたってのもあるんだけど、全員こっちの世界で相応の身分や居場所を確保して、すっかりこっちに居着いちゃった!


 いやぁ、よがったよがった! 


 だって、あいつら……俺にとっては、愛すべき娘、息子達なんだもーん。

 全員、写真や遠目で見るくらいはしたけど、皆、ひと目で俺の子供だって解った。


 いやぁ……ちょっとねぇ……。

 さすがの俺も人の親としての愛ってのに、目覚めちまったみたいなのよ。

 

 そんな愛すべき者達が相争うとか悲しいし、こっちの世界で妙な騒ぎを起こして、こっちの世界を敵に回して……とかさぁ。


 そんな展開にはさせたくなかったのだよ。

 

 それに、あっちの世界は弱肉強食の殺伐とした世界。


 俺が中途半端にマナの制御システムだった要石をぶっ壊しちゃったから、割りと滅亡待ったなしとかそんな有様なのよね。

 パルルちゃんとか頑張ってるみたいなんだけど……たぶん、もうどうしょうもない。


 なにせ、あれ……全部壊してこそ、意味あるんであって、中途半端に壊したら、マナの偏りが悪化するだけ。


 俺の計算だと、今頃、大陸の八割は不毛化してるだろうし、僅かばかり残ったであろう人族の領域もマナが集まりすぎて、たぶんある日突然、跡形もなく吹っ飛ぶ。


 原理としちゃ、核融合爆発みたいなもんだ……破壊力も水爆くらい行くと思う。

 

 俺は、タケルベにもその辺、説明したんだけどな……アイツ、アホだったし、全然俺の話し聞かねぇんでやんの。


 ……まぁ、俺もどうせ話しても解らないと、初めから諦めてたんだけどな。

 それもまた……俺の過ちだ。

 

 要するに、あっち側の世界はもう詰んでる。

 だからこそ、せめて俺の子供たちだけでも、こっちの世界で皆、幸せに面白おかしく平穏に暮らして欲しい。

 俺も人の親ってヤツなんだから、その為ならなんだってしてやろう……そう思ったわけ。

 

 幸い俺には、こっちの世界では並ぶ者無しってなくらいの超絶な財力とコネもあった。

 世界を変革することすら、やろうと思えば不可能じゃない。

 

 それくらいには、超絶な俺ッ! ホント、ヤバすぎて手が震えるくらい!

 俺は、無力なニートでも一般人でもない……何と言っても、俺は向こう側の世界の元魔王様なのだ!

 

 ちょっとその気になれば、なんだって出来る。

 

 だからこそ、やりようはいくらでもあった……素晴らしい! 俺、ジャスティースッ!


 その甲斐あって、今では、我が子達はすっかり日本の社会に迎合して、時々向こうの世界に戻っては性懲りもなくちょっかいを出してくる人間達との戦いに介入したり、対立する魔族同士の闘いを調停したりとかしているらしい。

 

 お互いライバル関係と言っても、利害関係が一致してれば、衝突する事もない。


 あの子達も、日本という国で平穏な日々を送るうちに、ここがどう言う世界なのか理解して、理性ある行動をしてくれるようになった。

 

 まぁ、これも教育の賜物ってやつ? と言うか、俺、マジ天才ッ! ヤバスッ!

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