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第二話「とあるおっさんの若さ故の過ちと言うやつ」②

「なぁ、アルマリア。お前は……こっちにいて大丈夫なのか? こっちの世界だと、お前達、異世界人はマナの供給が途絶えて、生きれないはずじゃないのか?」


 当然の質問をしてみる。

 

 もしかしたら、彼女はこっちに来たばかりなのかもしれない……。

 実際、マナの供給が受けられなくなっても、即座に死ぬ訳じゃない。

 

 何日もかけて、徐々に弱って、衰弱して死に至るのだ……。


 逆を言えば、数日なら異世界に滞在することも可能なのだが。

 俺は、もうあんなもの……二度と経験したくないと思っていた。

 

 飲めない食えない、呼吸すらもままならず、酸欠のような症状が果てどもなく続く……生殺しの生き地獄のようなものだ。


 結局、加護を失ってまともに動けたのは、わずか2日程度だった。

 こんな子供があんな苦しい思いをするなんて、想像すらしたくない……そう思ったのだが。

 

「……私の場合、半分はお父様の血が流れてますから、問題ないみたいです。私も半信半疑だったんですけど……こちらに来てから、すでに3日ほど経ってます。でも、マナの供給は問題ないし、レデュスレディアにいる時と変わりませんよ。魔術も威力が落ちてる気もしますけど、割りと普通に使えますし、剣技の類も使えます……。この世界の鉄の魔獣、なかなか厄介でしたけど……寝てる所を襲ったら、簡単に倒せました!」


 なるほど、俺の心配は……杞憂だったらしい。

 確かに、三日もこっちにいるにしては、元気過ぎる……若干疲れてるように見えるけど、アレはこんなもんじゃ済まない。


 要するに異世界人とのハーフで、半分こっちの人間でもあるから、どちらの世界にいても問題ない……そう言うことらしかった。

 

 なんとも都合のいい話なのだけど……考えてみれば、ハーフってのは良いとこ取りだったりするし……。

 と言うことは……二つの世界を往来するのに何の制限もないと言うことか?


 来たい時に来れるし、帰りたい時にいつでも帰れる。


 なんだそれ? すごく羨ましいんですけどっ! 俺も……あの世界に戻れるなら、戻りたい……。

 戻りたいんだがって……いや、ちょっと待て!


 なんか最後に妙なこと言わなかったか? ……こいつ。

 

 そういや、つい先日……なんか近所でバスが真っ二つにされたとか、妙な事件があったような。


 地方紙の片隅に、ちろっと載った程度で全国ニュースにはならなかったけど……。

 すごく、こいつの仕業っぽいのだけど……とりあえず、聞かなかったことしよう。

 

 と言うか、バスを真っ二つにするとか……ちょっとやばいんじゃないか、こいつ?

 

「と、ところで、お前は何しにこっちに来たんだ? 俺を頼ってくるって事は向こうで何かあったのか? それにテッサリアから、何か伝言とか預かってないのか?」


 俺はそれ以上考えないことにして、何もかも棚上げする……だって、俺のやった事じゃないしっ!


 そんなことより、アルマリアに聞きたいことはいくらでもある。

 向こうの世界があれからどうなったのとか、俺の嫁……仲間達のその後とか……。


 人類連合軍だって、魔王軍に対抗するために勇者たる俺を旗印に、諸国が寄り合い所帯的にまとまっただけで、その上戦争自体は完全に負け戦だった。


 魔王を倒したことで、魔王軍の侵攻自体は止めたのだけど、問題は山積み……ぶっちゃけ何も解決していない中、強制退場させられたようなものなのだ……。

 

 おまけに、当然ながら向こうからの連絡や便りも一切なし……女神様だって、あれっきり。

 まるで、打ち切りでも食らったかのような有様だったのだ。

 

 けれど……俺の言葉に、アルマリアは俯くとグッと唇を噛む。

 

「はい……実は、お母様は……お母様は……」


 そこまで言うと、言葉を切り、ポロポロと泣き出してしまう。

 

「す、すまない……」

 

 この様子……もはや、最後まで聞くまでもなかった。

 そして、何故彼女が俺のところまでやってきたのかも、理解できた。

 

 テッサリアのことを思い出す。

 

 いつも俺の背中を守っていてくれた最初の仲間。

 出会ったきっかけも……ゴブリンに襲われてる所を助けに入って、知り合ったんだったかな。


 もっとも、俺自身それが異世界での最初の戦いで、何とかゴブリン共を追い払ったもののボッコボコにされて……。

 テッサリアが治癒術で助けてくれなかったら、異世界の冒険……いきなり終了となるところだった。

 

 最初の頃は、お互い勝手も解らず、テッサリアもいつもヒステリックに喚いたり、ちょっとした事で泣いてばかりいたけれど……。

 戦いを重ねるごとにドンドン頼もしくなっていって……。

 

 最終決戦を迎える頃には、俺の背中を預けるに足るパートナーになっていた。

 単なる治療役かと言えば、そんな事はなく……ある出来事をきっかけに、向こうの世界でもレアな飛行能力に開花して、縦横無尽の活躍を見せた。


 なんだかんだで、俺ハーレムの筆頭嫁みたいな感じになってて、皆を仕切りまくってた。


 「蒼穹の癒やし手」とかそんな二つ名持ちだったな。


 ヒーラーのくせに、弓を片手に空カッ飛んでワイバーンと空中戦やって落とすとか、もう半端じゃなかった。

 

 ……そうか。


 あのテッサリアは……もう居ないのだ。

 アルマリアの様子から、その事を俺は理解してしまった。

 

 俺だって、そこまで鈍感じゃない……。


 飛翔乙女ヴァルキュリアと呼ばれる魔族の血を引いてたせいで、人一倍苦労して……誰よりも責任感が強かったから、頑張りすぎたのかもしれない……。


 けど、あいつの忘れ形見と言うことなら、この娘の面倒を見る……それはむしろ、当たり前の事だった。

 

「……アルマリア、事情は大体解った。お前さん一人くらいなら、養ってやれるから、安心してくれ。でも、どうするかなぁ……お前の年だと、小学校とか通わせてやらないとだし……色々忙しくなりそうだな」


 この娘、年齢……逆算すると多分9歳とか10歳とかそれくらいかな? その割には、やたらしっかりしてる様子なんで、もうちょっと行ってるようにも見えるけど……どっちにせよ小学生。


 本来なら、学校に通ってるのが当たり前なのだけど、小学校に通わせるとなると、戸籍とか無いと無理な話だし……。

 

 でも、普通に日本語話してるから、言葉も問題ないし、見た目も髪の毛は真っ黒だし、目の色が緑なのと、ちょっと南方系が入ってるように見える感じだけど、普通に日本人で通じそうだった。

 

 顔も……なんか眉毛の形とかすげぇ見覚えある感じだし……耳の形なんかも俺そっくり……。


 多分、他人が見ればひと目で納得するとか、それくらい親子してるような気がする。

 

 でもまぁ、日本人が外国の娼婦とかの間に出来た子供を認知して、引き取ったって話も聞いたことがある。


 遺伝子検査とかで親子証明出来たら、何とでもなりそうな気がする。

 うーん、さすがに国籍法とか詳しくないから、弁護士とかに相談してみるかな。

 

「あ、あの……お父様、私は……こっちで暮らしたいとか、そういうんじゃ無いんですっ!」


 ……俺なりに色々考えていた所だったんだが、彼女の一言で我に返る。

 

「え? だって、こっちに来たのは身寄りがないから……とかそう言う事なんじゃ……」


「私は……お父様をお守りする為に、ここに来たんです!」

 

 決意を秘めた目で俺を見返すアルマリア。

 

 正直、予想外だった。

 

 責任取って、面倒見ろということなら解るが。

 俺を守りに来たって……意味が解らない。

 

 そもそも、現代日本で暮らしている限り、命に関わる事なんて、早々無い。

 

 あってもせいぜい、交通事故や病気くらい……。

 登山とか海釣りとかやってると、遭難とか高波にさらわれるとかありえるけど……そんな無茶するほうが悪い。

 

 ……普通に暮らしていて、誰かに守って貰う必要なんてない。

 こっちの世界はその程度には安全なのだけど……。

 

「守るって……俺を? 誰から? どうやって……?」


 当然の疑問をぶつけてみる……そもそも、命を狙われるような心当たりも無かった。

 

「お父様……最近、体調が優れなかったり、妙な事故に巻き込まれたりしませんでしたか?」


 ……言われて、先月の健康診断で、医者から念の為に精密検査を勧めるとか言われてたことを思い出す。


 大した事無いとタカをくくって、実際に精密検査を受けるまでは至っていないのだけど、医者がエラく深刻な顔をしていたのは確かだった。


 それに……つい先日も居眠り運転のダンプカーに轢かれかけて、九死に一生を得たばかり。

 

 先週は、現場で足場の解体中に、危うく鉄パイプの下敷きになる所だったし、その前は目の前で重機が横倒しになったりと、今月に入ってからはトラブル続きだった。


 こっちの世界では、魔術の類は使えないのだけど、向こうで鍛えた反射神経や体術なんかは、ほぼそのまま。


 筋肉だって、行く前は割りとヒョロガリだったけど、戻って来る頃にはムッキムキの筋肉マンになってたからな。

 さすがにあれは、何があったと驚かれたっけなぁ……。


 とは言え、筋トレとかはサボりがちだし、剣術とか使う機会もないから、実戦の勘とかは鈍りきってるのは確かだろう……。

 ちなみに、最近ちょっと腹が出てきた……6つに分かれてた腹筋も今や見る影もない。

 

 それでも、とっさの危機回避能力とかは、割りと健在で……それ故に先日の居眠りトラックなども、割りと危なかったのだけど、ギリギリで回避出来ていた。


 でも……冷静に考えてみれば、一歩間違えたら死にかねない状況が短期間で、ポンポン起きてる時点でおかしい。

 それに、起きがけの倦怠感とか、心臓の痛みとか……色々体調面でも気にはなっていた。

 

「その様子だと……心あたりがあるようですね……やっぱり」


 アルマリアが深刻な様子で告げる。

 ……なんとなく、良くないことが続いていて、呪いの類なんじゃないかとか、同僚や知り合いに茶化されていたのだけど。


 そうだった……呪い……呪詛のたぐいは実在するのだ。

好評っぽいので、もう一発!

出先なんで、今日はもう無理ざんす!

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