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第九話「とあるおっさんの危険な夜」②

「よし! 冗談はその辺にしとこうか! 脅しとしては十分だろ。ヨミコ! お前もそろそろ自分の立場ってもんが解ってきただろ?」

 

 俺が笑顔でそう言うと、ヨミコも黙って、首を縦に振る。


「解ればいいんだ! 解れば! ひとまず、ふんじばったりする気もないから、少しは肩の力抜いて、茶でも飲め! 毒なんぞ、入ってないから安心しろ」


 俺がそう言って、ペットボトルの茶をグビリと飲むと、心底安堵したような様子でヨミコも肩をすくめて、コップに注いでやったお茶を一口。


「なんや……冷めとるやんけ、おまけにやっすい茶っぱ使いよって……ホンに舐めとるな」

 

 ピキピキッ! なかなかいい根性してるな……コイツ。

 小声ながらも、堂々と出された茶にケチつけるとは……まぁ、実際100円ショップで買ったクッソ安い茶なんだがね。


 けれど、冗談じゃないのに……と、アルマリアがボソッと呟くのが聞こえたのか、ヨミコも姿勢を正す。


「せ、せやな! うちも……なるべく、話せることはちゃんと話すつもりだったんや! アルマリアも知らん仲じゃないんだし、ホンマ冗談きついなぁ……つか、堪忍してつかぁさい!」


 そう言って、正座したまま膝ジャンプして後ろに下がると、見事なまでの土下座をキメる。


 なんか、さっきと言ってることが違う……超高速手のひら返し!

 なんだろね? この随所に漂う小物臭……。

 

 そして、ジリジリとアルマリアから距離を離すヨミコ。

 

 だが、その先には祥子がいる……ドンとぶつかって、振り返ったヨミコはそのまま凍り付く。

 祥子もさすがに、これ以上脅すつもりもないようで、ニコリと優しげに微笑む。

 

 なお、ヨミコをサッカーボール状態にしてたときも、同じように微笑んでいたのを俺は知っている。

 

 ヨミコも傍目で分かる程度に、ガクブルと震えている。

 どうでもいいけど、本当に漏らしたりするなよ?

 

「さて……ヨミコ、まず俺の所在はお前らにどこまで伝わってる? 素直に白状したほうが身のためだぞ?」


「は、はいなっ! うち素直になるわーっ! 勇者はんが何処にいるかってのは、まだ殆どの兄弟達は知らへんのです! なんせ、うちだってあっちこっちに使い魔放って、たまたまおっちゃんの事、見つけたってだけなんや……でも、うちのお兄にはきっちり、ばっちり伝えてしもうたんや……ごめんなさい! 堪忍したってやっ!」


 そう言って、もう一度深々と土下座。


「……お前ら魔王の子供たち同士って、お互いライバル関係なんじゃないのか?」


「お、お兄は妹思いの優しいお兄なんや! さすがに実の兄妹で争うほど、うちらもアホやないで! まず、うちが呪詛で勇者はんを弱らせて、それが駄目やったら、お兄が直に挑んで、とどめ刺すっちゅう話になっとったんや! 今回、うちが勇者はんに喧嘩売ったんも……向こう側から、うちら同様異世界で動けるアルマリアが出てきたもんで、軽い小手調べのつもりやったんや! ……けど、思わぬ伏兵が居て、コテンパンにやられてしもうたんやけどな!」


 そう言って、ヨミコが祥子に視線を送ると、祥子が自分を指差す。

 

 この様子だととりあえず、軽く喧嘩売って、戦力評価する……つまり、威力偵察のつもりだったらしい。

 確かに、実際数の暴力で押されて、アルマリアとも分断されて、危い状況だった。

 

 ついでに言うと、ヨミコも……あの時、逃げる気満々だった。

 おそらく、俺とアルマリアだけだったら、まんまと取り逃がしていただろう。

 

 こいつの計算外は……アルマリアの大魔術を無傷で凌ぐほどに強力な防壁を、あっさり無力化した祥子の存在だった。

 それに向こう側の強力な魔術をたやすく防いだ、謎の結界術。


 アルマリアも祥子のこと、全然お構い無しで、奥義なんてぶっ放してたけど、あの位置関係だと普通に、巻き込まれていてもおかしくない。

 ……にも関わらず、祥子はまるっきりの無傷だった。


 実際、アルマリアの話だと、一発流れ弾が直撃してたとかなんとか……おいおい。


 ……祥子、どんなチートだよ。


 どう言う仕組みなのかすら解らないけど、事実上、向こう側の魔術を完全無効化するようなもんだ。

 コイツ相手に勝つとしたら、直接白兵戦でド付き合って競り勝つくらいしか打つ手がないような気がする。


 もし10年前、祥子が向こうの世界にいたら、魔王なんて文字通り一蹴で人類大勝利、だったんじゃないの?

 さすがに、理不尽すぎるだろう……。

 

「あ、あたしが伏兵って……。あはは、いやねぇ……あたしなんて、ついカッとなって、ヨミコちゃんにお仕置きしちゃっただけじゃない。別に魔法とか使えたりなんかしないしさ……何、言ってんだか。あはは……」


「ヨミコ……あなたの使った防壁の強度はどの程度でした? 私はクラス4までなら破壊出来る……それでも、あなたの防壁を突破できなかった」


「さすがやな……うちも似たようなもんやけど、防壁に関しては最大出力ならクラス5相当や! どやっ! うちの勝ちやな」


「相変わらず、守りに関しては鉄壁なんですね……厄介なヤツ」


 アルマリアが何とも悔しそうな顔をする。


 いやいや、普通にすげぇなコイツら。

 ……俺の最盛期でもクラス3の防壁しか作れなかったんだがな。

 

 ちなみに、クラス3の魔術防壁は厚さ50cmくらいの鉄板に相当する。

 ……いわば、戦艦クラスの防御力。

 

 さっきのクレイゴーレムの鉄拳パンチくらいなら、余裕で止めるくらいには硬い。

 

 アルマリアはその上のクラス4の防壁も破壊……となると、その火力は一人で戦艦や戦車を倒せるレベルって事だ。


 レベル5の防壁なんて、恐らく現代兵器でも歯が立たないくらいの代物だ。

 こいつらやっぱ、ハンパねぇ。

 

 どうもヨミコは攻撃力はないが、防御は優秀って感じだった。

 まともに戦ってたら、全盛期の俺ですら厳しいかもしれない……。

 

「アルマリア……祥子の事をお前はどう思った?」


「……そうですね。強力な抗魔術結界の使い手……そんな風に思います。祥子さんは自分の周囲にあらゆる魔術を無力化する結界を無意識に作れるのではないでしょうか? ただ、私達と明らかに違う魔術体系のようなので、さすがによく解りませんね」


「せやな……うちの防壁も、壊されたと言うよりも、バラってほどけたって感じやったよ。あの結界も魔術によって引き起こされた疑似物理現象そのものを打ち消す……そんなんやった。祥子はん、あんた一体何者なんや?」


「あ、あたしに聞かれても解かんないよ! 別に御札出して、臨兵闘者……とかやってないし、魔法とか結界とか……ああ、でもどうなんだろ? ごめん! やっぱわかんないわ! あはは……」


 確かに、無意識に発動したとかそんな感じだったしなぁ。

 だが……少なくともヨミコやアルマリアでも対抗するのは難しい……その程度には、祥子の能力は強力のようだった。


 ヨミコが俺達に真っ向から歯向かったり、逃げようとしないのは、おそらく祥子の能力を測りかねているからだろう。

 なかなかどうして、頭の良い奴だった。

 

「なるほど……現時点では、解らないことだらけだな。何と言っても本人が解ってないんじゃどうにもならん。今度、ケンゾーさんにでも色々聞いてみるしかないか。それより、ヨミコ、次の質問だ……お前の戦闘力は魔王の眷属の中ではどの程度なんだ?」


「ふっふっふ……うちは、魔王12貴子のなかでも最弱なんや! なんせ、うちは第12子……つまり、ドベや! どや、ブルったか?」


 出たよ……最初の相手が一番の小物ってパターン。

 これで、ドベって言ったら、他はどんだけなんだよ……つか、12人もいるのかよ……めんどくせーなぁ。

 

「あ、解った! いわゆる噛ませってやつね! アニメとかの第一話とかで最初に出てきて、ちょっと暴れて調子に乗って、主人公を覚醒させて、返り討ちにあって、死んじゃうような奴ね!」


 ……祥子が笑顔と共にヨミコをディスった。

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