第七話「とあるおっさんの割りとゆるいたたかい」②
「や、やるなぁ……何をやった?」
「あれは、頭部にコアがあるので、そこを狙いました。あとは剣を伝って、直接内部に純魔力を放出し、コアをオーバーロードさせて破壊……これが一番効率いいです。あんな大きなのとまともにやりあえるほど、私強くありませんからね」
いたって、冷静な様子のアルマリア。
……5m級の大型クレイゴーレムを一撃で仕留めておきながら、強くないとか……俺、どうなんの?
向こうの世界で、正面からアレとやり合った時は、身体強化魔法とかてんこ盛りで、馬鹿でかい棍棒で正面から殴り合ってたんだけど……俺、立場ないな。
頭部が弱点なのは、知ってたけど……普通に戦うと頭に攻撃が届かないのよっ!
だから、手足とかを殴って殴って殴りまくって、倒れたところを頭をぶっ叩く!
攻略法としては、こんなもんだ。
飛び道具系の攻撃で頭を壊せば、てっとり早いのだけど、相手もしっかり防御するし、そもそも俺の扱う魔術って……基本的に強化型のパワーアップ系中心だったから、遠距離戦はいまいち。
その代わり、単純にパワーと防御に全振りみたいな調子だったから、シンプルに強かったんだけど……。
「ねぇ、二人共なんでそんな冷静なのよっ! なんなの! これっ! アルマリアちゃんも何、今のっ! 一歩まちがってたら死んじゃってたよっ!」
祥子は、いよいよパニックになっているようだった。
けれども、今度は背後に二体……やっぱりクレイゴーレム。
祥子を落ち着かせているような余裕はない……。
何も言わずとも、アルマリアは姿勢を低くして、駆けていく。
俺も祥子を背中にかばうと、建物を背に祥子を下がらせていく。
この分だと、いきなり目の前に湧いてきてもおかしくない……これはヤバイな。
「あれは、敵……俺達を殺す為に送り込まれてきた。だから、アルマリアも戦ってる。でも……アルマリアなら心配いらない……戦いに関しては、アイツは専門家だからな」
剛力、倍速、防壁……強化魔法をいくつも発動させているらしく、恐ろしいスピードで二体ものクレイゴーレムの猛攻を軽くあしらっている。
けれど、なんかしっくり来ないようで、ちょっと離れると自分の身体をしきりに眺めてる。
と思ったら、スカートの裾を剣で縦に切り裂き始めた。
腰のあたりに届くような大胆なスリットがスカートの両側に出来る。
子供用のワンピースが、まるでチャイナ服のような感じになるのだけど、当然ながら両サイドからはパンツが丸出し状態……。
更に、何を思ったのか、その可愛らしいフリフリ付きのパンツをスパッと脱いで、そのへんにポイッ!
「ア、アルマリアちゃん! 何やってんのよーっ!」
祥子が顔を赤らめて絶叫する。
俺も同感、なんでパンツ脱ぐの? 意味わかんないよ……アルマリア。
けれども、応える代わりにダイナミックに足を広げながら、上段回し蹴りでクレイゴーレムの鉄拳を見事なタイミングのカウンターを当てて、その軌道を逸らす。
ゴーレムは地面をぶん殴った上に、思い切り前のめりになって姿勢を崩してしまう。
アルマリアも、蹴りを放った勢いのまま、飛び上がって身体を半回転させるとゴーレムの頭部に踵から蹴りを入れる!
爆裂魔法をゼロ距離で炸裂させたらしく、ドカンと派手な音がして、ゴーレムの頭部が木っ端微塵になると、動かなくなる。
今の動き……なに? 俺ですら、何やったのか良く解らないくらいの超スピード。
なんか、パンツ脱いだら、いきなり動きが凄いことになったんですけど……。
続いて、もう一体に襲いかかるのだけど、建物の壁を蹴って、空中に一瞬壁のようなものを作って、それを足場に空中を駆け回る!
ずっと空中を飛び回って、四方八方から襲いかかって、完全にワンサイドフルボッコ状態。
なんだありゃ……。
アルマリアって……パンツ履くと弱体化でもするの?
それに、アーチャー系じゃなかったの? 君。
と言うか、この空を駆け回る独特の戦い方……見覚えある。
猫耳猫しっぽの双剣士のラファン、向こうの世界の嫁の一人。
たしかアイツもこんな感じで、蹴り技を多用する独自の体術を使ってた。
ちなみに、ラファンは一言で言うといわゆるケモナー。
半人半獣の猫人間だ。
身軽さを信条にするスピードファイターで、服なんか着てると、突っ張って動きが制限されるからとか、そんな事を言ってたし、その理屈は解らないでもないけど。
ラファンの場合、マント一丁とかでも全身毛皮でモフモフだったから、あんまり問題なかった。
けど、アルマリアは普通の人間……。
そんな履いてないチャイナ服みたいな格好で、蹴り技とか空中バク転とか連発したら、当然色々見えてしまう訳で……。
なんと言うか……ギリギリ! 見えそうで見えない!
いや見えちゃ駄目なんだけど、どこまでもギリギリな感じの豪快なアクションの連続!
戦い自体は、動きの鋭さが増したアルマリアがクレイゴーレムを圧倒しているようなのだが。
……どうみても、アカンこれ。
ノーパンツァーノーライフ! 履いてない女子が空中戦みたいなのを演じるって、色々とアカンと思うの!
そんな場違いなことを考えていると、全身に鳥肌が立つような感覚。
考えるより早く体が動いて、斜め上から飛来した赤いボールのようなものをポールで叩き落とす!
赤いボールのようなものは、5mほど離れた所に落ちるとボフッと言う音を立てて爆発する。
爆炎球……要は手榴弾のようなもの。
直撃してたら、まぁ……こんがり火達磨になって死ぬな。
と言うか、今……とっさにポールで叩いたけど、爆炎球なんぞ、良く落とせたな!
もしかして、俺、魔術でも使ったのか?
「冗談っ……今のタイミングで反応するとか、マジヤバいなぁ……! さっすが、勇者はん……一筋縄じゃいかないみたいやね……」
通りの向かいの三階建ての大きな建物の屋根の上から声。
見上げると、妙に白い肌で、銀色の長い髪の小さな女の子がいた。
ちなみに、髪の毛はオンザ眉毛でまっすぐ切り揃えているいわゆる姫カット。
背丈は、アルマリアより少し高い……小学校高学年くらいかな?
膝丈のデニムスカートに、ゼブラ柄のニーソックス。
前をはだけたデニムのジャケットから、凶悪なツラした猫っぽいプリントのTシャツが覗いていた。
なんと言うか、オシャマな小学生みたいな感じなのだけど。
纏っている空気と魔族特有の白い肌と銀髪で、彼女が異界の魔王の眷属だということを理解する。
見た目はどう見てもお子様なんだけど、間違いなくこいつは化物だ。
俺にかけた呪詛……あそこまで強力なものを扱えるとなると、魔力自体相当なものだ。
断言しても良い……今の俺一人じゃ、絶対勝ち目がない。
けれど、頼みのアルマリアは……大型クレイゴーレムは二体共撃破したようだが、更なる新手の出現でそっちの相手で手一杯のようだった。
とにかく、数が多い……見えているだけで、一回り小さい3m級のゴーレムが10体近く、群れをなしてアルマリアに襲いかかっていた。
どうやら、質より量で攻めて、足止めする方針にしたらしい。
その上で、術者本人が俺を直接仕留めに来た……そういう事のようだ。
けれど、これではアルマリアと完全に分断されてしまっている。
俺の錆びついた体術程度じゃ、このレベルの魔術師を相手にするのはとても無理だ。
おまけに高所を取られている……この位置関係だと、反撃もままならない。
……となると、この場で俺の出来ることは、適当にハッタリでもカマして時間を稼ぐしかなかった。
ついに、魔王の子供たち登場っ!
でも、シリアスガチバトルとかなりませんから。
残念ながら、この作品、そう言う方向性じゃないのよ。(笑)




