第六話「とあるおっさんのときめきショッピング」②
それから……。
祥子の作った朝飯を三人で食べて、ショピングセンターの開店に合わせて、祥子にも買い物に付き合ってもらうことにした。
アルマリアも食器洗いやら片付けを手伝ってくれて、傍から見ると姉妹みたいな感じ。
二人の関係は良好……なんとも、キャッキャウフフと賑やかで……尊い。
正直、アルマリアはお留守番でも良かったのだけど。
本人が護衛としてお供すると言って聞かないし、親子一緒に買物と言うのも悪くない。
はじめてのおかいもの……だもんなっ!
ひとまず、武器は持たない……妙な騒ぎを起こさないようにと言い聞かせて、三人で歩いてショッピングセンターへ向かう。
岡川県のローカルスーパーの天魔屋ハピネスタウン。
……岡川駅前にある百貨店をルーツとする県内では、一番メジャーな総合スーパーマーケット。
大本の百貨店は、エレベーターガールなんかがいるようなちょっとお高い系なんだがね。
最近では、イヨンモールあたりに押されて、微妙な感じらしい。
その代わりに、各地にあるのがこの天魔屋ハピネスタウン。
小規模なショッピングモールと言ったところで……割りとなんでも揃うショッピングセンターとして、すっかり地域に根ざしている。
これと、イヨン系のマルショウ、ZAKZAKと言うドラッグストア。
この辺は、岡川県のちょっと大きい街には、どれかが必ずあると言って位には、お馴染みの三大チェーン店だ。
ちなみに、アルマリアは俺のところに来るまでは、昼間はほとんど山に篭って、市街地には夜になってからしか出てきてなかったようで、列をなして渋滞中の車列とか、騒々しい街の生活音に圧倒されていた。
けど、それも最初のうちだけで、すぐに慣れたらしく……あれはなんだ! これはなに? と質問攻めにしてきた。
ちなみに、車は鉄で出来たモンスターと思っていたらしく、バスだけじゃなく、軽トラなんかも犠牲になったらしい。
寝静まった所……要するにドライバーが居なくなったところを襲いかかって、仕留めたらしい。
肉は固くて食えなかったとか何とか……。
当たり前である……つか、食うな。
もう二度と襲わないように言い聞かせたから、多分大丈夫だろう。
被害の弁償とかは……誰がやったかどうせ、解りようもないだろうから、俺知らないっ!
つか、この娘がやりましたって、持ち主のところに連れて行っても絶対信じてもらえない。
……祥子もアルマリアと打ち解けたらしくすっかり、仲良くなってる。
祥子は一人っ子なので、妹か弟が欲しかったって、いつも言ってたのだけど……思わぬ形で、願いがかなったようなものだった。
アルマリアも年上に囲まれて育った事もあってか、祥子相手にも全く屈託のない様子で、すぐに慣れたようだった。
本当……順応性高いな。
ひとまず、天魔屋での買い物自体は……もう祥子に丸投げ。
予算は……あまり物を持たない上に、趣味やギャンブルに金をかける事もなく……真面目にコツコツと仕事をしてきたので、貯まる一方だったから、潤沢にあった。
考えてみれば……スマホと家の電話とネット料金……家賃はコミコミ3万円。
ローンもないから、毎月の固定料金なんて、水道光熱費込みでも5万くらい。
あとは、電車代だの食費とタバコに酒代くらい……生活費、月に10万も行かない事も珍しくない。
たまにソシャゲに課金することもあったけど、月5000円を限度額と決めてたから、ガチャにボーナス全部ツッコむとか、そんな馬鹿な真似はしなかったぞ。
給料自体は中間管理職であり、会社の幹部と言う立場なので、30万近くもらってる……うちの会社はわりとホワイト経営で、残業代なんかもきっちり出してくれるし、有給なんかもちゃんとくれる。
ボーナスも入れると年収4-500万くらいは行ってるはずだった。
当然ながら、貯金も相当な額……この十年で、数千万とか溜めこんでいたので、経済的には一人くらい余裕で養える。
そんな訳で、予算は糸目を付けず、好きなように好きなだけ買ってやるように、祥子には言ってある。
せっかくなので、祥子にも好きなものを買えと言ったら、なんかやたら張り切ってくれた。
俺は……やることもないので、壁際のソファに座り込んで、ぼけーっとしながら、スマホで色々調べ物中。
喫煙ボックスで一服とかも考えたけど、アルマリアにヤニ臭いとか言われたら、絶対落ち込みそうだから止めた。
と言うか……いい機会だから、スパッと禁煙しよう。
よく見ると、似たような感じの中年おじさんとかがいて、思わず目が合って会釈なんかしたりする。
女の服選びに野郎の出る幕なんて無い……せいぜい、似合うかどうか聞かれて、似合うね! と笑いかけるくらいだ。
そんな事を思っていると、スマホが震え出す。
見てみると、祥子からのメッセージ。
『お父様、お子様……超可愛らしいので、見に来て! あと、お支払いもよろしくー』
どうやら、俺の出番のようだった。
……ちょっと楽しみ。
試着室の前に来ると、祥子がスマホ片手に佇んでいた。
軽く手を上げると、駆け寄ってきて手を取られる。
「ささっ……お披露目、お披露目……すっごく可愛いんだからっ!」
試着室の中で何やらごそごそしてるのだけど、祥子も容赦なく中に入っていく。
何やら問答をしていたようなのだけど、ズルズルと引きずり出されるアルマリア。
「これは……なかなかの美少女じゃないか」
肩の辺りで切り揃えた黒髪をゆるく二つにまとめて、白いベレー帽をちょこんと乗せて……。
赤いチェックのジャンパースカートに胸元に黒いリボンの付いたワイシャツ。
肩から白いケープを羽織って……足元も革靴っぽいデザインの可愛いヤツになっている。
ちなみに、靴は元々裸足で粗末なサンダルみたいなのを履いてたので、祥子にまっさきにスニーカーを買わされた。
靴下は俺がニーソが良いって言ったら、採用された。
ニーソ、バンザイ!
ついでに下着の類も最優先……ジャージの下は、ノーパン、ダボTシャツだった件については、大変キツくお叱りを受けた。
虐待だのセクハラとか言われたけど……。
その辺は……まぁ、お国柄の事情と言うことで、ご理解いただけた。
いくらなんでも、ミャンマーくらいなら、皆パンツくらい履いてると思うのだけど……。
祥子は……何故か、それで納得してくれた。
偏見と無知って怖いなぁ……でも、おかげでアルマリアも無事ノーパンガールを卒業!
本人は、いきなりパンツ履かされて、その感触に慣れなかったらしく……最初は、がに股でヨタヨタと歩いてたりしたけれど、一応慣れてくれたようだった。
と言うか、慣れてもらわないと困る……見た目美少女なのに、ガニ股歩きとか残念過ぎる。
あと、時々股を押さえてモジモジするのも駄目……あとで祥子に言って注意させないとな。
なお、どんなの買ったのかはよく知らない。
多分、見せろと言えば見せてくれそうだけど、それは人として絶対間違ってるので、セルフ却下とする。
それにしても……。
改めて、フリフリなのを着せられたアルマリアを見るととても可愛い……まるで、お人形のようだ。
何とかドールみたいっ! これは可愛いっ!
女の子ってのは服だけで、見違えるもんだなぁ……。
「うん……可愛いな……これは実に可愛い! 可愛すぎるな……」
……語彙が乏しくなる程度には、可愛い。
こんな可愛い子が自分の娘で良いのだろうか……なんて事まで思ってしまう。
「ふふん! 可愛いっしょっ! いやぁ、素材が良いから何着せても似合っちゃう! でも、これはさすがに……よそ行き用かな……」
「か、可愛いですか? ちょっとうれしい……です」
はにかんだように俯きながら、上目遣いでジッと見つめられる。
これはいかん……ヤバイくらいに可愛い……破壊力抜群だ!
世間で言うところのロリコンの気持ちなんて、全然解らなかったけど。
これは普通に可愛い。
通りすがりの買い物客や、俺同様暇してるおっさんも、アルマリアを興味深げに見ている。
ハーフ特有の淡い目の色とか、スラリとした細身に、ややキツめで整った顔立ち。
肌の色は少し地黒だけど、岡川県在住の女の子って、地黒な子が多いから、むしろ普通だ。
テレビなんかに出てくる美少女小学生アイドルみたいな感じで、嫌が応にでも目を引く。
うん……限りなく自画自賛なんだけど、我が娘ながらヤバイくらい可愛い!
自分の娘を可愛いと思うなんて、むしろ普通だよな?
それに、一緒に風呂に入ったり、一緒の布団で寝たって、別にエロい気持ちになんてならなかったから、問題ないだろう。
もっとも……思わず、衝動的に抱き締めたくなったのは確かだけど……。
こんな往来で、やっちゃダメな気がするんで、そこはグッと我慢!
「そ、そうだな……これは、これで決まりでいいよ! 超ナイス! でも普段着れるのが、何着か欲しいんだけど、その辺はどうなんだ?」
「ふふふ……祥子さんを舐めないでね……アルマリアちゃん、お着替えしましょっ!」
再び試着室の中に消えていく二人。
5分もしないで、今度はライトブラウンのワンピースに、もこもことした綿入りジャンパーを羽織った姿で出て来る。
ちょっと安っぽいデザインだけど、絶対汚しそうな気がするから、普段使いなら、これくらいでも十分。
何より小さなリボンがいっぱい付いてて普通に可愛い……可愛いは正義だ。
他にもスカートとスパッツを合体させたスカッツとか言うのやら、やたらミニなスカートとか。
ちょっと屈んだだけで見えるような代物なのだけど、見せパンだから問題ないらしい。
と言うか、そう言う問題なのか……いいのかそれで?
パジャマ用の猫耳フード付きのつなぎなんかも出てきたけど、ありです! すごくありです!
とりあえず、片っ端からOKを出して、お会計。
キッズサイズな上に、元々天魔屋に売ってるのはコストパフォーマンス重視の安物がメイン。
地方在住ティーンエイジャー女子の定番、しまむろレベルの代物なので、一着一着は1000円とか2000円くらい。
結構買い込んだ割には思ったより安く付いた。
一番高かったのは、むしろ祥子が自分用に突っ込んだ分だったりするのだけど、付き合ってくれた駄賃代わりと言っておいたんだし、日頃色々お世話になっているので、安いもんだ。
こう言う金の使い方こそ、有意義な使い方ってもんだろう。
その他、ドラッグストアやらホームセンターやらでも色々買い込んで、さすがに荷物が持ちきれなくなってきたので、一旦タクシーで帰宅。
ドラッグストアでは、女子の秘密のお買い物とか言われて、ものの見事に追い出しを食らったのだけど……まぁ、女子特有の必需品とか色々あるのは解るので、敢えて何もツッコまなかった。
祥子さん……本当にありがとう。




