第五話「とあるおっさんのドキドキトゥナイト」④
「レティシア姫様か……元気なのか?」
順当に行けば、次期女王って話だったから、王国の女王様になっていてもおかしくないだろうし、年齢も23歳くらい?
いいなぁ……若いなぁ……10年前は、背も小さくて、胸も腰も絶壁ボディだったけど。
きっとさぞ美人になっているだろう。
「今は、正式に女王様になられてますよ。なんか、お父様に騙されたとか言ってましたけど……何があったのです?」
やっぱり……ですよねー。
……でも、何があったかとか、口が裂けても言えません。
どちらかと言えば、姫の名誉のために!
「……何もありませんでした。それ以上は聞いちゃいけないな」
そもそも、自分の娘に、あんな話出来るわけがない。
と言うか、無茶を承知で向こうに行くことも考えてたのだけど。
こりゃ、向こうに行ったら、えらい目に合いそうだな……。
けど、一日……いや数時間程度なら、多分なんとかなるし、アルマリアならゲートを開けるくらいのことなら、造作も無いだろう。
なら……一度くらい帰省感覚で向こうに遊びに行くってのも、ありかもしれない。
俺もそんな風に思い始める。
……でも、それも、こっち側の問題を解決しないといけないよな……。
「ハイッ! 良く解らないけど、解りました! あ、お父様……今度は、私が洗ってあげますね!」
とりあえず、先に風呂から上がろうと湯船から出ようとしたら、そんな風に声をかけられる。
今度は、俺が背中を流してもらう番と言うことか……まぁ、ここはお互い様と思うべきかな。
なんだかんだで、少しは緊張もほぐれたみたいだし……娘に背中を流してもらうとか……。
いいなぁ……それ。
「じゃあ、やってもらおうかな……」
そう言いながら、振り返ると少しは慣れたのか、ぎこちなく微笑まれる。
自分の身体を見られる分には、平気なのか?
考えてみれば、あっちって井戸端で身体洗ってると、むしろこっちが覗かれるとか、そんな世界だったからなぁ……。
でも、お父さん視点だと……もっと、ちゃんと食べろと言いたい。
スラリと細身なのは良いけど、さっき見た時も、肋が浮き出てたし、手足もか細くて、さすがに痩せすぎに見えた。
……胸なんかもほぼ真っ平ら、微妙な膨らみがなきゃ男の子と大差ない。
でも考えてみりゃ……テッサリアも貧乳だったしなぁ……。
こりゃ、将来的にもあまり期待できないかもしれない。
でも、慎ましいバストだって、それなりに魅力的なのだ!
本人は気にしてたけど、俺はなかなか悪くないと思ってた……貧乳ジャスティス!
まぁ、ラーゼファンとかネリッサなんかは、対照的にデカかったんだがな。
そもそも、向こうは食事も質素なもんで、腹いっぱい食えるなんて、それだけで贅沢な話だったからな……。
腹いっぱい食えなきゃ、育つものも育たないだろうさ。
話を聞く限り、姫様と交流があるくらいだし、勇者の血を引いてるなんて、向こうの世界だと言わばサラブレッドだ。
たぶん、貴族とかに準ずる扱いを受けてたとは思うのだけど……。
貴族っても着るものに困らず、飢えることはないとかそんなもんだったし……なんだかんだで、苦労はしてそうだった。
明日は、可愛い服を買ってやって、ファミレスで好きなだけ食わせてやろう!
「……お父様の背中、大きいです! でも、こっちのこのボディーシャンプーって言うの……スゴい泡立つし、いい匂いがします……」
アルマリアが嬉しそうにそんな事を言う。
お湯に沈んで、半分くらいになったけど……中身は一応無事だった。
桃の香りの天然何とかと言うボディーソープ……桃のフルーティな香りが風呂場中に満ちていた。
しかし、手が小さいから、背中を流すと言っても、ちまちまと洗われて、なんとももどかしい。
ちなみに、洗わせるのは当然背中だけだ……前の方とかは自分でやるに決まってる。
「そうだなぁ……でも、だからと言って食べるなよ?」
そう言いながら、手が止まったので振り返ると、ちょうど泡を口に入れる所だった。
当然ながら、苦虫を噛み潰したような顔になってる。
「ま、まじゅいです……ぺっぺっ」
何故食った? でもまぁ、子供って奴は失敗を繰り返して、学習していくのだけど。
俺だって、子供の頃は山や森になってる木の実やら土を口にしてみた経験くらいはある。
まぁ、どれもこれも思い切り後悔したのだけど、たまに当たりがあった。
桑の実とか野ぶどうとか、意外に美味いんだな……これが。
向こうの世界も植物の植生は割りと共通したものがあって、その経験が意外に役に立ったものだ。
と言うか、石鹸くらい向こうにもあったから、食えないって事は解りそうなもんだけど。
フルーティーな香りと好奇心には勝てなかったらしい。
「そんなものより、もっと美味いものはいくらでもあるぞ。明日は……服買って、美味いものでも食わせてやるよ! 買い物行くぞ! 買い物っ!」
「そ、そんな事やってて、いいんですか? 魔王の子供たちがいつ襲い掛かってくるか……」
「そんな心配するな。呪詛なんて回りくどいやり方をするような奴だからな。コンビニの帰りに使い魔っぽいのを追い払ったし、多分搦手タイプで直接戦闘は苦手とかそんなんだと思うぞ?」
実は、俺自身……その俺を付け狙っている魔王の子供とやらは、そんなに脅威じゃないと考えていた。
何より、敵も単身で部下も連れられず、相互協力もしないなんて状態なら、やりようはいくらでもある。
使い魔の召喚くらいは出来るようだけど、ブラックウィドウくらいならどうという事はない。
それに、恐らく敵は俺がこちらの世界で魔術が使えないということに気付いていない。
俺の戦闘力も、向こうの世界で魔王と互角に戦った頃のレベルだと想定していると考えていいだろう。
それに加え、アルマリアと言う強力な護衛が俺のそばにいる以上、簡単に手は出せないだろう。
正直、アルマリアの実力は未知数なのだが……細くて小さくても、魔力は相当なもの。
テッサリア直伝となると、少なくとも上級魔術師くらいの実力はあるだろう。
魔術を使えば、腕力や耐久力も容易にカバーできる……強力な魔力を持った子供が大の大人をワンパンKOしたり、競走してブッチぎるくらいの事は向こうの世界じゃ、よくある話。
あの世界の住民の見た目や年齢なんて、戦闘力を測る目安にもならんのだ。
それに、俺には、持ち前の危険察知能力のようなものがある。
俺が向こうの世界の魔王軍との戦いで、奴らお得意の搦手や奇襲を掻い潜って生き残れたのも、この能力があった故だった。
……命懸けのギリギリの戦いで、紙一重の死線を見切れる。
これは、戦場においては強力無比なアドバンテージなのだ。
岩をも砕く超パワーや無敵の防御、超スピード……桁違いの魔力。
いくらそんなものがあっても、超遠距離からの狙撃とか油断したところを奇襲されたら、ひとたまりもない。
けれど、俺のこの危機察知能力は、直感的に命の危機となる一撃を一瞬早く察知出来ると言う一種の予知能力じみたものだ。
それに加え、油断していようが寝ていても、身体が自動反応して致命的な一撃を回避する……。
実際の所、致命傷をかろうじて命が助かる重傷に留めるとか、その程度なのだけど……即死を回避できるなら、回復魔術だってあるのだから、なんとでもなる。
はっきり言って、地味な能力なのだけど……この能力こそ、俺を勇者足らしめていた能力に他ならない。
年を食って、身体能力に衰えを感じながらも、俺が異界の魔族相手に、さしたる恐れを抱かない理由がこれだった。
むしろ、迷わず呪詛という間接的な手段を選択した敵は……俺のこともしっかりリサーチしていたと言う証左でもある……その点を考えると、かなり厄介な相手と言えるのだが。
慎重な相手は、その行動も読みやすく、俺にとっては、決して相性は悪くないのだ。
ちなみに、一番厄介なのは、何も考えてないバカだ。
被害もリスクも一切考慮せず、自滅同然の攻撃を仕掛けてきたり……。
そう言う手合は倒すのは容易いが、こちらの被害も馬鹿にならない。
実際、仲間の一人はそんなバカと刺し違えて、討ち死にしている……。
俺にとっての痛恨の出来事の一つだ。
「そ、そうですね……確かに、直接手を下すタイプじゃないみたいで……私もこちらで一度襲われて、交戦したんですけど……結局、姿すらも見ることも出来ず、逃げられてます」
……すでに、交戦してたって事か。
やっぱり、アルマリア……相当な実力者だな。
魔族相手の実戦も経験してるようだし、こりゃ頼もしい……強くて、可愛くて、しっかり者な俺の娘、何より可愛い!
大事なことなので二回言いました!
良いな……実に良い! 最高な娘じゃないか!
「……逃げたってことは、正面切って戦ったら、アルマリアの方が強いって事だろうな。そうなると向こうも状況が変わった以上、仕切り直しの時間が必要だろうさ……今日の今日で、仕掛けてくるとは思えない。だから、今夜、明日くらいは、のんびり構えていればいいさ」
「でも、私……そんな……遊びに来たわけじゃ……」
「子供が遠慮とかするなよ……俺も少しは親らしい事したいんだ……嫌か?」
アルマリアも首を横に振る……。
まぁ、当然だろう……母親を失って、始めて父親と言うものと会えたのだ。
年相応に甘えたりしたいだろうし、募る話だってあるだろう……。
「こっちの世界の事も色々興味あるだろう? なんだかんだで、お前も半分はこっちの世界の人間なんだからな……ワガママだって聞いてやる……なんてったって俺は……お前のお父さんなんだからな」
そう言って、頭に手を乗せてやる。
返事の代わりに、アルマリアは心からと言った様子の笑顔を浮かべる……。
俺には、それだけで十分だった。
イチャラブパートもうちょっと続きます。(笑)