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第五話「とあるおっさんのドキドキトゥナイト」②

 アルマリアの話。


 それは拙い調子で、ところどころ要領を得なかったのだけど。

 俺は辛抱強く……その話をじっくりと聞いた。

 

 それは、とてもとても長い話だった。

 

 けれど、アルマリアから聞いたその話を要約する前に、俺の向こうの世界での話もすべきだろう。

 

 まず、異世界で俺が戦い最終的に打ち倒した魔族の大ボス……魔王についてだ。

 奴の正体は俺と同じく、こちらの世界からやってきた異世界人だった。

 

 それも同じ日本人……当時20代のアウトドア系社会人だった俺と違って、向こうは引きこもりの30代中年オタクだったらしいのだけど。

 

 オタクという意味では俺も似たようなもん……。

 俺も、アニメやゲーム、漫画をこよなく愛するオタクな若造だった。

 

 けれど……日本で暮らしながら、どこか居場所がないような閉塞感を感じていたのは、俺も奴も同じだった。 

 そんな中……目の前で、たまたま開いた異世界へ続く門を超え、もう戻らない覚悟で向こう側に旅立った。


 そんな所まで、魔王と俺は一緒だった。

 

 言わば、似た者同士……。

 違いと言えば奴は魔族側、こちらは人間側と、立ち位置が違ったと言うだけで……。

 

 場合によっては、逆の立場にだってなり得ていた。

 だからこそ……お互い、じっくり話し合えば、解り合えたのかも知れなかった……。

 

 けれど、魔王と俺……どちらかが滅びる以外、あの戦いを終わらせる方法が無かった。

 お互い解り合い、和解するには、何もかもが遅すぎたのだ……。

 

 幾度もの魔族と人の戦いの中で……お互い、大切なものを奪い合って、憎み合い、引き返せなくなっていた。

 

 もう少し早く、或いは別の形で出会っていれば……違った結末もあったのかもしれないが。

 ……何もかもが手遅れだった。

 

 そして、何より俺達には、もう後がなかった。

 魔王軍と人類連合軍との、お互いの命運を賭けた決戦。


 その結果……連合軍は敗退。

 

 連合軍も人間のみならず、亜人と呼ばれるエルフやらドワーフ、半人半獣の獣人族と言った異種族も共に戦い。

 幾多の国々や人種を超えて一致団結し、出来る限りの兵力を集め、可能な限り装備を整え、冒険者や無法者、引退した元兵士、一般徴募した義勇兵、女王親衛隊なども動員した総動員体制で戦いを挑んだのだが。

 

 案の定……何もかもが足りなかった。

 総力を挙げて、使える全戦力を投入して、それでも圧倒的な物量を誇る魔王軍に及ばなかった……ただそれだけのことだった。

 

 そして、連合軍が瓦解し敗走を続ける絶望的な状況の中で、俺と仲間達は、起死回生の策として、連合軍の残党が決死の覚悟で切り開いてくれたか細い道を切り口に、魔王軍本陣にいた魔王と俺の直接対決にまで持ち込んだ。

 

 結果的にその崖っぷちの戦いで、辛くも俺達が勝った。

 

 10年前の俺達の戦いを要約すると、こんなもんだ。

 

 もちろん、数限りない物語……。

 

 俺と魔王の確執だの……俺の奥さんになった4人の仲間達。

 それ以外にも大勢の仲間達との出会いと別れ、幾多の強敵との死闘……。

 

 あの忘れ得ぬ日々の記憶は……。

 忘れようとしても忘れられない鮮烈な記憶として、俺の中に残り続けていた。

 

 そして、魔王との戦いを制したことで、俺の戦いは終わり……。

 

 俺はこちらの世界に戻らざるを得なくなって、10年が過ぎた。

 俺にとっては、もう遠い過去の思い出になりかけていたのだけど。

 

 向こうでは、魔王亡き後も戦いは続いていたのだ。

 

「魔王の子供たち」


 そう呼ばれる卓越した魔力を持つ魔王の血を引く上級魔族。

 俺が向こうの世界にアルマリア達と言う子供を残したように、魔王も自分の子供達を何人も残していたのだ。

 

 彼らは、いずれも一騎当千のずば抜けた魔力と異能を持ち、魔王の後継者に相応しい実力者揃い。

 彼らが台頭してきたことで、魔王を討たれ四散五裂状態だった魔族達は再び、結集したのだ。

 

 けれど、彼らは協力するどころかお互い敵視しあい、魔族たちの領域で大規模な戦乱を起こした。

 その戦いは全く決着が付かず、やがて彼らは一つの協定を結ぶ。

 

 一番の功績を立てたものが次代の魔王を名乗ると。

 

 そして、彼らにとっての一番の功績とは、先代の魔王を打ち倒した勇者……つまり、俺を葬ると言うもの。


 つまり、俺は「魔王の子供たち」同士の後継者争いのターゲットにされた……と言うことなのだ。

 

 あの戦いで生き残った向こう側の世界の人類など、彼らは眼中になかった。

 

 いつでも始末できると思っていたのか……或いは、再び俺が舞い戻ってくるのを恐れたのか。

 結果的に、魔族は人類の領域に大々的に攻め込んでくることもなく、小さな小競り合いを繰り返しながら人類世界はかろうじて、平穏が保たれていたようだった。

 

 本来、異世界に生きる俺に、如何に魔王の子供たちであっても、手出しなど出来ないはずだったのだが。

 彼らは、ひょんな事から自分達がこちらの世界でも十分能力を発揮し、さしたる制約もなく活動出来ることに気付いてしまったのだ。

 

 そして、人知れずこちらの世界に進出し、日本各地で俺を探し回っていたようなのだが。

 いよいよ、その一人が俺を捕捉したのだ。

 

 その事に遅まきながら気付いたテッサリア達は、俺の血を引く子供達をこちらの世界に、俺の護衛として送り込むことにしたのだ。

 

 当然ながら、魔王軍もその動きに気付き、軍勢と魔王軍随一の将を送り込んできたのだが。

 テッサリアは、アルマリアをこちらの世界に送り込む為に、単身魔王軍の将に決死の時間稼ぎを挑み……命を落としたと言うことだった。


 アルマリア本人は、テッサリアの最期を見届けていないようなのだが……彼女の話を聞く限りでは、越界の門を暴走させるような真似をしでかしたらしく、生存の可能性は極めて低い……そう言わざるを得なかった。

 

「……そうか。ゴメンな……辛いことを話させて……」


 長い話を聞き終えると、俺はそれだけ言って、しばし瞑目する。


 テッサリア……俺なんかには勿体無い女だった……。

 

 アルマリアの話だと、俺がこちらの世界に戻ったあと、勇者の血族の長を名乗り、女王様と並び、人々をまとめ上げる象徴として、魔王軍との戦いの先頭に立っていたらしかった。

 

 けど……アイツは、そんな人々の先頭に立つような器じゃなかった。

 

 本来、気弱で大人しくて、戦いになるといつも震えていたような奴だった。

 きっと俺が居なくなったあと……俺の代わりにと頑張っていたのだろう。


 俺と出会った時だって、まだまだ、二十歳前のお嬢ちゃんだったんだぞ。

 10年経ったって、20代……要するに若造だ……なのに、無理しやがって……。

 

 けど、アルマリアの話から垣間見えたテッサリアは、まるで本物の偉大な勇者のようだった。


 そして、その最期も……。

 魔王軍、それも最強クラスの将にたった一人で立ち向かい、一歩も退かず、我が子の盾となり……。

 最後まで守りきり、その責任を果たしきった。


 なんだよ……それ。

 カッコ良すぎるだろう……馬鹿野郎。

 

 俺なんかより、立派に勇者してるじゃないか……。

 

 ……もう二度と会えない。

 

 その現実が重くのしかかる。

 母親の最期を思い出してしまったのだろう……声を押し殺して泣くアルマリア。


 その小さな背中を、思わず抱きしめる。

 

「……いつもお母様から話を聞いてたんですけど。お父様って優しい人なんですね……それに温かい」


 そう言って、その小さな手で俺の手を握りかえすと、頬を寄せてしなだれかかってくる……。


 ん? ちょっと待って……。

 思わず、抱きしめてしまったけど、何だこの雰囲気。

 

 断言してもいいけど、これ……このままキスして押し倒して許されるパターンだ。

 

 だが……相手は9歳! ……それも、実の子供!

 

 なんか、もうメロメロって感じで目を閉じて、俺の手に頬ずりとかしてるし……。

 仕草が妙に色っぽい……こんな小さくても……いっちょまえに女って事か。

 

 だがしかしっ! そんな展開……神が許しても、俺が許さん!

 危うく流されそうになったのも確かなんだけど、大丈夫、問題ないっ!


 こんな甘ったるい空気もフラグも、断固粉砕あるのみっ!

 

 もういい、さっさと風呂にでも行かせて、寝かせるとしよう!


 細かいことは明日! 明日から本気出す!



ちょっと補足。


裏設定なんですけど、向こう側とこちら側では一年の長さも違うし、成長スピードも違うので、タケルベは9歳とか思ってますが。

実際は、アルマリアの身体年齢的には11歳くらいだったりします。

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