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最終話「とある勇者達の異世界争奪戦」③

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「とある勇者だったおっさんの後日談」においては、

 部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

                  Copyright © 2018 MITT All Rights Reserved. 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 ……俺達のやった事。

 

 それは全ての参戦陣営と事前に交渉し、この異世界で境界も作らず、争いも起こさず、皆で仲良く分かち合おうと言う提案だった。

 

 もし平和な世界が欲しいなら、全員がそう願えばいい。

 

 ここは何もない自由な世界。

 元の世界のしがらみも、因縁も何もかも全部置いてきてしまえばいい。

 

 ここには、まっさらな未来があるだけだった。

 

『未来だけを見つめよう……ここには、無限の希望があるのだから』

 

 それがこの世界へ訪れた者達の合言葉だった。

 

 もちろん、直前まで誰かが抜け駆けする可能性はあった。

 根回しと段取りは、出来ていたのだけど、正直言って内心ドキドキものだった。


 けれど、俺の心配を他所に、誰もが皆、お互いを信じることで、無事乗り切ったようだった。

 

 一応、ここまでは予定通り。

 けれど、この戦争ゲームの主催者たる魔王様が、この結果を受け入れるかどうか?

 

 これが最後にして、最大の難関だった。

 

「すまんな……魔王様、お望みのエンディングとは少し違っただろうが……。実は俺、事前に全ての勢力の代表と一通り話し合っててな。その結果、誰もが平和的にこの世界を欲していることが解った。だからこそ、誰も戦わない……その選択をする事にしたんだ。実は武器なんかも皆、こっちに来る時に置いてきてるんでね。武器っぽく見えるものもハリボテやら、花火とかそんなのばっかりなんだ……戦争しろって言われても、花火大会になるのが、関の山だな」


「……クロ、これは貴様の差金か? 他の連中もグル……そう言うことか?」


「そうですね。わたしの協力なくして、事前に異世界を渡り歩くなんて不可能ですからね。……このわたしが、そんなお互い殺し合って、蹴落としあっての争奪戦なんて、許すわけがないじゃないですか。使徒連中については、物理的交渉おはなしあいでカタを付けたりもしましたが、全員が納得済みです」


 加奈子ちゃん……他の使徒との交渉って、そんなのだったのか。

 何度か、ひょっこり姿を消して、クタクタな様子で帰ってきたことがあったのだけど……。

 

 けれども、この魔王様だけは、もはや出たとこ勝負だった。

 この御方の言葉で全てが台無しになる可能性もあった。

 

「…………」


 無言で、俺をにらみつけるような視線でじっと見つめる魔王様。

 せめて、気迫負けしないように、目線だけはそらさずに、その鋭い視線を真っ直ぐに受け止める。

 

 ……重い沈黙が走る。

 

 けれども、それは長くは続かなかった。

 

「……やれやれ、そうおっかない顔をするでない。せっかくの色男が台無しではないか……」


 そう言って、唐突にニカッといい笑顔を見せる魔王様。

 

「そもそも、ワシがここに何しに来たのか、解っておるのか? お前ら、これから結婚式でも始める……そのつもりなんじゃろ? まさに平和の象徴じゃからな……祭りのクライマックスと言ったところかのう。だが、結婚式には立会人の一人も必要じゃろ? ワシがやってやるから、ありがたく思えっ!」


 その言葉で、張り詰めていた緊張がドッと解けて、思わず膝から崩れ落ちそうになる。

 けれど……そこは頑張って、踏みとどまった。

 

 他の者達も同様だったようで、一斉に安堵のため息を吐いていた。


「ま、魔王様……わ、私……今更ですが、その……お暇をいただきたいと……」


 テッサリアが慌てて立ち上がりながら、魔王様へと詰め寄る。

 

「ワシは前にも言ったじゃろう……貴様の好きにしろと。こうなったらもう、元サヤでええのではないか? 勝手にするが良い! クロ、シロ! 貴様らは、この場の全員に祝い酒でも配れっ! スティール! 貴様もいつまで、そんな無粋な格好をしておるのじゃっ! 空気読まんか、このどアホウッ!」


 ……デカい騎士鎧がヤケになったように兜を脱ぎ捨てて、面白くなさそうに地面に叩きつける。

 髭面のゴツい面構えのおっさんみたいなのが出てくるのだけど、どことなく見覚えもあるような気がする。

 

「お、お前は! ア、アークボルト!」


 アルマリアが慌てて、腰の剣を抜こうとしたところを、テッサリアが後頭部への平手打ち一発で黙らせて、あっという間に剣を没収する。


 さすがに、扱いをよく解ってるねぇ。


 すかさず田中さんが駆け寄ってきて、大男に飛びつき、オイオイと号泣する。

 なんともむさっ苦しい光景なんだが……。

 

 感動の親子の対面……なのかな?

 アサツキがペコリと頭を下げて、二人を隅っこの方へ引っ張っていく。

 

 魔王の子供達は皆、笑顔でバシバシと背中を叩いたりと、乱暴な歓迎で、アークボルトを出迎えている。


 最初は不貞腐れたような仏頂面だったアークボルトも、兄弟達の馴れ馴れしさにほだされたのか、頬を掻いて困ったようにすると、差し出された酒を一気飲みする。


 すっかり、こいつら仲良くなったなぁ……最初の頃と大違いだ。

 

「……さて、貴様も何を呆けておる! 背筋をピシッと伸ばして、はよう花嫁達のところに行ってやれ! さぁ、皆のもの注目じゃ! クロ! シロ! こう言うときは何というのじゃ!」


 大慌てでレティシア陛下の隣へ走り、ここに立てとばかりに空いていた場所に立つと、四人がかりで腕を取られる。


 ……なんかデジャブだな……これ。

 

「あ、はい? わ、わたし良く解りませんっ!」


 加奈子嬢が一瞬でテンパっていた。

 ……結婚式の立会人の台詞なんて、解るわけがないだろうに……こりゃ、フォローが必要かな?


「やれやれ、クロも魔王様も物を知らないにも程があります。ちゃんとこの私が結婚式の仲人用のスピーチの原稿を用意しましたから、感情を込めて、厳かーな感じで、一字一句丁寧に読んでくださいね」


 白いメイド服の少女、シロが魔王様にカンペを手渡す。

 用意周到とは聞いていたが、そんな物を用意している辺り、さすがだった。

 でも、仲人と立会人はちょっと違うぞ?


「……こう言う時くらい、ワシの顔を立ててやろうとか思わんのか? まぁいい……なになに? 幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も……ああっ! なんじゃこれ、いい加減くどいわっ!」


 唐突に原稿を破り捨て、堂々たる高笑いをしながら、手酌でワインを自分のグラスに並々と注ぐ魔王様。


「ああっ! なんて事をするんですか! 魔王様っ! まだ一行目しか読んでないじゃないですかっ!」


「やかましい! もう面倒くさいわっ! とにかく、貴様ら死ぬまで幸せにイチャコラやっておるがいい! 爆発せいっ! このリア充共がっ! ふはーはははっ! 実にめでたいのう! 今日はもう宴会じゃ! 皆のもの! 派手に騒いで、楽しんでいけーっ! 乾杯じゃっ!」

 

 それだけ言い放つと、腰に手を当てて、ワイングラスのワインを一息で煽ると、高そうなワインボトルをラッパ飲み!


 マナーも威厳もなにも……なかなか酷いな……これは。

 

「……魔王様、適当すぎます! 私の苦労をなんだとっ!」


「クークックッ! 先程の意趣返しじゃ! ほら、何をしておるのじゃっ! こうなったら、主催者たるワシらは、新たにこの世界に移住してきた者達を、目一杯おもてなしする側に回るべきじゃ! 実にええものを見せてもらったからのう……お返しをせんといかんな! 解ったら、キリキリ働けっ!」


「ええっ! 私の役目は今ので終わったと思ったのに……ならば、超過勤務手当を要求します!」


「シロ……ここは、黙って従いましょう。わたし達は、あとでゆっくりお鍋でもつついて、しっぽり一杯やりまんか? 実は、わたし、お料理出来るようになったんですよ! なんかレディスレディアで、猛部さんの奥さん達や、シャーロットちゃんに寄ってたかって、色々教えてもらっちゃって……」


「いいな……それ。手料理作ってくれるとかお前、私の奥さんかよっ! でもって、最後はわたしを食べてと、そう来るつもりだな? 解った……今夜は眠らせない……アンアン言わせてやる! うふふ、ギンッギンッに……漲ってきたーッ! よし、お仕事、真面目にやって、とっとと終わらせるよっ!」


「漲るなっつーのっ! こ、今夜くらいはゆっくり寝かせてよっ! わたしも色々やって、疲れてるんだしさ……。あっ! それでは、皆さん! そんな訳で、ごゆっくり存分に楽しんでいってくださいね!」


 ……頬を赤らめた加奈子嬢。

 そう言って、シロと恋人繋ぎで手を繋ぎながら、ペコリと頭を下げるとすぅっ何処かへと消えていってしまった。

 あの二人……実はそう言う関係らしい。

 

 けれど、あれだけお世話になって、ずっと一緒に居たのに、別れ際は実にあっさりとしたものだった。

 でも、そのうちまたゆっくり礼を言う機会もあるだろう……時間はいくらでもある。

 

 気がつくと、魔王様もいつの間にか居なくなっていた。

 

 ……後は、好きにやればいい。

 

 そんなところなのだろう……気難しいヤツだと聞いていたけど。

 ちょっと照れてるような様子だったので、黙って去ったのも、言わば照れ隠しなのかもしれなかった。

 

 なんともはや。 

 「最悪の厄災」なんて物騒な二つ名を持つ割に、蓋を開ければ、普通に気のいいヤツだった。

 

 でも、実のところ……加奈子嬢達と出会い、この世界を見て、俺はこうなるのを確信していた。


 この世界は、優しく満ち足りた世界だった。

 こんな優しい世界を創造するような奴が、悪いやつのはずがなかった。

 

 「絶望の底の(ラストディザスター)最後の希望(フォーチュン)」……そんな異名もあると言う話だったのだけど……酷く納得がいった。

 

 パンドラの箱の底、幾重もの絶望の底に、最後に残った希望の一欠片。

 

 俺達は、最後の最後にそこに辿り着くことが出来た。

 何処かひとつボタンを掛け違えていただけで、ここにはたどり着けなかったかもしれない……。

 

 幾多の人々との出会い。

 その想い……希望と絶望、妄執や情念、そして友愛……いくつもの思いのぶつかり合い。


 その中で、選んできたいくつもの選択肢の積み重ね。

 誰かがどこかで、間違えていたら、こうはならなかったかもしれない。


 たぶん、これは一つの奇跡の物語だった。


 そして、それこそが彼女が見たかった最高のエンディングだったのかもしれない。

 

 ……俺達は、やり遂げたのだ。

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