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第五話「とあるおっさんのドキドキトゥナイト」①

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「とある勇者だったおっさんの後日談」においては、

 部分的に本文と後書きを入れ替えると言う対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

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※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 アパートに戻ると、ちょうどアルマリアも目を覚ましたところだった。

 

 俺が玄関の扉を開けると、ものすごく驚いた様子で飛び起きるのが見えた。

 なんかパニックっているようで、毛布を握りしめながら、部屋中をキョロキョロと見渡している。

 

 ああ、旅行とか行って、旅館で目を覚ました時の……ここどこ? ってなるアレだろう。

 ……解る解る。

 

 目が合って、ニコリと笑いかけると……アルマリアは見る間に涙目になる。

 

「ふぇぇえ、お父様……居なくなったのかと……」


 先程までの冷静な態度がウソのような有様に、思わず笑ってしまう。

 寝癖の付いた頭のまま、涙目でトテトテとまっすぐ駆け寄ってくると、勢い良く抱きつかれる。

 

 ……なんだこの、可愛い生き物は……?

  

「ごめんな……起こしちまったかな……一人にして悪かったな」

 

 それだけ言うと、アルマリアも勢い良く首を横に振ると、再びバフっと、俺の胸に顔を埋める。

 

 考えてみれば、会ってすぐに解呪をしてくれて、そのまま力尽きてしまったのだからな。

 アルマリアとこんな風に触れ合ったのは、親子宣言をされて初めてかもしれない。

 

 なんだか、年の割にえらく冷静でしっかりした様子だったのだけど。

 色々緊張の糸が切れて、挙句に目を覚ますなり、訳の解らない場所ですっかりテンパってしまったのだろう。

 

 と言うか……本当は、こうしたくてしょうがなかったのかも知れない。

 

 何と言うか……可愛い奴だなぁ。

 

 そんな風に思っていたら、何かに気付いたのか、ハッとしたように顔を上げる。

 思わず目が合って、もう一度微笑みかける。

 

「お、お父様……ごめんなさい。私ったら……妙に嬉しくなって……つい」

 

「ははっ……気にするな! 一人にさせちゃって悪かった。良く寝てたみたいだから、その間に君が食べれそうな物と、着替えを調達に行ってた……コンビニ弁当だけど、食うか?」


 そう言って、コンビニ袋を見せると不思議そうな顔をされる。


「コンビニ弁当……ですか? 良く解らないですけど、美味しそうな匂いがします」


 そう言いながら、彼女のおなかの虫がくーと鳴いた。

 誤魔化すように照れ笑い……かわいい。

 

 ハンバーグ弁当をレンジで温めると無造作にちゃぶ台の上に置く……おにぎりも三つほど買ってきたので、フィルムを剥いて小皿に並べておく。

 

 味は、梅、鮭、チャーハン! どれも俺的鉄板! これとイレブンチキンを二個買ってきた。

 通称ブンチキ……いわゆる骨なし揚げチキンだ。

 

 イレブンマートが始めたら、他のコンビニチェーンも真似して、すっかりコンビニ定番商品になってしまった。

 オカズによし、小腹が空いたときの間食用にもナイス。

 

 ……俺の分は、コスパ抜群安定の牛丼様と、野菜も食えとか言って、祥子に押し付けられたトマトサラダ。

 飲み物は、お茶とオレンジジュースを買ってきた。

 

 デザートは、三個入りの焼きプリン! おいちいっ!

 

 いつも買ってる酒やタバコは、今日はなし!

 と言うか、どっちも控え目にしよう……健康と幸せのためにっ!

 

「スゴい……火も使わずに暖かくなってるし、とっても美味しいですっ!」


 ほわぁーと幸せそうに、レンジで温めただけのハンバーグ弁当を食べるアルマリア。

 ブンチキも気に入ったらしく、ぺろりと平らげてしまった。

 

 まぁ、俺もこっちの世界に戻ってきて、ファミレスで飯食った時、あまりの美味さに涙が出たくらいだったからなぁ。

 

 向こうじゃ、野の獣やら魔物の肉を火で炙って、塩振って食うくらいで、パンも硬いスポンジみたいな感じだし、酒だって、搾りかす混じりでツーンとした発酵臭漂うどぶろくのような代物ばかり。

 はっきり言って、お粗末。


 井戸水とかだって、泥臭かったり、砂利が混ざってるのが普通!

 慣れないうちは、散々腹を壊したもんだ……。

 

「そりゃそうだろうな……しかし、器用に箸使ってるなぁ……それもテッサリアから教わったのか?」


 もっと戸惑うかと思っていたのだけど、割り箸を器用に使って、普通にハンバーグ弁当を食べていた。


「はい、そうです! お父様の国では、このお箸っての使って食べるんだって、練習させられました!」


 そういや、こっちの世界の話をした時、テッサリアの奴……やたら食いついてきたんだっけ。

 

 俺がこっちの世界に戻ることになった時も、アイツは自分も着いて行くと言い張ってたけど。

 死にに行くようなものだと諭されて、涙ながらに別れたんだっけ。

 

「アイツにも、こっちの世界を見せてやりたかったな……って、すまんな」


 思わず、そんな言葉が口をついて出てしまった。

 アルマリアも一瞬俯くのだけれども、顔を上げて健気に笑う。

 

「いえ、その言葉だけで、お母様もきっと喜んでると思います。だって、お父様はお母様のことを、ちゃんと覚えていてくれたんですから……。もう忘れられてるかもって、いつもそんな事ばかり言ってたんですよ……お母様」


「バカな……忘れられるものかよ! ……俺だって、出来ることなら、向こうに残りたかった……。なにせ、俺は彼女を……テッサリアを愛してたからな」


 何となくしんみりとした空気が流れる。

 テッサリアはもう居ない……どんな最期だったのか、幸せだったのか。

 

 聞いてみたいことはいくらでもあるけど……それを事細かに聞くのは、あまりに無神経に過ぎる。

 それに……話を聞いて、涙を堪えきる自信が無い……自分の子供に、涙は見せたくないよなぁ……。


「そう言えば、アルマリア……君はどうやって俺の家を探し出したんだ? 住所なんて教えてなかったし、こっちの土地勘なんてないだろう?」


 ひとまず、話題を変える……こっちに来て、三日間……どんな過ごし方をしたのかも気になる。


「すごく迷いましたよ! 三日三晩、あちこち彷徨って……この辺りって、あちこちに結界が張られてるし、鉄の魔獣が群れをなして走ってるし……でも、お父様にかけられた呪詛の痕跡が見つかったので、それを追いかけたら、辿り着けたんです!」


 なんともはや……。

 考えてみれば、俺にかけられた呪詛は、向こうの世界由来の物。

 

 そして、呪詛をかけられた者は、その行く先々でその呪詛の残滓を残す。

 その残滓を追っていけば、確実に俺に辿り着ける……なるほど、上手い手だった。


 この呪詛の厄介な所は、それが一種のマーカーになってしまうことだった。

 どこに逃げても、居場所があっさりとバレてしまうと言うのは、かなり危険な状況なのだ。

 

 なにせ、呪詛をほっといたせいで、安全なはずの街の宿屋で寝ている所へ、街の外どころかその遥か遠くから超遠距離からの火炎球でピンポイント爆撃されたりしたからな。


 ほんっとうに、魔族共のやり口は陰湿かつ巧妙だった……それでいて、数の暴力とか反則だろ。

 

 けれども、今回はそれがむしろいい風に働いてくれた。

 それが無ければ、アルマリアが俺の元に辿り着くのは、至難の業だったろう。


 まさに不幸中の幸いだった。

 

 と言うか……向こうの世界の連中、ちょっと準備が足りなさすぎやしないか?

 

 こちらの世界の情報も俺の手がかりすらない状況で、その上、本人が半信半疑と言っていたように、この世界で生存できるかどうかも判然としないまま、アルマリアを送り込んだ様子だった。

 

 ……あまりに場当たり的と言うか……出たとこ勝負のような印象を受けた。

 

「もし……俺を見つけられなかったら、どうするつもりだったんだ? テッサリアはともかく、他の奴らも居たんだろ……なんで誰も止めなかったんだ! 大体、俺が向こうに居た頃もさんざん言い聞かせたはずだぞ……何事も入念な準備がモノを言うと……準備八割、実施二割……それが鉄則だって言ったはずだぞ……俺は!」


 さすがに、無茶が過ぎる事に俺も腹が立ってきた……思わず声を荒げてしまう。

 

「あ、あのあのっ! お母様達は悪くないんです! 本当は、他の姉妹達も同行して、ちゃんと事前にこちらの世界の偵察や相応の準備もするはずだったんですけど……そんな余裕が……無かったんです」

 

 必死な様子のアルマリア。

 そう言われると、何となく事情も見えてくる。

 

 考えてみれば、俺が向こうの世界で何かをする時に、必要以上に行っていた入念な準備や偵察についても、それが如何に功を制したか……テッサリア達も実戦で間近に見ていたはずだった。


 特に、インドア頭脳派の魔術師ネリッサなんかは、俺以上の慎重派……念の為を三重くらい用意しないと気がすまないような奴だった。

 

 彼女達が俺抜きで、独自行動せざるを得なかった時も、俺の教えをあいつらは忠実に守っていた。

 今回も多分、それなりの準備をするつもりだったのだろう……だが、それが出来無かった……そういう事なのだろうか。


「すると……お前がこっちに来れたのも、ギリギリ送り出せたとか、そんな状況だったのか?」


 そう言うとアルマリアも無言で頷く。

 つまり、何もかも足りない状況での決死行……そういう事らしかった。

 

 と言うか……他の姉妹って事は、俺の血を引く子供って……アルマリアだけじゃないのか。

 

 となると、親は誰だ? って言うか、何人いるんだ?

 正直、身に覚えがありすぎて、特定できんぞ。

 

 と言うか……繰り返しになるが、あの日の俺、爆発しろ!

 いくらなんでも無節操に過ぎる……なんか、もう死にたくなってきた。

 

 だが、そんな事はむしろ、どうでもいい。

 棚上げです! 棚上げっ!

 

「すみません……もっと慎重にやるべきでしたね……」


 申し訳なさそうに、アルマリアも頭を下げる。


「いや、それはもういいんだ……だが、一体何が起きているんだ? あんな強力な呪詛……向こうの世界の魔族でもないと使いこなせる訳がない……まさか、魔族共がこっちに進出してきてるのか? だが、どうやって……?」


 アルマリアの姉妹達の話も気になったけど、まずはこっちの方が重要だった。


「はい……実は……」


 ポツポツとアルマリアがここに来た経緯を話し出した。

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