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第一話「とあるおっさんのこれまでのあらすじ」

 俺の名前は、猛部惣太たけるべそうた

 一言で言えば、アラフォー間近の冴えないおっさんである。

 

 こんなおっさんだけど、もう10年位前のことなのだが。

 異世界で勇者……と呼ばれていたのだ。

 

 ありきたりだけど、神様に会って魔王と戦えって言われて、異世界へと転移させられて……。

 

 唐突に始まった異世界ファンタジーな冒険の日々。

 何度も死にかけながら、戦い方を覚えて、仲間も増えて、勇者にだけ使える魔法も覚えて……。


 まるでRPGの主人公にでもなったかのような日々。

 

 勇敢で男勝りの女騎士や、やたら気が弱い魔法使い、健気な回復師とか、モフモフさらさらの猫耳女盗賊だの。

 なんか知らないけど、向こう側で仲間になった奴、皆、女の子ばかりだったんだ……。


 言っとくけど別に、女の子にばかり声をかけたから、なんて理由じゃないぞ。


 向こうの世界は、魔術への適性は女性の方が高く、総じて戦闘力が高い上に、女性優位の社会構造だったと言う……ちゃんとした理由があったんだけどな。

 

 男女比も女性の方が多くて、兵隊や冒険者に関しては、女性ばかり。

 一夫多妻制で、野郎ってだけで、黙っていても女の子たちが群がってくる……そんな世界なのだ。

 

 そんな訳で、いわゆるハーレムパーティみたいになったのも、いわば必然的な話。


 当然ながら……お色気だの、エロイベント的なものも、あるにはあったのだけど。


 むしろ、命がけの戦いの連続で、毎日必死で生き残るサバイバルな日常だった。


 一瞬たりとも気が抜けない危機、また危機の連続。

 容赦のない大自然の猛威……化け物じみた魔族との戦い、恐るべき異能を持つ魔王軍の幹部達との死闘。

 呪詛や策略の数々……死にかけた事だって一度や二度じゃない。


 人間サイドの複雑な思惑に、足を引っ張られたこともあった。

 

 けれども、そんな悪戦苦闘の果てに……俺達は魔王を倒し、異世界に平和をもたらせたのだ。


 そして、平和になった世界で、苦楽を共にした仲間たちに囲まれて、のんびり暮らす……それも悪くないと思っていたのだけど。

 

 異世界での俺の役割は……。

 魔王を倒し、戦いを終らせたのと同時に、終わっていたのだ。

 

 望む望まないに関係なく、俺は元の世界に戻る事になった。

 愛すべき仲間達に見送られて、俺は断腸の思いで、現実世界へと強制送還された。

 

 一年以上も向こうの世界で過ごして、戻っても俺の居場所なんてとっくに無い。

 そう思っていたのだけど。


 こちらの世界に戻ってきたら、僅か3日しか経ってなかった。


 一年ぶりに戻った自分の部屋も、異世界に旅立つ前に食った晩飯の洗い物が、そのまま残されているような有様だった。


 どうも、俺を異世界にいざなった女神様が、俺が元の世界に戻っても困らないようにと取り計らってくれた結果……のようなのだが。

 

 でも、本当のことを言えば……俺は、この世界の元の暮らしになんて、未練はなかった。


 そんな時系列に干渉するような真似が出来るのなら、俺がずっと向こうにいられるようにして欲しかった……。

 

 この世界での俺は、しがないごく普通のサラリーマン。

 地方都市の小さな土建屋の中間管理職にすぎない。

 

 社長からは、それなりに評価され、部下や職人達からも慕われて……家と仕事場を往復する毎日。


 こちらの世界での、俺の立場は……あの異世界での冒険ぐらしをする前と何も変わらなかった。


 ……せいぜい、3日ほどの無断欠勤扱いになった程度。

 

 むしろ、とっても心配されていて、社長から長々とお説教をされただけでおしまい。


 もう少し連絡するのが遅れていたら、警察に捜索願を出されて、ちょっとした騒ぎになるところだったのだけど。

 その辺は、ギリギリセーフだった。

 

 つまり、何もかも元通り。

 何事もなかったかのように……元の世界での元の生活が始まった。

 

 異世界での味気ない食事や夜の明かりや寝床の確保にすら苦労する……毎日が命懸けの過酷な日々。

 

 泥に塗れながら眠り、夜の寒さに凍え、砂漠で水がなくなり、生き地獄のような思いもした。

 何度も何度も死にかけながら、もう異世界なんてうんざりだと、繰り返し思ったはずなのだけど。


 現実世界で、日々の暮らしに追われながら……そんな日々が懐かしいと思う自分が居た。

 

 灼熱の溶岩流。

 ……ダンジョンの最深部で見た黄金の遺跡。


 まつ毛も凍る極寒の地で見たダイヤモンドダスト……。

 

 空へと昇る滝……水晶で出来た美しいドラゴン。


 七色の七つの月……二つの太陽……。

 

 果てしなく続く緑の草原。


 仲間達と共に自分の足で歩いた異世界。

 

 目を閉じると昨日のことのように、思い出すあの風景。

 

 帰りたい……あの世界に。


 いつしか、俺は心からあの世界に戻りたいと……そう願うようになった。

 

 あの頃の感覚を忘れたくなくて、休暇を取って、ナイフ一つで山に篭って数日を過ごしたり、鍛錬と称して、木刀を振り回したりとかもしたけれど。


 所詮は、どれも遊びの範囲を出なかった。

 

 この世界の日本の自然は、あの世界ほど凶暴じゃない。


 安全だけど……何の面白みもない世界。

 どこまでも駆け抜けていけると思えたあの世界と違って、果てがあって、閉ざされた世界。

 

 命がけなんて、普通に生活していれば、全く縁がなかった。

 日本という国は……どこまでも平和な国だった。

 

 ありきたりで平凡な毎日。

 それを軽んじるのは贅沢だと解っていたのだけど。


 あの駆け抜けるように過ぎていった異世界での一年あまりの日々は……あまりにも鮮烈に過ぎた。


 こちらの世界のもの全てが灰色……そんな風にすら感じられてしまうのも、きっと仕方がない事なのだろう。

 

 あれから10年の時が過ぎ……。

 異世界の冒険のことを、忘れかけていた頃。

 

 ――彼女はやってきた――

 

 それは冷たい雨の降る……12月のある日。

 

 自宅のアパートの廊下に佇む、闇色のローブ。

 降りしきる冷たい雨の中……明らかに、異質なそれは……。


 最初、幽霊か何かと思ったくらいだったのだけど。

 

 ……よく見れば、小さな女の子だった。

 それも小学校高学年くらいの。

 

 黒い短めの髪を粗末なリボンで飾っただけの質素な雰囲気の少女。

 

 でも、その深い翠の瞳を見た時。


 酷く懐かしく、見覚えがあるような気がした。

 

 ……その時、俺はあの懐かしい異世界からの風を確かに感じた気がした。

 

 終わったはずの俺の異世界の冒険譚が……再び幕を開けようとしていた。

大晦日だけど、新連載。(笑)

本当は、違うのを書きたかったのに、夢のお告げでこんなのが出来ました。


ストックはそれなりにあるので、しばらくデイリー更新でいきます。


ジャンルは、ファンタジー世界側が舞台になる予定もありますし、主人公のおっさんが異世界転移勇者なので、異世界転移ハイ・ファンタジーとしました。

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