第五話 なんか話が大きくなっちゃってる……
「皆の者お役目ご苦労。この者達は帝国の民なれど我らの古き友だ。
身分はこのロートリア=ハルケンとこちらのケイネロス=ナツキウルが保証する」
ハルがびしっと衛兵たちと交渉すると、驚くほどあっさりと収拾がついた。
ハルとナツの名前が、王国において非常に強力であるらしい。アキが耳打ちしてくれた。
取り敢えず、このままだと周囲から目立ってしまうので、全員でハル達の部屋へと移動する。
ルームサービスで軽食と紅茶や少しお酒なんかも届けてもらう。
トウジとリッカとナギは帝国領から森を抜けて王国に侵入して私の気配を目指して来たみたいで、よく見るとボロボロだったのでまずはお風呂に入ってもらっている。
トウジとナギは帝国、リッカはサイドビーチ教国から駆けつけてくれたらしい。
魔の森を突っ切るなんて自殺行為だぞとフユに呆れられていたけど、自分たちも変わりないからなと笑いあっていた。
皆、姿は変わっても私の大事な家族。
全員が揃ってくれて、知らない世界でも私に安心を与えてくれる。
三人を待っている間にこの世界の各国の説明もしてもらった。
ハル、ナツが所属するのがサウザンドリーフ王国。
王政の国ではあるものの、人民から選ばれた共議会が存在しており、間接民主主義的な形だそうだ。
アメリカみたいなイメージらしい。
騎士の力が強く、近接戦闘において無類の強さを誇る騎馬隊が自慢。
アキとフユはトーンツリー共和国。
幾つかの小さな国が集まって全体の方針を決める共和制が取られていて、多文化多人種が集まった自由な国風らしい。
魔道具が発達していて、独特な兵装の軍隊はトリッキーな戦法で掴みどころのない強さを持っているそうだ。
サウザンドリーフ王国とトーンツリー共和国は同盟国になっている。
その同盟の対立国が、トウジとナギの国イースシティ帝国。
専制君主制、ベルゲンドローン=イースシティ=シジーク皇帝が国政も軍事も完全に把握している。
魔法研究に秀でていて軍事力の中心は魔法部隊で絶大な能力を持っているそうだ。
もし迷いの森が間になければ他の国への侵攻も辞さないタイプの国。怖い怖い。
そして、リッカの国がサイドビーチ教国。国教であるサーフェン教を中心に成り立っている宗教国家で教皇であるヨーロハマ=ピケル=バーンツ様って人が治めている。
各国にたくさんの信者を抱えているので、地味に影響力が強い。
教会や孤児院など人道的な活動も積極的に行っており、ちょっと毛色の違う国。
他国からは一目置かれているらしい。
海に面しており、あまりガチガチでない宗教思想と相まって予想外に開放的な国で、人気のリゾート地も多いそうです。行ってみたい。
神の加護を受けた聖騎士という、圧倒的、無敵の軍隊を保有しているけど、基本的に人間同士の争いには介入しない。魔獣や魔物から人々を護るのがその使命だそうです。
「うーん。ゲームみたいでワクワクする!」
「マキは隙があれば小説とか漫画とかゲームとか、なんていうかインドアな趣味しかなかったもんなー」
「しょうがないじゃない、呼び出し来たらすぐに行けるようにしなくちゃいけなかったし……」
「いやー、さっぱりしました。感謝しますハル」
タオルで髪の毛を拭きながらトウジがお風呂から上がってくる。
顔を拭く仕草がモルモット時代とにていてニコニコしちゃうね。
キリッとして白目がちな目元、すっとの伸びた鼻筋からの薄い唇。
友達の咲ちゃんがいたら「鬼畜眼鏡!」とか鼻血を出しながら叫び出しそうだ……
「ついつい夢中で走り続けてしまったよ、マキに会えると思ったらどんな苦労も厭わなかった!」
なんかクルクル回りながら歌うように話している。
うーん、そっかぁリッカはこういう風になるのかぁ……
ラテン系な濃い顔立ち、いい男、いや、いい漢って感じだ。
ピーンと立っている鶏冠は間違いなくリッカだ。
「はぁ~~、良かったよぉ無事にたどり着けて~~~怖かったぁ……」
ナギは、ナギだな。うん。
どこかどんくさくてでもすっごい優しくて。癒される~。
金髪の美少年。ぱっちり開いたお目々。かわいー。
「三人共お疲れ様ー。何の因果かまたみんなに会えて良かったよ」
「おお、マキ君。すっかり姿は違うけど、マキ君なんだね……」
「以前の君も素晴らしかったけど、今の君はさらにダイヤの煌きを放っている。
ああ、マキっち私の太陽……」
「ホントに、ホントにマキさんなんだね? 嘘じゃないよね? ぐすっ……良かった……」
「全く、ナギは泣き虫だな。ほら、鼻をかみ給え」
見た目は冷たそうな印象だけど、世話焼きで優しいのは変わってないんだなぁトウジは、よくナギの背中に乗って遊んで仲良かったもんなぁ……
「さて、少し落ち着いて皆の『こちら』での状況を話そうか、ついこの間までは一部関係はあってもマキに関わる記憶はなくしていたわけだし……」
ハルがその場を仕切ってくれる。
全員がテーブルに付く。
皆が座ると、なんていうか、個性が凄い。
「まず俺から、サウザンドリーフ王国陸軍軍団長が子、ロートリア=ハルケン。
まぁ、ハルでいいよ」
「次はオレだな。同じくサウザンドリーフ王国財務大臣……って親の説明いるか? まぁいいや。
ケイネロス=ナツキウル」
「ウチはトーンツリー共和国でブラックバード商会頭取やらしてもろーとる、ペッセルヘルン=アキネスカ」
「自分はトーンツリー共和国を中心に冒険者をしている。ランクはAA。
ランスロット=ヴァステン=フユーエル」
「私はイースシティ帝国魔術団~黒~副団長、ヴェルオストロ=ビンガー=ストウジェン」
「な……シュワルツ……」
驚いているハルを片手を上げて制してトウジは席に着く。
「えっと、ボクはイースシティ帝国魔術団~白~団長、リートバルレホーン=リッター=ナギレウエンゾ」
ハルとナツが目を見開いている。フユとアキもびっくりしている。
そうだよねー、ナギに団長とか……偉くなったなぁ……
「トリはミーですね! サイドビーチ教国から愛しのマキのために飛んできました!
ヨーロハマ=ピケル=リッカント、どうぞお見知りおきを……」
仰々しく礼をするリッカ。
「あ、あと私は片桐 真希。もう一人神獣で黒狼のヘイロンが私の中で守ってくれてます。
皆にあえてうれしいです。」
学校の自己紹介みたいになってしまった。
「えーっと、驚きの連続で聞き漏らしたかもしれないが……
リッカ……その名前は……まさか……」
「ああ、ミーのパパは教皇だよ! でも気にせずいつも通りリッカと呼んでおくれ!」
「……なぁ、ハル。これって結構ヤバイんじゃないか?」
「ああ、ナツに指摘されるのはびっくりだけど、かなりまずい」
「なにがまずいのハル、ナツ?」
「帝国の軍事の中枢二人、王国の高官の息子二人、複数の国を股にかける勇名轟くAA冒険者、現在すべての国への経済的影響力をメキメキ伸ばしている商会の頭取、極めつけは、教皇の息子が一堂に介している。それが異常事態であり、大変危険だとハル、ナツは言っているのです」
メガネをくいっと上げながらトウジが説明してくれた。
「たぶん、全員そうだけど……なんにも言わずに飛び出してきてるよな?」
「当然、立場ある人間だから……」
「ウチとハルは平気やろうけども~」
バタバタとホテルの支配人が飛び込んでくる。この人も苦労するね……
「ロートリア様! ケイネロス様! い、イースシティの兵とサイドビーチの神官と我が国の兵がにらみ合いを!」
「あーあ……」
「はわわ……ど、どうしようトウジ……」
「ナギ様、だから抜けるなんて手紙は駄目だと言ったじゃないですか……」
「ん~~パパにもちゃんと探さないでって手紙残したんだけどなぁ~~」
「ここに居るって連絡行くよなぁ……」
どうやら、大変な事になってきているようです。