第三十一話 役割
「どこを見ても敵だらけ、どこを狙っても敵に当たる!
撃て撃て撃て!!」
「前方に巨大モンスター! 反撃来ます!」
「精霊防壁展開、エネルギーを受け流すよー!」
「敵の主砲いなしたらこっちもぶっぱなすでー!」
「敵中型魔物が艦体に取りつこうと突っ込んでくる! マキ殿! こちらも防衛に回そう」
皆ノリノリでお母さんは本当にうれしいよ!
という感動はぐっとこらえる。
さぁ、つっぱしって私の妄想力!!
「自立起動型自動防御システムソードガーディアン発動!!」
勇者の腕輪が光り輝やいて巨大な魔法で作られた武器がスワムホースの周囲に現れる。
接近する魔物を容赦なく高速で切り裂いていく。
武器が描く光の軌道は艦隊を包み込むように広がっていく。
「それにしても敵の数が多い!!」
「奥の敵は終結してどんどんエネルギーが高まっています!」
「ちんたらしてられないね! スワムホース! 最終決戦形態!!」
私の妄想がフル稼働。勇者から与えられた聖具と私の魔力が血管のようにスワムホース全体に広がっていく。
皆の力もすべて、使えるものはすべて使う!
「スワムホース、マ○ロス形態!!」
私の中で最終決戦兵器は人型と決まっている。
歌でも流れれば最高です。
「精霊の歌発動」
『聖獣と精霊の歌によって魔王旗下の魔物へのデバフ、それに我らの部隊へのバフを強化!』
まさか精霊王までノリノリとは!
無限とも思えた魔物たちはこちらの猛攻によって確実に数を減らしている。
異空間の壁、虚数空間によって遮られたソレが少しづつ姿を現していく。
「全速前進! 魔王にわざわざ力を取り戻させるのを待つ必要はないわ!」
前方に攻撃を集中させ、敵の波のような壁のような攻撃に楔を打ちこむ。
主砲が撃ち込まれた場所にいた魔物は粒子も残らず消え失せる。
「今だ!! シールド全開であの穴に突っ込め!!」
敵が群れを成して穴をふさぐ前に機体をねじ込みシールドでこじ開けていく。
シールドと言っても超エネルギー体、高々魔物風情は触れれば消し飛んでいく。
魔王との間に作られた魔物の肉の壁に、ようやく通気口を作った。
「あれが……魔王……」
目の前には巨大な卵のようなカプセルのような容器に入った男の姿。
年寄りのようにも若い青年のようにも見える。
ただ、その身からあふれ出る魔力は禍々しく魔力の域を超えている印象を受ける。
『魔王が使う魔力は、魔王力とも称される別次元のエネルギー。
聖女よ、お主の力を全開で事に当たれ』
聖獣王様もその禍々しい魔王力に当てられて、過去を思い出してしまったのか顔色が悪い。
「マキ君、再び魔物が間に!」
「ここが正念場、魔王との戦いの邪魔はさせない!!
総員バトルスーツを着て、打って出るよ!
スワムホースは自動支援モード、全力で魔王との戦いを邪魔させないで!」
スワムホースの周囲に浮かぶ武器がさらに倍になり、魔王との間に入る魔物、周囲の魔物を一掃していく。疑似フィールドを展開して、魔王までの足場を形成する。
そこは聖女たちと魔王しか入れない神聖な場所。
「皆、最後の戦いになる。私の妄想のすべてを込めたこの鎧と武器を預けます。
笑って地球に帰りましょう」
最終決戦にふさわしく、白銀と黄金に輝く揃いの鎧と各人の武器。
名前はないが、ありったけの力を込めてある。
私の愛する家族を守って、家族とその世界を害する魔王に届く武器。
そう考えて作り上げた結晶。
「行きます!」
スワムホースのブリッジが分離して小型艇に変化し、魔王の眼前に着陸する。
少し見上げた位置に魔王が眠っている。
「まだ寝ているのかな?」
【これだけ騒がしくしておいてそのセリフは無いだろう? 聖女よ】
ゆっくりと男の目が開く。あ、イケメンだ。
と、思ったのもつかの間膨大な魔王力があふれ出す。
もし、この鎧をつけていなければ、存在自体をかき消されたかもしれない……
スワムホースからの支援が無ければ空間自体も崩壊したかもしれない。
今は魔王と私たちの戦闘の場を、ほぼ隔絶した空間を作り出すような力で包み込んでくれている。
その結界の外では私の生み出した戦士たちが魔物たちと死闘を繰り広げている。
【随分と変わった戦い方をするのだな、勇者とはまるで違う……ふむ。興味深い】
全裸で丸まっていた魔王がどこからかマントを取り出し身を包むと、まるで礼服のような服装に変化する。いつの間にか周囲を覆っていた卵のようなものが消えていた。
気が付かなかった。もしかしたらあのマントがそうだったのかな?
「貴方を滅ぼすために来ました。貴方の世界を食らう力を消滅させます。
その力はあなたのような破滅主義者が持っていていい物ではありません」
これは、知識を得て知った魔王の事実。
いくつもの世界を飲み込み、次元を渡り、また世界を食らう。
すべての世界を食らって、最後には自分自身も食らい、無になること。
魔王はその目的のために活動している。
世界を産む人々、神と呼ばれたりする人々はその魔王を何とかしようとしていた。
しかし、魔王の力は神たちの及ばぬ力。世界に内在する者でなければ排除することが出来ない仕組みになっていた。
神たちは手を取り合い様々な方法で魔王から世界を逃がしていた。
そして、とうとう私が生まれた。
無限の創造。
私からすればただの妄想だけど、世界が変われば私が妄想すればするほど世界が広がるスキルとなる。
世界を食らう力と、世界を膨らませる力。
私の役目は、魔王が満腹になるまで私の妄想を与え続けること。
【まぁ、よい。長き眠りで退屈していたのだ。
どうせ滅びるこの世界、俺を少しでも楽しませてくれ】
魔王に楽しんでもらうことだ!