第二十八話 夫婦
まるで幻想のような美しい庭園に誘われるように中に入ってしまう。
よく管理されているのが一目にわかる花々、その間をきらきらと光を跳ね返しながら透明な川が流れている。
明らかに高所の空間とは思えない。
『何者だ?』
空間に声が響く、威嚇したわけでもない穏やかで優しそうな声だが背筋が整うような威厳を感じる。
『久しぶりだな獣王』
『……? その声はルーパスか! 懐かしいな!!』
よく見れば花畑の中央に東屋のようなものがあり二人の人物が立っているのが見える。
まさに、王子様。そう表現するしかない金髪の青年と、同じく王女様と表現するしかない銀髪の女性。
なんというか、一枚の完璧な絵画の世界とでも言えばいいのか、その王子の隣にはその王女様じゃないとだめだし、その王女様の隣にはその王子様じゃないとだめ。そんな二人だった。
『ルーパス様ご無沙汰しております』
まるで花の音のような美しい声が庭園に広がる。
なにこれ、顔が赤くなる。
『二人とも元気そうだな。今日は聖女の供として友として参った』
『魔王ですね』
『二人とも力を貸してもらえるか?』
『……そちが聖女か?』
『可愛らしい子なのね今回は?』
二人からじっと見つめられる、それだけで動けなくなる。
ただ美しいだけじゃない、二人ともとんでもない力を持っている。
『名乗りが遅れたな、私は聖獣王キグナス』
『私は魔道女王ナーサ』
名を名乗ると雰囲気が一変してものすごいプレッシャーを感じる。
なんとか立ってられるけど、背後ではみんながひざまずいているのがわかる。
『ふむ、名ぐらいには耐えられるのか、よかろう。われら夫婦の安寧の時間のために魔王を倒そう』
『この世界穏やかに過ごすことがわれらが願い。力添えしますわ』
「は、はい。マキと申します。よろしくお願いします」
ようやく口が動いた。
『いい加減威圧を解いてやってくれ、仲間たちが辛そうだ』
『おお、すまんすまん』
途端に体に乗っかっていた重さが取り去られる。
ハル達はさらに辛かったようで、ようやく呼吸ができるといった感じで肺に酸素を取り込んでいる。
いや、確かにそれぐらいのプレッシャーを感じていた。
この人たちの力を借りられるのはこれ以上ない助力となるのは間違いない。
「普通に話すとするが、随分と強いつながりのある仲間がいるのだな今回の聖女には」
「もしかしたら魔王を真に滅ぼすことができるかもしれませんねあなた」
「ふむ、ナツ……わしの力につぶされるなよ」
「魔を志す者に私の力を……」
二人の力が私に注ぎ込まれていく、とうとう全員が聖獣の力を得ることになるのだが、はっきりとわかる今回の力はけた違いだ。
百獣の王獅子の力を色濃く受け取るのはナツの役目かもしれないけど、これはやばい。
「すみませんが、私にとって仲間はすべて一人残らず大切な仲間です。
今まで力添えをしてくださった聖獣の力全てを全員に渡したいと思います」
「ふむ確かにそのほうがいいな、聖女の器を通してお主の仲間に我が力、そして妻の力を与えよう」
すべての聖獣をすべる力、全ての魔道をすべる力が流れ込んでくる。
ものすごい力の奔流に私自身も消し飛びそうになるけど、皆に支えてもらいながら必死に耐えていく。
なんとかなりそうだなと思った矢先にとんでもないことを聖獣王が言い出す。
『なんとかなりそうだな、それでは、この世界にいる聖獣よ! 魔王退治の時間だ我に力を貸すがよい!』
流れ込んでくる力が跳ね上がる、体が焼き切れそうになる。
そんな必死な私の状態を無視して精霊王様も余計なことを言い出す。
『精霊たちよ、とうとう魔王を滅ぼす時が来たぞ、さぁ、我がもとに集え』
ぎゃーーーーって声をあげたくなる。
聖獣王の呼びかけに答えた聖獣たちの力は言ってみればあっついお風呂に我慢して入っているような感じ。
精霊王の呼びかけに答えた精霊の助力は限界まで腕立て伏せをした状態からさらに腕立て伏せをするような感じだ。
『あら、二人とも張り切っているのね。なら私も頑張らないとね。
この世界の魔道の極みを貴方に教えてあげるわね』
限界まで頭を使った状態からさらに問題集を解かされているような……
なんにせよ、そんな負荷が一気に襲い掛かってくる。
なんだってこんなことになっているのよ……聞いてないわよ……
振り返れば全員、モウドーニデモナーレって感じで真っ白に燃え尽きている。
私が、私が頑張らないと!!
勇者から与えられた遺物たちが過熱する。
私の能力と勇者の遺物が全力全開で稼働しているのがわかる。
取り込んでいる力の使用方法やら世界の法則やらが頭にどんどん流れ込んでくる。
正直頭が沸騰してしまいそうになる。
国家試験勉強だってここまで脳みそを稼働させてないと確信する。
仕事をし始めて様々なことを知って、毎日挫折をしながらも勉強して日々の診療に必死に食らいついて、そんな日々が一瞬で走馬灯のように思い出される。
負けない。
私は、私は、負けない。
気が付けば体に光の波が四方八方から注ぎ込まれている。
過剰な力が私の体を走り回り、四肢がはじけ飛びそうになり、下っ腹は熱湯をかけられたように熱くなる。
(やばいかも……)
不安になって後ろを向くと全員ぶっ倒れてるじゃありませんか。
この夫婦と精霊王さま絶対どSだまちがいねー。
なんか倒れているみんなの姿が昔の姿で見えてきた……これは死ぬ前に見る幻影か何かかな?
ああ、みんなを救わないと。私がしっかりしないと。
「こんなもん3徹して急患のパイオのオペやった時に比べれば!!」
流れ込んでくる力の奔流を全身に回転させるように流れを作る。
一か所にたまっているよりも常に動きを作ったほうが分散して楽になる。
魔力も気力も精霊力も関係あるかーい! 全部まぜこぜにしてぎゅるんぎゅるん大回転じゃーい!!
寝落ちしてる仲間につながるラインもフル回転で利用する。
すごい力がギュルギュル流れ込んでみんながビクンビクンしてるんだけど、そうでもしないと耐えられないのよ私が。ごめんね。
でも普段まじめなトウジとかフユがビクンビクンしてるのを見てたら笑えて来た。ははは。
「って、長いですよ!!」
『ん? もう終わっておるぞ? そんなに勢いよく力を回してたら疲れないのか?』
いつの間にか3人で優雅にお茶をしていて殺意が沸いた。
流れ込んできているエネルギーが落ち着いていることにやっと気が付けた。
すぐに力の回転を留めて落ち着かせる。
なるほど体全体に力がみなぎっている。
『先代でもそんなバカげた力にはならなかった。聖女には天性の才があるようだな』
『魔力も一段高いレベルに昇華させてますし、素晴らしいですわ』
『こんなにも心地の良い気があるのだなぁ、みなも喜んでおるよ』
人の苦労も知らないでなんとまぁ……
なんにせよ、こうして私は魔王との戦いの準備を終えることができました。
あとは伝説の地スワムホースへと向かうだけ。
あと、白目向いて気絶しているみんなが目覚めるのを待つだけになった。




