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第十九話 食べ歩きは幸せなのです……

 トーンツリー共和国の入り口。

 トーネス大河によってサウザンドリーフ王国との交易の中心となっている街。

 ツカバネ。

 豊富な山の幸と川から取れる川魚が名産料理。

 農作物と同時に畜産も盛んで食事に関しては冒険者に大人気の国だ。

 国風も自由というか大らかで、ダンジョン数も多いために冒険者によって経済活動は活発だ。


「うーん。香草の風味が最高!」


「マキー何食目だよ……太るぞ……」


「この身体ねー。太らないんだよ! 最高だよ!」


 この世界に来て、新しい食事、豪華な食事、そりゃーもう日本では食べられないような様々なものを欲望のまま食べ尽くしているが!

 この肉体!

 全く太ることもない!

 お酒も気持ちよくなるけど酔わない!

 最高です!

 戦ったり魔法使ったりするとすんごくお腹がすくし!

 ああ、この身体は向こうに持っていきたい!

 食べるのは大好きだけど、時間のない中放り込んでいる生活のせいでどうにも胃腸が弱くて、少し脂っこいものを食べれば胸焼けにお腹も下るという有様。

 結局体にいいものを少量食べて生きていた私にとって、今は本当に幸せ。


「川魚の網(大網:動物のお腹の臓器を包んでいる膜のようなもの脂肪が付着しています)巻!

 絶対美味しい! 間違いない! おじさんこれもください!」


 私の読み通り、さっぱりとした川魚を網で巻いて仕上げることでジューシーな旨味。

 一緒に食べる野菜のシャキシャキ感にちょっとスパイシーなソースがピッタリの一品。

 あっという間に平らげてしまいました。


「確かに、料理は旨いな!」


 ナツもなんだかんだ言って街の散策を楽しんでいる。

 川魚にも豊富な種類があって、沢エビなんかも最高で、大自然のエネルギーをたっぷり吸い込んだ野菜の美味しさは衝撃だった。


「私はもう、幸せだよ」


 決意したのに、早速揺らぎそうです。


「どうしたんだいマキ? 両手に料理を持って泣いているのか?」


「うう、帰りたいけど、帰りたくないよ~、美味しいんだよー」


 私のなんともみっともない姿に皆大笑いだ。

 真面目に悩んでるのにー。


「マキ殿はもうしばらくは帰るための旅を続けるのだ、その間に色々なことを経験して色々なことを考えればいいのですよ」


「そうそう、人間なんて考えが変わるもの、体験してその場その場の答えを見つければいいのですよ~」


「ど、どんな結論であってもマキさんの答えのために皆で支えていきます!」


 グルメで決意が揺らぐ私の弱い心に皆の優しさが染み渡る~。

 だめだね、皆に甘えていたら私はダメになる。間違いない。

 楽な方に楽な方に流れてしまう。


「と、取り敢えず次の目的地へ急ぎましょう!

 次はダンジョン攻略よね! 準備もしっかりしないと!」


 RPGと言えばダンジョン攻略だ!


「フユは次の目的地の、アントだっけ?

 そこの出身なんだよね? どんなところなの?」


「巨大ダンジョンであるすり鉢の存在に寄って、多くの冒険者や武芸に自身のあるものが集まる活気に溢れた街です。

 少々血の気の多い人間も多いですが、好きですよあそこの雰囲気は」


 懐かしそうに目を細めるフユ。ああ、渋いおじ様のそういう表情はたまらない。


「アントはトーンツリー共和国ほぼ中央にある山岳に囲まれて盆地状になっている街でしたね。

 協議会が有るウートンギーグよりも堅牢な都市で、実質トーンツリーの最終防衛都市だね」


 いつものメガネクイッとやりながらトウジが話しに入ってくる。


「帝国の情報網は侮れんなぁ……もし戦争になっとったらやばかったかもなぁ」


「それでも最後に引っかかったのはBB商会なんですけどね」


 ナギちゃんが両手でクレープみたいなものを持ってハムハムと頬張りながら話に加わってくる。

 なんか、うさぎというよりハムスターっぽい。かわいい。


「ふーん……こういうのとかかなぁ?」


 アキが取り出したのは真っ黒い箱。何の変哲もない箱。って感じ。


「……マジック・ジャマー……ですか」


「さっすがトウジはん。ひと目でわかるとは怖い怖い……」


「やはり実用化してたんですね。

 うちのものが噂を耳にしてなければ開戦は半年は早まって、今頃我軍の重要な人材が失われていましたね」


 お、なんか真面目モードのナギちゃん。

 笑顔が怖いってこんな感じかな。笑い合うアキちゃんとナギちゃんと言う微笑ましい光景なのに周囲の緊張が高まっていく気がする。


「なんにせよ、我らが戦わないで済んだことは行幸。

 力を合わせて魔王を倒そうじゃないか」


 さすがフユ。頼れるナイスミドルである。

 場の緊張もほぐれたところで、取り敢えずトーンツリー共和国内での移動ルートを話し合うのと、その準備のためにBB商会所有の建物へと移動する。

 大通りから脇道に入ってすぐの歴史を感じる立派な建物だ。

 中の管理も素晴らしくアキちゃんの従業員への徹底ぶりが窺い知れる。


「はいってはいってーすぐに茶ーもってこさせるからねー」


 会議室に通されるとさらに驚く、各国の詳細な地図、これには全員が食い入るように自分の中の知識と比較していた。

 さらに、各国における必要物資と供給物資から考えられる状態の分析。

 まさに情報を掴むものが世界を制するということを体現したような情報の数々だ。


「……アキちゃん、わざとこの資料貼っておいたでしょ……」


「んー? 何のことやー?」


 とぼけてるけど、さっきみたいな腹の探り合いならウチラのとこが一枚上手やでってのをはっきりと提示したかったんだと思う。策士ですね。

それらの情報を食い入る様に見ていたトウジ、ナギ、そしてリッカがお手上げだよみたいなアメリカ人っぽいジェスチャーしている。


「これでもうちの諜報部の能力は自信あったんだけどなぁ~」


「ふふん、こっちは早い時期から無意識に現代式情報収集方法を採用しておりますからねー」


「降参だな。これは文字通り時代が違うレベルだ」


「すべてが終わったら皇帝陛下にこの世界はBB商会に支配されていますとお伝えしておきましょう」


「なんか偉い言われようやな……ま、ええわ。帝国さんの強力な情報収集能力を自慢されるのも飽きましたでな」


 ぐぬぬ顔である。トウジのいい感じのぐぬぬ顔である。

 ナギちゃんも表情は変えてないけど怒っているな、黒いオーラが立ち上がってる気がする。


「ま、まあまあ! 皆あんまりバチバチやらないでさ!

 今はおんなじ目的を持つ仲間なんだから!」


「そうだぞ、皆、あまんまりマキ殿を困らせるな……」


「とりあえず、次の目的地、ダンジョン攻略の準備をしなければいけない」


 ハルが真面目な顔でダンジョン都市の地図を開く。


「しかし、前人未到の最下層……か……フユでも到達したことはないだろ?」


「ああ、一応今の76階の記録を打ち立てた隊には参加していた。

 かなり大規模な冒険者グループで挑んだ。

 熟練のパーティが3個が探索、中堅パーティ2個が中継拠点作成、そして地上との物資のやり取りを2パーティ。コレだけのメンツを組んで、そこまでしか至らなかった」


 さっきまでの喧騒が吹き飛び部屋を沈黙が支配する。

 ゴクリと誰かが生唾を飲む音が聞こえた気がする。


「フユとハルの今の力を考慮に入れてどうかな?」


「……断言できるのは、たとえ他のパーティの援助がなくともアキ殿のアイテムボックスもある。

 76階は問題ないと思う。ただ、その先は、言ったことがないのでコメントのしようがないです。

 申し訳ない」


「ううん、たしかにそうよね……」


「ハルさん、そのアタックが76階で終わった理由は?」


「先が見えない、長期間ダンジョンに入っている疲労の蓄積、その他にも理由はありますが、そこら辺が理由になりますね」


 たしかにそうだ。

 聞いた話ではダンジョンは魔物の巣窟、いつ何時魔物の集団に襲われるかもわからない未知の空間。

 その中を長期間冒険するというのは消耗は激しいだろう……


 それからはダンジョン内での必要物資の算定や、各階の敵の構成など、皆きちんと真面目な顔になって議論を続けていく。

 私も皆につながる聖女として話を聞いて考えられる意見を述べていく。

 特に聖獣の助言は的確でさすが年の功を感じる。

 聖獣がついている。それだけでもダンジョン攻略に悲壮感は無かった。

 むしろ、前人未到の偉業を達成できるのでは? という熱が皆を興奮させているように感じた。


「ふいー……なんか使わない頭を使って疲れたー」


 今は部屋に戻ってゆったりとお風呂に入っている。

 客間用の部屋に湯船付きのお風呂という贅沢仕様。

 さすがアキちゃんのBB商会だ! 最高!


「私も、少し戦力になるように頑張らないとなぁ……」


 聖獣の力を得たハルとフユ、それに私は他のメンバーよりも戦闘力は高い。

 ハルもフユも近接戦闘特化だから、もう少し魔法面で私が頑張らないとなぁ。

 ナギもトウジもリッカも凄い使い手なんだけどね、これからは未知の敵との戦いになる。

 少しでも皆の力にならないと、一応聖女だからね私。


 次の目的地、ダンジョン攻略に向けて私たちは動き出した。


 






 




 









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