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第十七話 聖女の壁とか恥ずかしいんですけど……

 私が作った城壁に敵の大群が突っ込んでくるけど、硬度を高めた土壁を破ることは出来ない。

 大量の土を利用してそれを堀にしているからかなりの深さがある。

 水堀に落ちてあとから続く大軍によって溺死する魔物も少なくないだろうなぁ……


「魔物は急に止まれない……」


 ゴンゴンと魔物が壁に当たる音が響き渡るが、一部街道沿いを来た魔物はハルとフユによって蹴散らされている。


「しかし、これほどの魔物がいるとは、やはり魔物の報告が増えていたのは本当なんだな」


「これで少しはいつもどおりの平穏を取り戻すだろう!」


一部の開かれた場所に理性のない魔物が殺到するせいで、渋滞状態が起きており、その過程で圧死するような魔物まで出てきている。

 溜まった魔物たちには容赦なく攻撃魔法が降り注ぎ、矢の雨が降り注ぐ。

 ようやく城壁の間から抜けられた魔物も、フユとハルによって迎撃されていく。

 大量の魔物による街への危機はいつの間にか魔物たちの大量虐殺へと姿を変えていた。


「……そういえば、魔物ってなんで魔石に変わるの?」


「魔物は動物と違って魔石が瘴気や魔力を吸収して作り出すものなんです。

 だから生物とは少し違うのかもしれません。太古の昔に現れた魔王が残した負の遺産と伝えられています」


「ナギちゃんは詳しいんだね」


「この世界に産まれた者は、おとぎ話代わりにその話をされるからな。

 マキ君が倒す相手は、世界中にこういった魔物を作り出すほどの強大な相手ということになる」


「ううん、そう考えると手強そうだね……」


「魔石自体は魔道具の材料にもなるし、便利なものなんやけどなぁ……」


「今回の戦いでもたっぷり手に入ってるからねー、また皆の暮らしが豊かになるよー」


 世間話をしながらも精霊魔法やら矢の雨を振らせて次々と魔物を葬っている。

 私もトウジとナギちゃんと一緒に頑張ってます。

 アキちゃんがかっこいいから少し弓を使ったら地形が変わるから止めようって話になった。

 後で直すからいいじゃないの……


「さてナギ様、また周囲の魔獣を呼ばれては困ります。

 最後は神聖魔法で行きましょう!」


「うん。マキさん! 一緒にお願いします!」


「はーい」


 なるほど、こういった感じで組むと聖属性魔法になるのね。

 範囲を拡大させて、しばらく持続性も持たせてっと……


「オッケー!」


「はい! サンクチュアリ(マキさんVer)!」


 壁の向こう側に複数の魔法陣が現れ、聖なる浄化の光が周囲を飲み込んでいく。

 天空に昇った聖なる光は空に留まり、しばらくはこの地に聖なる雨を降らせる。

 これでこの地で滅んでいった怨嗟などは浄化されていくだろう……

 ちょっと堀の水とかが呪いの池とかになったら、街のそばの水源を汚染することになっちゃうからね。


 この壁と、周囲に満ちた神聖な気によって、この森は聖なる森・湖と化して長い時代この町を守り続けることになるんだけど、この時の私は別にそんなつもりでやったわけじゃなかったんですけどねー。


「なんとかなったねぇ、どうするこの壁、元に戻す?」


「いや、今後のことを考えてそのままにしておこう。

 これがあれば街の拡張も簡単になるだろうし、俺が少し町長に説明してくる。

 アキ、一緒に来てくれるか? その方が話が早い」


「そやね」


 ハルとアキが街の責任者と話してくれるらしい、ついでにナツもくっついていった。

 二人共名家のお生まれですからね。


 結果としてあの壁と掘は『聖女の壁』として残されることになった。

 日本の時の私の事をあざ笑うような名前になって遺憾である。くっ……


 こうして、ようやく落ち着きを取り戻した街を残した人員に任せて。

 私たちは次の旅の目的地である、トーンツリー共和国へと向かい出発する。


「今回は各国の王から許可がありますから、正規のルートを取ります。

 北のトーネス大河を渡ります」


「そやねー、迷いの森突っ切るような真似はもうせんでええなー」


「久々の船旅だなぁ。ナツ大丈夫か?」


「ああ……マキがいるから……たぶん……」


「そういやナツは水嫌いだもんねー」


「い、いや! オレだってこの身体になって風呂くらいは入れるんだけど、船がなー……」


「ウチの船手配しとるから少しはマシやと思うでー」


「た、助かりますアキさん」


 よっぽど船が苦手らしい……

 日本むこうでも浴槽に落ちて大パニックになってたりしたもんなぁ、お水張ってなかったのにね。


「とりあえず河までは気楽な馬車の旅となる。マキ殿もゆったりと過ごすがいい」


「たしかに、こっちに来てから毎日急転直下の大忙しで、ゆっくり出来るのも久しぶりだねぇ」


 馬車の中で身体を伸ばす。移動とはいえこの快適な馬車の度は非常に楽しい。

 窓から過ぎる風景は日本では見ることもなかった美しい自然に溢れている。

 空気は綺麗、耳をすませば鳥の声やカタカタと静かに地面を転がる車輪の音、パッカパカと馬の歩く音が気持ちのよいリズムで身体に染み込んでくる……眠くなる。


「ふぁ~~ちょっとおやすみ~」


「風邪引くぞマキ、これ使え」


 ナツが毛布を貸してくれる。

 昔はこうしていたら皆集まってきてまーるくなって寝てたなぁ……

 そんなことを考えていたらいつの間にか眠りに落ちていた。




「そろそろ見張り交代の……って! お前ら! ずるいぞ!!」


「あ、あれーハルおはよー。寝ちゃってたよ……なんか、重い……」


 気がついたら寝ていたらしい。

 そしてナツが丸くなって毛布の上に寝ているし。

 フユも器用にムキムキの肉体に手足を収めて足元に寝ていた。

 アキは器用に椅子の上で直立で座ったまま寝ている。

 日本のいた時の皆の姿が重なって、少し目頭が熱くなった。


「ごめんねハル。ついウトウトしちゃって……」


「別にマキは悪くない、ホラ! いい加減にしろナツ!

 マキが重いだろ!!」


「うにゃー」


「ぷっ! ハルに起こされて不機嫌そうなナツは変わらないんだね!」


 二人がじゃれているのを見ると心が暖かくなる。


「まあ、いい。もうすぐトーネス大河の渡し場の街につく。

 そろそろ準備をしてくれ」


 ハルの言った通り、しばらくすると街が見えてくる。

 木造の柵によって囲まれている。外壁だけで見ると今までの街よりも少し規模が小さいのかと思いそうだけど、平屋の建物がかなりの広さで続いている。

 どことなく統一感がなくて、ばらばらなイメージを受けるので、拡張の連続で外壁が簡単な作りなのかもしれない。


「うわ、すごい人だね!」


 街に入ると外から見た、はっきり言っちゃうと廃れた街なのかな? って感想は吹き飛んだ。

 多くの人で賑わっており、活気に満ち溢れている。

 馬車が通れるような整備された道は無いために、歩いて街の中を今日の目的地の宿まですすんでいく。


「ここは交易の中心でもあるからね、トーネス大河は流れが複雑で水棲の魔物も多い河で、渡れる場所も限られている。しっかりと整備されて大型の船舶も渡航できる場所は自然と発展していく」


「ほほう、帝国の方々はこちらの事情もよく知っておられる」


「これくらいの情報は我らサイドビーチ教国の子供だって知っているよ。

 帝国の軍事の中枢にいたトウジっちやナギっちなら知っていて当然だよ~」


「今は魔王の出現で立ち消えましたが、帝国わがくにの侵略作戦はかなりの段階まで進んでいましたからね」


「なっ……!?」


「トウジ……まぁ、事実ですが。もし記憶が戻っていなかったら、あの家の者同士が争うことになっていたのかもしれないと思うと……マキさんが来てくれて本当に良かったです」


「みんなが争う姿は見たくないなぁ……」


「まぁ、ほんとに戦うのは別として、トーンツリーとサウザンドリーフ王国の連合軍に対して、いかにイースシティ帝国の魔導部隊でも苦戦は免れないんじゃないか?」


 ハルが頭のなかでのシュミレーション結果を元にトウジへと問いかける。

 ナツやフユもだいたい同じ結果になったようでウンウンと頷いている。


「……普通の剣をいともたやすく斬る剣と、一切、矢も投石も効かない鎧を装備して、魔法を駆使して戦う大隊がもしも居たら、どうなるかなその算段は?」


「なっ……!?」


「トウジ……知らないぞ。ボクは何も聞いてないよ」


「ああ、あの注文はそういうことやったんか」


「……はぁ……魔王が来てくれて、うちの国は良かったのかもな……」


「魔王は要らないからマキだけ来てほしかったよなぁ……」


「確かにそれは自分も考えた。これで魔王討伐がなければ皆でのんびりと暮らせたろうにな、と。

 ただ、マキ殿は向こうに帰らねばならんからな、たらればの話をしても仕方ないだろう」


「せやね、おっと。見えたで。あそこが今日の宿屋やで」


 街に入ってまっすぐと伸びる比較的広い通りを川まで進むと、T字状に比較的広い道が続いている。

 川沿いに立ち並ぶ、この町では比較的立派な建物の一つが今日の宿だった。

 部屋に入ると窓から大きな川を一望でき、夕暮れの太陽が反射している川面がとても綺麗だった。


「うわ~~……素敵……」


 その光景に思わず息を飲んでしまった。

 目に入るすべての景色が美しい。そんな経験をこっちの世界に来て何度となくすることが出来た。

 これはとても幸運なことだと思う。


「どうやーマキちゃーん。いい部屋やろ。

 設備もそうやけど、この景色はどうやっても作れんからなぁ……」


 アキが隣で窓からの景色に目を細めている。

 日本に居たら、こんな景色いつ見られることになるか……

 旅行なんて就職してからまともに行ったこともない、そもそも地球上にこの世界と同じくらい美しい場所が存在しているのかもわからない。

 それでも私は元の世界に戻りたいと心の底から思っている。

 どうしても、この世界で起きていることが現実とは思いきれない、何かゲームか何かのように思ってしまっている。

 現実感が、微妙にずれている。

 それが、すこしだけ辛いんだ。



 

 





日本に戻ったマキちゃんは壁所有者……

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