第9話 脱出
静まり返った遺跡の中、もうどれだけ時間が経った?いや数分も経っていない、それどころか数十秒も経ってないんじゃないか?1秒1秒が物凄く長く感じられる。
悪魔に向けられていたヒストリア様の闘志が今では俺にも向けられている。
理由は簡単だ、悪魔に俺の名を知られている、それに友の子だとも言っていた。
「どうした?ポートガスの子よ、何も躊躇することはあるまい?」
さも当然の様に話してくるアポピス、これは何かの罠か?いや、、、その可能性は限りなく低い、先程アポピスが振り抜いた黒剣をまともにくらっていたら俺は既に死んでいる。みんなも魔力の残りが少ないし、今更こんな揺さぶりをかける事になんの意味もない。
可能性的には本当に俺の家系、ポートガスについて知っているってほうが高い。
「お、お前と話すことなんてなにもない!」
「我はお前に教えてやっても良いことがたくさんあるぞ。まぁ、、、我はどの勢力にも属して居らぬゆえ、親切に全てを話す義理もないが」
こいつさっきからなにを考えてるんだ?
みんなは今のこの状況を必死に理解しようと頭をフル回転させてはいるが、何も出来ないことから立ち尽くしたままだ。
ヒストリア様だけは魔力を体内で少しずつ回復させながら、攻撃できる隙がないか目を光らせている。
しかし冷静であったヒストリア様をアポピスの一言が狂わせたのだ。
ヒストリア様の雷千花・天空一貫雷槍によって天井に丸い形に穴が空き、地上の上にあるはずの月が顔を覗かせている。その月を眺めながらアポピスが口を開く。
「《赤き光、地の底を照らす時、1人の少年によって停滞していた時代は飛躍する》、、、やはりジャンヌの予言はよう当たる」
その言葉を聞いたみんなは更に混乱する。
ジャンヌ、、、ジャンヌ・ダルク。
何百年も前に王都から姿を消した聖女。
そして王都でも1、2を争う実力の持ち主だったと学校で習った歴史的人物だ。
そんな彼女が悪の化身であるアポピスと交流があったなんて信じられない。
「ジャンヌだと?貴様ジャンヌを知っているのか?、、、もしそうだとしたら教えろ。彼女は今どこにいる?!!」
突然気が狂ったかの様に荒く、血走った目、イメージとはかけ離れたヒストリア・グランデの姿に唖然としてしまう。
「ん?何故お前がそう熱く、、、そうか、もしやお前はヒストリア。ヒストリア・グランデか?これは、、、こんな事が起こり得るのか?ふふふ、お前の話は昔よく聞いた、、、ジャンヌからな」
訳がわから無くなってきた、ヒストリア様とジャンヌは知り合い?だとしたらヒストリア様は何百年も生き続けていることになるぞ?一体どうなってるんだ?
「彼女を殺すのは私の役目、居場所を知っているなら今すぐ教えろ!」
手にした剣に持ち得る魔力全てを注ぎ込んでアポピスに剣先を向ける。
「知っているかもしれんがそれは言えぬな、先も言ったように我はどの勢力下でもない。他の勢力については一切を話す気はないのだ、そしてお前達を殺す気もない。ジャンヌが予言した予言の子、それがポートガスの子だとはな、そしてその場にジャンヌの因縁の相手、ヒストリア・グランデ、、、こんなに愉快なことがあるか?!もう何百年も退屈な時間を過ごしてきた、それが今日終わろうとしている!この先なにが起きるのか、我に見せてくれ!」
大きな口で笑みを浮かべると天井に空いた穴を見つめ、「ここから出してやる、我はまだこの遺跡に用がある。一度王都に帰還するが良い」
そう言うと長い尾で柱を二本折り、天井に掛かるようにうまい具合に二本の柱を傾けた。
ここからでれるのか?そんに幸運な事はない。だがここからでた後、ヒストリア様に何されるかわからない。このまま王都に戻って平気なのか?尋問され、納得がいく答えが返ってくるまで痛めつけられるんじゃないのか?けど納得いく答えなんで出せる訳がない。自分自身何がどうなっているのかまるで理解できていないのだから。
「ここから出してやる?ふざけるな!ジャンヌの居場所を教えろ!!」
「先からうるさいやつだな、教えぬと言っておるだろ?死にたいのか?ここで死ねば二度とジャンヌに会う事は叶わぬのだぞ?それでもよいと?」
アポピスが口の中の黒炎をチラつかせると残り少ない魔力で戦っても即殺されてしまうのは目に見えている。
一瞬静まり返る中、とても弱々しい声が響く。
「ねぇ帰ろ?もう帰ろうよ、ね?ハルト?」
目にいっぱい涙を溜めて、ラフィタが手を差し伸べてくる。
「そ、そうだよ、逃がしてくれるって言ってるんだ。僕達にはここから出る以外の選択肢はないんだよ。」
この気を逃してはならないと、アポピスの気が変わらないうちにと。
ラフィタに手を引かれ、アポピスが倒した柱を登って行く。みんなも後ろをたまに振り返りながら柱を登っている。悪魔の言う事は信じてはいけないと教えられている。背を向けた途端襲ってこないか怖いのだ。
振り返るとヒストリア様はまだ立ち尽くしている。
柱を登りきるとそこはやはり辺り一面真っ白な砂漠の世界。薄っすらと赤い月の明かりが白い砂に色をつけている。
悪魔がいなければ幻想的で美しい世界だ。
遺跡から出て膝をつく、やっと最悪から解放された。しかし遺跡に入る前とは全てが違う。
何も言ってはこないがみんなだって気になってるはずだ。
そんなことを考えていると後ろから首筋に冷たい何かピタリと当たる。
「さて、聞かせてもらおうかハルト・ポートガス」
柱を登ってきたヒストリア様の剣が冷たく、死を告げるかのように首に当てられ、白い砂に数的の真っ赤な血が垂れた。
長く間が空いてしまって申し訳ございません。
これからまた小まめに更新頑張ります(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎