第8話 悪の化身
激しく飛び散る血しぶき。
豆腐やゼリーを包丁で切るように首からから右腰にかけて滑らかに、ヒストリア様の剣が男を両断した。
「や、やったのか?」
あれ程強大な魔力を持つ悪魔を、ヒストリア様がいたとはいえ、俺達Dランクの見習い冒険者が?
全魔力を使い果たしたラフィタとライナーは冷たい大理石の床に座り込んでいる。
ローンもそろそろ魔力が尽きるころだ、これ以上の戦闘は不可能だ。はやく壁まで帰ろう。
「ヒストリア様!お見事です」
こちらに歩み寄ってくるヒストリア様にカーミラが膝をついて敬意を示している。
「それはこちらの台詞だ。Dランクだと思い完全にお前達を足手まといと思っていた。すまない」
そう言うとヒストリア様は軽く頭をさげ、俺を見つめてくる。
「君がこのパーティの司令塔か?いい作戦だった、それに素晴らしい連携だ。うん、、、いいチームだ」
まじか、Aランクの騎士に、それも聖騎士に褒められるなんて。
「いえ、ヒストリア様がいてくださったからこそです。自分達だけではあの悪魔にダメージを与えることすら難しかったです」
「そう過小評価するものじゃない、あれ程の魔力も持つ悪魔だ、きっと7位階クラスだろう、そんな悪魔を倒したのだぞ?もっと胸を張っていい」
そう言うとヒストリア様はまだ悪魔から近い位置で座り込んでいるライナーに肩を貸そうと歩み寄って行く。
「ラフィタ、大丈夫?」
「うん、魔力使い切っちゃったから体がすごい重いの」
「そっか、じゃ肩貸してやるよ」
「え?あ、え?あ、ありがとう」
ラフィタに肩を貸してやり前を向くとカーミラがニヤニヤしてながらこちらを見ている。
「なんだよカーミラ」
カーミラのいる方に歩き出したその時、全身に寒気が走り、後ろから心臓を貫かれた様に感じた。そして息苦しく感じるほどの魔力。
恐る恐る振り返ってみると、切断され、下半身を失った悪魔の男が腕を使って体を起こしている。
そして近くにいるライナーとヒストリア様に向かい、大きく口を開けると黒い炎を吹いた。
ちょうどライナーに肩を貸して立たせていたヒストリア様はライナーを蹴飛ばして吹き飛ばし、自らも魔力で体を包むと一瞬で悪魔から距離をとる。
「くっ!」
しかしヒストリア様の左腕に燃え移った黒炎は指先から肘まで驚異的な速さで燃え広がっていく。
「ヒストリア様!」
カーミラが自らの水筒を手にヒストリア様の元に駆け出すが、
「近寄るな!!」
剣抜き脇に挟み込むと勢いよく剣を振り抜いたのだ。大量の血が飛び散り床に落ちる左腕は黒炎に包まれ既に指先が灰と化している。
黒い炎は標的を焼き尽くすまで何をしようとも決して消えることがない。
「き、貴様、黒い魔炎を放てるとは、、、9位階以上の悪魔か」
血が途切れることなく出ている肩を自らの魔力で傷口を焼き、出血を止め、既に剣を構えているヒストリア様だが、長く戦う程の体力も魔力も残っていないはずだ。
「正解だ、人間の女よ。我の残り数少ない魂を1つ潰したのは見事だったぞ。次は何を見せてくれるのだ?もうお終いか?」
完全に動かなくなった下半身に目をやると蛇に変わり、男の切断された部分にかぶりつく、するとまた下半身に戻り、完全に完治した悪魔の男は手に黒い球体を作ると槍に変える。
もう手がない。ライナーもラフィタも魔力切れで走って逃げることすらままならない。
ローンもヒストリア様も魔力の底が見えてきている、体力、魔力共にまだ余裕があるのは俺とカーミラだけだ。
「私が時間を稼ぐ、お前達は出口を探して逃げろ」
「しかしそれでは、、」
最後まで言い終わる前にヒストリア様は悪魔に向かって走り出してしまった。
どうする?どうするのが一番いいんだ?
「逃げちゃダメ。逃げても私とライナーがいたらすぐに追いつかれちゃう。どうせ死ぬなら最後まで精一杯戦おうよ」
「ラフィタの言う通りね、うちはまだ魔力もあるし、戦うよ」
「僕もだ」
少し離れた所でライナーがヒストリア様に蹴られた腹を抑えながら親指を立てている。
まったくお前らは馬鹿だよ。
もしまた人として生まれたら、、、巡り会えるといいな。
「動けないラフィタとライナーにありったけの魔石を預けよう。後ろからタイミング見て投げてくれ」
「わかったわ、ライナーのとこに持ってくわ」
「よし、、、いくぞぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら走る3人を見てヒストリア様が「馬鹿」と囁いて笑ったような気がした。
「馬鹿達のせいですぐに死ぬわけにはいかなくなってしまったよ、付き合ってもらうぞ悪魔!!【雷千花】」
ヒストリア様を中心に無数の白い稲妻でできた花が無数に咲き誇り、悪魔が動くたびに感電し、動きが一瞬鈍くなる。
「こんなもクァッ!」
花に触れて感電した隙を見逃すはずも無くヒストリア様は剣を顔の前で構え、姿勢を正すと、「邪悪なる闇をその一筋の光で打ちくだきたまえ【雷千花・天空一貫雷槍】」
花達が悪魔の元に集まり蔓で悪魔を雁字搦めにすると、悪魔の頭上に大きな一輪の蕾ができた。その蕾が咲き誇った瞬間、稲妻の柱が天空目指して花から放たれた。
柱が徐々に細くなり、完全に消滅した場所には黒焦げになった悪魔の男が立っていた。
「これでも消し飛ばないのか」
魔力を大幅に失ったヒストリア様は膝をつき、剣で体を支える。
「火力不足だったな女」
悪魔が振り上げた黒い槍は斧に変形し、ヒストリア様の頭目掛けて振り下ろされる。
「なんだ?邪魔するな」
間に合った。ギリギリのとこで割って入ることができた。
だが俺の短剣じゃいつまでも持たない。
「カーミラ!」
悪魔の真横からカーミラがゼロ距離で拡散弾を撃ちまくる。
しかし悪魔の体を覆う魔力の方が強く、体に弾丸が捻じ込まれず、せいぜい悪魔を少し吹き飛ばす程度だ。
「退屈だ、もういいだろう?終わらせよう」
悪魔の持っている斧が剣に変わると、メラメラと黒炎が剣をまとい始めた。
触れれば終わりだ。
もうみんなが助かる手段は1つしかない。
やるしかない。
右手に嵌めていた革手袋をとり、悪魔と向き合う。
あの剣に斬られながらも奴の脳を奪えば、みんなは助かる。
「ハルト!ダメよ!!」
魔石を放るタイミングがなく、ただ戦闘を見守るしかなかったラフィタが涙目で叫ぶ。
これしかもうなんだ、許してくれ。
「いくぞ悪魔ぁぁぁ」
「面白い」
悪魔に向かい全力で駆る、悪魔は横から剣を振り抜く、悪魔の目の前で右手を開いた瞬間、悪魔の目が見開き、剣に宿っていた黒炎が消え失せ、手首を返し、剣の面の部分で脇腹を強打され、数m吹き飛ばされる。
肋骨が何本が逝ってやがる。
俺が斬られず、黒炎に焼かれずでみんなの目が点になっている。俺だって訳が分からない。支配できたわけでもなく急に悪魔が留めをさすのをやめたのだ。
「なんとゆう偶然!こんなことがあるものなのか!」
「何を訳のわからないことを」
「黙れ女!」
悪魔は両手を天に掲げると目をつぶり、動こうとしない。
その隙にヒストリア様は体制を立て直し、いつでもまた戦える様に備えている。さすがは聖騎士といったところか、片腕をなくし、魔力も底を尽きかけているのにまだその目には闘志が宿っている。
悪魔が目を開くと軽く頭を下げ続ける。
「初めて会ったのだ、ちゃんと自己紹介をしよう、ポートガスの子よ」
は?、、、今名を呼ばれた?悪魔に?名を?!
みんなの視線を感じる。まて、訳がわからない。答えを求めようと俺を見ないでくれ。
張り詰めた空気の中、口を開いたのは悪魔だ。
「本来の姿をここに晒す」
悪魔が両手を天に掲げ、全身を黒炎でまとう。
黒炎はあっとゆうまに大きくなり、悪魔の姿を隠す。
そして黒炎から出てきたのは人を軽く吞み込める程の大きさの黒い鱗の大蛇だ。
「我は第9位階、悪の化身、アポピス。さぁ、お前の名を聞かせろ、我が古き友の子よ」
そうゆうと悪の化身アポピスはニヤリと笑った。
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