第3話 砂漠に巣食う者
ここは、、、俺の部屋?
窓から白い建物が立ち並び、空には空車が止まっている、間違いなく壁の内側だ。
いつもと何も変わらぬ光景、違うと言えば月が赤いことだ、それに人影がない。
誰かいないのか?
家を飛び出し路地を一通り走ったが誰も見当たらない。
「ラフィター!!ローーン!!ライナーー!カーミラーー!」
どんだけ走っても、どれだけ叫んでも何も返ってこない。
一体何が起きたんだ、、、焦げ臭い?
臭いを辿って見ると遠くに見えるミューラ城が燃え、火は下町まで燃え移っている。
騎士達は何してる?国王は?悪魔に攻めおとられたのか?けど壁は今でも現在だ。
『世界の本質を見ろ、敵は、、、』
「ッット!ハルト!はやく起きて!!」
「ご、ごめん、寝ちゃってたみたいだ、なんかあったの?」
「ハルト、すぐに動ける様にしてくれ、僕の索敵内に何かが入った、感じ取れる魔力からして第2位階以上なのは確実と思う」
「第2位階以上?Cランクの冒険者とかじゃなくてか?」
「その可能性は低いと思う、数は1つだし、向かってくるスピードが人にしては速すぎる、後方からくるよ、どうする?」
「後方?壁の方からきてるのか?!なら戻ればはちあうか、ならこのまま前進してやり過ごそう。そいつが途中でルートを変えるかもしれない。このままここにいるよりはいくらかましだ。ライナーを後方に陣をとって全力で走る、行くぞ!」
走り出してすぐに思い知らされたことがひとつ。
壁の外のこの砂漠では地の利は確実に悪魔にある。砂で足を取られ思うように走れず、踏み込むたびに自分の体重で足が砂に埋もれ、そのせいで普段の何倍もはやく体力に限界がきてしまう、それとは逆に悪魔は疲れることを知らず、永遠に走ることも出来る。
走り出して数分が立ったか?
「ローン!距離は?!」
「待って、走りながらじゃ索敵できない!」
「そういう事は早く言ってくれ!一旦止まれ!今のうちに息を整えよう!ローン?!」
「わかってる、今やってる」
「ハァ、ハァ、、うちもう走れない」
「私、、も」
「おい、頼むぜ。特にカーミラー、もし追いつかれたら俺1人で戦うのは」
「ライナァァァ下だぁぁー!」
ローンの声と共に横に大きく飛び込んだライナーの真下が爆発したように見え、大量の砂と共に姿を現したのは鮫の姿をした悪魔、陸鮫だ。
目が完全に退化し、体の至る所は腐り骨が剥き出しになり、内臓が見えている。
目が退化した代わりにヒレに無数の触覚のような物が生えている。人間が砂の上を歩くたびに地中では体重の重みで砂と砂が圧縮され、僅かに音がでてしまう、陸鮫はその僅かな音を触覚で捉え、獲物の位置を特定する。
走ってたせいで位置はモロバレだったわけだ。
そして陸鮫は学校で習った中では1番強く、残酷な悪魔だでやっかいだ。陸鮫は同族の血の臭いにはかなり敏感だ。1匹殺ればすぐに他の陸鮫が臭いを嗅ぎつけてやってくる。
「ライナー?大丈夫かい?」
「ありがとうローン。もう少し遅かったら死んでたぜ、でやつは?」
「わからない、また地中に戻られた」
「どうしようハルト?」
「大丈夫だよラフィタ、きっと倒せる」
陸鮫の特性を利用するんだ、考えろ、考えろ。
「またくるぜ!前方20m弱、ヒレがみえてる!」
一瞬で20mの距離を縮めて飛び込んでくるのを全員が地面に飛び込んで躱す。
そしてまた少し時間を置き、食らいつこうと飛び込んでくる。
なぜ連続して飛び込んでこない?
もしかしたら。
「カーミラー!龍追弾のマーキングをライナーに渡してくれ、それをライナーが見切りを使ってあいつにマーキングしてほしいんだ」
「できなくはないけど龍追弾じゃ殺傷能力は低いわよ?」
「それでいい!ライナー?できるか?」
「やるしかないだろ」
ライナーがカーミラーから龍追弾のマーキング用の杭を受け取ると目を閉じてスキル・見切りを発動させた。
カーミラーの龍追弾は放ってから弾丸が3匹の小さい龍に変わり、マーキングした者を追い、噛み付きくっつく、そして龍が段々丸い水晶のように変化する。
そうなれば後はカーミラーのタイミングで水晶の様に丸くなった弾丸を爆発させればいいスキルだ。
「ラフィタにもイクセプトの発動準備をしてほしい。俺が合図したタイミングで俺たちから一瞬でもいいから体重を取り除いてくれ」
「わかったわ、頑張ってみる」
「ありがとう、俺の感が当たってればそろそろ来るはずだ」
これは一種の賭けだ。
失敗すれば確実に誰かが喰われる。
頼む、、、当たっててくれ。
「きた!」
ライナーの声と共に前方から勢いよく飛び出してきた陸鮫をスレスレでライナーが躱すと横っ腹に思い切り杭を突き刺す。
「やってやったぜー!カーミラーやれー!」
「わかってるわよ」
カーミラーの銃から放たれた銃弾は真っ白な小さい龍に変わり、地中に戻る陸鮫に3匹がうまく喰らい付いてくれた。
「カーミラ、10秒ごとに1つ爆発させてくれ、そしてラフィタがイクセプトで一瞬だけ体重を取り除いたら少しだけでいい、左へズレてくれ」
みんなが黙って頷くとその時を待つ。
10秒だ。一発目は、、、後方で爆発。
20秒。2発目は、、、前方30mで爆発。
25秒、26秒、27秒、28秒、29秒!
「ラフィタ今だ!!!」
「イクセプト!!!」
30秒!!小さな爆発と共に地中から勢いよく飛び出してきた陸鮫の攻撃は空を切り、その代わりにライナーの大剣が口に入る。
陸鮫の自らの飛び出してきた勢いで口元から尻尾まで横に真っ二つになり、血が噴水のように吹き出し内臓を飛び散らせる。
「や、やった」
「よっしゃーーー俺が倒してやったぜー!」
「うるさいよライナー!うちのスキルのおかげよ!」
「ハルトのお陰です!」
ラフィタが胸を突き出しながら何故かドヤっている。
「ハルトよく思いついたね」
「いや、ほとんど賭けだったよ、攻撃してすぐに攻撃したい筈なのにしてこないのは潜っている時に俺たちから見えないように、陸鮫からも見えていないんだと思う。地中にいて相手から位置を把握されないのが強みの陸鮫が、攻撃する際に姿を現わす。攻撃を躱されて位置がバレて直ぐに攻撃すれば反撃にあう可能性が高いからね。一度戻って周りを泳ぎ、相手の位置を確実に把握してから攻撃してくる。それまでのタイムロスが30秒くらい。この30秒ってのが賭けだったんだけどね。後は現れる瞬間に体重を一瞬取り除いて移動する、陸鮫からしたら攻撃するほんの寸前、一瞬だけ相手が消えたように感じた筈だ」
「俺には何言ってるか全然わかんねーわ」
「ライナーと違っていざって時はハルトはすごいんだから」
「はぁ?ラフィタさんそれは聞き捨てならないねー」
「馬鹿やってないではやく移動するわよ、他の陸鮫がきたら今度こそ終わりよ」
「そうだね。はやく移動したほうがいいと思う」
「あぁ、すぐに移動しよう。陸鮫は本来群で行動する悪魔だ、来た道を戻るのはまずいかもしれない、少し遠回りになるけどグルって迂回して壁に戻ろう」
みんなが頷くのを確認するとライナーを後方に置いて、先ほどと同じ陣形で走り出す。
走っては歩き、走っては歩きを繰り返して30分くらい経ったか?走るのを辞めて歩き出していてある変化に気づいた。
赤い月に照らされて赤白く見えていた砂漠の砂が急に真っ黒になったのだ。
上を歩いてみると先程までの砂と違って砂自体の重みが違う、サラサラしていた砂がまとまり性のある重い砂になっている。
一歩一歩がさっきより全然重い。それでも足を止めずに歩いていると、いきなり急斜面になり、蟻地獄のようになっていた。その蟻地獄のデカさと深さはかなりある。そしてその中心には遺跡があり、誰かが無理やり壊して中に入ったような穴が空いている。
「なんだ、、、あれ?」
「なんかちょっと不気味ね」
「入ってみるか?」
「うちはパス。はやく帰りたいわ、ライナーだけでどうぞ」
「なんでだよ!行くならローンも連れてってやる」
「僕も絶対いやだ、いくなら、、、きた!後方から8匹!このスピードは陸鮫だと思う」
「なんで位置がバレてんのよ」
「俺のこの返り血かな?けどこんなんでもアウトとかずるくねーか?」
「陸鮫の死骸と一緒に血の付いた物は捨ててくるべきだったか」
「どうしようハルト、8匹はさすがに」
「遺跡に入るしかないね、砂のある場所は避けないと」
「まじかよー!明らかに不気味だぜあれ」
「けど今はここに居るよりもマシだと僕は思うよ」
「もういくしかないだろ、はやくしないと追いつかれて動けなくなる」
「よし行こう!」
陣形を取らずにすぐ後ろに迫ってきてる陸鮫に気を取られながらも全力で斜面をくだっていると足を取られて1番後ろにいるライナーが足を取られて転がり落ちる、そのライナーにローンがぶつかり転がり落ちる。その連鎖で全員が遺跡に転がり落ちた。
この遺跡での出来事が全てを狂わせる始まりになることも知らずに。
少し長くなりましだが読んでいただきありがとうございます。
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これからもよろしくお願いします