第2話 砂漠
言葉が出ない。何処までも続いていそうな広大な砂漠に、不気味に輝く月の景色に心を奪われ、さっきまでの悪魔を殺してやる!とか、好奇心は消え失せ、気持ちが沈んでいく様な感覚。
内側での気温的な寒さとは別の嫌な寒気を肌全体で感じている。まるで別世界に入り込んだ様だ。いや、別世界なのかもしれない。
「す、すげーなー。なんだここ」
最初に口を開いたのはライナーだ。
いつもお調子者のライナーでさえも剥き出しになった腕に鳥肌を立てている。
「とりあえず陣形を組んで進もう、まだ後ろから人が来るから」
みんな黙って頷くと、ライナー、カーミラ、ローン、ラフィタ、俺の順番で一列になり前進する。
少し歩くと左手に違和感を感じて、はめていた白い革手袋を取り、確認するが特に変化はない。
左手に刻まれた黒印、16の成人の日、この日初めて正式に祈る神を決め、力を授かる。
俺はどの神に祈っても力を授かることができなく、諦めかけた時に家の地下室にある石盤が何故か頭に浮かび、左手に黒印が刻まれ力を授かった。
石盤の中央に1番でかく刻まれた文字が神の名だと言うことはその時分かったがそれ以外の文字は未だ解読不可だが、信仰する神の名がわからないなんて罰当たりだもいいとこだ。
しかし生まれてすぐ母親を亡くし、父親は行方不明、ポートガス家は今や俺だけ。
両親がいれば読めたかもしれないがいなかったのだから仕方ない。
そしてその神から授かったスキルは『支配』の1つだけ。
相手の脳に同じ黒印を焼き付け、脳を支配し操る力。脳全てを支配して生気を奪うことも、記憶だけを書き換えることもできるが1度決めたら後から変更はできないし、遥かに自分より上の者には使えない。
「ねーハルト?、、、ねーってば」
「ん?ごめんごめんなに?」
「これ重たいから持っててほしいな」
「持っててほしいなってそれラフィタの杖じゃん、いきなり悪魔が襲って来たらどうすんだよ」
「みんなに守ってもらう!私もローンみたいなペンみたいな杖がよかった」
確かにラフィタの持っている杖は身長と同じくらいあり、結晶石を削って作られた物で、ローンのは治癒魔法などに特化された千年樹から作られた杖だ。
「じゃラフィタも僕と同じ療法士になるしかないね」
「お前ら一気に緊張感消えたな、意外と適応能力高いんじゃねーの?」
ライナーのツッコミで僅かだがみんなに笑顔が戻った。
もちろん無理して話をしているのはわかってる。だがこの外の世界が放つ異様は雰囲気に呑まれないようにしているんだ。
3時間ほど歩いてきたが未だに悪魔との遭遇はない。たまに遺跡の跡のような砕けた柱や建物があり、遥か昔に人が住んでいた痕跡は見つけたが、今は壁の外で人間は生きていけないだろう。
するといきなりライナーが拳を上げて止まれの合図をした。
「100m先にガーゴイル2匹いる。殺るか?」
「ちょっと待て、ローン。索敵して本当に2匹以外にいないか確認してくれ」
ガーゴイルは確か第2位階の知性を持った悪魔だ。知性を持っておらず、人を殺すことしか頭にない1位階とは話が違う。
「うん。いないよ、あそこの2匹だけみたいだ」
「了解。戦術プランはアルファだ、、、いくぞ」
ガーゴイルに向かい走りだし、すぐにラフィタがスキル、イクセプトを使い10秒間の間ガーゴイルの視界から俺達を取り除く。
10秒!「カーミラ!」
「わかってる」カーミラが光弾を放つとガーゴイル達の目の前で炸裂し、一瞬目を奪う。
ガーゴイルが目を開け、真っ先に目に飛び込んできたのは大剣の剣先、しかし悪魔ならではの反射神経でギリギリでライナーの剣を躱す。
しかし大柄のライナーですぐ後ろにいるカーミラに気づくのが少し遅れ、脇腹に拡散弾を撃ち込まれ、怯んだ一瞬の隙でライナーに首を刎ねられた。
「まずは1匹」
ライナーとカーミラのコンビは絶妙だ。
大柄のライナーで後ろにいるカーミラに気づけず、ライナーの攻撃を躱したと思えば、ライナーの脇の間や、空いたスペースからカーミラの銃弾が容赦なく撃ち込まれる。
大剣を躱せば銃弾が、カーミラに気を引かれれば大剣が。
2対1なら確実に仕留められるだろう。
もう1匹のガーゴイルが隙を見てローンに飛びかかってくる、しかしラフィタの魔弾で撃ち落とされる。
魔弾は詠唱を必要としない。自らの魔力を相手にぶつけるだけの攻撃、ダメージは少ないがその分衝撃はでかい。
詠唱を必要とする魔術士にとって、この魔弾の使い方で魔術士のセンスが問われる。
魔弾を溝うちに喰らい、倒れこむガーゴイルの頭を鷲掴みにし、「権利をよこせ」脳に黒印を刻み、生気を奪う。ぐったりと倒れこむガーゴイルの心臓に短剣を突き刺し殺す。
「いやー余裕余裕、第2位階もこんな程度か」
大剣を担いだライナーがドヤっている。
「隙を突いたから余裕だっただけよ、第1位階と違って知性があるし、悪魔だから疲れを知らない。長引けば危ないわ」
「へいへいそうでしたね、それよりローン突っ立てただけかよ」
「僕は攻撃魔法は皆無だし、剣技もないからね、それに僕がなにもすることがない方がパーティにとってはいいはずだよ?」
確かにそうだ。戦いの中でローンが仕事をすると言うことは誰かぎ傷を負ったということになる」
「ねー、みんな今なにか感じなかった?私今体の中に何かが貯蓄される様な変な感覚がしたんだけど」
「確かにうちも」
「あー俺もだ」
「きっとそれは経験値だね。神の敵である悪魔を倒すことで経験値を貰えるんだよ。消費した魔力を回復するには壁内の教会で信仰する神に祈りを捧げて回復するだろ?その時一緒に溜め込んだ経験値が一定値を超えていれば新たに1つだけスキルを授かれるんだ。所有スキルが増えればランクも上がるって訳だよ。けど人それぞれ限界値もあるからね。いくら経験値を稼いでも限界値を迎えていればスキルは授かれない。だれでも騎士になれるわけじゃないんだ、ちなみにパーティで1匹の悪魔を倒してももらえる経験値は均一されるからみんな貰えるよ。だからとどめを刺した人が、とかは関係ないんだ」
経験値?何にも感じなかったぞ?鈍いだけか?
「ローンって物知りねー、うち知らなかったー」
「学校で習ったよ」
「じゃさっそく他の悪魔を殺りにいこうぜ」
「うち少し休憩したいなー、壁外来てからずっと歩きっぱなしだし」
「僕も足が痛いや、思ったより砂に足取られるね」
「なんだよ軟弱だなー、どうするよハルト?」
「え?あーうん。少し休憩を取ろう。披露した状態で悪魔と戦うのは良くないし、次もうまくいくとは限らないからね、最低限周りを警戒しつつ、ローンは索敵したがらになっちゃうけど、、、」
「大丈夫だよ。こんな時くらい任しといて」
みんなでローンに礼を言うと、ガーゴイルの亡骸から少し移動し、砂漠の上に横になる。
休憩が終わったら少し調査して早めに壁まで戻ろう。あまり外には長居したくない。
スキルを使用したせいかさっきより左手が疼く。
こんなの初めてだ。
周りを見るとライナーとカーミラは武器の手入れをしている。
カーミラのボルト式のライフル銃は前に小まめに手入れをしないといけないと言っていたっけ?
俺も少し休もう。
横になりながら目を閉じる
なんか眠い。
少しずつ意識が遠のいていく。
そして真っ暗で独りきりのいつもの夢の世界に堕ちていった。
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