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Dark prince  作者: 赤月
第1章 堕ちた勇者
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第17話 書斎


元ローマ帝国第三皇帝、ラウド・ハンニバルと名乗った老人は白髪混じりの長い髪を後ろで束ね、汚れたロープに身を包んでいる。どちらかと言うとホームレスに近いな。


「失礼ですが、今ローマ帝国と仰いましたか?自分の記憶が確かならローマとゆう国は1000年以上前に滅んでいます。」

疲れてるのに冗談も大概にしてほしいもんだ。


「もうそんなに時が経ちましたか。まぁ詳しい話は中でゆっくりするとしましょう。どうぞお入り下さい。パーパシー、ありったけの酒とお食事を用意しなさい。それではご案内いたします。」


言われるがまま老人について行くと門を入ってすぐ、大きな中庭になっていて池や花が綺麗に手入れされている。そして中庭の隅に小屋が二つ。

「あそこの小屋が馬小屋になります。少々特殊ですがお連れの馬はあちらにお願いします。それでは中へいきましょう。」


またあとでなブル。

ブルに対して少し愛着が湧いてきたかもしれないな。馬小屋に入れるのにほんの少しだけど抵抗がある。


中庭を抜けると宮殿のメイン扉であろう豪華な扉が内側からメイド達の手によって開かれる。

壁の中ではこの様な仕事をする女性をメイドと呼ぶが、ここでもメイドとゆう呼び方でいいのだろうか?


扉の中に入ると左右一列に並んだ若いメイド達が頭を下げて歓迎してくれている。

どんなリアクションをすればいいのかわからず前を歩くハンニバルにただついて行く。

中は天井が高く豪華なシャンデリアが垂れているが半分くらいしか電球は光っていない。他の部屋に繋がっているだろう通路が正面に一つと、左右に一つずつ、その内左側の通路の先が瓦礫で埋もれていて塞がっている。



「ここは外から見れば大きな宮殿ですが、使える部屋に限りがありましてな、その昔大きな戦争でこの宮殿はかなり大きな被害を受けてしまい、未だ復旧の手が及んでいない場所が多々あるのです。ですのでお一人で宮殿を歩く際には足元にはお気をつけください。」


辺りをキョロキョロし過ぎたせいか変に気を使わせてしまったか、しかしここで起きた戦争とゆう言葉の方が気になって仕方ない。

ここで得られる情報はとても貴重そうだ。


「ところで皇帝様は」


「ハンニバルとお呼びください、あなた様の方が遥かに私よりも高い地位におられるのですから。あなた様はこの魔の世界側での数少ない勇者様ですので。」


また勇者呼ばわりか、パーパシーの反応からしてもここで違うといくら言ったところで拉致があかないんだろうな。


「ところで何か気になることでもありましたかな?」


「あーうん、さっき言ってた戦争のことなんだけど、ちょっと気になって。」


ハンニバルは少し考えたあと自らの髭を触りながら目を閉じる。


「そうですな、その事を話すならまずあなた様のお父上様の事から話さなくてはなりませんな。」


「親父のこと?!親父の事を知っているのか?!!」


「存じ上げていますとも、私達からすれば英雄そのものです!あなた様のお父上様、レイド・ポートガス様は堕ちた天使、堕天使なのです。この村がまだローマ帝国と呼ばれていた時代、幾度となく神の使いの人間達が壁の向こうから攻めてきました、聖なる勇者の力は絶大で我々は敗北しました、そして敗北した我々に待っていたのは死のみ、一人一人処刑されていく中天から舞い降りた黒き天使、レイド様によって勇者もろとも一掃され、我々の命は助かりました。レイド様は倒した勇者の心臓を使いこの村を囲う壁を作りました、あなた様もここに来る時見られたとおもいますが、勇者になったものは寿命では死なないことは知っていますね?故にこの街を守っている勇者の心臓は今も鼓動を打ち続けております。おっと少々話がずれてしまいましたか。ひとまず着いたので席にお座りください。」


いやちょっと待て!俺の親父が堕天使?冗談だろ?なら俺は人間じゃないのか?頭が混乱する、飯なんか喉を通るわけがない。


「ちょっと待ってくれ!俺の親父が堕天使なら俺は、、俺は一体!」

ハンニバルに詰め寄り今にも折れてしまいそうな細い腕を力一杯掴む。


「少し落ち着きになってください。これはゆっくり食事をしている暇はないようですな、1から説明致しますので私の書斎へご案内致します。こちらへ。」


用意された料理を後にハンニバルの後に続いてさらに奥の通路を進み階段を登る。

何から聞いていいかわからず、書斎に着くまで沈黙が続く、自分の中にあったハルト・ポートガスとゆう自分が他人のように感じる。今まで壁の中で生活してきた時間は一体何だったんだ。


ふとハンニバルが廊下の途中で立ち停まると手のひらを壁につけ、なにかを呟く。

すると廊下に青い光が一瞬駆け巡る。

光に驚いていると壁が少しずつ変化し扉に変わる。ただの書斎で無いのは一目瞭然だ。


「どうぞ。」


ハンニバルに案内され入った書斎、そこはイメージしていた本棚がたくさんあり、執筆するための机があるような書斎ではなく、ただ山をくり抜いただけの様な、洞窟と言ったほうがしっくりくる。辺りは人の腰ほどもある岩が適当に散らばり、足元は所々細かい小石でゴツゴツだ。

これのどこが書斎なのだろうか。


「ここがレイド・ポートガス様が使っていらした書斎、レイド様ご自身のことや、世界で起きたことなどが記された場所、世界の書斎!と私は呼んでおります。レイド様がここから姿を消された日より前の事が全て事細く記されています。」


ハンニバルが自らの杖の先端部分を魔法で光らせ壁に光をあてる。

するとそこには壁や床、天井にまでもびっしりと文字が刻まれていた。


「驚かれましたかな?ここは街の中でも限られた者しか入ることができません。そしてもしこの村が神側に堕とされたとしてもこの書斎だけは守らなくてはなりません!それはここにレイド・ポートガス様がお考えになられた計画も記されているからなのです。ここを見てください。」


ハンニバルが照らした先には他の文字よりも深く掘られている部分だ。


「我、レイド・ポートガスは人間を全ての悪魔、神から救い、争いのない世界へと導くため、その計画をここに記す。お父上様は人間を愛し、戦いの道具としか思っていない悪魔や、神、その全てから我々人間を解放しようとなさっていたのです。しかし天使の力しか持たぬレイド様では10位階の悪魔や神には勝てぬと悟り、この計画をお考えになったのです。ハルト・ポートガス様、人間と天使の間に生まれた子、世界を変える子だとレイド様はおっしゃっておりました。村の皆には言っていませんが、生まれてからずっと壁の中で暮していたのは存じております。今ハルト様は自分が何者なのかも完全に理解していらっしゃらない状態でしょう。このハンニバルが全てをお伝えいたします。」


そう言うとハンニバルは更に奥に進み、書斎の1番奥の壁に大きく掘られた黒印を照らす。


「ハルト様の手に刻まれたその黒印、その黒印は冥界の神、ハデスの黒印。レイド様が堕天した後、ハデスの軍門に降りました。神界とは違いこの魔界では自らの勢力でない者は全てが敵と判断されます。どこの勢力にも属していなければいずれ神ではなく悪魔達の手によって殺される可能性もあるのです。ハルト様、あなたは今天使の力、人間の魔力、ハデスの魔力、この3つを使いこなすことができる唯一の存在なのです!」


ハンニバルの言葉が頭に入ってこない。

この黒印は冥界の神ハデスのものだって?

天使と人間の間に生まれた子?

俺は今までずっと壁の中で平凡に皆んなと毎日を楽しく生きてきただけなのに、元々俺は壁の中に居ては行けない子だったのか?

父であるレイド・ポートガスがハデスの軍門に降っていたなら子である俺もまたハデスの軍門に降っていることになる。



皆んなと別れたときの言葉が頭に響く。

「必ず戻ってこい!僕たちは信じている!」

あぁ、もう戻れないじゃないか、もう皆んなで馬鹿やってラフィタに怒られて、あの日々の様に笑うことも泣くこともできない。

「ラフィタ、、、」

思わず口にしてしまう。

目から涙が溢れてくる。


もう戻れない。

ポートガス家に生まれ落ちたその瞬間から、俺は大罪人なのだから。

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