R編 第2話(16話) 王と調査報告
バン!とゆう馬車の扉を開ける大きな音で眠りから覚める。
「おはよう、降りるよ?」
寝ぼけたままカーミラに手を引かれて馬車を降りる。すると目の前には高くそびえ立つ光の壁が目に飛び込んできた。
王都についたんだ、私たちは人生初の壁外調査で他のパーティとは比べものにならないくらいの経験をした。Cランクの1パーティだけで、第9位階の悪魔、アポピスと遭遇し、無事生還した。それだけで街ではちょっとした有名人だ。しかしそんな事はどうでもいい。たった1つ、大切なものを失った。ハルト・ポートガス、何よりも大切な仲間、そして私にとってはかけがえのない人。ハルトがいなきゃあの時みんな殺されていた、もう会えないなんて嫌だ、もう昔の様に隣に寄り添えないのは嫌だ、何としても王様にハルトが無実であると証明しなくちゃ!
「魔石を見せろ。」
門兵が最初に配った魔石に魔力を込める。
すると魔力は青い光を放ち、魔力を込めた主を壁外に出る前の人物と認めた。これは壁外で悪魔に襲われ、体を乗っ取り、壁内への侵入を防ぐための処置だ。もし悪魔が魔力を込めれば魔石は紅く輝く。そうなれば即座にその悪魔は殺されるだろう。
無事に壁を抜けると立派な車が既に待っていた、リムジンってやつだ。その横で礼儀正しく頭を下げている執事、一礼した後に顔をあげ、私たち一人一人に目をやる。
「皆様がお待ちになっております、急ぎましょう。」
そう言うと車のドアを開け、乗車を待つ。
皆んなが乗り込むと静かにドアを閉める執事。
「ヒストリア様はお乗りにならないのですか?」
「ああ、私は先に城へ戻り、今回の件について詳しく報告をする必要があるからな。ではまた後でな。【瞬光】」
体全体を魔力で覆うとバチバチと音あげ、その場を後にするヒストリア様。
やられた!私達が行く前にハルトの事をどう報告するかわからない。急がないと!
「お願いします!急いで下さい!!」
「あ、はい!それではしっかり掴まっていてください。」
執事がたくさんあるボタンのうち1つを押すと車は上昇し、みるみるうちに建物の上までたどり着く。王都には道路はなく、車などの乗り物は上空を走るのが基本だ。
「なぁラフィタ、俺らもハルトの事についてはできるだけ無実を訴えるつもりだ。けど一番優先するべきは俺達自身のことだ。ハルトの無実を訴え過ぎた事で俺達も悪魔の手先だと判断されてはもともこもない。それこそハルトがもう一度王都に帰ってくることはできないし、俺達の命も危うくなる。それだけはわかってくれよな?」
時々見せる真面目な顔をするライナーはずるい。いつもみたいにふざけてよ。
心が冷静を取り戻したらもうダメ、ハルトがいない事を再認識してしまったら、泣き崩れて気力すらも失うかもしれない。
ライナーから視線を外し、高速で過ぎて行く真っ白なビルを眺めつつ頷く。
☆
ミューラ城につくなり部屋に案内され、みなバラバラの部屋で3時間程身元調査や本当に悪魔の手先ではないのか尋問を受け、最後には裸にされ体の隅々まで調べられた。
悪魔の軍門に降れば体のどこかにその悪魔特有の紋章や傷が付けられ二度と消えることもなく、その者の血を引き継ぐ子孫にも代々受け継がれてゆく。
調査を終え、皆と合流すると大きな部屋へと通される。武器や鎧を全て取られ、薄い布の服を着用させられる。そして腕には賢者の腕輪を付けられた。これは人の悪意や殺気などのみに反応し、真っ白な腕輪が黒く変化する。
今から王に会うのだ、私たちの置かれた状況を考えれば当然の処置だろう。まだ手錠や足枷をされてないだげましだ。
「入れ!」
入ってきた扉とは逆の扉が開かれる。
中に入ると数十名の聖騎士が両サイドに立っている。その聖騎士の後ろは舞台席となっていてこの王都の重役や貴族が座っている。
部屋の中央には4人分の椅子が用意され、その先には立派な椅子が2つ、そしてもう一段上にはさらに立派な椅子が1つ置かれている。
「座りたまえ、これよりヒストリア・グランデによる月の魔神・カグヤ討伐の任の成果とハルト・ポートガスの審議を始める!それでは、勇者様お願いします。」
聖騎士長の合図で舞台横から男女が1名ずつでてくると用意されていた椅子に腰をかける。
ここ東の王都が現在所有する勇者は今椅子に腰をかけている2名。
ブルーノ・ウィリアム。
海の神、ポセイドンの力を受け継いだ勇者。
そしてもう1人はリリー・パイル。
ローンのお姉さんだ。
癒しの神、ジュアの力を受け継いだ勇者。
ブルーノは白と蒼い色が目立ち、所々に金が取り付けられた立派な鎧を着用し、背に愛刀であるトライデントを身につけている。体格はいたって標準で顔も特別整っているわけでもないが、下町ではファンクラブもあるって噂らしい。
ローンのお姉さんリリーは白と桃色の鎧を着用し、薄緑の長いロングヘアーをお団子にしている。そしてその美貌はこの王都でもずば抜けて美しい。透き通った白い肌、薄紅色の色っぽい唇。ぱっちりの大きい瞳。そしてスタイル。
女の私ですら見惚れてしまう。
2人の勇者が座るのを確認すると聖騎士長が合図を出す。するとどこからとなく音楽が鳴り響き、舞台袖から王の登場である。
華やかなローブに身を包み、白髪混じりの単発、そして目立つのは右目の傷。
思っていたよりも王は若く、40代だろうか?てっきり老人だと思っていた。
「さて、始めようか。」
王の一言で室内の雰囲気が一瞬で重々しく変わる。
「それではヒストリア・グランデ、前へ。」
私達の前に立つと姿勢を正し一礼をする。
「先も少し報告はさせていただきましだが、お集まりいただいた貴族の皆さまにもまた詳しくご報告させていただきます。私、ヒストリア・グランデ率いる雷虎は月の魔神・カグヤ討伐の任を受け、月の城へと向かいました。しかしそこには月光の悪魔、第一から第八師団の8位階と見られる悪魔をカグヤが屠った瞬間に遭遇しました。自らが祈りを捧げる悪魔を殺したカグヤの力は絶大で我々は私1人を残して全滅しました。奴は既に堕ちた勇者の領域に至っていると判断し、情報を伝えるため、やむえず帰還したしだいであります。しかし帰還途中、ここより200キロ程離れた場所で謎に掘り返され、地中に埋まっている遺跡を偶然発見し、調査をしたところ第9位階のアポピスと遭遇、戦闘に突入したところ、陸鮫に追われ気づかずうちに空間の歪みに入りこんだ彼らもまた遺跡へとたどり着き、アポピスとの戦闘に介入、共にアポピスを倒すべく戦いましだが力及ばず、殺されかけた時、彼らのリーダーであるハルト・ポートガスの右手に刻まれた黒印を見た途端、態度が急変し、ハルト・ポートガスを友の子と呼び、見逃すと言ったのです。更には裏切りの大罪人であるジャンヌダルクがアポピスに言ったと思われる予言の子だとも言っていました。この事からハルト・ポートガスはこの王都、いえ、世界にとっての脅威だと判断。王都につれ戻り、尋問をしようと思いましたがハルト・ポートガスの指揮下にあると思われる第一〜第二位階の悪魔の奇襲にあい、逃走を許してしまい今は行方が知れません。以上がこの目で見てきた報告となります。」
一礼し、元の位置に戻るヒストリア。
違う、違うのよ!その報告は間違ってるの!
ヒストリアの報告を聞いた王は少しの沈黙の後、自らの考えを話す。
「ふむ、ヒストリアよご苦労であった、彼女の報告通りなら」
「違います!!」
「ん?なんだね君は!君の意見は今聞いていない!」
「ハルトは!ハルトは悪魔の手先なんかではありません!幼い時からずっと一緒にいますが、本当は優しくて誰よりも仲間思いで、嘘ついたり人を騙すことを何よりも嫌っていました!私は、、、私は絶対に認めません!!」
「お黙りなさい!自分の立場を弁えていらっしゃらないようですね!魔の側に堕ちた者を庇うとゆうことがどうゆうことかわかっていらっしゃらない様ですね。その者と同じく死罪に値するわ!」
完全に私を見下し、薄っすらと殺気を放つのは癒しの勇者、リリー・パイル。
「ちょ!待ってください!今日初めて壁外調査にいきこんな事になってしまいまだ受け止めきれてないんです!どうぞお許し下さい!」
ライナーに頭を掴まれ床に頭を押さえつけられながら全身全霊をかけての謝罪。それを見たカーミラとローンも頭を床につけて謝る。
もちろん納得がいっていない私わ頭を下げているだけ。
「まぁいんじゃねーの?こいつらは検査で白だったんだろ?そこまで攻める必要はないだろ。利用されていただけだろうし、それに現場に居合わせたヒストリアが今のこいつらの気持ちを一番理解して、わざわざ皆んなが集まる前に俺たちに説明してくれたんじゃねーの?身内に裏切り者がいたなんて相当心にダメージを受ける、そこに王や勇者だ、聖騎士だに囲まれても尚、その男を仲間だって言えるこいつらはどのパーティよりも仲間思いのいい奴らだよ。少しは評価してやってもいんじゃねーの?お偉いさんは基本頭堅いんだよなー。」
だるそーに椅子に腰掛けて話すブルーノに皆目を丸くして口を開けている。それもそのはず、今ブルーノが口にした内容は軽くても階級引き下げか、2万ケルトの罰金又は一月の監獄行きに値する。
しかし勇者の力は絶対、四つの国を引っ張って行く代表者の1人、その勇者を裁けるものはこの世界に存在しない。
「ブルーノ、少し口が過ぎるぞ。いくら勇者と言ってもここまでこの国の貴族が集まる場でその様な事を口にすると近隣諸国に東の王都の勇者は外れだと噂されてしまう。そうなれば後々ポセイドン様の信仰も薄れてるかもしらんのだぞ?少しは頭を使え!まぁしかし、仲間を想う気持ちは大切なのもわかる。1人では決して高位階の悪魔には勝てぬ、しかし皆で力を合わせれば不可能なことなどない。今回は特例としてだが、アポピスと対峙し生き延びた命、そしてその幸運は神の恩恵とし、抜けたリーダーの穴をヒストリア・グランデが埋めること、これを君たちへの処置とする。よいな?」
この王は何を言っているの?ハルトの代わりにあの女が私達のリーダー?そんなの納得行くわけないじゃない!
「は!承知いたしました。寛大なる処置に感謝を!」
ライナー?あなたまで、、、違う、わかってる、誰もハルトが憎くいわけじゃない。ハルトがいなくなった今、ライナーは私達全員を守ろうとしているだけ、わかってるの、わかってるのに、、、。
「それではこれにて閉会とする。」
ハルトへの疑いを晴らすことができぬまま城を追い出された4人。
「どうにかやり過ごしたな、これでこの後に繋げることができた。ハルトの事はこれからまた考えよう。」
「そうね、ラフィタ、そんなに泣かないで?まだ完全に希望が無くなったわけじゃないわ、アポピスが嘘をついてる可能性だって十分にあるわ。」
「そうだよ!僕たちの今の目標はまずハルトの疑いを晴らす事、どうにかしてアポピスを捉えればその疑いはきっと晴れる!僕達のリーダーはヒストリア様になっちゃったけど、また絶対に5人で過ごせる日がくるよ!だかは今は上を向いて、たくさん特訓して強くなろうよ!ひたすら前に向かって歩いていれば、いつか必ずまた会えるから!」
「ぅん、、、またいつか、、必ず、、。」
ハルト、私は絶対諦めない。だからハルトも諦めないで、いつかまた必ず会えるから。
「よーし!!このまま帰ってもしょっぺーからなー!!ミミちゃんとこ行って飲むかー?!!」
「ライナー、今はみんなそんな気分じゃ、」
「っせーよ!だからこそ行くんだろうが!!ほら、強制参加だ、行くぞ!」
「ちょ!押さないでよ!」
ライナーに強制されて飲み所ミミちゃん屋に足を向ける。空を見上げるとそこには紅い月ではなく綺麗な満月が4人を照らす。もう一つの影がないのを寂しげに。
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




