14話 再出発
俺が、、、勇者?いやそんな訳ない!勇者って全ての者の頂点に立ち、絶対な力を持つ者のことだろ?あのヒストリアにも到底敵わない俺が勇者だなんてありえないだろ!
「いや、それは何かの間違えだよ。それになんで同じ黒印なのに君ではなく俺が勇者ってなるんだ?」
率直な疑問だ。
「よく私の黒印と貴方様の黒印を見比べてみてください。似てる様で違います。それに私の黒印は勇者様に忠誠を誓う意味で成人した時に押した物なので、勇者様への忠誠とゆう意味以外持ち合わせていないのです。」
女の黒印と見比べて見ると、確かに違う。
丸い円の中に咲いた花が満開であるのに対して、女の黒印では六分咲きといったところか。
「それでも、俺が勇者なんて信じられない。今日初めて、Cランクとして外に出たのに。」
三位階の悪魔ですら1人で倒すのは難しいのに勇者だなんて笑い者もいいとこだ。
「Cランク?貴方様は壁の内側にいらしたのですか?私が産まれる前から極秘の任務で長年行方が分からなくなっていると聞いてはおりましたが、壁内での任務だったとは驚きです。ただ、今はお記憶がないとお見受けいたしました、混乱なさるのはしかたのないことです。」
相変わらず片膝を地につけて話す女にこれ以上勇者の話をしても無駄だと悟る。
ローンに言われた通り、外の人間は見つけた。後は匿ってもらえるようにうまく振り回らないと。
「ところで君は1人なのか?仲間はいるのか?」
「はい。今この場に居るのは私1人だけですが、さほど遠くない場所に私達グリュンの民が暮らして居る街があります。街と呼ぶには小さ過ぎますが、そこで宜しければご案内いたします。」
ほう、街か。街に行けば食料も飲料もある。
それにこいつらは俺を勇者と思っている。
下手な事をしなければ充分に匿ってもらえそうだ。
「あぁ、よろしく頼む。ところで君の名前を教えてくれないか?なんて呼んでいいのか困るからな。」
「はい!私の名はパーパシー・ナクリスです。どうぞパーパシーとお呼び下さいませ。」
綺麗で長い銀髪、透き通る様な白い肌、身長は俺と同じくらいか?青色の軽鎧を身につけた
パーパシーは膝をついたまま目を輝かせている。今まで自分を磨き上げ、勇者に尽くすために生きてきた者たち、だが勇者は現れず、磨き上げた剣技、スキル、忠誠心を捧げたくてもそれができずに死んでいった者達が数多くいる。そして今目の前に居る俺を勇者だと思っている。長い間放置されていた子供の元へ、親が迎えに来てくれた様な感情なのだろう。
「グリュンの街にはどれ程距離があるんだ?」
「休まずに歩けば1日くらいで辿り着けます。」
1日か、もう王都から追っ手が来ることはひとまずなさそうだが、1日も歩いていたら悪魔と遭遇する確率は高い。王都から離れるにつれて高位階の悪魔が多くなる。まだ1位階、2位階なら相手にできる、単体だったらの話だが、しかしそれ以上の悪魔となればかなり厳しい。
「悪魔と極力遭遇しない様なルートはないのか?」
楽にする様に指示を出す。
「そうですね、悪魔とまったく遭遇しないのは難しいでしょう、しかし私のスキルを使えば極力悪魔との戦闘は避けられます。」
そう言うとパーパシーは少し歩き出し、こちらに振り返る。「スコトススキアー。」
パーパシーがスキルを唱えた瞬間、パーパシーの姿が消え、魔力での感知もできなくなった。
「どうですか?これなら悪魔に気付かれずに移動できます。」
声のほうに視線を向けるとパーパシーが月明かりで照らされている場所に立っている。
「すごいな、魔力での感知もできないとは。」
「ありがとうございます。しかしこのスキルは物陰などの影に入っている時のみ有効です。スキルを発動させていても今みたいに月明かりに照らされている場所など、影から出てしまうとスキルを使用中であっても目視されてしまいます。しかしこの森を抜け、街までほとんど姿を隠して移動する事ができます。これが一番安全な方法になります。」
まったく素晴らしいスキルだ。
姿が見えなくなるのはもちろん、なにより魔力で感知されなければ影に入っている間は完全に存在を消せる。
「素晴らしいスキルだな、その他のスキルも聞いていいか?」
「はい!あと使えるのは転音【てんね】、魔矢【まや】、索敵【さくてき】、ゲイボルクになります。」
5つ?壁内で言ったらBランクじゃないか!
俺よりランク高いなんて少しショックだな。
「パーパシーは魔術師?それとも弓師?どっちなんだ?」
「いえ、私は療法士です。療法士はヒールするのは当たり前なのでヒールをスキルだと思っていません。」
ヒールも立派なスキルだ。そうなると6つもスキルを使えるのか?!もはやAランクの領域じゃないか!それに療法士で弓師のスキルに魔術も使える、俺よりよっぽど勇者に近いじゃないか!
「療法士なのに弓師のスキルも使えて魔術も使えるなんて天才だな。」
「お褒めの言葉ありがとうございます。勇者様に褒められるなんてこれまでの努力が報われます。」
しかしこれ程のスキルを所有しているのに俺に押し倒されるなんてありえないだろ。
「何故さっきスキルを使って殺しに来なかった?」
するとパーパシーは少し申し訳なさそうな顔をする。
「私は今3割程度しか魔力が残っておりません。この3割の魔力を使って街に戻るつもりでした。ですので、、、出し惜しみを、、、。」
そうゆうことか。
「それしか魔力が残っていないのであれば満足に体も動かせないんじゃないのか?」
「はい。おっしゃる通りです。そして先ほどスキルを少し使って見せてしまったので2割ほどしかもう、、、。」
「ならブルに乗っていけば半日くらいだろう?それなら保つのか?」
ブルを指差し馬の名であることを伝える。
「はい。大丈夫だと思います!」
「なら急ごう。」
ブルに跨ると後ろに乗るように手を差し出す。
パーパシーは顔を少し赤らめると自分の服で手を擦り付けてふくと手を取りブルに跨る。
「お、お、お願いします!!!」
勢いよく後ろから抱きついてくるパーパシーを横目にブルを走らせる。
これで無事街に着けば一安心だ。
それからの事は疲れが取れて冷静になってから考えよう。
みんなにまた会うまでは、壁内に戻るまでは絶対に死ぬわけには行かない。
俺は絶対に戻ってやる!
読んでいただきありがとうございます(o^^o)




