R編 第1話〔13話〕 帰還
星のない空に赤い月が輝いている。
私は一体、、、。
「気がついたみたいだね。良かった。」
月を隠すように顔を覗かれる。
カーミラの膝の上で眠っていたみたいだ。眠っていた?違う、気を失っていたんだ。
「ハ、ハルトは?!」
勢い良く立ち上がると周りを見渡す。
悪魔の死骸、その中に返り血で汚れた白い鎧を身につけているヒストリア様。
ローンに治癒をしてもらっているライナー。
いない、どこにもいない。ハルトがどこにもいない。
「ハルトは、、、行っちゃったよ。」
小さな声で、うつむきながら答えるカーミラ。
「行っちゃった?どこに?どこにいったの?!!」
カーミラの肩を強く握って詰め寄る。
「わからないよ、空間の歪みに飛び込んでいったから、ハルトが飛び込んですぐに歪みが消滅したんだ。あとを追うのは無理だよ?その証拠にあそこでヒストリア様が悔しそうにしているでしょ?」
なんでよハルト、王都は逃亡したあなたを悪魔の手先だと思い込んでしまうわ、何を言おうと逃亡したのがその証って言われてしまうわ。
あなたは悪魔の手先なんかじゃないのに、、、。
「ラフィタ、これしかハルトを救うには方法がなかったんだ、王都に戻っても僕たちの声なんか聞く耳を持たない、それはさっきのヒストリア様を見ればわかるだろ?本気でハルトを殺そうとしていた。殺しはしなくても逃げれないように足を斬り落としていたかもしれない。僕たちなんかより、Aランクであるヒストリア様の意見の方が重要視される、そのヒストリア様があれだからね。」
ライナーの治癒を終え、こちらに歩み寄って来るローンとライナー。
「ローンの言う通りだ。それにひとまずこれで王都に戻り、殺される可能性はなくなった、今すぐは無理でも、生きていれば必ずまた会えるさ」
腕を組み、どこまでも続く砂漠を見ているライナー。
「そうかもしれないけど、、、私は、私は、」
「もういいのよラフィタ。悔やんでも仕方ないわ、これから王都に戻って、ハルトの為に出来るだけのことをしましょう。」
ハルト、絶対に死なないで。もう二度とこのまま会えないなんて絶対に嫌、まだ私の気持ちも伝えてないのに、、、。
「くそっ!!まんまと逃げられてしまった。次は必ず、、、。」
完全に諦めのついたヒストリア様が戻って来るなりローンを睨む。しかし何も言わずに座り込む。
「これは私の失態だ、お前達のせいでは無い。それよりもさっきは乱暴な真似をして悪かったな、ああでもしなければお前達と本気で殺りあうところだった。私の魔力も残り少ない、次悪魔が襲ってきたらかなり厳しいだろう。追跡が不可能となった今、優先するべきは王都への帰還だ。すぐに出るぞ。」
座ったかと思えばすぐに立ち、ついて来るよう合図をすると先頭を歩き出す。
その背中を見つめるライナー、魔力の限界に近い今なら殺れると思っているのだろう、しかし行動は起こさない。ヒストリア様を殺せばけっと足が付く。そうなればハルト云々ではなくなり、私達自体が危機に晒される。それに魔力の限界が近いとはいえ、Aランクの聖騎士だ。単純な戦闘能力でも遥かに上回る相手に半端な攻撃では敵わない。私達は、、、弱すぎる。
拳を強く握りしめ、耐える。今は耐えるしか無い。それが今後に繋がると信じて。
☆
数時間歩くと王都からの迎えの部隊と合流した。
迎えの部隊にしてはかなりの戦力だ。
ヒストリア様を含めた私達は全員馬車に乗せられ、揺られているだけ。
「初めての調査で災難だったな、しかし王都に戻ったらお前達はこのままミューラ城へ来てもらう、既に王都へ早馬を向かわせた。今回の件の報告をしなくてはいけない。お前達にもその場にいてもらう。後は王がお前達の今後を決めてくださる。だから今のうちに寝ておけ、私のことは気にしなくていい。」
みな頷くだけで言葉を口にする気力、元気すら残ってはいない。
ハルト、あなたは今どこにいるの?
無事安全な場所まで行けたの?
私達はもう大丈夫よ、無事迎えと合流できたわ。あとはやれる事は全てやって、あなたの無実を証明してみせる。
またみんなで居れるように。
だから、、、今は、、、。
瞼を閉じるとすぐに深い眠りへと落ちていった。
読んでいただきありがとうございます。
今回はラフィタ編でした。
ここから物語は二つの目線からとなります。
今後ともよろしくお願いします。




