揺れる想い
☆12、揺れる想い
作戦会議の夜、レオンは四階にあるソフィアの部屋の前でもう数分も立ち止まったままだったーー
いろいろ話さなければならないことがある、ただ何をどう伝えていいのか分からなかった。伝える本人すらよく分からない状況にレオン自身戸惑っていたのだ。
「ーーこのままここに居ても始まらない、もしかしたら帝国はもう、動き出してるかも知れない・・・クソ!」
覚悟を決めて、ソフィアの部屋をノックした。
「はい。どうぞ。」
ソフィアのハキハキとした返事が返ってきた。
「・・・レオンです。入ります・・」
少し緊張感を漂わせながらゆっくりと入る。
「ーーレオン。」
ソフィアが駆け寄りレオンに飛び付いた。
ソフィアはいつもの紅い鎧姿ではなく、パジャマといった感じの姿だった。
その愛らしい姿は、いつも見ていたソフィアそのものだったーー
「ソフィア様・・・その・・・」
レオンは戸惑いながら頬を赤く染める。
「レオン黙って。ーーしばらくこのまま。」
ソフィアは抱きつき目を閉じて、しばらく動かずにいたこの感触を確かめるようにーー
「レオン何か話があるの?」
しばらく経つとレオンから離れてソフィアが聞いてきた。
「ーー反帝国軍に援軍を頼みたい!交渉条件に鉱山を譲る形になると思う。」
レオンは真剣な表情で真っ直ぐソフィアの目を見て答えた。
ソフィアは少し考えていたが諦めたのか柔らかい表情を浮かべて、
「ーーそう。」とだけ言った。
「すぐに援軍の交渉に行く。今すぐにでもカタリナから立ちたいと思う。後のことはお父さんとソフィアに任せるから。」
レオンがソフィアに背を向けて行こうとすると再びソフィアが駆け寄り抱きついてきた。
!!!!?
「・・・一人にしないで・・・」
か細い声
「レオンまで私から離れて行くの?」
ーー違うよ・・・僕は、ただーー
「もう、一人は嫌なのーー寂しいの。
もう、悲しい思いはしたくないの・・・」
ーーソフィア・・・
「レオン何処にも行かないで、私のそばにいてよーーお願いだから・・・」
ソフィアはレオンの背中で大粒の涙を流していたーー
「そばに居てよ・・・」
ソフィアはレオンを無理矢理自分の方に向けると目を閉じ唇を差し出した。
「ソフィア・・・様・・・」
レオンの心臓は張り裂けそうだったーー
呼吸が速くなるのがわかった。
今目の前にいるのはずっとずっと想いを隠してきた人物だ。
そう、レオンはずっとソフィアが好きだった。
ただ、身分の違いでこの想いを隠していた。
一生叶わぬ恋だとーー
レオンも目を閉じソフィアに唇を近づける・・・
しかしーー
「ソフィア様・・・いけません。」
レオンはソフィアの両肩に手をやり拒んだ。
ソフィアは悲しそうな表情でレオンを見つめていた。ソフィアは今にも抱きしめたくなる位愛らしい表情でこちらを見ている。
「レオン・・・私のこと嫌いか?」
唐突にソフィアが聞いてくる。
「好きとか、嫌いとかではなく国王と使用人としてのーー」
視線を逸らし、しどろもどろで答えるレオン。
「私は、レオンが好きーー愛してる、ずっとずっと想いを寄せてきた。」
頬を赤く染め、涙を流してレオンを真っ直ぐ見つめて言う。
ーー僕も、ソフィアを愛してるーー
心では言えるのに・・・
ずっと、ずっと思ってた・・・
ソフィアも同じ気持ちだったと知って嬉しかった・・・
だけどーー
「ソフィア様のお気持ちは大変嬉しいです。
だけど、僕とソフィア様は立場が違い過ぎます・・・一国の国王とただの使用人。」
自分の気持ちを押し殺して必死で搾り出した言葉だった。
「好きな気持ちに立場なんて関係ないわ!レオンの本当の気持ちを知りたいの。」
ソフィアは目を赤くし、顔は涙でくしゃくしゃだった。
ーー好きだよ、好きだよ、愛してるよーー
言葉に出せない。
ーー世界中の誰よりも、ソフィアを愛してる、君だけをずっと見てきたーー
言葉に出せば気持ちを止められない。
レオンはソフィアに背を向き喋った・・
「何で・・国王で・・・僕は使用人なんだ・・・」
レオンから出た必死の言葉だったーー
「二人とも普通の家で生まれ、朝起きて一緒に学校に行き、夕暮れまで笑いあって遊べるそんな普通の生活がしたかった。」
背中越しでもレオンが泣いてるのがソフィアにはわかった。
「・・・レオン・・」
「朝から湖のほとりに行き一緒に散歩して、お昼は森の木陰でお弁当を食べ、勿論ソフィアの手づくりで。その後二人で昼寝なんかして、少し涼しくなったら夕暮れの丘から湖を見つめて二人手を繋いで並んで帰るんだ。」
「れおん・・・」
「なんでそんな普通のことも許されないの。僕が貴族で生まれてくれば良かったのか?何で僕は使用人なんだ?僕は自分の気持ちすら君に伝えることすら許されないんだ。」
そう言うとレオンは部屋を飛び出して行った・・・
ソフィアは床に崩れ落ちいつまでもいつまでも泣いていたーー