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 ゲームの中のギルバートはいわゆるクーデレ系男子だった。

 天性のセンスと膨大な魔力から、幼い頃より天才と持て囃されたことで生まれた孤独感は大きく、初対面の相手には素っ気ない態度を崩さない。同時に、プレッシャーをかけられることに強い恐怖を抱いていて、鬱屈した内面をも持っている。


 そんな彼は16歳の時、自分と同様に大きな魔力を持つヒロインと出会う。

 最初こそ冷徹な仮面を外さないギルバートだが、共通の休憩スポットである庭園の一角で会話を重ねていくうちに、少しずつ心を開いていく。

 未だ魔力の扱いがうまくできないヒロインは、ギルバートが小さな魔法を見せる度に感嘆の声を漏らすのだ。


「ブラウン様の魔法は1つ1つがとっても綺麗ですね(ここの後半は選択肢である)」

「別に……こんなもの、10歳前の子供でもできる」

「そうなんですか?私にはなんでもすごく見えてしまいます。もっと頑張らないとですね」

「……コツくらいでよければ教えるけど」

「いいんですか!?あ、でも休息のお時間をいただくのは……」

「気にしなくていい。教えてた方が気が紛れる時もあるし」


 とまあそんな感じでギルバートに魔法を教えてもらうことになったヒロインは、その才能をすぐに開花させていく。

 成功させる度、無邪気に笑うヒロインを見て、自分にもこんな時期があっただろうかとギルバートは思いを馳せる。


 そしてそんなある日、ヒロインは魔力を暴発させ怪我をしてしまう。

 考えるより先に体が動いたギルバートはそこで自分の気持ちに気が付くが、貴族としての立場もあり、これ以上はと彼女の側から離れ始める。

 一方のヒロインはギルバートの対応に戸惑いを覚えると同時に、自身が力を伸ばすほど周りとの距離が開いていく孤独感に苛まれていく。


 2人の関係性がぎこちなくなったそのタイミングで、トドメとばかりに登場するのは我らがアイリーン。とはいえ、ヒロインとギルバートの逢瀬は密やかに行われており、あくまでアイリーンは彼の婚約者として学友から紹介されるだけだ。

 その時に抱いたちりちりと胸を焦がすような感覚に、ヒロインはようやくギルバートに惹かれていることを自覚するのだが――というのが大まかなギルバートルートのシナリオである。


 ハッピーエンドなら、強い力を認められて一代貴族として爵位を与えられたヒロインがめでたくギルバートと結ばれ、伯爵夫人となる。

 ノーマルエンドなら、卒業から数年後、ギルバートが結婚したと風の噂で伝え聞くヒロインという構図となる。この時は強い魔力を活かしての王宮勤めが叶っている。

 そしてバッドエンドなら、身分も弁えない身の程知らずとして噂になったことからヒロインは学園にいられなくなり、ひっそりと僻地にて暮らすこととなる。


 他キャラと比べると、全体としてはあまり糖度が高くないのがギルバートルートの特徴だ。すれ違い、想い続ける2人というのがテーマらしい。

 たしかにシリアス厨ほいほいなシナリオではあった。




 まあつまり何が言いたいかというと、本編でもエンディングでも、ギルバートの兄に関する記述はゼロと言っていいほどになかったのである。彼が次男であるというプロフィール自体初耳だ。

 即ち、私の知り得ていることと言えばテレーゼ達から聞いた情報のみ。


「……不勉強なものでして、申し訳ありません。とてもご聡明な方だとはお聞きしております」


 そう、素直に申し出る。知ったかぶりはどうせボロが出るのだからやらない方が吉だ。

 ただ、身体が弱いという言葉は飲みこんだ。なんとなく、地雷な気がしたので。

 ギルバート少年は私を値踏みするようにじっと見つめると、やがてふいと視線をそらした。


「……兄は、とても優秀な人です」


 こちらには目もくれず、彼はぽつりと言った。


「知識も、人を見る目もある。人の上に立つ能力はすべてと言っていいほど兼ね備えています」

「……でも、ギルバート様だって素晴らしい才能をお持ちですわ」

「はっ、魔力(こんなもの)


 吐き捨てるように言うギルバートは刺々しい目つきでこちらを睨んできた。年齢が年齢だから別に怖くはないのだけど、あまり居心地の良いものでもない。


「何の役に立つんですか。もしも兄が丈夫であったなら、僕なんかに跡継ぎの話はこなかったでしょう。ただの体の良い理由ですよ」

「……」

「兄に負けないように勉強すれば夢ではないなんて、誰がいつ跡継ぎの座(そんなもの)が欲しいなんて言ったんでしょう。天才だと騒ぎ立てた次に言うことは誰も彼も同じです」


 そこで一転して、ギルバートの顔はくしゃりと泣きそうに歪んだ。


「――いっそ魔力なんて、なければよかったのに」

「ギルバート様……」


 ……拗らせてるなあ。

 それが私のまず思ったことだった。

 彼の苦労は私には計り知れないけれど、5歳の子供が負うものにしては大きすぎるように感じる。境遇が違えば、もっと気楽に生きられただろうに。


「見事な名前負けですね」


 そして色々と考えた結果、オブラートに包むことを途中で放棄して私は言った。

 ギルバートは何を言われているのか分からないのか、ぴたりと固まっている。ちょっと可愛い。


「輝かしい願い、なんて名前の割には鬱々じめじめしていらっしゃいますのね」

「な、にを……!」

「お気を悪くされたらごめんなさい。あまりにも聞いていられなかったので、つい」

「っ、お前に何が分かる!」

「分かりませんわ、何も」


 取り繕っていた皮はどこへやら、声を荒らげるギルバートをばっさり切り捨てるように私は返答する。

 そんなに大声を出して、誰か来たらどうするつもりなのだろうか。


「けれど、ギルバート様のお兄様がお噂通りの優秀なお方なことは理解いたしました。ギルバート様が、お兄様に家を継いで欲しいと思っていることも」


 それ以上、何か理解するべきことはあっただろうか?との意味を込め、首を傾げて彼を見遣る。


「……だから、僕と婚約したところでブラウン家は手に入らないし、そうはさせない」

「まあ、手に入れるだなんて」


 長期的な婚約破棄計画を企てている令嬢には、かすりもしない言葉だと思うのだけれど。

 なんとなくおかしくなって、頬が緩んだ。


「ギルバート様は、立場を狙っての婚約だと思っていらっしゃるのですか?」

「そうだ」

「うーん、わざわざ同じ家格の家の娘が?」

「……それは」

「それに、今日のお話が持ち込まれたのはお母様達が友人同士だったからと聞いております。政略的な意味合いはそこまで強くないのでは?」


 実際のところがどうかは知らないので、ほぼほぼ予想でしかないけれども。ギルバートを考えこませることができたのでよしとする。


「でも、そうですね。お約束しましょう。私は貴方を『魔力の強いブラウン伯爵家の次男』ではなく、きちんと1人の人間として見る努力をいたします」


 勿論、ほどほどにですけれど。

 本音を隠したまま、私はにっこりと笑いかけた。



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