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星を渡る鳥

作者: 肌黒眼鏡

 

 光が、まっすぐに伸びている。


 瓶底から星空を眺める。わたしは、宇宙の片隅で。

 少しだけ、丸みを帯びて見える世界。きれいに、世界を捻じ曲げる。


 宇宙船は飛ぶ。

 その船の傍ら。わたしが覗く窓の向こうに、その鳥はいた。

 浮かぶ光が、一筋の流れ星のよう。わたしは思わず目を瞠って、隣で寝ている弟を叩き起こす。


 夢じゃない。


 なんでかはわからない。でも、その光は鳥だとわかった。

 鳥たちだ。無数の小さな鳥が、宇宙を舞っていた。


 弟はまだ起きない。


 もういい。置いて行こう。

 わたしは、その鳥をもっとよく見ようと窓に近づく。

 鳥たちは、船尾側へと、ゆっくりと下がって行く。

 わたしは、部屋から飛び出した。


 今は消灯時間だから、なるべく静かに。でも急いで。

 駆け足で船尾側、最後尾のホールへ。


 ホールは、一面が透明で、外の様子が丸見えだ。


 辺り一面、光に包まれていた。

 光は、どんどん輝きを増す。どんどん、どんどん。


 わたしはもう目を開けていられなかった。

 手で視界を隠して、目を瞑る。

 数秒後、目を開くと、そこにはいつも通りの宇宙が広がっていた。


 あの鳥は、どこへいったんだろう。


 そうして、しばらくホールで宇宙を眺めていた。


 ふと、音が聞こえた。

 遠く、遠くに、誰かが私を読んでいる声。

 その声はホールに反響していた。


 声の出所を探して、歩き回った。

 机の下、棚の上。収納の中。

 そして――声が大きくなる場所を見つけた。


 窓。窓の外から、その声は聞こえていたのだ。


 わたしは、窓に手を触れる。すると、わたしの手は窓を通り過ぎた。

 思わず手を引っ込める。

 そして、もう一度手を伸ばす。

 今度は、身体を外に出す。

 ぴょん、と飛び跳ね、目を瞑って外へ――宇宙へと、飛び出した。


 目を開けると、光が散らばっていた。


 それは、星だった。


 星から星へ。点から点へ。

 流れる、渡る、繋がる、伝う。

 鳥たちは、星を紡ぐ。


 わたしも、その鳥の一部になる。


 わたしは今いた宇宙船から離れ、故郷の星へと飛び立つ。

 鳥になって、飛んでいく。


 少し、弟が心配だったけれど、みんながいるから大丈夫だ。

 それに、わたしもすぐに帰ってくる。また、会える。

 だから――。


 また、わたしを呼ぶ声がする。

 起きて、起きて。

 わたしを呼ぶのは、誰だろう。


 声に導かれて、わたしは跳ぶ。飛ぶ。

 故郷の星、わたしと、母と、父と、弟。

 弟が生まれたばかりで、泣いていた。

 わたしは、両親が弟にばかり構うので拗ねていた。

 両親は、わたしの名を呼ぶ。

 弟も、舌足らずの声で呼ぶ。ねーね、ねぇねー。

 そして、弟が、わたしの手に触れる。


 また、声が、聞こえる。

 わたしを呼ぶ声。

 行かなきゃ、そう思う。

 早く、速く。

 そうして、わたしは宇宙船に戻ってきた。


 船に入ると、ベッドの上にわたしが寝ていた。

 弟が、わたしに抱き着いて泣いている。

 ――そうか、わたし、死ぬんだ。

 ふと、他人事のようにそう思った。


 わたしは、自分の身体に触れる。

 すると、指が動いた。

 弟がそれに気付く。

 手を握り、強く、強く呼びかける。


 わたしの手が、熱くなる。

 わたしは、もう一度身体に触れる。

 一つになる。


 目を閉じる。


 闇。


 光が、鳥が。

 宙を浮かぶ。揺蕩う。彷徨う。


 わたしは、そんな浮遊感の中で目を覚ます。

 寝覚めは、眠りから覚めるようにはっきりと。何事もなかったかのように思えた。


 弟が抱き着いてきたので、蹴っ飛ばす。

 そして、頭を撫でてやった。


 窓の外には、小さな鳥が一羽。

 やがて、粒子が崩れて消えていった。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンシーかつ死生観まで通じる読んでいて感触の良い作品でした。 [気になる点] なんで宇宙船が舞台だったんでしょう。 家の窓から飛び出しても同じ展開だったと思うのですが。 宇宙船の描写も空…
[一言]  抽象的で意味ありげな文章がずらずらと並んでいるが、意味はほぼ皆無といってもいいだろうか。生命の輪廻のことをいっているのか、はたまた思春期における自己の確立のことをいってるのか私にはさっぱり…
感想一覧
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