逆行
俺が【小説家になろう】と出会って暫くしてから、俺に昇進のチャンスが訪れる。但し『他言無用』という条件付きでだ。その時、嬉しさとそれ同等の不安があった俺は、俺がユニットリーダーになる代わりに、ユニットリーダーから外れる職員に電話で相談した。その時言われたのが、「この話、誰にも言わない約束されなかった?」との事だった。確かに他言無用とされていた為、この話は聞かなかった事にしてくれと頼んだのだが、俺が信頼していたその職員は無惨にも、その話を施設長に話したのだ。自業自得の話で、昇進の話は一ヶ月延期された。しかし、いざユニットリーダーとなると、周りの職員の風当たりは酷いものだった。当たり前と言えば、当たり前である。自分達より後から入社した職員が自分達の上司になるのである。反発心が生まれても、至極当然の事だった。しかし、俺もめげずにユニットリーダーとしての責務を果たそうとした。その結果、修復した筈の心のダムが、再び決壊したのである。こうなると、もう手の打ちようがない。
長期休暇に加え、病気の事が施設に露見し、長期休暇(自宅療養)の末、職場に戻った俺に対して待っていたのは、過酷な言葉だけだった。
「そんな病気の人に夜勤をさせる訳にはいかない」
「夜勤の出来ない職員を正社員として認める訳にはいかない」
「君と仕事をすると、しんどいという声が挙がっている」
そうして俺は、一月に【一身上の都合】という名目で、自主退職する事になる。そしてまた、傷病手当のお世話になる事になったのである。
それからの生活は悲惨なものだった。極度の人間不信から、家から出る事も出来ず、心の拠り所は【なろう】だけになっていった。そんな生活が暫く続いた後、生活に変化が訪れる。申し込みをしていた府営住宅が当選したのである。しかも三月には入居完了している必要があった。急いで引っ越しの準備をし、早々に子供達だけでも、府営住宅に寝泊まりさせた。そして始まった府営住宅での家族だけでの生活。しかし、俺の人間不信は変わらず、外出先でも壁に頭を付けるようにしてベンチに座っていたり、妻に手を繋いでもらわないと、人々の間を歩けない状態になっていた。
それから暫くして、また事件が起こる。九月の末頃だったか、妻のヒステリーが原因なのだが、妻が家を飛び出したのである。原因は覚えていない。それに発狂した俺が、家中にある睡眠導入剤と消炎鎮痛剤を服用し、切腹しようとしたのである。しかも、俺の父親と妻の父親に「今から、腹切る。怖い。死ぬの怖い。でも死にたい」等と電話し、しかも通話内容を録音していたのである。
それを期に、俺は一つの決断をした。
「入院する」
そう己で決意し、次の朝、父親が車で迎えにきた。病院で言われたのは、たった一言。
「これは自主的入院となります。ですので、退院はいつでも可能です。が、私が退院を許可した後にはなりますが」
そして、俺の精神科病棟での入院が始まった。と言っても、たったの一週間程度だけ。入院したのが、希死念慮の強い者達ばかりが入院する重度の精神障害をもつ者ばかりの病棟。俺はすぐに挫折し、「こんな所に居たら、本当にキチガイになる」と父親に電話で話し、一週間程度で退院となった。その時医師に言われたのが、「今度また入院する時は、こんなに短期間じゃ出れないからね」との事だった。
退院した俺が身を置いたのは実家。妻は、離婚も視野に入れて、別居という選択をしたのだった。