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戦の幕開け

「……夢……か。懐かしい夢だった……」

 早朝、風で揺れる草原で少女、舞華は目が覚めた。自分が最も愛したものがつけた名前。

「あの時の……夢。そんなこと考えてる暇はないな。早く準備して城下町を目指さないと」

 舞華は、旅をしている。行き先はない。自分の願いを叶えるためだけに旅をしている。自分が過去に愛した、竜を守るため。

「荷物は何も盗まれていないし、なくなってもいない。早く食事を済ませて出発するか」

 食事は保存ができて、手軽に食べれる食材。荷物は毛布、地図、水と余計な物がない荷物、それと竜に育てられた証である、竜の卵。もちろん食べる気はないが、食べれないし、重たく、大きい。しかし、舞華にとってこの竜の卵はそれほど大事な物だった。ちなみに、貰ってから六年以上経つが、少しも産まれる気配はない。

 舞華が食事をとっているまさにその時、後ろから足音がした。族だ。武器で人を脅し、食べ物や金品を盗む。この戦乱の時代では珍しいものではない。

「嬢ちゃん、有り金と食料全て出せば、命だけは助けてやるぞ?」

 族の数は三人。態度からして、本気で殺すつもりはないのだろうが、その手には凶器があった。しかし、舞華は一瞬で族の一人に投げ技を喰らわせた。

「ぐわっ?!」

 竜に育てられたもう一つの証、原理は未だ分かっていないが、竜による影響なのか、人間離れした身体能力。それによって、こういった族は心配することなど一つもないのだ。

 族は仲間を倒され、一気に襲いかかってきたが、なんなくそれを払い除け、一発で気絶させた。

「ごめんなさい。狙う相手を少し、間違えてしまったようですね」

 そして舞華はそのまま、城下町へと向かった。


 歩くこと数十分。目の前に見えてきたのは、扉は固く閉ざされ、高く、大きな関。今は戦争も起きている時代。当然、警備は厳しくなっているだろう。

「あの! 門を開けてくれないでしょうか?」

 舞華には、ちゃんとした通行手形があった。だから、きちんと門は開けてくれるだろうと思っていたが、いつまで経っても返事は帰ってこない。不安になった舞華は、関をよじ登り、所謂密入国ということをした。当然だが、これは重罪である。

 登りきって見えてきたのは、血を流して倒れ、ピクリとも動かない何人もの兵士。舞華は息を飲んで、その兵士に駆け寄るが、既に心の臓は動いていなかった。そして恐る恐る城下町を見渡すと、燃え盛る建物に、泣き叫び、逃げ惑う人々。既にこの地で戦争が起きていたのだ。

「急いで生きてる人だけでも助けないと!」

 舞華は関から飛び降り、急いで人々の救助に向かった。まだ敵は恐らく内部にいると思われるが、そこのところはこの国の兵達が制圧してくれるだろう。

「大丈夫ですか! しっかりしてください! 今傷を塞ぎますから!」

 懸命に救助に努める舞華に聞こえたのは、大きな咆哮。振り向くと見えたのは、過去に何度も見た、大きな翼に鋭利な爪と牙、自分が最も愛したものと同じ種族の、竜だった。

「竜?!」

 心を研ぎ澄ませれば、舞華は竜の声が聞こえる。なんとか止めれないものか。聞こえてきた声は怒りの籠った叫び声だけだった。

「待ってください! 何故そんなに怒っているのですか?! 話は聞きます!」

 その言葉に、ピクリと竜はこちらを向き、口を開いた。

「お前は私の言葉が分かるのか?」

 舞華は無言で頷く。竜に育てられた自分なら、きっと止められるはず。そう舞華は思った。

「! これは驚いた。お前は東山の竜に育てられたとかいう人間の娘ではないか!」

 東山の竜、というのは、舞華の育て親の竜のことであった。

「はい。何故このようなことをするのです? 何か理由があるのですか?」

「理由か……お前に言うにはまだ早すぎる理由だと思うな。まあ、こんなところで竜の間で噂になっているお前に出逢えたことだ。この争いは止め……グッ?!」

 それは突然のことだった。竜の腹を、何本もの太い槍が貫いた。竜が倒れて向こう側が見える。何人もの兵士が、快楽の表情で竜を殺していく。反撃であちらの兵士もたくさん殺されているのに、それを気にする様子もない。

「し、しっかりしてください!」

 動かない竜に涙を流して必死に呼び掛ける舞華。しかしその姿は、周りの人から見ればまるで竜の仲間に見えただろう。そんな舞華を黙って見れた人はこの場にはいなかっただろう。

「おい、ここにもう一人仲間がいるぞ!」

「とりあえず捕まえとくぞ!」

 兵士の声が聞こえたかと思うと、舞華は素早く縛られ、捕まってしまった。その奥に見えた人物は、緑色の髪と碧色の瞳を持ち、顔はほとんどの人が格好いいと言うような威厳のある顔。腰には剣を持ち、こちらを見ている。世界中で有名な、ここの国の軍団長、浪崎(なみざき)竜封(りゅうふう)だ。

「あ、軍団長様。敵の一味と思われる者を捕らえたのですが、どうしましょうか!」

 敵と思われる者とは、舞華のことであった。竜封は舞華の顔をじっと見つめると、ハッとした表情になり、こう言った。

「……いや、今は民達の保護や建物の復興が最優先だ。その少女はこちらで預かって、話を聞いておく。お前もそれで異存はないな」

 舞華はコクリと頷き、竜封に捕らえられた。

 自分の知らないところで、醜い戦が起こっているとは知らずに。

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