第5話 うちの〇〇は配信らしい
この世界には『魔法』という特殊な現象が存在する。
それは 『魔物』が『人間』を虐げる恐怖の象徴。
それは 神によって定められた世界を歪める冒涜。
それは 『人間』と『魔族』が争う諸悪の根源。
『人間 は "魔法" を使えない』
この世界の一般的な常識である。
しかし、それは正しい事実ではない。
魔族と人間は同じ種族である
例えば、この世界には『動物』は存在しない。
魔力に適合し、『魔物』という生物に全て進化したからだ。
人類もその事実は変わらない。
魔力に適合した人間が『魔族』である。
現生人類の全ては、世界に満ちた『魔力』という特異な物質に適合した者たちの末裔である。
広義の意味で言えば、今を生きる人間を含めた全ての人類は魔族である。
しかし、現に人間は魔法を使えず、魔族は魔法を扱える。
ここで思い出してほしい。
魔法は何からできているのかを。
『魔法とは願いである』
人間が魔法を恐れるのであれば、魔法は『魔法を使いたくない』という願いを叶える。
そして、その原因は歴史の中にあった。
魔物が生まれ始め、人間達に牙を剥き始めた時代。
時を同じくして、人間の中から魔法に目覚めた者たちが現れた。
しかし、『魔物の象徴』である魔法を恐れた人間たちは、魔法を扱う者たちを味方ではなく敵と見做し迫害した。
そうして迫害された者達は身を隠し、村を作り、街を作り、国を作った。
今では体系的に魔法を学べる教育機関すら存在している。
逆に人間たちは魔法を徹底的に弾圧していった。
魔法は悪であり、禁じられた邪法。
差別と迫害の事件を人伝に聞いた親が子に伝える。
時代を経て刷り込みが行われていった。
人は未知を恐れる生き物だ。
あとには『魔法に対する忌避感』だけが残る。
そこから永い時が進んだ。
迫害と禁忌の記憶はただの歴史となり、伝承となり、創作の類になる。
そして、『魔法を使わない人間達』が再び『魔法を使う人間達』と出会った際、彼らが自称する『魔法を扱う一族』から『魔族』と呼び、別の種族として扱ったのは当然の出来事だった。
だから、誰かが彼らを『魔物』の一種と定義し、争いが起こることも必然だったのだろう。
いざ戦争だとなった際、意外にも戦力は拮抗することになった。
同じ人間ならば、『魔法』を扱える魔族が有利だと思うだろう。
しかし、現実はそう甘くない。
まず、魔族は人口が少ない。
元々、国を追われた者達が起こした唯の小国でしかないのだ。
また、一般的な魔族が生涯で覚えられる魔法は平均で2つ程度であり、魔法技術を発達させるには人口が少な過ぎた。
魔族の王と呼ばれる『魔王』ですら、5つ程度の魔法を行使するのが限界だ。
それもデカい魔力の塊を投げつけ、爆撃するような魔法とも言えない原始的なものが過半数を締めている。
『魔法とは願いである』
大半の人にとって、『人を殺めること』が生涯を捧げるほどの価値ある願いではなかった。
ただ、それだけのことだ。
そんな状況のため、『飛行魔法』や『|保温魔法《いつでも温かい食事が食べたい》』、『望遠魔法』など、戦いが目的ではない魔法を使い、何とか国防を行なってきた。
また、魔族が魔物の一種であるという思い込みも良い方向に作用していた。
魔物は人の集まる場所を襲う習性が存在する。
これにより、魔族の国と人間の国の間に存在する未開の土地へ軍隊を派遣すると頻繁に魔物に襲われたのだ。
それを勘違いした人間達は、これらの魔物を魔王軍と呼称し、『勇者』という強力な少数部隊での一点突破で対応し、その戦いが『魔王と勇者の戦い』として長年続いて来ていた。
だから、人間の王は油断していた。
長い歴史上で、魔王が直接攻めて来た事例は一度たりとも存在しなかったのだ。
†
願望⑤ ちぃと武器を手に入れる
今回のミッションは簡単だ。
少女は既に4つまで完了したリストを眺める。
最強武器の場所は既に分かっている。
弟によるとそれは人間の国に存在しているらしい。
あとは、人間の王様に『最強武器をください』とお願いするだけだった。
しかし、話はそう簡単に進まない。
人間の王様はもちろんそれを断ったからだ。
そんなものを差し出せば、魔王によって人間の国が滅ぼされかねない。
当然の判断である。
少女は仕方なく……
†
『厄災魔獣バーモット』が人間の国から去り、人間達はなんとか平時の生活を取り戻し始める。
そして、国王は今日も魔王軍への対応を大臣達と話し合っていた。
そんな最中である。
『王様、こんちには』
「なんだこれは!!頭の中に直接声が響いて聞こえる」
「陛下、これは魔法攻撃です。魔族による精神攻撃の類『違う、こんにちわ?』いでしょう。耳を『チイト、ちょうだい』貸してはいけません」
「ちいと??なんだって?よく分からんが私は人間の国の王だ。魔族に屈して何かを差し出すことなど断じてない!!」
「陛下!『どうしても、ダメ?』です。もう少し『弟、家出。しちゃう』」
音が割れた様に響き渡る声が、頭の中で踊る。
この謎の攻撃は実に、有効的に国王達を苦しめていた。
「おい、魔族よ。もう少し音量を下げろ。聞き取りずらい」
『ん。こう?』
頭の中がこそばゆい。
囁く様な声が頭の中を這う。
背筋がゾクゾクする。
「もう少し、あげても良いぞ。ノイズで聞き取りづらい」
『こう?』
「うむ。それで良い」
国王は痛みのおさまった頭で思考を巡らす。
国の警備を貫き、玉座にまで魔法を届かせる無礼なヤカラにしては妙に素直だ。
そして、声や言葉遣いからして、この魔族はかなり幼い者だろう。
弟がどうとか言っていたな。
会話魔法に特化した魔族の子供か?
親の目を盗んで魔法を使ったのかもしれん。
距離を無視して会話ができるなど、やはり『魔法』という邪法は脅威だ。
時代が進むにつれてこの様な天才が増えると、『魔法を使えない人間』では勝つのが難しくなるだろう。
そうなる前に、早急に戦争の準備を進める必要がある。
『どうしても、ダメ?』
「ダメだ!」
少し語気を強める。
相手は子供だ。
これだけは強く言い含めれば諦めるだろう。
『分かった』
分かったらしい。
うちの子供達もこれくらい素直であれば、もう少し早めに王位を譲れそうなのだがな。
『じゃあ、ケンカ』
「はぁ?」
『 3日後。魔王、初仕事』
「何を言っているんだお前は?」
『マギ。王様と、ケンカやる』
幼い声はそう言い切ると、そこから何も言わなくなった。
「なんだったんだ?今のは」
「分かりませんが、城の警備を強化した方がよろしいかと」
ドタドタドタ、ガッ
「陛下!ご無事ですか!!」
「どうした」
血相を変えた騎士長が玉座の間へ転がり込む。
「この王都中、いえもしかしたら国中かもしれません。先ほど魔族の子供?による魔法を聞き、気分を悪くした者や頭痛を訴える者が続出しており、皆混乱しております」
「なんだと!?」
あの会話魔法、王城だけでなく王都内全域へ無差別に送られたのか!?
…どれだけの規模だ。
私は『ナニ』と会話したのだ?
血の気が引くのを感じる。寒い。
私が声を抑える様に命令しなければどうなっていたのか。
だが、音量を下げられるということは、つまり音量を上げることもできるのだろう。
我が国は…『子供の会話魔法』で滅びかけたのか?ただの『音』だけで?
対策が必要だ。
しかし、幸いなことに相手はまだ子供。
魔王軍や厄災魔獣を相手にしていた最近の厄介ごとに比べれば……
「いや、何か見落としてないか?」
魔王、初仕事
最近、魔王が代替わりしたという報告を部下から受け取っている。
しかも、まだ幼い娘だというゴシップのようなデマ情報も含まれていた……ような気がする。
マギ。王様と、ケンカやる
あの戯言が一気に信憑性を増してしまった。
これが本当であれば、やつは3日後に攻めてくる。
魔族の国から王都まではかなりの距離がある。
ましてや軍隊とは足の遅い生き物である。
魔王軍が今から進軍するとしても王都まで1ヶ月かかるだろう。
それはつまり、魔王軍はもう国境を超えて王都の近くまで侵攻しているということである。
「ふざけたマネを!! 何が宣戦布告だ。既に攻め込んできているではないか!」
握り締めた拳を思いの儘に玉座へ叩きつける。
大臣の心配そうな表情が視界に映る。
こんなことをやっている場合ではないのだ。
「幸い国家緊急体制はまだ解除していない。戦争の準備を至急整えろ。国庫から魔法耐性のアミュレットを全て持って来い。あのふざけた魔族を討つ」
・
・
・
『フンフン、フフフンフン』
「はぁ?」
何かを口ずさむ声が聞こえる。
『フンフフンフン』
いや、耳からではない。
頭の中から聞こえる。
そして、それはついさっき体験した感覚と瓜二つだった。
「……アイツ、魔法を切り忘れてやがる」
『フーン、フフフンフン』
鼻歌が再び人間の国全域に流れる。
「おい、魔法を切り忘れているぞ。全部聞こえているのだが。…おい、聞いてるか?」
魔王?からの返答はない。
『フーンフーフンフン』
「まさか…そんな…嘘だろ」
私はある可能性に気付き、頭を抱えた。
こちらの声は届かないと言うことは、奴が攻めてくる3日間、奴の声を聞き続けなければいけないと言うことだ。
『フンフン、『好物反転魔法』『腹下魔法』『毛根爆裂魔法』『性転換魔法』実験、楽しみ。フンフン』
頭に響き渡る不穏な単語の数々に、人々は顔を青ざめるしかなかった。
†
「あ」
お嬢様の呟きが広間に響く。
魔族国の宰相は嫌な予感がしていた。
お嬢様が何かを思い出した。
それはつまり、何か悪い事が起こる予兆なのだ。
これは長年の経験ではない。
ここ数日の経験で得た現実だ。
お嬢様が魔王に就任して数日。
だが、誰も彼も環境の変化についていくのに精一杯だった。
それは比喩的なものではない。
お嬢様は天才である。
彼女はあらゆる魔法が自在に使えるらしい。
魔王城は1日にしてメルヘンでピュアピュアなお城に変わり、警備のガーゴイル達はクマのヌイグルミに変わった。
しかし、もはや誰も文句を言う者はいない。
防衛設備の弱体化は大問題であった。
当然、警備部隊の近衛隊長が『姫』に進言しようと動いた。
その結果が、『姫』の前でヌイグルミに身包み剥がされて宙吊りにされる成人男性のオブジェだ。
彼女はその実用性をとても分かりやすく示した。
その時以来、誰も『魔王様』を侮る者はいなくなった。
皆、可愛くデコレーションされていく城や騎士鎧などを死んだ目で眺めるしかなかった。
「ケンカする。王様と」
「フォぁア!?」
それは既に還暦を過ぎたおじさんの喉から出て良い音ではなかった。
宰相の頭は少女の言葉を正しく翻訳する。
彼女と宰相は長い付き合いである。
しかし、ここではそれが仇となる。
「人間国の王に宣戦布告してきたのですか!? おじょ…魔王様!!どう言うことですか」
少女は将軍の言葉に満足そうに頷く。
常々不満に思っていたのだ。
彼女の言葉を正しく理解してくれる人間があまりに少ないことを。
父と母、そしてこのおじいさんの3人しかいない。
あと『人間の王様』がとても良い感触だった。
少女があんなにも長く話して話が通じた人は、今まで身内以外いなかった。
ケンカした後は仲直りして、友達になってくれるか聞いてみようと少女は企んでいる。
次は『好きな魔法について』お話をしよう。
「王様、友達。だからケンカ」
「???」
少女の頭の中では既に王様は友達である。
友達はケンカするものだ。
宰相は何も理解できなかった。
しかし、これは好機とも言えた。
長年の怨敵である人間への反撃。
彼女の力があれば難しい話ではない。
「それでは、軍の準備を進めて参ります。して、いつ頃開戦致しましょうか?」
「ん? 明日」
「フォぁア!?」
†
私は先代魔王様の時代から宰相として長年お仕えしてきた老いぼれである。
だから、魔王様がお嬢様だった頃からよく存じ上げている。
祝福されなかった娘。
先代様と王妃様の婚姻は魔族の皆から祝福されるものではなかった。
しかし、先代様の一存でそれは強引に進められた。
それが原因だろうか、先代様は一度も王妃様を表舞台に出さなかった。
親友である将軍すら、その顔を見た事がないと聞く。
それ故に後継ぎなど誰も期待していなかった。
先代様はまだ若い、次の王妃に期待すればいい。
そう誰もが思っていた。
そんな折に生まれたのがお嬢様である。
しかし、お嬢様は病弱だった。
最近まで外へは出ずに、魔王城の大半の者はそのお姿を見たことすらなかった。
それが一夜にして王となったのだ。
反乱を企てる異分子を抑えるのはとても大変な仕事だった。
魔王軍の混乱に先代様は我関せずと、ダンジョンへ入り浸る日々。
だから、魔王様が人間の国に宣戦布告し、明日から戦争が始まると言われても寝耳に水だった。
「明日ですか?」
「ん」
そういう残すと、魔王様は帰って行った。
私は家で寛いでいる将軍を叩き起こし、泣き叫ぶ大臣達を引きずり回し、軍備を整える。
もちろん、休む暇などない。
明日には開戦なのだ。
ダメでもやれるだけやるしかない。
しかし、ある若い士官の発言で正気に戻った。
「あ、あのぉ。宰相閣下、発言よろしいでしょうか」
「よい、申してみよ」
中々骨のある若者である。
魔王様が最近配備したリボンの剣とヌイグルミの盾がとても似合っている。
「はい! ここから人間の国へは通常三日は掛かりますが、移動手段はいかが致しましょうか」
「……」
私は魔王様の破天荒さに毒されていたらしい。
常識が身に沁みる。
「ん? みんな、何してる?」
気不味い沈黙の中、魔王様がやってくる。
「魔王様、進軍の準備が整いました。いつでも戦えます。して、移動方法はいかが致しましょうか? 『転移魔法』でしょうか?それとも「高速移動魔法」でしょうか?魔王様であれば如何様な魔法が出て来てももはや驚きますまい」
「ん」
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眼前には人間の国が広がっている。
魔王軍の面々は魔王様の命令に従い、ただ進む。
『魔王城』の隣には『人間の国』が広がっている。
それは普通のことで、彼らが生まれた頃からそうである。
だから何の問題もない。
「それでは進軍いたしましょう。今日こそあのイケすかない国王に泣きべそかかせてやりましょう」
「ん?……ん」
少女は急にやる気になったみんなを疑問に思ったが、気にしないことにした。
今日は王様の家に遊びに行く日である。
†
「降参します。私の首を差し上げます。どうか国民の命だけは」
「いらない。これ、もらってく」
「???」
その日、人間の国は敗北した。
新魔王によって一滴の血も流さず。
国民による反発は一言も上がらなかった。
全員この三日間で文字通り身をもって知ってしまったからである。
抵抗など無意味であることを。
いつも、魔王は『魔法』のことを考えている。
その全てが3日後自分達人間に向けられるのだ。
恐怖で意識を失っても、夢の中で魔王は楽しげに魔法の話を続ける。
『睡眠学習』や『聴くだけ学習』なんてちゃちなものではない。
『洗脳』なんて薄っぺらいものでもない。
今もいる。続いている。頭の中で少女が魔法を語っている。
人々は3日間で禁忌とされてきた『魔法』技術の知識を完全に習得してしまっていた。
それ故に気付いてしまったのだ。
知らなければ良かった。
でも知れて良かった。
この日人類は、魔法文明としての道をようやく踏み出せるようになったのだ。
そして、魔王は『漬物石』を受け取り、満足げに帰っていった。
『フーンフーフンフン』
戦争は終わった。
それでも頭の中に響く少女の呟き。
「あ」
この日、人間という種族の心は折れた。
†
人は慣れる生き物だ。
20年もすれば『それ』が当たり前の世代が生まれ、社会の中核を担っていく。
『魔王の呟き』、通称マイッターは人々の生活の一部になっていった。
人類は孤独ではない。
なぜなら、どんな時でも頭の中に楽しそうな少女の声が聞こえるのだから。
ある者は魔法の勉強として使い、
ある者はラジオ感覚で聞き流し、
ある者は神の声として崇め、
ある者はイマジナリー彼女として会話を試みた。
初めは恐れていた人間達も徐々に慣れ始め、『魔王の呟き』という共通の娯楽として生活の一部となった。
これは後の世の『配信活動』と呼ばれる娯楽の始まりであったという。
なお、この事実を魔族の民が知るのは30年後のことになる。
後の歴史書では、人間と魔族の戦争の終わりをこう記している。
人間は魔族に負けたのではない。
魔王マギ1人に負けたのである。
そして世界は……
†
「マギ姉さん。帰りにコンビニ寄ってくるけど何か欲しいものある?」
「ダッチュのクッキーバニラと濃厚カフェラテ」
少年は平日の昼間から自宅で寝転がってゲームをしている姉の姿を一瞥する。
「マギ姉さん…もっとこう威厳とか……せめて風呂入って身なり整えようよ。ていうか服ちゃんと着てくれよ」
「もう一生分働いたから無理」
だらしなく下着姿のまま片手をひらひらと振り、さっさと買い出しに行けと催促する姉。
それでも弟はこの残念で偉大な『元魔王現魔王役女優』の引きこもり姉が大好きだ。
弟だけが知っている。
世間では『史上最恐の魔王』『人類の征服者』『破滅の神』などと恐れられている姉だが。
彼女のおかげで、この世界は滅ばずに済んだのだと。
「すまない。少し良いかな」
「ええ良いですよ」
弟は見知らぬ青年から声をかけられる。
「この辺りに『魔王』がいると聞いたんだが」
「ああ、でしたらこの先にあるアパートの213号室ですよ」
どうやら姉のお客さんらしい。
「アパート?…いや、ありがとう。情報提供に感謝する」
「いえいえ、訪ねてくる人も少ないですから、くつろいで行ってください」
「ん? え、ああそうだな」
見知らぬ青年改め、姉の客人はアパートへ向けて歩いて行った。
「あ、そう言えば今のマギ姉さんって……」
弟か気づいた時にはもう遅かった。
「魔王よ。この勇者アル・イミが討伐しにき……ぎゃああなんだその格好はぁ!!」
「ここ私の家。服装自由」
「ならせめて服着てからドアを開けろよ!」
「ここ10年服着てない」
「はあ?式典とかどうしてたんだよぉ!?」
「何か用事?それとも覗き?勇者ってそういう……」
「ちがぁあああう!!」
弟はアパートから聞こえる叫び声を聞き流しながら、コンビニへ向かった。
「あれ?原作どうなんのかな」
おわり?




