4話 うちの弟はおじさんが好きらしい
あの後、姉さんが空から降臨?し、俺のオムツを変えて帰っていった。
毎度どうやって俺のお漏らしを察知しているのだろうか?
まさか、『うんち探知魔法』なんてないよね?
その後は、気を取り直して親父にも『ジェットコースター切り』を試したがダメだった。
『飛行魔法』の使い手は内臓のふわっと感なんて屁でもないらしい。
前世でも職業パイロットの人が世界で最も怖いジェットコースターに乗ってケロッとしていた動画を見たことがある。
むしろ親父に天才だと褒めちぎられ、胴上げまでされたことで俺がキラキラしてしまった。
その後、ゲロオジと親父の会話を聞くと衝撃の事実が判明した。
ゲロオジは本物の元勇者であり、親父に負けたことで罰ゲームとして50年間うちの家のトイレ掃除担当をしているらしい。
確かに原作では先代勇者は出てこないし、魔王に敗北したという情報しかなかった。
それがこんな場所で "トイレの勇者" として幽閉されているとは、考察好きのファン達でもたどり着けるわけないだろ。
ただ、ゲロオジの表情と親父との漫才を見る限り、悲壮感は微塵も感じない。
悪友同士のじゃれあいに見える。
勇者や英雄の最後。
これはどんな英雄譚においても、不幸な結末を辿ると相場が決まっている。
トイレ掃除50年も十分悲惨ではあるが、本人は楽しそうである。
しかも、副業でやっている "家掃除" と合わせたら結構給料が出るらしい。
ドレミファソラシドとかいう4人の奥さんとたくさんの子や孫までいるらしい。
ハーレムエンドまで達成しているマジもんの勇者である。
尊敬に値する素晴らしい偉人だった。
視界に入れるだけで御利益がありそうだ。
ありがたやありがたや。
俺が目指すべき転生者としての完成系かもしれない。
俺も世界崩壊阻止後はトイレ掃除屋になろうかな。
「ん?なんだボウズ。俺の弟子になりたいのか?」
勇者は読心術もまで使えるらしい。
「いや、うちの孫達みたいに表情がキラキラしていたからな」
違った。
俺がキラキラしたお目目でおじさん勇者を見ていたことがバレたらしい。
「弟子にしてやってもいいぞ。お前は肝が据わってるからな。というか野放しにしたらヤバそうだし」
俺の度胸と勇者が好きという点が気に入ったらしい。
願ってもない幸運だった。
ただ、大きくなる前に世界が終わりそうなので、今からでも弟子にしてほしい。
†
それから俺は早速、おじ勇者を見かけたら襲いかかることにした。
おじ勇者は普段から近くにいることが分かったのだ。
彼の掃除範囲はうちのトイレや庭、玄関も含まれていた。
だから、掃除用具を持ってノコノコやってきたところを襲撃したのである。
しかし、そのことごとくが避けられてしまう。
「おめぇのせいだよ。1歳の乳飲子にゲロ吐かされたなんて、墓場まで誰にも言えやしねえよ。まあ、一番知られたくないお前の親父に知られちまってるが……」
とのことらしい。
おじ勇者は引退して平和ボケしていたが、俺の不意打ちを喰らったことが悔しくて鍛え直しているらしい。
良き良き。
来るべき世界崩壊シナリオ。
そして、うちの実家没落阻止のため、戦力はいくらでも欲しい。
俺は戦闘経験が増えてハッピー。
おじ勇者は鈍りが解消され、お腹が引き締まって奥さん達含めてハッピー。
だから今日も、おじさんに向けて魔法をスパーキング!
†
毎日毎日襲撃を続けていると、とうとうブチギレてしまった。
「毎日毎日やめろ。戦うのが好きなのは分かった。せめて1日5分にしろ。こんなちいこい頃から筋肉付けたら大きくなれんぞ。せめて10は歳を重ねてからにしろ、乳臭えんだよ」
それはできない。
もうこのおじさんで遊ぶのは俺の日課と化している。
心置きなく殴れるサンドバッグは手放し難い。
おじさんは攻撃を避けながら掃除を続けている。
初日の不意打ち以来一度も触れられていない。
やはり、元勇者というだけある。
この人もレベル999相当に強いのだろうか?
「ふざけんな。こちとら魔王にこないだの出来事言いふらされて、ブチギレてんじゃ。孫達に散々『ざぁ〜こ』だの『よわよわ』だの言われたんじゃ。口止め料に高級菓子までせびられたのに保ったの1日だけだぞ!どうなってんだお前の親父」
おじさんは前回同様おもちゃの剣に触れる。
しかし、何も起こらない。
さっきからブチギレたままなので顔の血管が浮き出ているが、おじさんは無傷に見える。
「なんだボウズ。赤ん坊が豆鉄砲喰らったみたいな顔してるぞ。必殺技が効かなくてそんなに不思議か?よわよわでちゅねぇ。あ、泣いても意味ないぞ。俺がこの世で唯一誇れる特技は、赤子を泣き止ませることだからな。おもちゃもミルクもおしめも懐に入ってる。こちとら伊達に何十人も育ててねえんだよ舐めんな」
ここまでは想定通り、むしろ防いでもらう事が目的だった。
修行はただ力を増すための単調作業ではない。
技を分析して理解を深めることも重要だ。
この一撃の目的は『|ジェットコースター切り《元 必殺技》』の弱点をおじさんに教えてもらうことにある。
「なんで防げたのか知りたいんだろ?ボウズ」
知りたい。
「教えるか馬鹿たれ。そんくらい自分で考えろ。ていうか赤ん坊が運動し過ぎじゃ。さっさと部屋に戻って寝とれ。うちの孫より小せぇ癖に頑張り過ぎじゃボケ。魔族だって身体構造は人間と同じなんだぞ」
なんでだ?どうやった?確かに当たった。座標をずらされた?魔力で弾かれた?俺たち以外にも魔力を認識している?だから勇者なのか?魔法はイメージだ。勇者は無意識に魔法を使える?最強の自分をイメージ?健康状態の自分をイメージ?ネタがバレてるとしても内臓へのダメージを耐えられるものなのか?確か内臓は直接筋肉をつけることはできないから、誰も鍛えることができないと聞いた。でも魔法があるこの世界なら、強化魔法に近い現象で鍛えられるのか?それとも避けた?昔何かで心臓の位置を動かして致命傷を避けたという話を聞いたことがある。それはフィクションだったか?だとしてもここは元々フィクションの世界だ。やってやれないことはないのかもしれない。そもそも勇者ってなんだ?人が選んだただ強いだけの人じゃないのか?そもそも100年周期とかでもうこの爺さんも奥さん達も100歳超えてるんじゃないの?まだ成長できるのかおじさん。この力の仕組みが分かれば俺も魔法だけじゃなくて剣による近接戦闘ができるようになって魔王を倒すこともできるかもしれない。でも魔王は近接もできていた。おそらく勇者が使う自己強化の仕組みは魔王も把握している。そもそもアレは何百年、下手したら何千年生き続けて歴代勇者を葬り続けているバケモノだ。これだけじゃ足りない。姉さん達を守れない。俺は弱い。時間がないんだ。力が欲しいーーーー.
『 力が欲しいの?』
ねぇ……ちゃ……。
「寝ちゃった」
「うおい!?マギちゃんどっから出てきたんだよ。いや、そうじゃなくて、こりゃ知恵熱だ。考え過ぎて意識まで飛んでやがる。まだ1歳だもんな。いや、1歳にしては異常に頭がいい奴だが」
…………
「そう。頑張ったんだね」
「おやすみ」




