第9話 遠回しな問い合わせ
昼過ぎ、店に見慣れない客が入ってきた。
身なりは上等。
けれど、派手さはない。
商人は一瞬だけ視線を動かし、
私に何も言わなかった。
――任せる、という合図。
「こちらの品は、どこから?」
男の問いは、自然だった。
「街の外れです」
「なるほど。
最近、扱いが変わったと聞きまして」
私は、すぐには答えない。
「変わった、というのは?」
「人の流れを読むのが上手くなった、と」
褒め言葉の形をした、探り。
「通りを見ているだけです」
男は笑った。
「それが一番、難しい」
やり取りを横で聞いていた商人が、口を挟む。
「用件はそれだけか?」
「ええ。……一つ、確認を」
男は、私を見た。
「この店に、
最近入った“女性”について」
来た。
私は、商人より先に答えた。
「名前は出していません」
男の目が、わずかに細まる。
「過去も?」
「必要ないので」
それ以上、男は踏み込まなかった。
買い物を済ませ、
何事もなかったように店を出る。
商人が、低く言った。
「王都だな」
「……おそらく」
「厄介か?」
「まだ、です」
“まだ”。
それが、事実だった。
王都は、こちらを見つけた。
でも、確信はない。
名前も、身分も、
決定的なものは掴めていない。
「続けられるか?」
商人の問いに、私は頷いた。
「条件は、変えません」
商人は、短く笑う。
「いい度胸だ」
その夜、宿で一人になる。
王都が動き始めた。
でも、追われているわけじゃない。
私は、まだ“ただの人”だ。
(……選ぶのは、私)
逃げることもできる。
残ることもできる。
そして――
黙っていることも。
婚約破棄の、その後の話は、
静かに、次の段階へ進もうとしていた。




