第8話 条件付きの居場所
夕方、店を閉める準備をしていると、
最初に声をかけてきた商人が、私を呼んだ。
「少し、話がある」
裏口の方へ案内され、
人目につかない場所で向かい合う。
「正式に手伝ってもらいたい」
胸が、わずかに高鳴る。
「ただし――条件がある」
その言葉で、背筋が伸びた。
「名前は聞かない。
過去も、詮索しない」
私は、黙って頷く。
「代わりに、こちらも守らない。
失敗したら、その場で終わりだ」
甘くない。
でも、嘘がない。
「それで、十分です」
即答だった。
商人は、少しだけ驚いた顔をして、笑った。
「……いい返事だ」
翌日から、私は店の内側に立った。
客の動き。
声をかける間。
品を出す順。
教えられることは少ない。
見て覚えろ、というやり方だ。
それでも、居心地は悪くなかった。
昼前、商人が低く言う。
「今日は、こっちを先に出す」
私は一瞬考え、首を振った。
「午後にしてください」
「理由は?」
「今は、急いでいる人が多いです」
商人は何も言わず、
私の判断に従った。
午後。
その品は、値切られずに売れた。
商人は、何も褒めない。
でも、私の立つ位置が、
昨日より少し、店の奥になっていた。
それだけで、十分だった。
夜、宿へ戻る。
小さな部屋。
静かな空気。
(守られない。でも――)
私は、ここにいる。
条件付きの居場所は、
確かに、私のものだった。




